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鬼退治は害獣駆除枠で⑥

想定外もいいところな、闘鬼(オーガ)覇者(ロード)との死闘となった

「第一部・前段」最終エピソードの、後半分の展開なのですが……。


なんだかんだでしっかり過去最長の長さ(文字数)にあい成りましたので(苦笑)

二話に分割の上で、同日中に連続更新の形とさせて頂きます。


まずは対闘鬼(オーガ)覇者(ロード)戦(中)となります、この⑥から……。

 闘鬼(オーガ)覇者(ロード)の方から響いた、訝しむより無い(有り得べからざる)異音おと


(ッ!?)


 結城小隊(自衛官たち)も、姫騎士主従(フィオナたち)も。皆が揃って同じ反応を見せている以上、幻聴の類などでは無い筈だ――。


 そんな一行の眼前へ、煙の中から再びその姿を現した闘鬼(オーガ)覇者(ロード)は。

 無手の状態なまま仁王立ちしていたが、その全身は明らかに体格(ボリューム)を大きく増しており。

 そして体表も先程までとは違う、金属質な黒い光沢を見せるものへと一変していた。


「〈錬魔甲鎧呪法(アイアンクラッド)〉! ヨモヤ人間(小サキ者)ドモヲ相手ニ、〝コノ能力(チカラ)〟ヲ使ウ(見セル)事ニナロウトハ……!」


 その口調に苦々しさと、同時にある種の賛嘆の念も滲ませて言う闘鬼(オーガ)覇者(ロード)


 察するにそれも、覇者陞身(ビル・バイン)とやらを遂げた事で獲得した(新たに身に付けた)異能(ちから)――。

 さしずめ、「剛力体(ごうりきたい)」への形態変化(フォームチェンジ)とでも呼ぶべき代物(モノ)であろうか?


 とは言え、全身が生体装甲よろしく完全金属被覆(フルメタルジャケット)化している(?)巨鬼などと言うのは。

 まさしく超常生物と呼ぶより他に無い存在(やつ)だと、ただただ唖然とさせられざるを得ない。


 ――得ないのだが、そんな驚愕に一瞬(刹那)でさえも呑まれれば、即時の命取りに直結しかねない状況下。

 結城小隊(自衛官たち)姫騎士主従(フィオナたち)と同様、なお集中を切らせる事無く眼前の現実に向き合っていた。


 ものは試しと言わんばかりに闘鬼(オーガ)覇者(ロード)へ射ちかけた、〔10(ひとまる)式小銃(改)〕の弾丸(たま)も同様に音高く弾かれるのを目の当たりにして。


「ちッ! やはりダメか!」


 舌打ち気味に上がる福原(ふくはら)誠人(まこと)一曹(いっそう)の声へ被せる様に。闘鬼(オーガ)覇者(ロード)が口角を吊り上げ、笑った(嘲る様に返す)


「無駄ダ! 鉄鎧(テツガイ)(マト)イシコノ形態(スガタ)、最早キサマラ人間(小サキ者)武器(チカラ)デ抗エル代物(モノ)(アラ)ズ!」


 宣告するが如くそう言うと。闘鬼(オーガ)覇者(ロード)悠斗(はると)()め付け、続ける。


「シカシ、惜シイナ。実ニ惜シイ! ソレ程ノ技量(ウデ)ヲ持ツ貴様ガ、手下(テカ)共々。我ガ同胞(ハラカラ)タル闘鬼(オーガ)トシテ、生マレ落チテオラバ……」


 伝説の闘鬼(オーガ)種たる闘鬼(オーガ)覇者(ロード)が。

 元より「小サキ者ドモ」と見下ろすのが常である人間諸種族(ヒューマノイド型類)に対して、そうした賛辞を贈るなどと言うのは。


 まさに異例も異例な快挙(出来事)であったのは、間違いないだろう。


 たとえその対象(相手)たる者が、弱小種族だ(小サキ者ドモ)と見下ろす存在ではあろうとも。

 現に優れた技量(ワザ)や、戦術(駆け引き)の妙と言った才覚(〝強さ〟)見せて(魅せて)来るならば――それ自体(そのもの)についてはありのままに認め、賞賛の念を表して見せさえもする辺りは。


