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第51話 フェンリル×炎纏


「ここが遺跡の場所だ」

「本当にここなの?」

「何も無いッスよ?」


 俺が立つ広場にはライリーの言う通り、雪が降り積もっているだけで何も無い。


「遺跡はこの下だ」


 俺は雪を足で払い退けながら言うと、雪の下からは分厚い氷が顔を出した。


「もしかして、この下は湖ッスか!?」

「そうらしいな。王宮騎士団がやったのか、40階層が元々こう言う構造なのかはわからないが」

「こんなの進めないッスよ! なにか方法があるッスか?」

「ユウヤどうするの?」


 早々に諦めた2人は俺に打開策を求めてきた。

 俺は氷の上を歩いていき、魔素が流れている場所へ向かった。


「ここだな。2人は少し離れててくれ」


 血刃(けつじん)を構えた俺は、火に変化させた魔力を能力付与(エンチャント)する。血刃に真っ赤に燃える炎が纏った。


「──血刃<炎刀炎流《えんとうえんりゅう》>!」


 一振すると炎の柱が巻き上がり、氷を溶かし水を蒸発させた。炎が消えると、湯気の奥から洞窟が現れた。


「この先にあるみたいだ」

「「……」」


 振り返ると、2人が口を開いて固まっていた。


「行くぞー」


 俺は2人を置いて湖底へと降りる。


「置いてかないでほしいッス!」

「私も魔法が使えるようになったら同じことが出来るかしら!?」


 追いかけてきたリアは目を輝かせて聞いてきた。


「どうだろうな。俺も魔法は詳しい訳じゃないが、やろうと思えば出来るんじゃないか?」

「そっかーティナちゃんに会うのが楽しみだわぁ」


 リアは魔法を使う自分を想像しているのか、嬉しそうにニヤついている。

 魔素を辿るように奥へと向かう道中、横穴がいくつかあった。湖の他にもボス部屋へ到達するルートがあるのかもしれない。


「お、あったぞ」


 洞窟の奥には大きな扉があった。

 ここまでのルートは公表されていないため、冒険者は1人もいない。


「フロアボスね……私たちだけで討伐するのよね?」

「ああ。不安か?」

「……大丈夫よ。私にはお父様とお母様がついているもの」


 リアは帯刀するナイトメアの柄を強く握りしめ、自分に言い聞かすように言った。

 どうやら、イエティとの戦いでフロアボスに対して気後れしているようだ。


「ライリーはここで待っててくれ。この先はどんな魔物がいるかわからない」

「そ、そうさせてもらうッス。ここの情報は必ず持って帰るッスよ!」

「そうだな。リア、行くぞ!」

「うんッ!」


 俺は扉を押し開いて中に入った。

 部屋は20階層のボス部屋と同じ造りになっていた。広い円形の部屋が広がり、松明が薄暗く部屋全体を不気味に照らしている。

 奥へと進むと扉がゆっくりと閉まり、中央に浮かぶ魔石に魔素が集まり始めた。


「デカイな……」


 集まる魔素は20階層のフロアボスであるイエティの倍以上ある。魔素が凝縮し異形の姿を現し始めた。

 全身を覆う青白い毛並み、前後の両足に輝く黒く鋭い爪、牙を剥いた口からはヨダレが垂れ、鋭い眼光がこちらを睨みつける。


「フェンリル!?」

「知ってるのか?」

「おとぎ話に出て来る魔物よ、実在したのね……こんな化け物を2人で倒せるの……?」

「大丈夫だ。俺たちならやれる」

「……うんッ!」


 リアは頷くと、ナイトメアを抜いて正中線に構えた。

 俺も血刃(けつじん)とグランロストを構え、フェンリルを睨みつける。


『アオォォォォォオオオ』


 フェンリルの遠吠えが部屋に響き渡ると、周囲に魔素が集まりアイスウルフが5体現れた。


「そんなのありかよ……リア! 小さいヤツは任せれるか?」

「え、ええ! ユウヤ1人で大丈夫?」

「問題ない。来るぞッ!」


 アイスウルフが俺たちに襲いかかって来た。


「あなたの相手は私よ!」


 俺に襲いかかってきたアイスウルフをナイトメアで受け、弾き飛ばした。

 アイスウルフたちはリアを囲むと、牙を剥き出しにして威嚇している。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 闘気を発動させた俺は、フェンリルの足元へと距離を詰める。

