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第53話 煮込み鍋×守護者


「生きてるか……?」

「えぇ……なんとか」


 俺たちは60階層の巨大な扉の前までたどり着いていた。

 傷だらけのリアに肩を貸す俺も、魔力をかなり消費している。2人とも満身創痍だ。

 リアは相当無理をしたらしく、顔に表情はなく虚ろな目で前だけを見ている。


「ねぇ……このままフロアボスに挑むの?」

「さすがにそれは笑えねぇわ。休憩がてら飯にしよう」


 扉の近くにリアを座らせた俺は、インベントリから調理器具を取り出した。


「俺も疲れたし簡単なものでいいか」

「ほんと、パーティに1人はユウヤが欲しいわね……」

「なんだそれ。あー作り置きがもう無いんだった……」


 インベントリに大量に作り置きして料理は底を尽いていた。


「直ぐに作るから待っててくれ」


 石を組み火をおこした俺は、水を張った手鍋を置いた。湧き始めたお湯に、氷のエレメンタルの固まりを溶かし入れる。

 そこに刻んだ野菜を適当に入れ、1口大にカットしたホワイトラビットを入れる。

 道中で確認したが、氷のエレメンタルも調味料だった。その正体は甘辛くコクのある味噌だ。


「よし、このまま少し煮込めば完成だな」

「いい匂いね……何を作ったの?」

「味噌煮込みだ。そうだな、名前をつけるなら『ノースフル迷宮の煮込み鍋』だな」

「なにそれ」


 リアはクスリと笑顔を見せた。少しは心に余裕が戻ったようだ。

 俺たちは談笑しながら、鍋が煮立つのを待った。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「おいしぃッ!」


 味噌煮込みを一口食べたリアが声を上げた。


「この甘辛い独特な味わいが癖になるわ。身体の芯から、温まるわね」

「美味しいのは分かったから、食べるか喋るかどっちかにしてくれ」


 リアは感想を言いながらも、次々に口に具材を頬張っている。


「だって、美味ひぃんあもん」

「わかったわかった。おかわりはいくらでもあるから、好きなだけ食べろ」

「うんッ!」

「食べ終えたら体を休めて、明日にでもフロアボスに挑むぞ」

「ええ、あかったあ」


 リアは口に頬張りながら返事をした。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「行くぞ」

「ええ。いつでも行けるわ」


 体を休め魔力も回復した頃、俺たちはフロアボスに挑むために60階層のの扉をゆっくりと押し開いた。

 重たい音を立てながら開いた扉の奥は、3度目になる薄暗いボス部屋が広がっている。

 中央には魔石が浮かび、部屋の奥に祭壇が見えた。


「ここのフロアボスは何かしら」

「さぁな。今までの流れだと氷に関係のある魔物だったが……」


 俺たちが部屋の中央へと進むと扉が閉まった。魔石に集まった魔素が次第に人の形へと固まり始める。


「巨人?」

「いや、こいつはゴーレムだ」


 60階層のフロアボスは氷の体を持つアイスゴーレムだった。


『グオォォォォォオオオ!』


 アイスゴーレムが雄叫びが部屋に響き渡り、空気が震えると部屋の温度が急激に下がり始めた。


「来るぞ!」

「遅いわね……これなら私だけでも倒せるわ!」


 地面を揺らしながら突進してくるアイスゴーレムは、迫力の割に遅かった。


「──一段階解放(ファーストリリース)!」


 リアはナイトメアを1段階解放し、身体能力を向上させると、アイスゴーレムに突っ込んだ。

 アイスゴーレムの剛腕をすり抜けると、足の間接部分を切り落とした。

 ゴーレムはバランスを崩し、地面に崩れるように倒れた。


「案外硬くないのね」

「リア! 油断するな!」


 切断された足は直ぐに修復され、立ち上がったアイスゴーレムがリアに向けて豪腕を振り下ろした。


「そんな攻撃いくらでも……え」


 リアは避けようとしたが、ゴーレムの攻撃が既のところまで迫ってきていた。


「──血刃(けつじん)<炎刀>!」


 ゴーレムの腕が焼き切れ、地面に落ちる。

 俺はリアを抱えて、縮地でゴーレムから距離を取った。


「何なの……急に攻撃が早く」

「いや、あいつの攻撃が早くなったわけじゃない。リアが遅くなったんだ」

「どういうこと!?」

「やっぱり気づいてなかったか。部屋の温度が下がり続けてる……このままじゃ俺たちは動けなくなるぞ」


 ゴーレムの影響で部屋は至る所が凍ってしまい、冷凍庫のような状態になっていた。このままでは、寒さで筋肉が強ばり動きが鈍くなっていく。


「そんな……どうすればいいの?」

「短時間で決着をつける!」


 俺がアイスゴーレムに向き合うと、腕を修復したゴーレムがこちらを見て目を光らせた。


「──炎纏(えんてん)!」


 俺の体に炎の渦が纒わり付く。魔力がゴリゴリと削られていくのが分かる。

 地面を強く蹴った俺は、一瞬でアイスゴーレムの懐に潜り込んだ。


「──血刃<炎刀炎流>!」


 炎を纏う血刃を一閃すると炎の柱が渦巻き、アイスゴーレムを呑み込んだ。炎の柱が細くなり消えていくと、そこには身体を溶かしたゴーレムが立っていた。

 ゴーレムは静かに倒れると、周囲の魔素がゴーレムに集まり始めた。


「リア! 伏せろッ!」


 俺は地面を強く蹴り、縮地を発動させリアの方へ駆け寄ると、体を覆うように抱きしめた。

 直後、アイスゴーレムが四散し周囲の空気を凍りつかせ、辺り一面に氷の結晶が飛び散る。


「ユウヤ、大丈夫?」

「あぁ……問題ない」

「そう、よかっ……」


 リアは自分の足元にある血溜まりに言葉を失った。

 ユウヤの腹部には氷柱が突き刺さり、血がとめどなく流れ出ていた。


「ユウヤ、ユウヤ……!?」


 取り乱すリアはユウヤを揺らしながら、名前を呼び続ける。


「怪我人を揺らすな……大丈夫だ」


 俺はリアを落ち着かせると、氷柱を抜き取り血液操作(ブラッドコントロール)で傷口を結晶化して塞いだ。


「な?」

「な? じゃないわよ! あんな大怪我しといて……心配させないでよ……」


 リアは涙を浮かべながら呟くように言った。俺はそっとリアの頭に手を伸ばした。


「いッ……」


 リアに傷口を強く殴られて俺は悶絶した。


「怪我人はそこで寝ていなさい。魔石を取ってくるわ」

「怪我人にすることじゃないだろ……」


 アイスゴーレムの魔石を手に入れたリアは、俺に肩を貸しながら祭壇へと向かった。


「今ならギルドに帰れるけど……まだ進むのよね?」

「当たり前だ。今攻略できないなら、何度挑戦しても同じだ」

「わかったわ」


 リアは祭壇に魔石を嵌めると、ゆっくりと魔力を込めた。光に包まれると、次第に視界が明確になって行く。


「遺跡、かしら?」

「みたいだな……」


 61階層は遺跡群だった。

 朽ちた遺跡には、木々の根が張り巡らされ長い間放置されてきたことが分かる。

 周囲は相変わらず雪が積もり、寒さは俺たちの体から体力を奪っていく。


「とりあえず、あそこで休もう」


 俺達は雨風が凌げそうな小部屋に入り、休むことにした。

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