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第39話 再開×海の邪魔者

 

「ユーヤみて! 海だよ! 海ッ!」


 風に乗って潮の香りがし始めた頃、小高い丘の先に青い海が広がっているのが見えた。

 海の手前には外壁に囲まれた港町がある。


「あそこが、イエンだな」


 俺たちは街の近くまで魔導二輪で向かい、歩いてイエンへと入った。

 街は今まで訪れた街とは違い、出入口の門はひとつしか無い。

 街自体はそれほど大きくはないが、港には大小様々な船が大量に停泊されている。

 鮮魚市場のような場所もあったが、競りは終わってしまったのか魚も人も居なかった。


「ここが、この街のギルドか」


 ギルドは海に迫り出すように建てられており、隣に大きな造船所があった。

 造船所には整備中らしい大きな船が停泊されている。

 扉を開け中に入ると、ギルド内は辛気臭い雰囲気に包まれ、昼間から酒を飲んでいる冒険者がチラホラといた。


「ノースフルに行きたいんだが、どの船に乗ればいい?」


 俺は暇そうにしている受付に声をかけた。


「ノースフルへの定期船は現在見合わせておりまして……」

「どういう事だ?」

「実は、街のすぐ沖合いに魔物が住み着いてしまったんです」

「魔物か……定期船はいつ頃出せそうなんだ?」

「現在、王都へ討伐隊を要請しているのですが、武術大会の時期で冒険者が足らないようでして……」

「討伐隊を組む必要があるような魔物なのか?」

「はい……その魔物と言うのが──海獣クラーケンなんです。そのせいで魚も逃げてしまって漁業にも影響が出ているほどでして……海の魔物も近づかないので冒険者も離れてしまったんです」


 どうやら、クラーケンの被害は街全体に及んでいるようだ。


「クラーケンが居なくなるまでは、新しい依頼も無いかと思います。少し遠いですが、東の港町からもノースフルへの定期船は出ていますので、そちらをご利用ください」


 受付嬢は申し訳なさそうに頭を下げながら言った。


「わかった。因みにクラーケンの詳細を教えてもらってもいいか?」

「は、はい……クラーケンは──」


 クラーケンは海底に寝床を作る魔物らしく、体長は胴体だけで50mはあり、Aランクに指定されている。

 縄張り意識が強く、海底から船影が見えただけで襲いかかってくるそうだ。

 数ヶ月で住処を転々とするらしく、討伐しなくてもいずれ居なくなるらしい。


「あれ!? ユウヤさんじゃないですか!」


 俺がクラーケンの話を聞いていると、後ろから声をかけられた。

 振り向くと、そこには顔中を黒く汚したテオさんがいた。


「テオさん、どうしてここに?」

「どうしてもなにも、隣の造船所は私の会社なんです。手紙にもイエンに居ると書いたじゃないですか」

「ああ、そう言えば……造船所? テオさんは魔導具屋じゃなかったか?」

「お話してませんでしたね。魔導具屋は副業なんですよ。実は、ユウヤさんのあの乗り物のおかげて素晴らしい船を思いつきましてね。今は船と魔導具を組み合わせた船を製作中なんです」

「なるほど……魔導船か」

「魔導船……いいですね! その名前いただいても?」


 テオさんは目を輝かせながら言った。

 どうやら急いで帰ったのは魔導船を作りたかったからのようだ。


「ただ、どうしても足らない材料があるのでギルドで手に入らないか聞きに来たんです」

「魔石の件でしたら難しいと前にもお話したじゃないですか」

「そこを何とかなりませんか」

「そう言われましても、Aランクの魔物なんてそう易々と討伐されるものではありませんから」

「Aランク? それならクラーケンがいるじゃないか」


 俺が横から口を挟むと2人はこちらを見て固まった。


「あの……先程の話聞かれていましたか? クラーケンは討伐隊を組んでいる段階で、すぐには討伐できないんです」

「そうですよ、ユウヤさん」

「それじゃ俺が討伐しようか?」

「「……え?」」


 2人はまたしても固まって目を丸くした。


「討伐依頼が出てるなら俺が受けるよ」


 そう言って、首にかけていたギルドプレートをカウンターに置いた。


「……え、ユウヤさんいつの間にゴールドになられたんです!?」

「昨日、武術大会で優勝したんだ。ノースフルに向かうつもりだったんだが」

「なるほど、それでイエンに来られたんですね」

「いくらゴールドでも、クラーケンを討伐隊を組まずに討伐した例は一度もありませんので、単独討伐は許可できません!」

「前例が無いと依頼を受けることも出来ないのか?」


 俺はキッパリと断る受付に突っかかるように言った。


「それほど危険な魔物だと言うことです!」

「なんだなんだ。ウチのギルドで騒がしいな……面倒ごとは起こさんでくれよ?」


 騒ぎを聞きつけたのか、奥の部屋から出てきた口髭を携えた40歳ぐらいの男が面倒くさそうに言った。


「マスター! この方がクラーケンを単独討伐すると言って聞かないんです」

「ほぅ……クラーケンを単独討伐するたぁ大きく出たな。俺はこのギルドのマスターをしているレスターだ。お前は、見ない顔だな」

「俺はゴールド階級V(クラス5)のユウヤだ」


 俺はカウンターに置いていたギルドプレートをレスターに見せながら言った。


「なるほど、ゴールドになりたてか。クラーケンの単独討伐なんて、命を捨てに行くようなもんだぞ?」

「危なくなったら逃げればいいだろ」

「海の上でかぁ? はぁ……受理してやれ、こういうバカは一度死なねぇと治らねぇんだ」


 レスターは受付嬢に言うと、奥の部屋へと戻って行った。


「ちょ、ちょっと! マスター!?」

「それじゃ受理を頼む」

「はぁ……どうなっても知りませんからね」


 受付嬢はため息をつくと、渋々依頼を受理し始めた。


「テオさん、1つお願いがあるんだけど」

「お願いですか?」

「小舟でいいから1隻売ってもらえないか? ボロボロのでいいんだが」

「捨てるような船なら造船所の隅にまとめてありますから、好きなものを持って行ってください。勿論、料金は要りませんので」

「ありがとう。助かる」


 依頼受理を終えた俺たちは造船所へ向かった。

 テオさんに案内された場所には、穴が空いたり半壊している小舟が大量に山積みにされていた。


「これなんか良さそうだな」


 俺は何とか乗れそうな小舟を1隻選ぶと、山の中から引っ張り出した。

 小舟はボロボロだが穴はなく、小さな帆が付いており大人2人が乗れるぐらいの小さな船だった。


「本当にそんなのでいいんですか?」

「これで十分だ。よし、ティナ行くか」

「ん」

「え、その子も連れていく気ですか!?」

「ティナがいないと話にならないからな。まぁ、テオさんは見ててくれ」


 俺は心配するテオさんを他所に、小舟に乗って沖へと出た。

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