 不断の闘争(たたかい)を嗜む闘鬼(オーガ)種としての、その有り様の率直な(裏表無き)発露ではあったかもしれない。


人間ドモ(小サキ者タチ)ノ間ニモ、我ヲ本気ニサセルダケノ猛者(ツワモノ)ガ居タ事実(コト)ヲ、記憶ニ留メ置クトシヨウ!」


 とは言えそれも、あくまで(ほふ)りがいのある雄敵(よき獲物)と巡り逢えた(幸運)への歓喜が主であるわけなので。

 やはりそのメンタリティは根本的に、人間諸種族(ヒューマノイド型類)のそれと相容れるものでは無いのであった……。


「JAZAZAZA!!」


 と、不意にそこへ耳障りな喊声(かんせい)が響き渡る。


 指呼(しこ)の間と言うべき距離(近さ)に。一斉に駆け寄って(乱入しようとして)来ている小鬼(ゴブリン)大小鬼(ホブゴブリン)たちの姿が在った!


ここ(・・)で来るにゃ!?」


 見事に虚を突かれた状況に、驚きの声を上げる騎士ターニャ。


 砂塵の煙幕に紛れて、静かに忍び寄って来ていたとは!? と言う、まさかの戦術行動(?)には。

 流石に戦闘中とは言えども、別な意味での驚きを抱かされずにはおれない。


 その挙動への注視は一瞬たりとも途切れさせられぬ相手(脅威)である、闘鬼(オーガ)覇者(ロード)との対峙を続ける中で。

 見上げる巨躯が故に、こちらの(視線)も必然的に上向きとならざるを得なくなっていたわけだが。


 まさにその足下側(そうして生じる死角)から、頭目(親分)のその巨躯を盾にする格好でまんまと忍び寄って来ていたのだから!


小鬼(ゴブリン)どもに、そんな行動が!?)


 と言うまさかへの驚愕も、無理からぬものではあったのだ。


「引き受けます!」


 とは言え、それにも瞬時に対応し(即座に切り換えて)下館三曹(ニーナ)は先陣を切って迎撃に(前へと)駆け出す。


 闘鬼(オーガ)覇者(ロード)を相手とするには、流石に威力(ちから)不足だ(回避に徹する分にはともかく、反撃が有効打には成るまい)と言う事で。

 不本意ながらも悠斗(小隊長)任せとなってしまっていた、前衛としての働きを。


 にわかに求められる格好となった局面に勇躍し、先頭に立つ大小鬼(ホブゴブリン)向かって(逆に仕掛けて)行く。


「JARAZA!!」


 咆吼と共に振り下ろされる金砕棒を、横手に回り込みつつ躱して。

 がら空きになった眼前の胴体(ボディ)へ、右手に構える機関拳銃(マシンピストル)〔ベレッタ93R〕の三連発砲(バースト射撃)を叩き込む!


「GAGU!!」


 カウンターで食らった痛撃に苦悶の呻き(こえ)を上げ、一歩を後退する大小鬼(ホブゴブリン)へ。

 更なる追撃を……と言う、その背を狙って躍りかかって来る小鬼(ゴブリン)には――身体を瞬転させて空振らせ、左手のファイティングナイフによるカウンターの斬撃で叩き落とす。


 最初の奇襲(火炎魔術)で、戦闘帽(キャップ)と共に(もろとも)髪留めも飛ばされ解けた赤髪を振り乱して(炎の如く舞わせて)戦う彼女(ニーナ)動き(戦闘挙動)も。

 常にも増しての猛々しさと洗練を発揮していたのは。眼前にしていた闘鬼(オーガ)覇者(ロード)に対する悠斗(小隊長)の凄まじい攻防(闘いぶり)に、あてられていたのは間違いない。


