そういえば・・・
山登りの途中。
本格的な登山道具が必要なほどでは無いが、なかなか険しい山道。時折休憩しながらセナと賢人は黙々と登っていった。
「そ、・・・そういえば、さ。」
疲れが出てきた賢人が、少しでも気分を紛らわそうと、セナに話しかけた。
「なにー?」
「どうして、君が、白い服を着てることを、・・・みんな、不思議がるんだ?」
「あー、私が白い服着たことないからねぇ。」
「え、・・・なんで?嫌いなの?」
「ううん、ほら。賢人と最初に会った時。私、海ざらししてたでしょ?」
「海・・・ざらし?・・・って、なに?」
「染めた布の色止めに、海で洗うんだ。それが海ざらし。私、染め物するのが好きなんだ。それを仕事にしたくて、上手になりたくて。小さい頃から自分の服を全部染めてたんだ。だから、白い服が1枚も無くなっちゃった」
「ああ・・・そう言う事か・・・。けどさぁ・・」
「ん?賢人疲れた?ちょっと休もう。」
「うん、あ、ありがとう。」
背負子をおろし、木陰に座って一休みする2人。セナが食堂で貰った包みを開けて、1つ賢人に差し出した。
「おまんじゅう。食べなよ。」
「あ、あり、がと・・・」
水筒の水を、喉をごくごく鳴らして飲み、饅頭にかぶりついた。顔くらいありそうな程大きいが、ふわふわのようなシュワシュワのような、消えそうなくらいやわらかい食感の饅頭。中には甘い甘い餡子と、ほんのり塩が入っているようだ。甘さが疲れた体に染み渡る。一息ついて、賢人は先程言いかけた事を話しだした。
「ねえ、どうしてこの島の人はみんな、俺にありがとうありがとうって言うんだろう。そんな大したことしてないのに。」
「だって、このTシャツくれたじゃんか」
「そんな着古したTシャツあげただけで、あんなに感謝されたらなんだか申し訳ないよ。」
「何言うとるん。これは賢人の優しさと、思いやりでしょ?子犬包むのに私が服を脱いだから、賢人は私に自分が着てたTシャツをくれたんでしょ?それは私に対する優しさと、思いやりでしょう?みんな何があったか全て知らなくても、何かあった私のために、賢人が着てた服をくれたんだなってわかってるよ。そんで代わりに牛丸兄やのシャツ着てんだなって(笑)」
「いや、それでもさ・・・」
「自分の家族が誰かに優しくしてもらったら、そりゃあ自分の事みたいに嬉しいし、丁重にお礼を言うよ。賢人はそう思わないの?」
「や、俺もそれは、そうだな・・・家族が優しくしてもらったらお礼を言うと思う。」
「私ね、外で生まれたから、血の繋がった親も兄弟もいないけどさ。家族はめっちゃ多いんよ。だからみんな私が外の人に優しくしてもらったから、すごく嬉しいし、みんなも賢人のこと大好きになってると思うよ。」
「それは光栄だけど。なんだか、セナが羨ましいなぁ・・・」
「へへー。いいだろ〜。」
得意気に笑うセナ。島の人たちがセナをどれだけ大切にしているかよくわかる。そしてセナもまた、島の人たちがとても大切な家族だと両者が想い合っている。島の外では毎日のように、虐待だの親殺し子殺しだのと物騒なニュースが飛び交っているというのに。
「さあ、あともう少しだよ賢人。」
「わかった、行こう!」
随分高いところまで登ってきたようだ。どれくらいの時間が経ったのだろう。木々が生い茂った所をぬけると、視界が一気に青空1色になった。
「あそこの小屋だよ。よく頑張ったね賢人」
「ああ~!やっと着いたぁぁぁぁ!」
小屋に到着するなり、背負子をおろして草むらに寝転ぶ賢人。空を見上げると、雲が近い。ゆっくりと呼吸を整えていた。小屋の中からトンカントンカン音がする。
「虎ちゃんおいちゃぁーーーん!」
小屋の戸を開けて大きな声でセナが呼びかけた。
「・・・おお~、セナ坊か~」
先程していた音が止み、しゃがれた老人の声がした。賢人はハッと我に返り、飛び起きて体をパンパンと叩き身なりを整え、セナの後ろについた。