第19話 護衛依頼×同居生活
「ゴントのやつ……これ程までに溜め込んでおったとはな」
盗品を取り出しただけで、闘技場が財宝で埋め尽くされた。
エルさんや他の職員たちが、リストと盗品を確認している。
ランディが言うには、返却先が分からない盗品は全て俺のものになるらしい。
「しかし、良かったのか? 王宮騎士団ともなれば装備も金も思いのままじゃと言うのに断ってしもうて」
「さっきも言ったけど、冒険者は自由であるべきだと思うんだ。それに、俺は金にも装備にも困ってないからな」
「ワシもその意見には賛成じゃが、しかし勿体ないのう」
──マスターの言う通り少し勿体ない気もするが、王宮騎士団に入団すれば王命で動きを制限されるだろうし、元の世界に帰る方法を探す旅も出来なくなってしまうかもしれない。ロズウェル卿にも悪い事をしたな……あんなに喜んでいたのに帰る時はすごい落ち込みようだった。
「それはそうと、その子はユウヤの知り合いか?」
ランディは俺の隣に立つティナを見ながら聞いた。
「わからない。けど、ティナは俺の事を知ってるみたいなんだ……」
ティナとは初対面だが、記憶喪失として話しを通している以上知らないとは言えず、俺はうやむやな返事をした。
「そうか……困ったのう」
「何がだ?」
「ユウヤが昏睡状態の間、この子のことを調べたんじゃが情報があまりに少なくてのう。家はノースフルだと言うが子供の足で来れる距離ではない。捕縛した盗賊たちは口を揃えて『森で攫った』と言っておってな。テコでもユウヤから離れんほどじゃったから、てっきりユウヤの知り合いかと思うとったが……」
どうやらティナの身寄りが見つからずギルドも困っているようだ。
「討伐隊の報告じゃと、ゴントとユウヤが倒れとる所にその子がいたそうじゃ」
──あそこにいたってことは、あの時見たのはやっぱりティナだったのか……だとしたらゴントを倒したのはティナってことだよな……この子は何者なんだ?
「街の名前を言い間違えてるとかは?」
「それは無いのう。念の為、この付近の街に確認を取ったがこの子の親は見つからんかった。それに──」
マスターはおもむろに、ボロボロになったアイアンのギルドプレートを取り出した。
「これは?」
「その子が持っておったプレートじゃ。長いこと使われておらんが、拠点はノースフルになっておる」
「それじゃ、本当にノースフルから来たってことなのか?」
「その可能性が1番濃厚じゃな。ユウヤとの関係性はまだわからんが、ここは1つワシからの依頼を受けてくれんか?」
「依頼……?」
「この子をノースフルまで送り届ける護衛依頼じゃ。ユウヤとその子が知り合いであれば、ユウヤも記憶を失う前はノースフルにいたかもしれんじゃろ?」
「……確かにそうだな」
「ノースフルへ行けばユウヤも記憶を取り戻す手がかりがあるかもしれん。それに、もし人違いだったとしても、その子を知る人がノースフルにはいるはずじゃ」
──俺が記憶喪失なのは嘘だし、ティナとは初対面だしな……
「ノースフルのギルドと連絡を取ったりとかは……」
「できておればユウヤに依頼を出すと思うか? ノースフルは船で向かう孤島じゃ。距離も離れすぎておって通信用魔導具でも連絡の付けようがない」
──断れそうにないな……自分の記憶を取り戻せるかもしれないのに、ノースフルに向かわないのは怪しすぎる。かと言って記憶喪失じゃなかったと言ったところで、異世界から来ましたとも言えないよな……
「ユーヤ。記憶なくなったの? 何も思い出せない? 大丈夫?」
話を聞いていたティナが不安そうな顔をのぞかせて聞いてきた。
──元の世界に帰る方法を探すのは、ティナを送り届けたあとでもいいか。それに、ノースフルの迷宮にも興味があるし旅はするつもりだったしな。
「大丈夫だ。一緒にノースフルに行くか」
俺はティナにギルドプレートを手渡しながら笑いかけた。
「マスター。その依頼受けるよ」
「うむ。では、依頼書を作っておこう。そうじゃ、言い忘れておったが、ノースフルに向かう前に王都に寄りなさい」
「王都に?」
「ノースフル行きの乗船許可証が手に入る大会が、毎月月初に行われておるんじゃ」
「乗船許可証……? ノースフルに行くのに許可証が必要なのか?」
「ノースフルに迷宮があるのは知っておるじゃろ? 弱い冒険者が行っても無駄足になるだけじゃからな、王都で振るいにかけておるんじゃ。その娘のように、ノースフルで発行された身分証を持っておれば話は別じゃが、ユウヤは持っておらんじゃろ?」
「なるほどな……」
──王都に行くなら、ついでにフジワラ王のことも調べてみるか……
「試験まではあと10日ある。ちょうど王都行きの荷馬車の護衛をユウヤに頼みたいと思っておったところじゃ。3日後に出発予定じゃが、これも頼めるか?」
「わかった。ついでにその依頼も受けるよ」
俺は安請け合いし、荷馬車護衛の依頼書を受け取った。