 そして同様に阻止列を形成すべく前へと駆けた姫騎士主従(フィオナたち)の剣技と、新治(にいはり)浩輔(こうすけ)三曹の銃剣格闘も。

 その点では全く同様だった。


 下館三曹(ニーナ)に続いて各々(それぞれ)が、相手と定めた小鬼(ゴブリン)種たちの前へと立ちはだかっての近接(白兵)戦に入って行くが。

 やはりその動きはいつも以上の勢いと鋭さを発揮して圧倒し、或いは見事に翻弄していた。


 だが、そうして奇襲の(不意討ちする)勢いも完全に止められた(弾き返される)格好となりながらも――。


「ッ!? コイツら……今までと、違う(・・)!」


 小銃の台尻(ストック)で横っ面を強かに打ち据え、転倒させた小鬼(ゴブリン)が。

 にもかかわらず平然と立ち上がって来る姿に、新治三曹が警戒(注意喚起)の声を上げる。


 実際、痛打によって左の下顎骨を砕かれて。頭部(あたま)の輪郭を凄惨な形に歪ませていると言うのに。

 常ならば怯みを(もう及び腰に)見せる(となっている)筈なそこで、しかし(何故だか)そんな様子も皆無なままその目を異様にギラつかせ。


 なおも旺盛な害意を示し(保持し)続ける小鬼(ゴブリン)種たちと言うのは、実に(なんとも)異様であった。


(これは……!? 何か(・・)ある!)


 連中の性質と言うものを熟知する、姫騎士主従(フィオナたち)は元より。

 彼女らからレクチャーされた情報を現場で(実戦を通じて)実感(確認)〟して来た結城小隊(自衛官たち)も、揃ってそう直感させられていた。


 いくら上位(ボス)に怖ろしい存在(超上位種)が居り、背中から銃口(全体主義国家の「)を向ける様に(督戦隊」よろしく)強いて来ている様な状況であるとしても。


 臆病で利己的な、小鬼(ゴブリン)と言う種族(生き物)の〝その性質(在りよう)〟に照らすならば。

 およそ有り得ない様な状況をもたらすものは――。


 闘いつつの推論は同じ処へ帰結して、各自がそれぞれに視線(意識)を向けるその先に居たのは。

 手にする魔杖(ワンド)の先をこちらへ向けて、明らかに何かしらの術を放って(行使して)いる様子な小鬼(ゴブリン)邪神官(プリースト)の姿。


 それを目にして、術者(魔法使い)としての知識から思い当たった事に姫騎士主従(フィオナたち)は揃って声を上げる。


「〈集団凶熱化(ファナティクス)〉の邪法!?」


 その言葉(物言い)だけで、結城小隊側(自衛官たち)にも。

 詳細は判らずとも、これまた厄介そうな代物(もの)らしいと言うのは伝わったし。


 また実際に激突して(交戦へと入って)いれば、肌感覚でも如実に(たちどころに)理解出来たわけだが。


 今こうして相手にしている小鬼(ゴブリン)種たちの姿は。

 先立つ難破船内での攻防(制圧戦)で騎士ターニャを危うくした、小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)姿(それ)――〝狂乱化(バーサーク)〟なるその状態を想わせる(に類似している)と。


 人間(ヒト)にも決して無縁では無い、「群集心理から生じる集団狂気」と言うものを。術者が恣意的に火を付け、増幅もさせる邪悪な魔術なのだが。

 ヒト型類(ヒューマノイド)全般に比較すれば遙かに意思力も弱い小鬼(ゴブリン)種などは、まさに格好の対象であるかもしれない。


 人間(ヒト)で言うところの、所謂「死兵」と言うやつを連想させる状態になってはいるわけだけれども。


 小鬼(ゴブリン)種のそれは、欲望のみの増幅(への純化)と狂奔によるものであるという辺りが。

 ヒト型類(ヒューマノイド)全般と、亜人種という双方(存在同士)の。決定的な相容れなさという辺りを、端的に証するものともなっていたのであった。


 とは言え、その動機(性質)がどうであれ。常とは異なり、手痛く傷を負わされようとも怯懦(きょうだ)忘れて(・・・)

 ただただ己が衝動(の下劣な欲望)を満たさんと、遮二(しゃに)無二(むに)に挑み掛かって来る小鬼(ゴブリン)たちの姿は。


 それこそ、ホラーゲームの活性死者(ゾンビたち)の類を相手にしている様な気分(もの)だろうか?

