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⑥この星の秘密がわかってきました! なにやら嫌な予感が……。

 閲覧ありがとうございます。

 本日中に完結します。

 連絡が終わるとまもなく、館長がすごい勢いで警備部にやってきた。ずかずかと部屋へ入ってくるなり、テーブルの上に置かれた透明ケースをじっと見た。

 突然現れ、何も言わずにケースを注視する館長を見た警備部の人たちが、ソファの周りに集まってきた。

 食堂から戻ってきた人たちも加わり、わたしたちの周囲は、押すな押すなの大盛況となった。


 ようやくケースに手を伸ばした館長は、慎重にそれを持ち上げながら呟いた。


「とうとう出てきたな。幻のお宝が。やっぱり、ここに存在したのか……」

「そのようです。フォーゲルザング評議員が求めているのはこれでしょう? どうしますか?」


 ドウガシマさんも、何らかの情報を持っているのだろう。館長の言葉の意味することがわかっているようだ。

 話の内容に考慮してか、キネヅカさんが入り口のドアをロックした。

 わたしとモリエちゃんは、思ってもみなかった展開に、邪魔にならないようにソファの片隅に縮こまって、ことの成り行きを見守っていた。このままでは、食堂での夕食は夢に終わるかも……。


「フォーゲルザング評議員には、知らせることはない。できれば、無駄足だったと思って帰って欲しいところなんだ。しかし、ここまでついてきて何も手にできずに戻ったら、あの人と雖もただでは済まないだろう。セレモニーで、これが渡されなかったときは、随分焦っていたからな。まだ、諦めてはいるまい。明日あたり、必ず動き出すはずだ。評議員と随行員の監視を怠らないようにしよう。」


 館長の言葉を聞いて、もう黙っていることに耐えられなくなった。


「すいません。わたしが貰った物は、そのう、……いったい、何なんですか?」


 わたしの質問に、にやりと笑って館長が答えた。


「ある特殊な物質を含んだ石だ。存在は知られていたが、実物を目にした者はほとんどいない、幻のレアミネラルだ。

 昔、ワープ事故でこの宙域を漂流した商船があった。偶然たどり着いた星で、食料や水の提供を受け、どうにか航行を続け、安全な宙域までたどり着くことができた。商船が持ち帰った物の中から、偶然発見されたのがこれとよく似た小さな石だった。

 解析の結果、その石に含まれる物質が、反重力装置を画期的に進化させる可能性があることがわかったが、それが公になると同時に、石そのものはどこかへ消えてしまった。おそらく、誰かが所有者に金を積んでこっそり買い取ったんだろう。おかげで、話だけで実物がないという怪しげなことになってしまった。

 それでも、石の魔力に勝てず、商船の乗組員の情報を頼りに、食料や水を提供してくれた星を探そうとする連中が現れた。それは、なかなかに困難なことだった。人も金も時間もたっぷり使ったらしいがな。辺境の開拓は一筋縄ではいかないものだ。

 しかし、十年近い年月をかけて、連中は、とうとうエルケ星を発見した。とんでもない執念だ。そして、十年がかりで懐柔し星間連合にも引き入れたが、肝心のレアミネラルを含む石は表に出てこない。レアミネラルを含む石は、この星でも別の意味で価値があるものと考えられているらしい。

 だから、特別な感謝や好意の印として贈られる。商船の乗組員たちは、食料や水のお礼に、積み荷の服地や皮などを渡し、石を贈られたという話だった。評議員は、図書艦の訪問が石の現物や情報を手に入れる機会になると思ったようだが……。ご大層な貴石の壺や押しつけがましい援助よりも、ぬいぐるみや読み聞かせの方が感謝されたってことさ」


