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第43話 寿司×繁盛

 

「ユウヤ、ここでするの?」

「ああ。少し時間がかかるから、座って待っててくれ」


 目当ての魚を手に入れた俺は、市場の隅っこを貸してもらい料理を始めていた。

 昨日の今日で、俺のことを知っている人ばかりだということもあり、料理をすると言うと快くテーブルや調理機材まで貸してもらえた。

 俺が買った魚はミケラと呼ばれる魚で、体の背側は青黒く胸びれは短めで、目が小さいのが特徴のみんな大好きな赤身の魚『マグロ』だ。

 さすがに1本丸々解体はしたことが無いので、解体し柵になったものを買ってきた。

 この世界ではマグロはあまりメジャーじゃないらしく、意外と安値で手に入った。


「昨日のクラーケン殺しがまた料理するらしいぜ」

「どんな料理なのかしら。見ていきましょうよ!」


 俺が調理場に立つと、見物客が集まり始めた。

 魚を売っている漁師まで集まり始める始末だ。

 ティナは早く食べたそうにソワソワしている。


「もうすぐ米が炊けるな……」


 俺は米の炊け具合を確認すると、火のエレメンタルの粉末を取り出し、王都で買った酒とみりんを合わせ、手鍋でアルコールが飛ぶぐらい煮詰め冷ましておく。これがマグロの臭みを取るための漬け醤油になる。

 次に風・水・土のエレメンタルの粉末を取り出し、水に溶かしてシャリを作るための合わせ酢を作る。


「よし。米もそろそろだな」


 硬めに炊いた米に合わせ酢を混ぜ合わせていく。


「なにかしら、この匂い……」

「あっちで何か作ってるぞ?」


 酢飯の香りに見物客が増えだした。

 シャリに濡れタオルを掛けておき、マグロの処理をしていく。

 マグロは柵のまま漬け醤油に1分ほど浸し、味が入ったら取り出し、乾いたタオルでしっかり拭く。

 拭いた柵を2mmほどの厚さに切り分けていく。


「よし、握っていくか……ッ!?」


 俺が仕込みを終え視線を上げると、目の前には数え切れないほどの見物客が集まっていた。


「ユーヤぁ早くー!」


 見物客の数の多さに驚いていると、限界が近そうなティナが声を上げた。


「おう!」


 俺は短く返事をし、ネタの上にシャリを乗せ包むように握る。そのまま、ティナの前に置かれた皿に置いた。


「へい、おまちぃ! まずは赤身だ」


 日本にいる間も見よう見まねで握っていたが、飯炊き3年握り8年とはよく言ったもので、所詮は素人の真似事レベルだった。

 しかし、料理スキルがあれば適正補正されイメージ通りに料理を作れる。現にティナの前に置かれた寿司は寿司職人が作ったかのような美しさを纏っている。

 周りからは『生の魚を食べるのか!?』だとか『小さすぎてあんなので満足出来るわけがねぇ』だとか言いたい放題だ。

 ティナがマグロを手に取り、口に運ぶ。


「おいひぃ〜!」


 ティナは満面の笑みで端的な感想を言った。

 その反応に周りの見物客はガヤガヤと騒ぎ始める。


「リアも食うか?」

「え、えぇ。いただくわ」


 俺は握ったマグロをリアの皿に乗せる。

 リアは恐る恐る寿司を持つと、ティナの真似をしてひと口で寿司を放り込む。


「どうだ。美味いだろ。そいつはトロだ」

「……しい……美味しいわ! なにこれ口の中で溶けて無くなったわ!」


 リアは目を見開いて驚いた。

 それを見ていた見物客がゴクリと喉を鳴らした。


「お、俺にもくれないか? 金なら出す!」

「いや、量が少ないんだ。食べたいなら魚の柵を持ってきてくれ。ちなみにオススメはこのミケラだ」

「わ、わかった!」


 男が動き出すと同時に見物客が我先にと走り出した。


「ユーヤ、もっと食べたい!」

「わ、私もいただけるかしら?」

「おう、待ってろ。腹いっぱい食わせてやる」


 俺は米を炊く準備をして、リアとティナの寿司を握り始めた。

 しばらくして、リアとティナの腹が膨れた頃、俺の前にはミケラの柵を手に入れた客で長蛇の列が出来ていた。


「ティナ、米炊いといてくれるか?」

「ん」

「リア、突っ立ってないで皿洗っといてくれ」

「え、あ、はい!」


 寿司を食べ終えたリアとティナにも手伝ってもらい、俺は客が持ってきた柵を切り分け、握り、皿に盛り付けていく。

 寿司を食べた人が口コミで広げているのか、客足が途絶えず次々に増えていく一方だ。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「お、終わったわ……」

「大丈夫?」


 皿洗いと寿司の提供をしていたリアは、力が抜けたように言うとその場に座り込んだ。

 ティナがリアを気遣って頭を撫でている。


「繁盛しすぎて笑えねぇわ……また買い出しに行かないとだなぁ」


 寿司は大繁盛で、王都で買っていた米や調味料をかなり消費してしまった。

 俺は食材の残量を確認しインベントリに収納していく。


「って言うか、さっきからその荷物を出したり消したりどうやってるの!?」

「内緒だ」

「うー」


 リアがインベントリのことを聞いてきたので、適当にはぐらかしておいた。

 リアは納得がいかないらしく唸っている。


「そろそろギルドに向かうか。レスターが待ってるだろうしな」


 寿司屋をしてる間に太陽は高い位置まで上っていた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「なにかしら、何だか臭いわね……」

「ん。臭い」


 ギルドに入ると、リアとティナは鼻をつまみながら言った。

 解体所でクラーケンを処理したので当たり前なのだが、ギルドはイカ独特のアンモニア臭が充満していた。

 表にもゴミが散乱し、後片付けに追われるギルド職員の姿があった。


「ユウヤさん。おはようございます。昨日は美味しい料理をありがとうございました」


 表の掃除をしていたのか、俺たちに続いてギルドに入ってきたララに声をかけられた。

 いつものギルド職員の制服ではなく、分厚い手袋をし長いヒバサミと袋を持つ姿は、完全に掃除のおばちゃんだ。


「後片付けをしてもらって悪いな」

「いえ! これぐらいお任せください。マスターを呼んでまいりますので、応接室でお待ちください」


 俺たちは応接室に通され、レスターが来るのを待った。


「待たせたな」


 しばらくすると、レスターが部屋に入ってきた。

 レスターは向かいのソファに座ると、金貨が詰まった革袋をテーブルに置いた。


「これが、昨日の礼だ」

「多すぎないか? 俺はただクラーケンを調理しただけだぞ?」

「情報提供料だと思ってくれ。これから先の収入を考えれば安いもんだ。それにクラーケン料理は美味かったしな」


 レスターは笑いながら言った。


「料理を気に入って貰えたならよかった。それじゃ──」

「ユウヤ。ひとつ聞きたいんだが」


 報酬を受け取った俺が席を立とうとすると、レスターに制止された。


「なんだ?」

「ユウヤにというよりかは、隣の彼女になんだが……君はリア・エストレアだな?」

「……はい」


 レスターに名を言われ、リアは静かに返事をした。


「やはりそうか。お母さんに、リーシャに似て綺麗になった」

「……へ?」


 バッシングを受けると思っていたリアは思いもよらない言葉に変な声を出した。

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