 ホブへの兆しも見受けられない、普通(ただ)小鬼(ゴブリン)でさえもが。間違いなく厄介な(てこずる)(相手)と成っていた。


 普段以上(常にも増して)のキレを発揮している技量(戦闘技術)と、使用する武器でも優越している(構図)なのにも関わらず。

 腕利き揃いの前衛組が、ここでは押し切る事が(圧倒する事までは)出来ずにいたのも、それが故にであったのだ。


 奇襲(不意討ち)での乱入こそは、前衛列で阻止した(受け止めた)と言える格好ながら――。

 逆に一方では、そこへ膠着(戦線)を生じさせられてしまっている状況であるとも見える。


 対闘鬼(オーガ)覇者(ロード)の為の、最強駒(切り札)として。

 前衛組の他の面々からは、阿吽(あうん)の呼吸で一段後ろに残置(温存)される格好となっていた悠斗は。


敵の(向こうの)意図(狙い)は……、何だ?)


 背後に散開する宍戸准尉率いる後衛組(小隊本体)の面々と共に(同じく)。戦況を俯瞰しようとしながら、その頭脳を働かせている。


 小鬼(ゴブリン)種たちが発揮している意外さ(しぶとさ)、それ自体も無論ながら。

 その一方で、かの闘鬼(オーガ)覇者(ロード)が見せていた姿勢(言動)に照らせば(から考えれば)

 攻防(お愉しみ)の途上での乱入(割り込み)を仕掛けるなどと言うのは、御頭(ボス)の獲物の横盗りを図る行為(真似)だと見なされるべき不埒(もの)ではないか?


(であるにも関わらず、当のヤツがそれを咎め(押し留め)ようともしていないと言う事は……)


戦い方(・・・)、それ自体を変えたと言う事か!?」


 その可能性に思い至って、再び見上げた(意識を向けた)先で――。

 仁王立ちする闘鬼(オーガ)覇者(ロード)が、その両腕を天へ向けて万歳する格好に振り上げていた。


 気付いたか? とでも言いたげに、その凶相を害意の愉悦で更に歪ませて――。


「デハ、我モ本気デ行クゾ? 〈収束獄炎(コンバージェント)爆裂破球(・フレア・ボムズ)〉!」


 そう言い放つや、天を向いた両掌の先から火炎放射器も真っ青な勢いで、劫火(ごうか)が天高く噴き上がり始めた。


 闘鬼(オーガ)覇者(ロード)両の(ふたつの)腕を振り上げて喚ぶ、猛烈な火炎流は。

 その頭上高くで二筋が互いに衝突し(ぶつかり合い)、みるみる内に炎の球塊(かたまり)を形作って行く。


 まるで極小の恒星(太陽)が出現したかの如き、燃え立つ紅蓮の大火球。

 圧縮される火力の凄まじさを誇示する様に、その表面には紅炎(プロミネンス)を思わせる炎の蛇たちが乱舞している。


 火炎魔術の極大級(見るからに危険な代物)

 開戦劈頭(戦いの初手として)食らわされかけた〈爆裂魔炎球(フレア・ボム)〉の魔術さえもが、児戯(じぎ)見える(思えた)……。


(あれを放たれたら、今度こそ終わりだ!)


 姫騎士主従(フィオナたち)の様に、魔術の使い手として術名(の知識)と、魔素(マナ)流動量(動きの激しさ)を感じる(から察する)事は出来ずとも。

 自衛官たち(結城小隊の面々)も、歴戦の肌感覚(・・・)でその危険さ(ヤバさ)は感じ取っている。


岩瀬二曹(〔ホープ〕)!」

「はい!」


 懸命に妨害を試みようと、小田林(おだばやし)瑤子(ようこ)一曹と岩瀬(いわせ)ナタリア二曹の両女性隊員(WAVE)が後列から。

 十字砲火(クロスファイア)で〔10(ひとまる)式小銃(改)〕によるフルオート射撃を浴びせかけるが、それらも悉く火花を散らして弾かれて行く。


「フハハハッ! 効カヌワ!」


 余裕を見せつけるかの様な声で嘲笑(わら)闘鬼(オーガ)覇者(ロード)