その後は色々と大変だった。
盗品は囚われていた人達全員に問題なく返すことができたが、お金は盗られた金額が分からないということもあり、返すことができず囚われていた人達は落胆していた。
みんなに金貨を10枚ずつ配ると俺が提案すると、全員から泣きながら感謝された。
仕舞いには救世主だの神の使いだの言われ、祈られる始末だった。
ギルドを出た時には日は暮れ、辺りは人通りが少なくなった街を魔導具の街灯が照らしていた。
「腹減ったなぁ……ん?」
俺が呟くと、ティナのお腹が返事をした。
「ティナも腹減ったのか?」
「ん。お腹空いた」
「よし、宿に向かう途中で何か買っていこうか」
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「いらっしゃい!」
宿の扉を開けると女将さんの元気な声が聞こえた。
ホールでは飲んだくれる人達が大勢いて、かなり賑やかだ。
「あ、ユウヤさん! 来てくれたんですね」
忙しそうに配膳をするサンクが俺に気づき声をかけてくれた。
「今日はやけに賑やかだな」
「ユウヤさんのおかげで、北の街道が安全に通れるようになって商売もしやすくなりますから、その祝いらしいですよ」
「みんな楽しそうでなによりだな。それで、部屋はまだ空いてるか?」
「勿論ユウヤさんのために、部屋を空けてますよ。奥に母さんがいるので、鍵を受け取ってください」
「わかった。ありがとう」
俺は女将さんから鍵を受け取り、部屋に向かった。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「普通の部屋でも十分だな」
今回、用意してくれていた部屋は前の豪華な部屋とは違い、銀貨12枚で泊まれる6畳ほどの部屋だった。
ベットとテーブルが置かれ、隅にカセットコンロぐらいの小さな魔導具のコンロが置かれている。
ちなみに、ティナの宿代は同じ部屋に泊まるなら必要ないと言われた。朝食もサービスしてくれるそうだ。
「早いとこ飯にするか、肉はホーンラビットでいいか……そう言えば、ティナは嫌いな物とかはないか?」
俺は道中で買った食材をインベントリから取り出しながら聞いた。
「ん。大丈夫」
「よし。んじゃ、美味いの作ってやるからな」
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
俺は作った料理をテーブルに運び席に着いた。
今日の晩飯はポムドと呼ばれる、この世界のじゃがいもを使ったポテトサラダと、硬いライ麦パン。
メインは揚げ焼きしたホーンラビットにクアドゥルと呼ばれる鶏の魔物の卵で作ったタルタルと砂糖、醤油、酢を混ぜて作ったタレをかけた、ホーンラビットの南蛮風だ。
「よし、食べるか」
「ん。いただきます」
──この世界にも手を合わせる文化があるんだな……
俺が関心していると、相当腹が減っていたのか、ティナが物凄い勢いで食べ始めた。
「急がなくても、まだあるからゆっくり食べなさい」
「ほぁい」
ティナは口いっぱいに頬張りながら返事をした。
「ん……ユーヤの料理はいつも美味しいね」
「そうか? ありがとな」
笑顔で言われ少し照れながらも、俺は料理を口に運んだ。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「ふぅ、食ったな。今日は遅いし寝るか」
「ん。でも、寝る前にユーヤの中にある魔素を確認させて」
そう言うとティナは俺の近くに寄り、俺の胸元に手を添えた。
「え……何だって? 魔素?」
「ん。ユーヤの体は魔素に蝕まれてた……魔素は危険なんだよ?」
ティナが俺を見上げながら首を傾げた。
「いや……知らなかったし……」
距離の近さに慌てて顔を逸らしながら呟いた。
「ん。大丈夫。安定してる……」
「だから、どういう事だよ。俺の体の中に魔素が──」
胸にかかる軽い衝撃に視線を落とすと、ティナが寝息をたてていた。
「寝てるし……」
俺はティナを持ち上げ、ベッドに寝かせた。
「ほんと、何なんだこの子は……はぁ、考えても仕方ないか……俺も寝よ」
俺は床に寝転がって寝ることにした。
──ボロボロのままじゃ可哀想だし、明日はティナの服でも買いに出かけるか……そう言えば、テオさんにバイク預けたままだったよな……
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「んー……ッ!?」
朝、目を覚まして伸びをしながらベッドに目をやると、ティナがじっとこっちを見ていた。
「お、おはよう。起きてたんだ」
「ん。おはよ。ユーヤが暴れないか見てた」
「そ、そうか……」
──俺をなんだと思ってるんだ……
窓の外は日が登り始めていた。
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