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第56話 氷王×飛竜


「準備はいいか?」

「ええ。いつでも行けるわ」


 俺は扉を押し開き中へ進むと、部屋の中央に浮かぶ魔石へと近づいた。

 音を立てて扉が閉まると、魔素が魔石に集まり始める。


「ユウヤ見て!」

「でかいな……」


 姿を現したのは氷の巨像の様な人、身長は7メートル程ある。手には大剣を持ち、頭には王冠が見える。その姿はさながら氷の王だ。


『小さき人の子よ。我の眠りを妨げるか……』


 氷王の低い唸り声のような言葉が部屋に響いた。


「俺たちはこの先に用があるからな、ここは通らせてもらう!」

『ならば相手をしてやろう』


 俺の返答に氷王が剣を構えて答える。

 構えた血刃(けつじん)に炎が纏い、リアのナイトメアに赤い筋が色濃く伸びた。

 少しの静寂が辺りを包み、俺たちは睨み合う。

 俺とリアは地面を蹴ると、二手に別れて氷王との距離を詰める。


『小癪な……』


 氷王は大剣を薙ぎ払うように振り回した。

 俺たちは大剣を回避しながら、氷王の足元まで突き進む。


「──血刃(けつじん)<炎刀>!」

「────紅刃一閃(こうじんいっせん)!」


 左右の足にそれぞれの攻撃が炸裂する。──が、俺達の攻撃は氷王の硬い氷を打ち破るまでは至らない。

 血刃の刀身では氷王の足の太さを切断することは難しく、小さな斬撃痕を残した程度だ。

 リアの攻撃もナイトメアに魔力が足らないのか、斬った箇所が削れただけだった。


『ウォォォォオオオオ!』


 氷王が叫ぶと氷王に魔素が集まり始めた。


「リア、離脱するぞ!」

「え、うん!」


 俺はリアを抱えると、縮地で距離を取る。

 氷王に集まった魔素は圧縮されると、辺りを巻き込む程の爆発を起こした。氷王の周りは白く凍りついていた。


「やっぱり短剣じゃ、この大きさを相手にするのは無理だったか……」


 俺は呟くとインベントリから血を取り出し血刃(けつじん)に加えた。この血はアイスゴーレムとの戦いで負った傷から出血したものだ。

 血刃(けつじん)は短剣から片手剣へと姿を変える。


「行くぞッ!」

『無駄だ、貴様の剣が我に届くことは無い!』


 氷王が剣を地面に突き刺すと、地面が凍り足元が凍りついた。俺は舌打ちをし、魔力を火へと変化させる。


「──炎纏(えんてん)!」


 纏った炎が氷を溶かす。地面を強く蹴り、氷王の足元へ入り込む。


「これで終わらせてやる。──血刃(けつじん)<炎刀乱舞>!」


 度重なる炎の刃が氷王の足を切断し、氷王を崩れさせ膝をつかせた。


「──炎刀炎流!」


 追い打つように放たれた炎の渦が氷王を飲み込む。


「やったわ!」


 リアが喜びながら、俺に駆け寄ってくる。──が、喜びも束の間。炎の渦から氷王の姿が現れた。

 ダメージは入っているらしく、全身が溶けただれている。


「クソッ……やりきれなかったか。もう一撃──血刃……」


 地面を踏み込もうとした時、俺は急激な魔力消費でよろめく。見上げた先には大剣を振り上げる氷王が嫌な笑みを浮かべていた。


「──二段階解放(セカンドリリース)


 リアを中心に風が吹き荒れ、周囲の魔素がナイトメアに吸い込まれていく。


「くッ……あぁぁぁぁあああ! うわぁぁぁああ!」


 リアが激痛に体が苛まれ叫ぶ。

 ナイトメアの刀身が脈打ち、魔素がリアに流れ込んでいる。

 リアは静かになると、まるで幽鬼のようにふらつき顔を上げた。その顔は異様な笑みを浮かべている。

 リアは飢えたケモノの様に一直線に氷王に突っ込んだ。

 氷王は闇雲に飛び込んでくるリアに大剣を振るった。


「遅いわ」


 リアは大剣を躱すと、氷王とすれ違いざまにナイトメアを振るった。氷王の頭が轟音と共に地面に落ちる。

 一段階解放(ファーストリリース)では傷もつけられなかった相手を切断して見せた。


「イッヒッヒッヒッ! アッヒャッヒャッヒャッ! もっと、もっと頂戴……まだ足りないわ……ちが、う……もう、もう十分よ……」


 ナイトメアの赤い筋が薄く消えていくと、リアが正気に戻り始める。


「ごめんなさい……まだ、使いこなせない……みたい」


 リアは力のない笑顔を浮かべながら言った。


『矮小なる人間の分際で我を倒すか……』


 氷王は魔石を残して跡形もなく消えた。


「大丈夫か? 歩けるか?」

「大丈夫よ……ユウヤこそ、大丈夫なの?」


 俺たちはお互いに肩を貸し合うように、祭壇へ向かった。祭壇に魔石を嵌め込み、91階層へと転移した。


「ここは……」

「さながら、氷の谷って感じだな」


 視界が鮮明になると、左右に天まで伸びる氷の壁に挟まれた谷にいた。辺りは静寂が支配し風の音も生き物の音も聞こえない。


「どっちに向かえばいいの?」

「あっちだ」


 俺たちは魔素を辿るように歩き始めた。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 しばらく歩いていると、地面に影が横切った。


「何、今の!?」

「鳥ではないだろうな……」


 氷壁の隙間から見える、狭い空にそいつは現れた。

 前肢の翼手、後肢には二脚に鋭い鉤爪を持ち、細く伸びる尾の先には鏃がある。

 上空を旋回する姿は力と躍動に溢れており、見るものに戦慄を与える。

 ──飛竜(ワイバーン)か……


 飛竜は俺たちを見つけると後肢の鉤爪を光らせ急降下を始めた。


「笑えねぇ……リア、逃げるぞ!」

「逃げるってどこに!?」

「とにかく走れ!」


 飛竜はみるみる距離を縮め、鉤爪が俺たちに届きそうなところまで迫っていた。俺は後ろを振り返り、唱えた。


「──ブラスト!」


 飛竜の真下から一陣の風が吹き荒れると、飛行姿勢を崩した飛竜が氷の地面に激突し転げ回る。

 俺はリアを抱え、縮地で巻き込まれない場所に避難させると、片手剣の血刃(けつじん)を構えた。

 激突した程度では絶命に至らず、氷の瓦礫を払いながら体を起こすと、俺たちを探すように頭を動かし始めた。

 地面を蹴った俺は飛竜に真正面から斬りかかる。すぐさま気づいた飛竜の口から炎が溢れ出ると、火炎が噴き放たれる。


「──血刃(けつじん)<炎刀>!」


 迫る炎を縮地で回避した俺は、飛竜の後ろから首目掛け、血刃を横一線に降った。

 炎を纏う剣が飛竜の首を刎ね、鮮血が飛び散る。頭を無くした飛竜は力なく倒れた。

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