 先程までなら機能はして(牽制以上にはなって)いた筈の小銃射撃が、一転して無効化されて。

 同時に白兵戦が展開中な戦線が相互の間に形作られた事で、それが闘鬼(オーガ)覇者(ロード)の前に立ち塞がる()として機能する構図となって。


 再び悠斗に肉迫されて、開眼した(ご自慢の)強力な魔術を使う余裕が与えられぬ窮屈な接近戦(一騎打ち)を強いられる(へと引きずり込まれる)と言う芽も、潰されている。


 ここまでの戦闘(たたかい)展開(・・)を踏まえれば。

 こちら側が流れ(主導権)を握る事が出来ていた要素(強み)を悉く、綺麗に覆されていた(手当てされた格好だ)


 押して来るその力の、単純な()だけでも著しい脅威であると言うのに。

 真に怖るべきは、こうして相手(こちら)戦術(強み)理解して(的確に見抜き)合わせて(修正して)来るその知性に(クレバーさ)こそであったのだ!


 一挙に闘いの主導権(ながれ)を奪い取られた格好の中、それでも結城小隊(自衛官たち)姫騎士主従(フィオナたち)は。


 眼前で振り上げられようとしている死神の鎌を躱し、逆撃に転ずる糸口を再び手繰り寄せんと。

 誰一人として闘志を揺るがす(その気持ちを切らす)事無く、全力で向き合い続けていた。


(狙うとすれば……)


 そう各自が脳裏に浮かべていたのは、間もなく生じる筈な(であろう)敵側の動き――。

 爆縮(チャージ)中の極大火炎魔術が放たれる、その直前に。こちらの前衛組を拘束(足止め)させている小鬼(ゴブリン)種たちを、下がらせようとする筈だ。


 それに付け込む形で、一斉に闘鬼(オーガ)覇者(ロード)の足下へ向けて肉迫し。そこでの乱戦状態に持ち込む事で、逆に術を封じさせる(放てなくする)


 そう各自が(それぞれに)算段を、同じ処へ帰結させるに至ったが――

 次の瞬間には、根本的に(そもそも的な)考え違いをしていた事に気付かされる。


(違う! 小鬼達(ヤツら)は〝ただの消耗品(端から捨て駒)〟だ!)

 

 最初(はじめ)から小鬼(ゴブリン)種たちは、こちら諸共に焼き払っても構わない存在(雑兵)としか見なしていないのだと。

 見上げる闘鬼(オーガ)覇者(ロード)のその表情が、全てを物語っていた。


「〈集団凶熱化(ファナティクス)〉の邪法は、その為(・・・)に!」


 姫騎士主従(フィオナたち)が、呻く様に声を上げる。

 逃げない様に! と言う〝その意味〟自体が、元より(根本からして)違っていたのだ!


 邪法で或る種の狂兵(・・)と化させられ、己が生命(いのち)も顧みぬ(の事も忘れた)肉盾として、利用される(ただ使い潰される)のみ……。

 人間(ヒト)の感覚ではとても(からはおよそかけ離れ)考えられぬ(たものと言うしか無い)最低(悪魔的)発想(やり口)〟だと、慄然(りつぜん)とさせられるしか無かった。


 とは言え、懸命に対峙している(抗おうとし続ける)その最中でもある。


「ならッ!」


 鶴翼形に広がる後列組の、最左翼に立つ川島(かわしま)(トール)二曹が。

 自身の小銃(ライフル)の筒先を小鬼(ゴブリン)邪神官(プリースト)に振り向け、発砲する。


 本来であれば盾役を務めるのであろう、左右に控えていた(ホブ)小鬼(ゴブリン)までも。小鬼(ゴブリン)たちと共に〈集団凶熱化(ファナティクス)〉をかけて前進させてしまった事で。

 今や孤立する格好となっている、術者(繰り手)を潰せば? と言う判断だ。


 その立ち位置と、小隊一の巨漢ならではの上背の高さが相まって。交戦中の前列組の頭越しに確保できた射線を逃さず、一気に鉛弾を浴びせかけた。


 指切りの連続発砲(フルオート)で放たれた5発の6.8ミリ小銃(ライフル)弾は、あやまたず直撃弾(必殺の一撃)となるコースを飛翔する。

 じっと目を閉じ、術式の維持に集中する構えでいる小鬼(ゴブリン)邪神官(プリースト)には避けようもない――その筈だった。


「何ッ!?」


 だが、その身を捉える筈の弾丸を。不意に出現した光の防盾(かべ)が阻む!

