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第42話 リア×ジェイド

 

「ホントに、ごめんなさい……」


 リアは床に正座をした状態で謝った。


「そんな気にすんな。まぁ、店主には怒られたが、宿泊客が少なくてよかった」


 クラーケンの事もあり、宿泊客は少なく大騒ぎにはならずにすんだ。


「私……その、覚えてなくて……どうして一緒に、寝てたの?」


 リアはモジモジと赤い髪を触りながら聞いてきた。


「なんだ覚えてないのか。昨日の夜、酔っ払って寝てしまったから宿まで運んだんだ」

「そう、なんだ……なにもなかった、よね?」


 リアは顔を赤くし、恥じらうように呟いた。


「はぁー当たり前だろ……これに懲りたら未成年が酒なんか飲むなよ?」

「私は未成年じゃないわよ?」

 ──どう見ても俺とそう歳も変わらないように見えるが……


「今いくつだ?」

「17よ。私が15歳にもなってないように見える? それにお酒は17歳からだから飲酒も認められているわ」


 リアは少しムクれたように言った。

 ──この世界では15歳で成人なのか……


「コホン。まぁそれは置いといてだ。どうして、しつこく俺を追いかけてくるんだ?」


 俺は話を変えた。


「そ、それは……私、士爵になりたいのッ!」

「士爵ってあの貴族のだよな? それがどうして俺に付きまとうことにつながるんだよ」

「それは……強くならないと士爵になれないからよ。私はプラチナに昇格して、冒険者叙勲制度で士爵の爵位を手に入れなくちゃいけないの」


 リアは語気を強めて言った。


「そう言えば、大会でもそんなこと言ってたな。冒険者叙勲制度ってのがあるのか?」

「冒険者叙勲制度はプラチナ(クラス)の冒険者が国に貢献することで爵位を与えられる制度よ。まだ数えるぐらいしか士爵になった人はいないけれど、私はきっとなってみせるわ!」

「それは大層な夢だな。がんばってくれ。それで、俺に付きまとう理由がみえてこないんだが……?」

「あなたも大会で言ったじゃない。貴族になるだけじゃなくて、これを使いこなして見せろって」


 リアが魔剣ナイトメアを突き出して言った。


「大会でもわかったと思うけど、今の私はまったく使いこなせていないわ……ナイトメアの力を引き出そうとすると意識を持っていかれるの……」

「確かにな」


 大会のリアは、まるで誰かが乗り移ったかのような性格の変わり方をしていた。


「父もナイトメアの力を引き出そうとしていたわ。けど……」

「ナイトメアに意識を乗っ取られたわけか」

「……そうよ。父ほどナイトメアを使いこなせていた人はいなかったのに……」


 リアは幼少期の記憶を辿っているのか、悔しそうな表情で目尻に大粒の涙を浮かべていた。


「私が7歳の頃、あの事件が起きたわ……父は捕縛されてすぐに死刑……最後まで私を守ってくれた母は被害者に殺されたわ……でも行き場もなく、路頭に迷う私をジェイド様が拾ってくれたの」

「ジェイド?」

「ええ、ジェイド様はあまり自分を話されるお方じゃ無かったけれど、私に剣術とナイトメアの使い方を教えてくださったわ」

 ──ハイオークが持っていた大槌の製作者もジェイドだったよな……


「今はそのジェイドってやつとは一緒じゃないのか?」

「それが、ひと月ほど前に突然姿を消したの……」


 リアは寂しそうに遠い目をしながら言った。


「そうか……そいつはどんなやつだったんだ?」

「ジェイド様? んーいつもフードを深くかぶっていて顔をちゃんと見せてもらったことはないけど、顔に黒くて大きな痣があるわ。身長はあなたと同じぐらいかしら。色んなことを知っていて、武器も剣だけじゃなくて何でも使いこなしちゃうの」

 ──フードの男……もしかして、あいつか?


