第55話 氷城×迷宮の扉
「綺麗な所ね……」
「ああ、そうだな」
71階層に転移した俺たちは辺りを見渡しながら呟いた。
辺りの目に映る全てのものが氷で造形されており、見ているだけでため息が出るほどに美しい。71階層は氷の城だった。
「それにしても通路が入り組んでるわね」
「そうだな。普通に進んでたら攻略には時間がかかるだろうな」
入り組んだ通路は1度迷うと出ることは難しいと思える程に複雑だった。俺たちは魔素の流れに沿うように先に進む。
「リア、待て」
「なに?」
通路を進んだ先に氷のプレートアーマーのオブジェが左右にズラッと並んでいた。その先には祭壇が見える。
「あ、祭壇よ! はやく行きましょ!」
「おい、待てって!」
俺の静止を聞かず、祭壇を見つけたリアが通路を進む。──その時、オブジェが一斉に動き出した。その数20体。
「え!? 何、どういうこと?」
「どうやら、こいつらは敵らしい」
俺はリアの隣に立ち、血刃とグランロストを構える。リアも直ぐにナイトメアを構え、戦闘態勢に入った。
氷の騎士たちが音を立てながら距離を詰めてくる。
「私が倒すわ!」
リアが先陣を切って氷の騎士に斬りかかった。騎士は攻撃を防ぐことなく斬り捨てられる。
「手応えがないわね……この階層の敵、弱すぎじゃないかしら?」
そう言ってこちらを振り返るリア。その後ろで倒れていた騎士が立ち上がった。斬られた箇所が修復されている。
「……!?」
気づいたリアはすぐさま距離を取り、俺の隣に帰ってきた。
「どうなってるの?」
「こいつら……魔石の気配がない。魔物じゃないのか?」
騎士たちからは魔素の気配はするが、核となる魔石は見つからない。俺はジリジリと詰め寄ってくる騎士を睨みつける。
──ん? あれは……糸?
騎士たちから伸びる糸のような細い線が1箇所に向かって伸びているのが見えた。
「リア、こいつらの相手を頼む!」
「え!? ちょっと、ユウヤ?」
俺はリアを置いて、騎士たちの頭上を飛び越えて細い線を辿る。
「そこか! ──ファイアボール!」
壁の奥に魔石の気配を見つけた俺はファイアボールを放った。
真っ直ぐに飛んで行ったファイアボールは氷の壁にぶつかると、氷を溶かし奥に隠れていた魔物の姿を露にした。そこには氷の体を持つ魔女の姿があった。
魔素の糸が消えると、リアを取り囲む騎士たちが一斉に崩れ落ちる。
「あいつが騎士たちを操っていたのか」
「それじゃあの魔物を倒せばいいのね!」
「リア、突っ走るな!」
「隠れてコソコソしてるような魔物よ。弱気に決まってるわ!」
リアは1人突っ込むと、魔女が手のひらを突き出した。
『──アイスバレット』
魔女が呟くと、魔法陣が展開され氷柱が次々に繰り出される。
リアは間一髪のところで、崩れた氷の騎士をガードに使い難を逃れた。
「こいつは俺に任せろ!」
俺は前に出ると、縮地でアイスバレットを回避しながら距離を詰める。
『──ブリザード』
魔女の手前まで距離を詰めたところで、凍てつく突風が吹き荒れた。ブリザードは俺の体を凍らせ始める。
「くそっ! ──炎纏!」
体に纏った炎が氷を溶かし、地面を蹴り距離を詰める。
血刃を逆袈裟に切り上げると、魔女は倒れ吹き荒れていたブリザードも止んだ。
「さすがユウヤね!」
「リア、後ろだ!」
俺がリアの方に振り返ると、倒れていた騎士が立ち上がり、剣を振り上げているところだった。
リアに向かって剣を振り下ろされる。──鋭い音が通路に響き渡る。
「太刀筋が甘いのよ」
リアはナイトメアをゆっくりと納刀すると、両断された騎士が地面に崩れ落ちた。
俺の足元に倒れていた魔女は溶けるように消えた。
「倒したの?」
「見たいだな……この先、操るのは騎士だけとは限らない。気をつけて進もう」
「そうね」
俺たちは次の階層に転移し、入り組む氷城を進んだ。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「レンよ。お主に使命を与える」
「はい……」
謁見の間で王は黒い錫杖を鳴らしながら言うと、跪くレンは虚ろな表情で返事をした。
レンの腰には黒い剣が差されている。
「ノースフル古代迷宮へと向かった異端者ユウヤを討ち果たせ」
王は語彙を強めると再び錫杖を鳴らした。
「はい……」
「謁見は以上だ。レンよ、支度を済ませノースフルへ向かいなさい」
ルピートの声が響き渡ると、レンは部屋を出て行く。
「レン様。本当にユウヤさんと戦うのですか?」
謁見の間の扉付近で待っていたグレイがレンに話しかける。
「ああ。王様の命令だからな」
「それがレン様の意思なのですね?」
「そうだ」
「わかりました……僕も付き添います」
グレイはレンの後を追うように着いて行った。
「レンの仕上がりは大丈夫なのか?」
「はい。スキルの効果もあり成長速度は早いですからな。あの者に遅れを取ることはないでしょう」
「そうか。アレの準備はどうだ?」
「そちらも滞りなく進めております」
「うむ」
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「どうした、寝れないのか?」
焚き火の前で座りながら見張りをしていると、リアが近づいてきた。ここは90階層のボス部屋の前だ。
「ちょっと寝付けなくて」
「そうか……」
「どうしたの? 浮かない顔して考え事?」
「いや、迷宮は後どれぐらい続くのかと思ってな」
1週間の攻略で90階層まで到達することが出来たが、敵の強さも上がりつつあった。何よりもここ数階層は食べることの出来ない敵ばかりで、食料の限界も近い。
「もう少し準備をしてから来るべきだったな……」
「多分だけど、もうすぐ最上階層じゃないかな?」
俺が1人考え込んでいると、リアが言った。
「どうしてそう思うんだ?」
「ほら、あの扉の絵を見て」
リアが指さすボス部屋に続く巨大な扉には、模様のような絵が掘られていた。
「扉が全部で6つに区切られてるでしょ? 左下の絵、ホワイトラビットとイエティに見えない?」
「確かにそう言われれば……そう見えなくもないな」
「その隣はアイスウルフとフェンリルだよ。階層を上がる度に扉の絵が増えてるの」
そう言われて1番上の6つ目を見たが、何も掘られていなかった。
「ってことは、左上の絵がこの階層のフロアボスってことか?」
「そうだと思うよ」
「あれは……巨人、か?」
「かな……? 何か被ってるみたいだけど」
扉の絵には魔女らしい杖を持つ1人と、その3倍の大きさの大剣を持つ人が掘られていた。
「この絵で推測するのは無理だな……だが、迷宮が6つに区切られているという考えはいい線いってるかもな」
「でしょ?」
リアは満足そうに満面の笑みで答えた。
「見張りの交代まではまだ時間がある。明日に備えて少しでも寝といた方がいいぞ」
「うん。そうする」
リアは魔物の毛皮を敷いた場所に戻ると、毛布に包まって目を閉じた。
「巨人か……」
パチパチと音を立てて燃える焚き火を見ながら、俺は1人呟いた。
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