 小鬼(ゴブリン)邪神官(プリースト)が左腕に着けている腕輪、そこにはめ込まれた宝玉がまばゆい輝きを発していた。


「魔導具で〈障壁(バリア)〉の魔術を!?」


 シルヴィアが小鬼(ゴブリン)たちと斬り結びながら上げた声で、結城小隊(自衛官たち)端的(とっさ)に状況を理解する。


 フィオナ候女(ひめ)宝剣(愛剣)と対照を成すかの様な、「護りの魔導具」も存在すると言う事だ。

 目にした感じから、受けた攻撃に対して自動(オート)で〈障壁(バリア)〉の魔術を立ち上げる(発動させる)装身具(・・・)と見えるが。


(だから、直衛である筈の(ホブ)小鬼(ゴブリン)小鬼(ゴブリン)たちを。残さずこちらへの対処(捨て駒)使い切って(差し向けて)しまえたのか!)


 そう遅ればせながら納得させられるしかないが。だからと言って、それでもうお手上げだとは行かない。


「それならッ!」


 と、稲田(いなだ)昌幸(まさゆき)海曹長(かいそうちょう)が、小銃(ライフル)を斜め上に向けて構える。

 直射の銃弾が魔術の防盾(かべ)に阻まれるのならば、曲射する擲弾(グレネード)で。その頭越しの攻撃を企図してのものだ。


 おあつらえ向きに真後ろに在る岩塊を狙い、擲弾(グレネード)をそこで跳ね返させる事により。小鬼(ゴブリン)邪神官(プリースト)の背後から、間近で炸裂させる事を意図する射法。

 だが、彼が銃身下(アドオン型)擲弾発射器(グレネードランチャー)引き金(トリガー)へ指を掛けた瞬間に――。


海曹長(〔クール〕)!」


 小隊内秘匿名(コードネーム)で呼びかける形で、悠斗(小隊長)からの「待て!」が掛かった。


小隊長(〔エース〕)!?)


 単なる制止ではなく、アイコンタクトで「目標を変えよ(〝あれ〟に撃ち込め)!」と言う、咄嗟の指示が来たのだったが。

 流石に歴戦の彼(の稲田海曹長)でも、刹那の当惑が生じる(戸惑いを覚える)のは避け得なかった。


 何故なら、新たな目標として指示されたのは――

 闘鬼(オーガ)覇者(ロード)がその頭上で爆縮(チャージ)中の、魔術による爆炎球であったからだ。


 肌感覚でも判る(感じる)、それが秘めているであろう破壊力(エネルギー)に対しては蟷螂の斧(焼け石に水)と言うものでは?

 必然、思考(あたま)ではそう思ってしまうが。


 しかしこれまでの歴戦の中で(付き合いを通じて)もはや確信になっている、尋常ならざる二尉(小隊長)勝負勘(戦闘感覚)が導く閃き(指示)に。

 海曹長の身体の方は一瞬の躊躇いもなく、即座に従って(その通り)動いていた。


 闘鬼(オーガ)覇者(ロード)がその頭上に浮かべる魔炎の球塊(かたまり)へ。

 仰角を更に増しつつ振り向けられた発射器(ランチャー)から、乾いた破裂音と共に撃ち出されたグレネードが飛び込み、その中で爆ぜた(炸裂する)


 一瞬だけ、ほんの僅か全体が膨張した以外(ほか)には何も。特段の変化が生じた様には見えなかった爆炎球だったが――


「ムウ……ッ!?」


 まず(真っ先に)驚きの声を上げたのは、当の闘鬼(オーガ)覇者(ロード)だった。

 魔術を生成・維持(コントロール)する感覚(パス)突如途絶し(不意に断ち切られ)、そのまま制御不能に瞬転したからだ!