 そんな大切な物を届けてくれるほど、ぬいぐるみや読み聞かせを気に入ってくれたんだ。あの女性は……。

 いや、喜んだのはあの女性だけじゃないのかもしれない。

 昨日、児童室を訪ねてくれたたくさんの人の顔が思い出された。名残惜しそうに帰って行った人たち。

 そして、今日もまた訪ねてきてくれた。友達や家族と思われる人たちを連れて。

 あの女性は、みんなを代表して石を渡してくれたのかもしれない。貴重な石を。


「シモキタ司書、じゃなくて主任司書。この石は、しばらく警備部に預けてくれ。いずれは君の元に戻るように努力するが、もしだめだったときは、トプカピ堂のドーナツ半年分で赦してくれ!」

「は、はい。いえ、別にわたしは、そんな石が欲しいわけじゃないですし。あの、でも、エルケ星の人たちに、迷惑がかかることだけは阻止してください。あの人たちが悲しむようなことだけは、絶対に」

「わかった」


 わたしとモリエちゃんは、挨拶をして警備部を出た。

 館長が、何か約束してくれた気がするが、石のことを考えてぼんやりしていたからよく聞いていなかった。

 何だか、食欲は失せてしまっていたが、とりあえず食堂へ行ってみることにした。食堂は空いていて、「体にやさしい薬膳リゾット」をトレイに載せ、席に着いた。

 一口一口、ゆっくりスプーンですくって口に運ぶ。体が温まると、気持ちも落ち着いてきた。


「もちろん、エルケさんだって、何度も評議員から石のことを質問されていますよねえ?」


 モリエちゃんは、グリーンリーフがたっぷり挟まった「ダブルソイミートバーガー」を、両手でがっちり掴みながら聞いてきた。彼女は、いわゆる痩せの大食いというタイプである。いや、単に若いということかな?


「館長ははっきり言わなかったけれど、評議員とそのお仲間みたいな連中は、十年以上の歳月をかけて、この星のレアミネラルの利権を得ようと、星間連合にも働きかけていたわけでしょう?エルケさんを養女にしたのも、そのためだったに違いないわよ。きっと、レアミネラルを含む石のことだって、しつこく聞き出そうとしていたに決まっているわ。エルケさんは、ここへ来るのが少し辛そうだった。自分の故郷なのに。ごめんなさいって……」

「えっ?シモキタさん、エルケさんといつそんな話をしたんですか?」

「いつって……、あの、説明会で……」


 あのときのイメージが、はっきりと思い出された。砂に覆われた星、神殿、水が溢れうねり……。

 そして、決意を秘めた強い眼差しをわたしたちに向けていたエルケさん。


「あ、いや、……ごめん。それは、わたしの想像。幼いときに留学生となって故郷を離れ、星間連合共用語を学んで、評議員の養女になって、きっと、いつか故郷の人々の役に立とうと思っていたんじゃないかな? だから、もしエルケさんが評議員の本当の目的を知ったら、辛いだろうなって思って」

「そうですね。何かわたしたちにできることはないですかね?」

「わたしたちにできるのは、この星の人たちにもっと図書艦を楽しんでもらえるように、工夫することぐらいよ。それが、エルケさんを幸せにすることにもなるんじゃない?」


 わたしたちは、ゆっくり夕食をとりながら、ぬいぐるみにこの星の人と同じような服を着せてみようかとか、エルケさんにこの星の伝説とか教えてもらってお話会で使おうかとか、明後日に向けてアイディアを出し合った。


 訪問三日目。今日は、閉館日。

 届け出をすれば、外出することもできるのだが、初めての訪問地で様子もよくわからないので、艦内で過ごす人が多いようだ。わたしも、岩窟都市には興味があるけれど、防護服を身に付ける手間を考えると、わざわざ出かけることもないかなと思う。

