第54話 小鬼×牛頭
『ギギギィィィっ……』
膝丈ほどの身長に醜く不愉快な見た目をした魔物。
ゴブリンがナイトメアに斬り捨てられ、地面に力なく倒れた。
「はぁ、はぁ……これで終わりね……」
リアは肩で息をしながらナイトメアを鞘に収めた。
周囲にはゴブリンの死体がいくつも転がっている。
「ゴブリンか」
「ユウヤ!? 起きて大丈夫なの?」
リアが振り返ると、小部屋の入口にユウヤが立っていた。
「問題ない、調子がいいぐらいだ。俺はどれぐらい寝てた?」
「半日ぐらいかしら……」
「そうか。無理をさせたな」
リアは全身に傷を負い、装備も至る所が破損している。
「全然、大丈夫よ。ユウヤの傷に比べれば大したことないわ」
「そのことなんだが……」
俺は腹部を晒すように服を捲り上げると、傷が既に塞がっていた。
「うそ……傷が、どうして!?」
「リアには言ってなかったが……俺の体内には魔石があるんだ」
「そんな……」
口を抑えたリアが目を見開いて固まっている。
「実は、1度だけ暴走したことがあるんだが、その時はティナが魔素を吸い出してくれて助かったんだ……」
「今は何ともないの?」
「あぁ、何ともなかったんだが……迷宮に入ってから傷の治りもそうだが、魔力の回復速度も早くなってるんだ。それに、魔石が大きくなってる気がする……」
「それ大丈夫なの!? 魔石を取り除く方法はないの?」
「今は大丈夫だ。リュードに聞いたんだが、ティナ達がご主人様って呼んでる人に会えば何かわかるかもしれないらしい」
「そう、なんだ……私も手伝うわ!」
「いつ暴走するかも分からないんだぞ!?」
「大丈夫。その時は私がナイトメアで斬ってあげるから」
リアが鞘からナイトメアの黒い刀身を覗かせながら笑顔で言った。
「体内の魔素が無くなれば自我を取り戻すんでしょ? 私もナイトメアで自我を失うことがあるし、お互い様よ。それに迷宮を攻略するなら人手も必要でしょ?」
「……ありがとな」
「いいのよ。私はユウヤの側で学ぶことも多いから、気にしないで」
リアは優しく笑いかけるように言った。
「それより、なにかご飯はないかしら。半日も飲まず食わずで戦っていたから、お腹が空いたわ……」
「あははは──リアらしいな。今はこれしか無いんだ」
俺はインベントリから味噌煮込みの余りを取り出してリアに手渡した。
「ありがとッ!」
リアは受け取るなりその場で食べ始めた。
「おいおい……座って食べたらどうだ。見張りを交代するから中でゆっくり休んでてくれ」
「ええ。ん──そうさせてもらうわ」
俺はリアと入れ替わり、小部屋の外へと向かった。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「リア、そっちに一体行ったぞ!」
「ええ、分かってるわ! はぁあああ!」
リアが斧を持つゴブリンを斬り裂く。──直後、ファイアボールがリア目掛けて放たれる。
「無駄よ」
ファイアボールはリアに当たることなく、ナイトメアに吸い込まれるように消えた。
「そこかッ!」
俺は縮地で距離を詰めると、魔法を放ったゴブリンを斬り捨てた。
小部屋で休息を取った俺たちは、魔素の流れを辿って70階層にまで到達していた。
ゴブリンは頭が良く、それぞれに武器や防具を持ち統率をとって襲ってくる。中には魔法を習得している者もいた。
「ゴブリンも魔法が使えるんだな」
「まったく、迷宮には知らない魔物ばかり出てくるわね……」
「ゴブリンなんて定番の魔物じゃないのか?」
「ゴブリンは絶滅した古の魔物よ? 本では見たことあるけど、私も実物を見るのは初めてよ」
「そうなのか」
──ファンタジーと言えばの魔物だが、この世界では馴染みがないのか。
「もしかして、迷宮に出てくる魔物は古の魔物ばかりだったりしてな」