 爆縮(チャージ)を終え、いざ投射せんと後方へ引き(テイクバック)をかけていた疑似の(地上に生ぜし)恒星(ほし)は。

 自身を宙空に留める(浮かせ続ける)術力(ちから)を喪った(が消えた)事で、そのまま重力の見えざる手に引かれて墜ちる(落下する)――。


 邪術に集中し続けている小鬼(ゴブリン)邪神官(プリースト)をその頭上から、魔導具による〈障壁(バリア)〉の防盾(魔術)ごと圧し潰す様に呑み込んで。

 秘めていたその破壊力(膨大な熱量)が一気に解放された!


「バッ、馬鹿ナアッ……!」


 瞬時に周囲が炎の色で染まり(塗り潰され)闘鬼(オーガ)覇者(ロード)の巨体も生じた膨大な火柱の中へ呑まれて消える。


 人間(小さき者)どもを焼き尽くす筈だった爆熱は、逆にその牙を術者(かれ)らへと向け爆ぜた(炸裂した)


「ぐ……うッ!」


 おそるべき火炎魔術の破壊力(エネルギー)は柱状に、眼前(その場)で噴火が始まったのか!? と思わず錯覚しそうな勢いで真上へ向かって噴き上がり。

 直接的な危害半径からは僅かに(ギリギリ)免れてこそいても、当然その余波だけでも充分に殺人級(・・・)代物(もの)で。


 特に距離がより近い前衛組は、危ない処であった。


 姫騎士(フィオナ)主従は全力で展開する自らの「魔繰」を緩衝材(クッション)として軽減の上で、鍛えられた心身の力でやり過ごし。

 同時に騎士主従がそれぞれ回して(分け与えて)くれる分の「魔繰」の他にはそうした手立てを持たない両三曹も、とっさに相手取っていた大小鬼(ホブゴブリン)の体躯を盾にする格好で身を伏せて、どうにか軽微な熱傷程度で凌ぎきる。


 乱戦状態になってはいても、各自が決して闘鬼(オーガ)覇者(ロード)に背を向ける格好とはならぬ様に。

 常に小鬼(ゴブリン)種たちを間に挟む位置取りを徹底し続けていた事が、別な形でも活きた格好だったが。


 逆に無防備で背中側から余波を浴びた(熱風に灼かれる)小鬼(ゴブリン)種たちは、助かりようが無かった。

 苦鳴(断末魔)すら上げられずに立像と化した二体の大小鬼(ホブゴブリン)を残して。糸の切れた人形が如く、焼けただれた小鬼(ゴブリン)たちがその場に次々と倒れて行く。


 そのままでは〝間に合わない〟と判断(直感)して。

 闘鬼(オーガ)覇者(ロード)魔術(術式)そのものを揺さぶる(・・・・)事で、逆に利用する(反撃に換える)と言う――悠斗の超人的な(尋常ならざる)戦闘感覚(コンバットセンス)が導いた状況だった。


 見上げれば、天蓋となっている比較的薄い岩盤を溶融蒸発させている(にも破口を穿っている)ほどの火力。


 ライブで戦闘状況をモニターしている後方(指揮所)からの緊急要請で、近接航空支援の為にこちらへ急行中の筈な海保の〔ゼーアドラー〕からは。

 断崖際の森林の中で、突如の噴火が起こったかの様に遠望されているかもしれない。


 流石にもう天蓋までは届かない程度にその勢いを減じては来たものの、未だ燃えさかっている極大火柱を前に。

 あのままこれを食らわされていたら……と言う慄然を、誰もが禁じ得なかった。


(この劫火の中では、流石に闘鬼覇者(あの巨鬼)も……)


 そう思ったとて、無理からぬ状況には見えていたのだが――。

 所謂〝お約束(フラグ)〟と言うものは、やはり存在する様であった。


「コ、コノ覇者(ロード)タル(ワレ)ヲ! ミクビルデ無イワアッ!」


 激しく立ち上る劫炎柱を両腕で割り裂く様にして遠ざけ(振り散らし)て、咆吼する闘鬼(オーガ)覇者(ロード)が再びその姿を現した。

 全身が紅に灼熱して(焼けて焦げつき)、各所から立ち上る煙がまとわり付いているものの、大した火傷は負っていない様子に見える。


(自らの「魔繰」による軽減(魔術防御)と。それをも突き抜けて来る熱炎は、ご自慢の生体装甲(〈アイアンクラッド〉)で凌いだと言う事か?)