 まずは、食堂で朝食をとろう。少し時間をずらして早めに食堂を訪ねたが、結構込んでいた。

 モーニングセットのトレイを持って、座る場所を探していると、先に来ていたアンザイさんと目が合った。

 「ここにおいで」と言うように、向かいの席を指さしている。はいはい、ご一緒させていただきます……。


「児童室もそうだろうけど、うちも大変な賑わいだったの。サンドアートの本は、思った通りみんな驚いて見ていたわ。制作過程にもすごく興味をもったみたい。

 それから、刺繍の本ね。シンプルな刺繍の図案を覚えようとしている人がいたから、紙をあげて写させたの。すごく喜ばれてしまったわ。もちろん、その後は、たくさんの人に紙をねだられたけどね。昨日は、早速服に刺繍をした人を見かけたわ。とにかく、わかりやすくてすぐに使える実用書が大人気。あなたのアドバイスのおかげだわ。本当にありがとう」


 そう話すアンザイさんのサングラスの煌めきは、いつもより鋭くないみたい。まあ、気のせいだろうけど。


「エルケさんが言っていたのだけど、この星の人たちは、個人で物を所有することが赦されていないらしいのよ。何でも共有することになっているんですって。だから、とても物を大切にするわけね。格差は生まれないだろうし、争いも起こりにくいでしょうけれど、どうなのかなあ。

 ただね、どういう意味かはよくわからないけれど、『神』から賜った物だけは自分の物にできるそうなの。あなたたち、ぬいぐるみや小物をあげたでしょう? もしかしたら、『神』に仲間入りしているかもね」


 吃驚した……。フルーツティーを吹き出すところだった。

 ずいぶん喜ばれているなとは思っていたけれど、神様がすることをしていたなんて……。だから、あの貴重な石を持ってきてくれたのだろうか? 供物ってこと? わあ、読み聞かせとぬいぐるみで、生き神様かぁ……。


「あの、明日はもう、何もあげない方がいいですかね? そのう、本当の神様に対して失礼な気がするので」

「それは無理ね。図書艦は全ての人に公平であるべきよ。全力で『神』をやりきるしかないんじゃないの?」


 そう言ってアンザイさんは席を立ち、返却カウンターに向かおうとした。しかし、なぜか立ち止まり、わたしの方にぐっと身を乗り出して囁いた。


「もう大丈夫よ。アルフリートさんは、館長の家にいるって、できる限り広めておいたわ。なぜか、館長もすぐに話を合わせてくれていたから、心配いらないわよ。ではね」


 自分ではよくわからないが、わたしって「大丈夫」じゃなかったらしい。命を狙われていた? 集団抗議を受けるところだった? 嫌がらせのターゲットになるはずだった? アルに関することで……。

 そして、アンザイさんと館長に借りを作ってしまったらしい。どっちかというと、そっちの方が心配だ。


 運動不足解消のため、午前中は艦内の通路でウォーキングをして、過ごすことにした。

 中級ウォーキングコース(艦内通路に表示がある)を三周して、休憩をとりながら窓の外を覗いたとき、反重力バイクが二台、艦外に出て行くのが見えた。防護服着用をネックとしない強者がいるものよと思って見ていたが、艦に搭載したバイクではない。


 そうか、評議員が持ち込んだ私物のバイクだ。ということは、操縦しているのは評議員か随行員?

 そして、少し間をおいて、また二台のバイクが出て行った。今度は、図書艦のバイクだ。

 昨日館長が言っていたように、評議員たちの行動を監視するため、警備部の人が追いかけていったのだろう。

 バイクは、どこへ向かったのだろう? 石を手に入れる手がかりが、何か見つかったのだろうか?


 ふと、さっきのアンザイさんの話を思い起こす。この星の人々は、「神」からの賜り物しか所有できないと言っていた。ということは、わたしが貰ったあの石は、あれをくれた女性の所有物……。つまり、それは「神」からの賜り物ということになる。「神」からどのように賜るのかはわからないが、「神を」一番近くに感じられる場所といえば、……神殿か。

 もし、神殿で騒ぎを起こしたりしたら、……。嫌な予感がした。

 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 朝のうちに、もう一話投稿します。

 お付き合いいただければ幸いです。

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