「その可能性も十分に有り得るわね。あそこの魔物も古の魔物だし」
リアは前方を指さしながら言った。
指さす先には、大きな扉があった。70階層のフロアボス『ミノタウロス』のボス部屋に続く扉だ。
俺たちは扉の前まで進む。
「やっと着いたか」
「この先に最高到達階層のフロアボスがいるのね……」
リアは扉を見上げて呟くように言った。
「ここで休憩してから行こう」
扉の近くには王宮騎士団が使っていたであろう、焚き火の跡があった。
「私はこのまま行けるわよ?」
「いや、王宮騎士団が手こずる様な相手だ。万全の状態で挑んだ方がいい」
俺は炭化した焚き木に火をつけながら言った。
「あんな奴らユウヤの足元にも及ばないじゃない。大したことないわ」
「甘く見ない方がいいんじゃないか? あいつらだってここまで攻略しているんだぞ?」
「確かに、そうね……」
俺たちはフロアボスに挑むために、休息をとることにした。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「いけるか?」
「ええ。問題ないわ!」
俺は扉に手をつくと、ゆっくりと押し開き中に入った。中央に浮かぶ魔石へと近づくと、扉が閉まり魔素が渦巻き始める。
魔素が集まり、ミノタウロスの形が出来上がっていく。
巨大な双角の牛頭、筋肉が盛り上がった体は人のようだ。
『グモォォォオオオ!』
ミノタウロスは右手に持った巨大な氷の斧を振り上げながら、雄叫びを上げた。
「来るぞッ!」
俺たちは武器を構え、戦闘態勢に入る。
ミノタウロスが巨大な斧を地面に叩きつけると、振動と共に地面から次々と突き出す氷の刃が襲いかかってきた。
既のところで回避した俺たちは、ミノタウロスとの距離を詰め懐に入り込む。
すると、ミノタウロスは斧を振り回し応戦する。やむを得ず俺たちは再度距離を取ると、地面から氷の刃が襲う。
「あの斧、厄介だな……リア!」
「ええ、任せて! ──一段階解放!」
リアがナイトメアに魔力を注ぐと中央に赤い筋が色濃く走る。
身体能力が増したリアは、氷の刃を躱しながらミノタウロスとの距離を詰め懐に入り込んだ。ミノタウロスはリア目掛けて、斧を振り回した。
「──紅刃円舞!」
リアの剣戟にミノタウロスは斧を弾き返され、胴体をさらけだした。
「リア! 離れろッ!」
「うんッ!」
リアが離れたところに俺が入り込み、追撃を仕掛ける。
「──血刃<炎刀炎流>!」
炎の渦がミノタウロスを呑み込み焼き尽くす。
炎が消えると、真っ黒に焼けたミノタウロスが白目を向いて立っていた。
手に持っていた氷の斧は炎に焼かれ消滅している。
「やった!?」
『ブモォォォォォオオオオオオオ!』
ミノタウロスの目に生気が戻ると雄叫びを上げた。
振り上げられた腕が、真っ直ぐに俺に振り下ろされる。既のところで縮地を発動させ、回避し距離をとった。
「行くぞッ!」
「うん!」
俺たちが地面を踏み込んだ時、ミノタウロスの大きく開かれた口に魔素が集まっていた。魔素の塊が凝縮されレーザーの如く放たれた。
ブレスは床や壁も抉りながら俺たちに迫り来る。
「私が行くわッ!」
前に出たリアが、ナイトメアでブレスを受け止める。ナイトメアがブレスを吸収し赤く染まり始めた。
「これで終わらせる! ──炎纏!」
火に変化させた魔力を纏った俺は地面を蹴り、ミノタウロスの懐に入り込むと、下顎に拳を突き上げた。
ブレスを無理やり止めさせた俺は、炎を纏わせた血刃で追い討ちをかける。
「──血刃<炎刀炎流>!」
巻き上がる炎がミノタウロスを焼き尽くした。
「おつかれさま!」
「おう」
俺たちが手のひらをぶつけ合うと、部屋に破裂音が響いた。
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