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第46話 ノースフル×リアの家


「雪だーッ」

「寒いと思ったら雪か」

「あ、ほら! 見えてきたよ!」


 外が肌寒くなり雪がちらつき始めた頃、海の上に島が見えてきた。ティナは嬉しそうに甲板ではしゃいでいる。

 俺たちはテオさんが用意してくれていたコートを羽織り、甲板からノースフル島を眺めた。


「ノースフル島は岸壁のような外輪山に囲まれた島で、かつて大きな爆発が起こったことで出来たと言われています。その時に迷宮も出来たそうですよ。まぁ、何百年も前の話ですがね」


 島を見ていると、甲板にいた船員が説明をしてくれた。


「間もなく到着しますので、下船の準備をお願いしますね」

「ああ、わかった」


 魔導船は速度を落とし、停泊の準備に入った。

 港には雪が降り積もり、辺り一面が白色に染められている。奥には森があり道が続いているようだが、その先には外輪山の絶壁が(そび)えている。


「なんだこの船。どこから来たんだ?」

「あのマークってイエンの造船所のだよな?」


 魔導船が港に停泊するなり人だかりが出来た。


「あーみんな、聞いてくれ。これはイエンで開発された魔導船と呼ばれるものだ。イエンからここまでたったの2日で──」


 船長が船から降りると、港の人達に魔導船の説明を始めた。


「皆さん、船旅ご苦労さまでした。こちらからおひとりずつお降りください」

「あぁ……久しぶりの地面だわ……」


 俺たちは船員の指示に従い船から降りた。

 リアはヨロヨロと船を降りると、地面のありがたみをかみしめるように、その場に座り込んだ。


「まずは、ティナを家に送り届けることからだな」

「そっか。ここでティナちゃんとはお別れなんだ……」

「お別れ? どうして?」


 リアが寂しそうに言うと、ティナは首を傾げながら聞いてきた。


「ティナ、家の場所を教えてもらっていいか?」

「ユーヤは家の場所も忘れたんだね。こっちだよ」


 ティナは港の奥に広がる森へと雪道を音を立てながら歩き始めた。


「外輪山にトンネルが掘られているのか」

「ん。街はこの先だよ」


 森の一本道の先には整備されたトンネルが続いていた。

 トンネルを抜けると、下方には絶壁と森に囲まれた街が広がっていた。

 街には三角屋根の家々が建ち並んでいる。

 俺たちは街へと降りていった。


「ここが私たちの街ノースフルだよ。ユーヤおかえり」


 街に到着すると、ティナは振り返り笑顔で言った。


「あれ……外壁は? これだと森から魔物が入ってきちゃうよね?」

「確かに、そうだな」


 街には外壁は無く、腰程の柵があるぐらいで柵を越えればすぐに森に出てしまう。


「魔物はこの街に近づけないんだよ。だからノースフルには外壁が要らないの」


 ティナは胸を張りながら自信満々に言った。


「どうして魔物が近づけないの?」

「迷宮の入口にある魔石が、島全体の魔素を吸収して強い魔物を発生させないようにしてるの。弱い魔物は強い魔素を放つ魔石には近づかないんだよ」

「街の中心に魔素が集まっているのはそういう事だったのか……それじゃ、同じ物を他の街に置けば外壁が要らなくなるんじゃないか?」

「それは出来ないよ! 魔素を大量に吸収した魔石は魔物の発生原因にもなるから、魔石の魔素は常に使わないといけないの。普通の街じゃ使い切れないよ」

「そういう事か……迷宮に魔素を使わせているんだな」

「ん。それにこんなに広い範囲の魔素を吸収できる魔石はそう簡単には手に入らないよ。それよりも、ここが家だよ」


 ティナは街はずれの小さな一軒家の前で立ち止まり、振り返りながら言った。


「なにか思い出した?」

「いや……思い出すもなにもな……」


 俺は返答に困り、頭を掻きながら歯切れ悪く答えた。

 初めて見る家を眺めていると、扉が開かれ1人のお爺さんが出てきた。


「リュード!」

「これはこれは、ティナ様。おかえりなさいませ。こちらの方々は……なるほど、そういう事ですか」


 リュードと呼ばれたお爺さんは俺の顔を見て、何かを納得したように微笑んだ。


「外は冷えます。温かいスープをお入れしますので、皆様中へどうぞ」

「ん。ありがとう」


 俺たちは家の中に入らせてもらった。