 フェンリルは口を大きく開くと、俺を追いかけるように噛み付いてきた。すかさず縮地を発動する。


「──血刃(けつじん)<炎刀>!」


 左後ろ足へと周り込んだ俺は、炎を能力付与(エンチャント)した血刃で斬り付ける。

 フェンリルは赤い鮮血が飛び散らせながらも、体をくねらせると前足の爪で斬り裂く。が、爪は空を切った。

 俺は縮地で距離を取り、体勢を整える。


『グルルゥゥゥウウ!』


 フェンリルは俺の方を睨みつけ、威嚇しながら間合いを計っている。先程斬り付けた後ろ足は、氷が止血していた。


「脚を斬り落とすつもりで斬ったんだがな……だったら」


 俺は魔力を体に纏い炎に変化させた。炎は体を渦巻くように纏わり赤く周囲を照らす。


「──炎纏(えんてん)──血刃(けつじん)<炎刀乱舞>!」


 地面を一蹴りすると、爆発音が鳴り響きフェンリルの眼前に俺が現れた。血刃がフェンリルの眼球を斬り裂く。

 悶えるフェンリルが噛み付いてくるが、俺は炎の推進力でフェンリルの身体中を乱舞のごとく斬り裂く。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「来るなら来なさい!」


 リアの持つナイトメアに赤い筋が濃く伝う。

 1体のアイスウルフが飛び出すと、リアの間合いに入ったところで胴体を斬り裂かれ地面に落ちた。


『グルルゥゥゥウウ』


 アイスウルフたちは間合いを取りながら、リアの周りを歩き始める。


「ガァァァアアア!」


 1体が飛びかかるのを皮切りに、後の3体が死角から飛びかかった。


「──紅刃円舞(こうじんえんぶ)!」


 リアがナイトメアを舞うように振るうと、太刀筋に一筋の紅い線が残った。アイスウルフの牙はリアに届くことなく地面に倒れた。


「ユウヤはッ!?」


 リアがフェンリルの方に目をやると、炎を纏うユウヤがものすごい勢いで飛び回っていた。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「くッ……」


 着地した俺はよろめいて膝を着くと、体を纏う炎は静かに消えた。俺はフェンリルを睨みつける。


『アォオオオン!』


 傷だらけのフェンリルは遠吠えを響かせた。


「またか……」


 アイスウルフが現れるのかと思ったが、魔素が集まる気配は無い。すると、俺とリアの足元に魔法陣が現れた。


「いや、違う! リア跳べッ!」

「え、うん!」


 俺とリアは魔法陣の外へと跳んだ。その瞬間、巨大な氷の柱が魔法陣がら飛び出した。

 最後の力を振り絞った攻撃だったのか、フェンリルは轟音と共に倒れると動かなくなった。


「ユウヤッ! 大丈夫!?」

「大丈夫だ。魔力を使いすぎただけだ」


 地面に寝転がる俺にリアが駆け寄ってきた。


「さすがユウヤね。あのフェンリルを1人で倒しちゃったわ……」

「かなりギリギリだったけどな。フェンリルの魔石を頼んでもいいか? 少し休みたい」

「わかったわ」


 炎纏(えんてん)で魔力を使いすぎた俺は、その場に座り込み魔石の回収をリアに頼んだ。


「ユウヤさん、リアさん。大丈夫ッスか!?」


 入口の扉が開くと、ライリーが声を荒らげて入ってきた。


「フェ、フェンリル!? これをたった2人でやったんスか?」

「違うわ。ユウヤ1人でよ」


 フェンリルをみて驚くライリーに、魔石を回収したリアがフェンリルから飛び降りて言った。


「それじゃ次の階層に行くか」

「もう動いて大丈夫なの?」

「動ける程度には回復した。それよりもフェンリルと再戦は勘弁だからな」

「それもそうね。行きましょうか」


 フェンリルをインベントリに収納した俺は、身体の怠さを抱えながら祭壇へと進んだ。

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