第70話 甘味×船旅
「あれがコエンだな」
しばらく魔導二輪を走らせていると、海辺に港町が見え始めてきた。
「んー」
気の抜けた返事をするティナは、俺の前で風を浴びながら気持ちよさそうに目を細めている。
「もう着いたのね……」
俺の後ろに乗っているリアは、ため息混じりに呟いた。
「ここからは、歩いていこう。ギルドに行く前に市場も見てみたいな」
「魚?」
「いや、海外に出てる港ならこの国で見られない食材があるかもしれないからな」
俺たちはコエンから少し離れた場所で魔導二輪を降り、港町へと向かった。
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「コダパウアに行きたいんだが、どの船に乗ればいい?」
南の港町コエンに到着した俺たちは、ギルドの受付に来ていた。
コエンもイエンと同じように、ギルドと造船所が隣合った作りになっており、乗船の手続きはギルドで行っているようだ。
「コダパウア王国へは、あちらのバホテン行きに乗船していただければ渡航可能です。乗船にはおひとり金貨10枚と、なりますが……」
コエンギルドの受付嬢は、冒険者のなりをした俺たちを見ると、言葉を選ぶように黙ってしまった。
「3人で金貨30枚必要ですが、どうされます?」
「ギルドでこれを渡すように言われてたんだが」
俺はクローネから預かっていた封書を受付嬢に手渡しながら言う。
「この手紙は……王家の紋章ッ!? し、しばらくお待ちください!」
受付嬢は慌てて奥の部屋へと入っていた。
「お、お待たせ致しました。王城との確認が取れました。ユウヤ様御一行ですね。こちらはお返し致します」
少しして戻ってきた受付嬢は、封書をカウンターに置き深々と頭を下げている。
「さすが王家の手紙だな……」
「効果抜群ね」
「ユウヤ様方は費用は不要となります。出航までは、しばらく時間がありますが、船内に行かれますか?」
「そうだな」
「かしこまりました。ご案内致しますので、こちらへどうぞ」
俺たちは受付嬢に案内されて、バホテン行きの船へと向かった。
「こちらが、バホテン行きの船となります」
「魔導船じゃないのね」
受付嬢が船を紹介すると、リアがボソッと呟いた。
船には巨大な帆が折りたたまれ、停泊している。
「因みにバホテンまではどれぐらいかかるんだ?」
「そうですね……だいたい7日ぐらいかと。天候により前後はしますが」
「だ、そうだ。リア頑張れよ」
「うっ……」
乗る前からリアの顔は青ざめ始めている。
「頑張って」
リアはティナに背中をさすられ、励まされながら船へと乗り込んだ。
「こちらの部屋をお使いください」
「ひろーい!」
「豪華な部屋ね……」
案内された部屋はかなりの広さがあり、船の中とは思えない程に設備が整っている。
「航海中はこちらの部屋をお好きにお使いください。朝と晩にはバイキングをご用意しております。お食事をされる際はご利用ください」
「わかった」
「こちらが、この部屋の鍵になります。なにかありましたら、船内スタッフにお声かけください。それでは、私はこちらで失礼いたします」
「ありがとう」
俺は受付嬢から部屋の鍵を受け取ると、受付嬢は一礼して去っていった。
「ユーヤ! このベッドふかふかだよー!」
「あぁ……もうすぐ動くのね……」
2人はそれぞれに、落ち着きなく部屋を動き回っている。
「俺は料理でもして時間を潰すか」
俺は備え付けのコンロの方に向かうと、インベントリから調理器具を取り出した。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「いい匂ーい……ユーヤ何作ってるの?」
船が動き始め、日が暮れてきた頃。部屋を観尽くしたティナが俺の方へやってきた。
部屋には甘くほのかに苦い香りが漂っている。
「ん? 美味しいものだ。もうすぐ出来るから待ってな」
俺は出来た料理をお皿に盛り付けると、出港してから部屋の端で座り込むリアの元へと向かった。
「大丈夫か? リア」
「……うん。いい匂いね」
「ちょっと食べてみろ。少しはマシになると思うぞ」
俺は茶色い塊が乗った皿をリアの前に置いた。
「これは何?」
「俺の故郷のお菓子だな。船酔いにいいらしいぞ」
「……そう。折角だから、ひとついただくわ」
リアは茶色い塊を手に取ると、口に運び入れる。
途端に頬を赤らめ、うっとりとした表情を見せた。
「甘くて口の中でとろけたわ! これは何て言うお菓子なの?」
「チョコレートだ。正確には生チョコだな」
今向かっているコダパウア王国はアーモンドの生産国らしく、コエンの市場には輸入されたアーモンドが数多く出されていた。
「少し楽になった気がするわ。もうひとついただける?」
「ユーヤ。わたしも」
「ああ、食べていいぞ。けど、もうすぐ晩飯だから程々にな」
「うん」
「ん」
「コーヒーもあるが、飲むか?」
俺はリアに皿を預けて、キッチンへ向いながら聞いた。
コダパウア王国は珈琲豆の生産も盛んらしく、市場で大量に手に入った。
「ありがとう。いただくわ」
「ティナはミルクな」
「ん」
俺は挽きたての珈琲をドリップし、グラスにミルクを注ぐ。
「少しは酔いがマシになったろ」
「ええ。不思議だわ……」
「まだ先は長いからな。少し落ち着いたら飯に行こうか」
「ん!」
俺たちは、チョコレートを口に運びながら窓から見える景色を楽しんだ。
外は夕日が沈み始め、海に赤い波を立てていた。
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