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第40話 クラーケン×団体客


 俺たちが乗った小舟は港から沖へと進んでいく。


「ユーヤ来たよ」

「ああ。わかってる」


 海底に魔物の気配を感じた俺たちは、小舟に立ち上がると戦闘態勢に入った。

 海が荒れ、海面に泡が浮き上がり始める。

 巨大な影が小舟の下に浮かび上がると、太い足が小舟を囲むように海面を突破って飛び出した。

 俺はティナを抱えると、上空へと高く飛び上がった。

 触手は小舟を海中に引きずり込むと、いとも簡単にバラバラにした。


「1、2……あれ、足が8本しかないってことはタコなのか?」


 俺はティナを背負って空中に浮遊(・・・・・)しながら、足を数えていた。

 グレイの風壁と魔導二輪の空走モードからヒントを得て作った浮遊魔法だ。

 足に集中した魔力を風に変換し真下に吹き付けることで風圧で浮き上がっているが、高度が高いほど魔力の消費も多くなる。

 船に獲物が居ないことに気づいたのか、クラーケンの胴体が水面に現れた。


「やっぱりイカか?」


 イカの化け物のような姿をしたクラーケンをみて呟いた俺は、水面まで高度を下げる。


「ユーヤくるよ!」

「ああ!」


 8本の足が俺めがけて襲いかかってきた。

 俺は足の猛攻を躱しながら、隙を伺う。


「──血刃(けつじん)<風刀>!」


 鋭く突きたててきた足を交し赤黒い風を纏わせた血刃で斬りつけた。大きな足は切断されると海の底へと沈んで行った。

 1本斬り落とされたことで、7本の足が狼狽え猛攻が止まった。

 クラーケンの出方を伺っていると、逃げるように水中へと潜り始めた。


「逃がすわけ無いだろ」


 俺は風魔法で竜巻を作り、海水諸共クラーケンを巻き上げた。


「ティナ頼む」

「ん。──雷霆」


 ティナが唱え、腕を振り下ろす。

 轟音が鳴り響くと、無防備に空中に投げ出されたクラーケンに、雷霆が落とされた。


「あーあれじゃ焦げたかもな……」


 クラーケンは煙を上げながら海に落ち、大波を起こした。

 俺は海に浮かぶクラーケンに近寄り、インベントリに回収する。


「戻るか」

「ん」


 俺はティナを背負ったまま港まで引き返した。


「よし、これでクラーケンの件は解決だな」

「あ……あ、ああ」


 俺が地面に着地すると、テオさんがこちらを見て言葉を失っていた。

 雷霆の音を聞いて、港には野次馬が集まっている。


「テオさん。ギルドに報告しに行くから、一緒に来てもらってもいいか?」

「は、はい!」


 俺は一部始終を見ていたテオさんを連れ、ギルドへ向かった。


「──と、言うわけでして」

「クラーケンは討伐したから依頼完了でいいか? それと、航路も通れるようになったから定期船の運行再開を頼む」

「ば……バカにしてるんですか!? その話を信じろと?」


 証明者としてテオさんに説明してもらったが、受付嬢は声を荒らげて怒り始めた。


「はぁ……わかった。証明するから広い場所はないか?」

「広い場所ですか……? わかりました。どう証明するのかは知りませんが、案内します」


 受付嬢は疑いの眼差しで俺を見ながら席を立った。


 後を着いて行くと、クラーケンを出しても問題ないほどの広さの解体所に案内された。


「ちょっと2人とも下がっててくれ」


 俺はインベントリからクラーケンを取り出して見せた。


「「な……」」


 2人は驚いて口を開いたまま固まってしまった。


「す、すぐにマスターを呼んできます!」


 受付嬢は慌てて解体所を出ていくと、しばらくしてギルドマスターを連れて帰ってきた。


「ララ、俺は忙しいんだ。クラーケンを単独討伐なんてできるわけが無いだろ。何かと見間違え……な、なんじゃこりゃーッ!」


 レスターの叫び声が解体所に響き渡った。


「本当にクラーケンを討伐したのか……ってかどうやってここに運んだんだ?」

「マスター、来るまでに説明したじゃないですか。この方が何も無いところから出したんです」

「は?」

「見せた方が早いな」


 俺はクラーケンに触れインベントリに収納し、また取り出した。


「こんな感じだ。とりあえず、討伐は済んだんだ。定期船の再開を頼めるか?」

「わかった……だが、少し待ってくれ。ララ、沖のクラーケンを確認後依頼完了の手続きを頼む」

「はい!」


 ララと呼ばれるギルド職員は返事をすると、解体所から出て行った。

 ──クラーケンの確認はするんだな。


「そんな顔をしないでくれ。これも仕事なんだよ」

「ああ、そうだな」

「それで、定期船だが……テオ再開は出来そうか?」

「定期船は現在整備中でして……こんなにもすぐにクラーケンが討伐されるとは思ってもいなかったもので……」


 レスターの問いかけに、テオさんは申し訳なさそうに返した。


「そう言えば定期船を改造すると言っていたな……」

「……はい。あとは魔石だけなんですが」

「それなら」


 俺はクラーケンの胴体に登ると、血刃(けつじん)を突き刺し魔石を取り出した。


「こいつを使ってくれ」

「い、いいんですか!?」

「もちろんだ。元々、そのつもりだったからな」

「ありがとうございます! これさえあれぱ、2日もあれば完成させてみせます!」


 テオさんは魔石を受け取ると、新しいオモチャを貰った子供のように目を輝かせた。


「定期船に関しては解決したが……この生臭い塊をどう処理したものか……」


 レスターは少し香ばしい香りを放つクラーケンを睨みつけ、ブツブツと呟いた。


「使い道は無いのか?」

「使えるのは牙と心臓ぐらいだ。他は臭いし使い物にならんな」

「食えばいいじゃないか」

「馬鹿言え。この大きさだ、魔素が完全に抜けるまでどれほどの時間がかかると思ってる。待っている間に腐ってしまうぞ」


 レスターは呆れたように言った。


「すぐには食べれないのか……」

「食えば間違いなく魔素中毒になるだろうな」

「ってことは魔素を抜けば食えるってことか?」

「またわけのわからんことを……短時間で魔素を抜く方法がないから困っているんだろうに」

「なら俺がどうにかしてやるよ。こう見えても料理には自信があるんだ。晩飯にクラーケン料理を街の皆に振る舞うから声をかけておいてくれ」

「おい、まさか……魔素を抜き取る方法があるのか!?」


 俺の提案にレスターは目を見開いて聞いてきた。


「ああ、もちろんだ。日暮れまでには調理できると思うぞ。魔素が抜けているか信じられないならテスターを使えばいい。あれなら魔素量もわかるんだろ?」

「そこまで言うなら了承しよう。何人集まるかは知らんが声をかけておいてやる」

「調理はここでしても問題ないか?」

「もちろんだ、解体予定の魔物もいないからな。好きに使ってくれ」

「私も造船所の組員に声をかけておきます」

「よしッ! 久しぶりの団体客だ!」


 俺はグランロストを取り出すと、クラーケンに突き立てた。

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