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②新しい訪問地は、いろいろと問題がありそうです。

 閲覧ありがとうございます。本日二話目の投稿です。

 わかりやすいサブタイトルをつけることにしました。

 よろしくお願いいたします。

 昼食後ホールに行くと、既に半分ぐらいの乗組員が集まっていた。久しぶりに顔を合わせる人も多く、至る所で近況報告に花が咲いている。ドウガシマさんとトドロキさんが、わたしたちに気づき手を振ってくれた。


 アナウンスが流れ、定刻通り説明会が始まった。会場中央に巨大な立体スクリーンが立ち上がり、新規訪問候補地の紹介が始まった。宙域図によると、どうやらかなり遠いところにある星のようだ。


「……第1206ワープステーションから、さらに艦内時間で5日かかる場所にあります。惑星名はOPTS―57b。着陸予定地は、南緯26度35分21秒、東経15度5分10秒。

 現時点では、この星は、宙域保安隊の活動の圏外となります。また、最も近い軍の駐留星からも、到着まで1週間を要します。しかし、昨年、星間連合への所属が正式に決定し調印が行われましたので、今後は徐々に、それらの安全保障整備が進む予定です。

 辺境とはいえ、統治する種族の政府機構は信頼がおけるものであり、運営も堅実で在住民の生活レベルも低くはありません。独特の信仰はあるようですが、狂信的なものではありません。

 10年前のファーストコンタクト以来、定期的な調査や留学生の受け入れを続けてきました。相互理解のための交流は、年々活発になってきています。

 在住民の星外文化への関心が高まったこともあり、今回、宇宙移動図書艦の新規訪問候補地として連合評議員会より推薦されました。5日間の試験訪問の後、協議会本部の審査を経て、正式な訪問地とするかどうかを決定します。」


 予想以上の辺境だ。辺境慣れ(?)しているニューアレキサンドリア号以外の図書艦には、訪問は難しいかもしれない。昨年、星間連合への所属が正式に決まったというが、在住民の民意をきちんと反映してのことだろうか? 反対派組織などが存在するなら、かなり危険な訪問となる可能性もある。


 一通りの説明が終わり、質疑応答の時間となった。警備部の部長補佐のキネヅカさんが、質問希望のサインを出した。

 キネヅカさんは、育児休暇を終えて、次の訪問から久々に図書艦に復帰する。本部勤務と交互にということになるらしいが、彼女が加わるというのは心強い。警備部で唯一、館長を甘やかさない人だからね。


「キネヅカ部長補佐、質問をどうぞ」

「現地共用語についての説明をお願いします。惑星名や着陸地名等、地図上に一切表記されていませんが、星間連合共用語でうまく表現できない、特殊な言語を使用しているのでしょうか? 在住民と言語によるコミュニケーションがとれないとなると、特別な対策が必要になると思いますが」


 しばらくの沈黙。瞬き2回分の間。


「それは、……お答えできません」


 会場内がざわつく。どういうこと? 答えられないって――。わたしたちだって、いろいろ困るんだけど……。

 現地の共用語がわからなければ、図書艦に配架する資料を選べないじゃない! 在住民が理解できる資料を準備してこそ、利用を期待できるのだ。字のない絵本もあるけれど、そればかりというわけにもいかないもの。


「静かにしてください。わたしは、連合評議員のシュテファン・フォーゲルザングです。それについては、わたしからご説明します」


 立体スクリーンが消え、ステージがせり上がる。台上に立っていたのは、フォーゲルザング評議員。評議員会に出席するときの正式な服装をしている。

 わたしたちが集められる原因となった「お偉いさん」はこの人か――。

 辺境との星間貿易や星間通信で巨万の富を築いたと言われる、ブランドベルグ・コーポレーションの元CEOだ。評議員としては最年少で、まだ40台前半だったと思う。


「実は、これまでの調査でわかったことですが、OPTS―57bを統治している種族には、『文字』と呼べるものが存在しません。また、日常生活で言葉を発することがほとんどありません。

 彼らは、通常、ある種のテレパシーでコミュニケーションをとっているのです。ある程度離れていても、イメージや感情をダイレクトに遣り取りできるので、文字や言葉は必要ないのです。従って、地名や人名など個々を特定するための名称もありません。

 しかし、言葉を全く発しないわけではありません。『神』への祈りを唱えることがあります。彼らに文字を与えることで、我々とのより具体的な交流を可能にするとともに、いずれは星間連合共用語を公用語として浸透させ、彼らの発展に繋げたいと考えています。その先駆けを、ニューアレキサンドリア号にお願いしたいのです」


 場内は騒然とした。文字が必要ない世界。テレパシーでコミュニケーションをとる社会。

 そこに、図書艦は必要なのだろうか?