「怖い顔して、どうかした?」

「いや、何でもない。すごい人なんだなと思ってさ」

「そうなのよ! 剣術の修行を付けてもらっていたときもね──」


 リアは目を輝かせながら、ジェイドについて語り始めた。

 ──そんなに力量がある人物なのに、マルコさんは名前すら知らないって言ってたよな……可能性として他国の人間か転移者か、だよな……


「ねぇ、聞いてる?」


 俺が考え込んでいると、リアが聞いてきた。


「ああ、悪い。なんだっけ?」

「だから! 私、強くなりたいの! あなたがクラーケンを単独討伐したって聞いたわ……あなたといれば強くなれるんじゃないかって思うの。だから……私を一緒に連れて行って! あなたの傍にいさせて!」


 リアは頬を赤らめ懇願するように言った。

 他人が聞けば誤解を招きそうだ。

 ──別人かもしれないが、リアはジェイドを探す糸口になる……それに、迷宮を攻略する戦力も必要になるかもだしな……


「わかった。だが、1つ訂正だ。クラーケンは単独討伐じゃない。ティナと一緒に討伐したんだ」

「んッ!」


 俺が訂正すると、ティナが胸を張って返事をした。


「ウソ……その子も戦ったの?」

「ああ、それと酒は禁止な」

「……はい」


 リアは反省しているらしく、小さくなって返事をした。

 窓の外を見ると話をしているうちに、空が明らみ始めていた。


「朝か……市場に用事があるんだが、まだ宿にいるか?」

「市場?」

「ああ。昨日料理人に聞いたんだが、今日から漁が始まるらしいからな。どんな魚が上がってるか見に行くんだ」

「お魚ッ!? 私も行くー!」


 魚と聞いて、ティナが喜んでベッドで跳ねている。


「魚なんて何のために見に行くのか分からないけど、そこに強さのヒントがあるのね! わかった、一緒に行くわ。宿代はいくら? 私の分は……」

「どうした?」

「ごめんなさい。私、お金もっていなかったわ……」


 リアは懐から財布を取り出すと、財布をひっくり返して手のひらに取り出した銅貨3枚を見せながら、申し訳なさそうに言った。


「色んな大会で優勝して荒稼ぎしてるって聞いてたが、金を持ってないのか?」

「賞金なんて数日の食費で無くなるもの……」

「賞金がそんなに少ないわけが無いだろ?」

「ナイトメアを使うとすごくお腹が空いちゃうのよ……」


 どうやら、ナイトメアで大量に魔力を持っていかれるため、食費がかさんでいたらしい。

 ──賞金を数日で溶かすほどなのか……


「まぁ、金のことは気にしなくていい。飯も俺がどうにかしてやる」

「ごめんなさい……」


 落ち込むリアを連れ、俺は市場へ向かった。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「お、クラーケン殺しのにぃちゃんじゃないか! 昨日は美味い飯をありがとよ!」

「市場を見に来る冒険者なんて物好きもいるもんだ! なんか買ってくかい?」

「買うつもりだが、一通り見てからにするよ」


 市場に着くなり、元気な漁師たちに声をかけられた。

 ──ってか俺、クラーケン殺しって呼ばれてんのか……


 昨日は火の消えたような市場だったが、今日は本来の活気を取り戻したらしく、魚と人で溢れていた。


「これは、カツオか?」

「かつお? それはキテカって魚だ。知らないのか?」

 ──この特徴的な縦縞はどう見てもカツオだ……この世界ではキテカって呼ばれてるのか?

「こいつを3枚に下ろしてもらえるか?」

「まいどありッ!」


 男が手馴れた手つきで捌いていく。

 キテカは赤身の魚で、脂がよく乗っているらしく、着る度に光沢が出る。


「ちょっと包丁を貸してもらえるか?」

「包丁? お、おぅ」


 男は疑問に思いながらも、俺に包丁を渡した。

 俺は場所を開けてもらい、柵になったキテカを薄くスライスし、口に運ぶ。


「お、おい。あんた火も入れてねぇのに!」

「大丈夫だ」


 男は焦って止めに来るが、俺は制止して味を確かめる。


「やっぱりカツオだな……脂が乗ってて旨い。そういや、日本でもそろそろ旬だな」


 市場に並ぶ魚は見たことの無いものもあったが、見慣れた魚もいくつかいるようだ。

 俺は男に料金を支払い、3枚に下ろしたカツオを受け取った。

 男は終始変なものでも見るような目で見ていたが気にしないようにしよう。


「ティナは魚料理は何が好きだ?」

「んー焼き魚も美味しいけど……おすし! おすしが1番好き!」

「おすし? なにそれ」

「へぇ、寿司なんて知ってるのか……それじゃ久しぶりに握ってみるか」

「え、握るって食べ物の話よね?」


 俺はインベントリに材料が揃っていることを確認し、目当ての魚を探しに向かった。

 リアは頭上にハテナが浮かべて俺の後を着いてきた。

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