 皆が案内された席に着くと、スープがテーブルに置かれた。


「お飲みください。温まりますよ」

「おいしー。あたたかーい」


 リアはスープを飲み声を上げて喜んでいる。


「ありがとう。リュードさんはティナとはどう言った関係なんだ?」

「さん付けはむず痒いですな……リュードとお呼びください。私はティナ様の世話役を仰せつかっております」

「リュードはね、何でも知ってるんだよ。魔法もリュードから教えてもらったの。リュード、あのね……ユーヤが魔素に──」

「みなまで言わなくとも、わかっております」


 リュードは辛そうに言うティナの言葉を制止した。


「もしかして、魔石の取り除き方を知っているのか?」

「いえ……残念ですが、私にはわかりません」

「そうか……」

「ただ、あの方であれば何か方法を知ってるやもしれません」

「あの方?」

「我らのご主人様です」


 リュードの言葉に皆が静まった。


「ユーヤがご主人様だよ?」

「いえ、ティナ様。ユウヤ様は似ていらっしゃいますが、ご主人様ではございません」

「そうなの!? でも……」

「雰囲気や気配は似ていらっしゃいますが、別人でございます」


 ティナは納得がいかないのか、俺の顔をジッと見つめる。


「その、ご主人様のことを聞いてもいいか?」

「私がお答えできることであれば何なりと」


 リュードは綺麗にお辞儀をしながら言った。


「それじゃ、その人の名前は?」

「お答えできません」

「……どこにいるんだ?」

「お答えできません」

「……そいつは何者なんだ?」

「お答えできません」

「じゃあ、何だったら答えることができるだよ!」


 俺は思わず、リュードに詰め寄った。


「どうすれば会うことが出来るか。でしたらお答えできます」

「会う方法ってことか?」

「はい。世界に4つ存在する迷宮を攻略し、4つの宝玉を手に入れることが出来れば、ご主人様に会うことができます」

「は?」


 リュードの思いもよらない言葉に俺の頭が追いつかない。


「ちょっと待ってくれ、リュードのご主人様は迷宮を攻略した先にいるってことか? 迷宮と何か関わりがある人物なのか?」

「お答えできません」

「はぁ……まぁいい。どんなやつかは知らないが、迷宮には挑むつもりだったしな」

「ご主人様も迷宮の攻略を望まれていますので、ユウヤ様が挑まれるのでしたら、きっと喜ばれると思います。ティナ様も迷宮を攻略できる人物を探す目的でノースフルを出られましたからね」

「そだっけ?」

「そう、ですよ?」


 ティナの返しにリュードが引きつった笑いを見せた。


「ってことは、ティナはこの島に住んでいたってことで間違いないんだな?」

「はい。もちろんです」

「それじゃ、ここにサインを頼む」


 俺はカタクで預かっていたティナの護衛依頼書を取り出し、リュードにサインをしてもらった。


「それと、これはティナのらしいから返すわ」


 魔剣グランロストを取り出して、テーブルに置いた。


「いえ、こちらはユウヤ様がお持ちください」

「いや──」

「ご主人様に会われるのでしたら、この先何かと必要になると思われます。ティナ様が目的をお忘れだったとはいえ、そちらの魔剣はお連れした方にお渡しするつもりでしたので。ですから、ユウヤ様がお使い下さい」

「……わかった。ありがたく使わせてもらう」


 有無を言わせないリュードの物言いに、俺は再びグランロストを手に取った。


「よし。それじゃ、ギルドに向うか……ティナ。短い間だったが元気でな」


 俺は席を立ち扉へと向う。


「ん。ユーヤのご飯美味しかったよ」


 そう言うティナのお腹が寂しそうに鳴った。


「ったく、締まらないな。ほら、ティナの好きなハンバーガーだ」

「ん。ありがとッ!」


 俺はインベントリから紙の包みをいくつか取り出し、ティナに手渡した。


「そんじゃ、行くわ」

「ユーヤ頑張って!」

「ユウヤ様、必ずや迷宮を攻略してください」

「ああ、そのつもりだ」


 俺とリアはギルドへと向かった。


「ご主人様もきっと、ユウヤ様をお待ちしております……」


 リュードは閉まる扉に小さく呟くように言った。

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