 大まかに察して、誰もが(化け物め……!)と言う呆れ(感覚)を覚えさせられるしか無かった。


「クハハハハッ! 流石ニ驚カサレタゾ? マサカ、術式ソノモノヲ(・・・・・)突キ、見事崩シテミセルトハナ!」


 術者として、何が起きたのか? については即座に把握(理解)し。

 言外に賞賛の念もまぶされた驚きを露わにする(率直に示してみせる)闘鬼(オーガ)覇者(ロード)だが。


 とは言えそれも。「シテ、ココカラ先ハドウスル?」と揶揄を示す為の、前振り(フレーバー)の枠を出ない。


 予測を遙かに凌ぐレベルで、ここまで抗って見せ続けている事実そのものは認めても。

 所詮は足掻きの域を超えるものでは無いなと、見切っているぞ? と言う事だった。


「ウム、大イ(想像以上)(タノ)シマセテ貰ッタ! トハ言エ、流石ニ頃合ダナ? ソロソロ幕引キトシヨウゾ!」


 ニタリと凶相を更に歪ませて言い、闘鬼(オーガ)覇者(ロード)は重々しく前へと踏み出す。


「ヤハリ魔術(ジュツ)ナドデハ無ク、手ズカラ直ニ屠ル(仕留メル)事コソ王道(・・)ヨナ!」


 改めての確信(想い)を強めながら進む彼に向かって、再び正面から相対さんと。案の定、若いの(蒼斑服の頭目)が出て来る。

 右手には変わらずあの弯刀(業物)を、得物として引っ提げているが――対してその左手は、石塊(いしくれ)大の〝何か〟を握り込んでいた。


(アレハ……、先程(・・)ノ?)


 察するに、仕切り直してからの戦闘再開となっての初手で弾き返してやった手投げ爆弾を再び(もう一度)! と言う事か?


(ククッ! サシモノ奴メモ、流石ニ万事休スダナ(手立テガ尽キタカ)!)


 そう理解して(・・・・)闘鬼(オーガ)覇者(ロード)は憐れみまじりの喜悦を覚える。


 定まった(眼前に迫る)絶望を、なお受け入れられず。

 無駄だと判っている筈の抗い手に、それでも縋るよりか他に無くなっての足掻きを見せる獲物の無様(哀れ)な姿を目にする事こそが。

 絶対強者として闘う(狩る)、その何よりの愉悦(だいごみ)であるのだから。


 故に彼は傲然(ごうぜん)と胸を反らし、敢えてそれを真っ向から受けてやる(・・・・・)


「フン! イイダロウ、ヤッテミルガイイ! ダガ、ソレガ徒労ニ終ワッタ時ガ、キサマラノ最期ダ!」


 最後の一手(あがき)徒労(無駄)に終わり、淡々としていたその表情(かお)がどの様に歪むのか? 見てやろう。


 すっかり(もはや完全に)そんなつもりで居た闘鬼(オーガ)覇者(ロード)の眼前で。

 何やら呪文めいた叫び(こえ)と共に投擲されて来た(投げ上げられた)、左手からの爆裂弾が炸裂(弾ける)――。


 その瞬間、彼の意識は飛んだ(・・・)……!

本話での結城小隊各員間での呼び合いが、これまで(この章の途中まで)の様な

役職や階級(一曹以下は各複数名なので個人名+階級に)、愛称呼びでは無くなり

小隊内秘匿名(コードネーム)の使用へと完全に切り替わっているのは。


それだけ彼らにとっても余裕は無い状態で戦っていると言う状況を示すものになります。


ここでの場合は、もちろん個人名の秘匿を目的にしての使用では無く、

必要最小限の短音節で個識別と意思疎通(コンタクト)をし合える様にする為ですね。


※「第一部・前段」完結話となります⑦は、今宵に更新します。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 生体装甲、金属化とは魔法の力を思い知らされることですね。単なる硬い金属より筋肉に沿わせた柔軟性を持たせた金属とは死体を採取して調べるようにはしたいでしょうね。 小型のゴブリンへ…
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