 

 やや大きな声で「聞いてください!」と言って、みんなを鎮めると、フォーゲルザング評議員は話を続けた。


「まだまだ拙いのですが、通訳をご用意しました。八年前、OPTS―57bから星間連合総合学校へ第一期留学生として入学し、現在はわたしの養女となった、エルケ・フォーゲルザングです。今回の訪問には、彼女も同行しますので、在住民との意思の疎通については、彼女にお任せください」


 評議員の隣に、一人の少女が現れた。背中を覆う砂色の髪、アーモンド型の眼、やや大きな虹彩は、明るい錆色だ。生成りのシンプルなワンピースがよく似合う。評議員に促され、彼女は前に進み出た。


「エルケと申します。皆様のお役に立つよう、通訳として一生懸命努めさせていただきます。どうぞ、宜しくお願いいたします。」


 美しく細い声だった。そして、決意を秘めた強い眼差し。この少女は……。

 そのとき、一つのイメージが、頭の中にふわりと入り込んできた。懐かしい、優しい、砂に覆われた星……。

 大きな神殿……。水が溢れうねり……。ごめんなさい……。


「大丈夫ですか? シモキタさん、なんか顔色が悪いですよ。」

「えっ? ああ、ごめん。ちょっと、ぼうっとしてた。」


 心配そうにわたしを見つめるモリエちゃん。「大丈夫だから」と小さな声で伝え、もう一度ステージを見る。

 なんだろう? 今のイメージ。ごめんなさいって、何のことだろう?


 いつの間にかエルケさんは退場し、ステージ上では、評議員がしきりに、今回の試験訪問の意義を強調していた。どうやら、評議員も同行するようで、現地での行動計画の提案が始まっていた。

 図書艦の活動を通して、在住民に本の素晴らしさを広めることには賛成だけど、星間連合共用語を公用語にしようとする計画には、やっぱりちょっと胡散臭いものを感じる。

 評議員は、辺境からいろいろなものを吸い上げて、一財産築いたという黒い噂がある人だからね。


 それから2週間後。

 いよいよ、明日は、OPTS―57bに向かって出発する。館長からの提案で、OPTS―57bは、言いにくいし間違えやすいので、ニューアレキサンドリア号の中では「エルケ星」と呼ぶことになった。

 エルケさんの生まれ故郷だからという単純な理由だ。館長が考えることだもの、そんなもんでしょ。


 必要な物資の積み込み、各自の自室や仕事場の清掃、艦内各所の点検整備など、連日出発準備に明け暮れている。初めて訪れる星ということもあって、どこの部署もいつも以上に多くの物資や機器を用意しているようだ。


 結局、フォーゲルザング評議員、エルケさん、それから、評議員の個人的な随行員2名が同行することになった。乗組員の居住区域から、それぞれに部屋を割り当てようとしたが、評議員から静かな部屋を用意して欲しいとの希望があり、展望応接室とその周囲の部屋を急遽改装し、評議員と随行員の人たちが使用できるように整えた。食事も自室でするというので、キッチンやダイニングスペースまで作らされた。


 もちろん改装費は、評議員持ち。高機能のベッドや豪華な調度品が運ばれてきていた。訪問終了後は、全部寄付してくれるというので、館長は了解したらしい。お金持ちは考えることが違うわね。

 エルケさんは、乗組員の居住区域でかまわないとのことなので、もともと予定していた場所に部屋を用意した。


 何度か艦内でエルケさんと出会うことがあったが、説明会で体験したようなことは二度と起こらなかった。

 他の乗組員が、わたしと同じようなことを体験したという噂も今のところ聞こえてこない。

 わたしは、エルケさんからイメージが送られたように感じていたが、気のせいだったのだろうか?


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 本日20時頃に続きを投稿する予定です。

 お付き合いいただければ幸いです。

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