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鬼退治は害獣駆除枠で③

お待たせ致しました!


前話を前振りにして、いよいよ斬り込みを仕掛けての船内を舞台に

制圧の為のクローズド・コンバットが展開して行きます!


軍用銃も混じっては来ますが(苦笑)、

それでも「剣と魔法」のファンタジー世界〝らしさ〟が

ようやく飛び交う攻防の展開には、なっているかと|ω・)

 小鬼(ゴブリン)たちにとっては、まさに災厄の日であった……。


 調達行に向かった一群(連中)が。1体だけ、這々(ほうほう)(てい)になって戻って来たかと思えば。

 何があったのか? 問い質す事もままならぬ内に、「曲者(BUGERON)!」を告げる見張りの叫びが上がり――。


 それを遮る聞き慣れない破裂音が聞こえたと思ったら、直後に見張り(そいつ)の身体が格子蓋をぶち破って落ちて来て、そのまま床板へめり込んだ。


 流石に理解が追い付かず、唖然とさせられている内に。また何やら別な破裂音が、立て続けに聞こえて来だして。

 そうしたら、壊れた天井の格子蓋から奇妙な石塊(・・・・・)が幾つも飛び込んで来る――そして転がったそれらから、次々と激しい煙が吹き上がり始めたのだ!


オノレッ!(GOBOSE!!)


 とっさの判断で、小鬼(ゴブリン)邪術師(コンジャラー)は自身の眼前へ〈障壁(バリア)〉の魔術を展開し。

 四隅が船体に密着する光壁状に展開させたそれが遮断する、船尾側の空間内に在った自身と。猛者(サベージ)はじめ周囲の手下どもは、どうにか煙に巻かれる事なく逃れる事が出来てはいたものの。


 その防壁の向こう側に居た連中はことごとくそんな煙攻めの渦中に飲み込まれ、見えなくなって行った……。


 悲鳴の聞こえ方からして、そいつらも恐慌状態でどうにか外へと飛び出して行った様だったが、そちらで待ち構えていた謎の敵(攻め手)と遭遇したらしく。

 憤怒の咆吼を上げて掛かって行く喊声(こえ)が幾度も聞こえ――。


 しかし一番最初(はじめ)に聞こえたのと同種の破裂音が響いては、それが絶鳴に変わると言うのが繰り返されていた。


 〈障壁(バリア)〉の魔術と船体が形作る「結界(安全空間)」の中で。

 それによって煙攻めから守られていたが、その代わりに外の様子も目で確認する事が出来ないと言う、痛し痒しな状態にもなってしまっていた彼らの中で。


 集団(群れ)の頭脳と言う意味での頭目(リーダー)格である、小鬼(ゴブリン)邪術師(コンジャラー)は。

 〈障壁(バリア)〉の魔術を展開(維持)させ続けながら、必死にその思考を巡らせて。


 自身の魔術による防壁の向こう側を埋め尽くす煙が、ようやく薄れ始め出した頃には。

 ひとまずこのまま様子を窺う構えでいるべきだと言う結論に達し、それを周りの小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)らにも伝えていた。


 むろんの事、彼なりに根拠の有る判断ではあった。


 得体の知れない敵勢(攻め手)は、どうやら未知の魔導具か何かであろうか? 奇っ怪な手妻を使って来る相手の様だが。

 こうして火攻め(と言うよりは、煙攻めか?)を仕掛けて、こちらを(いぶ)り出そうとして来た辺りから察するに。


 流石にこの船体を、直に破砕できるだけの術力(ちから)を持った術者(魔法使い)だと言うわけでは無いのだろう。

 もしそうであるならば――わざわざこんな回りくどいやり方で仕掛けて来たりせずに、攻撃魔術を直接に(そのまま)撃ち込んで来ればいいだけなのだから。


 であるならば、このまま船体を盾に籠城の構えでいるのが良い。

 船内(この中)へは一度に限られた数でしか降りては来られないし、そうであれば猛者(サベージ)の奴が片付けてくれる。


 もし再度の煙攻めがあったとしても、〈障壁(バリア)〉の魔術でしのげる事はもう判っている(・・・・・)わけだし。

 それでもいよいよとなれば……。業腹だ(後が怖ろしい)が、敵が攻め寄せて来ている反対側――〝聖域(あちら)〟の方へ逃れるしかあるまい……。


 小鬼(ゴブリン)邪術士(コンジャラー)としては、そう算段を巡らしていたわけだったが。

 残念ながら彼なりのそんな目算など、今度の相手は軽く上回っていたのだ。


 その途上と直下に雑兵(ゴブリン)どもを潜ませた船首側の階段を、石塊らしきものが転げ落ちて来る。

 床板上に落ちて転がったそれ(・・)は、明らかに人工物!


 いつの間に、上の甲板へだと(頭上を取られていた)!? と言う事実そのものに対しては、驚きを覚えさせられつつも。


(マタシテモノ、煙筒攻メカ!)


 と、ちぐはぐ(馬鹿の一つ覚え)なその手口の安直さを、皆で内心せせら笑って。

 再び放り込まれて来た〝石塊(煙筒)〟が、煙を吹き出し始めるその瞬間を見逃すまいと。その場の小鬼(ゴブリン)たちは上から下まで、揃ってそれ(・・)へと目を向けていた。


 先程はまんまとやられたが。流石に二度目となれば、もう対処法は判っている。


 それが煙を噴き出し始めたら、再び〈障壁(バリア)〉を展開させて。今度はその付近で、余裕をもって遮断させるだけよ!

 と言う構えな小鬼(ゴブリン)邪術士(コンジャラー)は、魔術を即座に発動させられるようにする為の備えに(意識の集中に)入り。


 そして猛者(サベージ)以下の小鬼(ゴブリン)大小鬼(ホブゴブリン)たちもまた。

 邪術士(コンジャラー)が魔術を発動させる前に、安全地帯へ(その防壁内に)駆け込まねば! と言う意識でいた為に。


 誰も彼もが揃って、新たに放り込まれて来たブツの事を注視していた。

 それ自体が敵の術中へと、自ら嵌まりに行くものであるとも知らずに……。


 そこに生じたのは、再び吹き出す煙などではなく――猛烈な閃光と爆轟音の炸裂であった!


 想像だにしなかった未知なる衝撃に襲われ、瞬時に放心状態へ陥った彼らの前へ。

 終焉(おわり)は、ヒト(人間ども)の姿をまとって舞い降りる。


 直接的な殺傷力はほとんど持たない代わりに、猛烈な閃光と爆轟音を発生させて相手の耳目を奪い(「特殊感覚」を直撃し)、瞬間的に麻痺(硬直)させる音響閃光手榴弾(スタングレネード)


 そんな未知なる(備えもしていない)攻撃をまともに受けてしまった、階段の中程とその直下にいた小鬼(ゴブリン)たちはことごとく無力化され。

 そこへと突入して(チャージをかけて)来た敵の侵入に対して何も出来ぬまま、むざむざと斬り込みを許す結果になっていた。


 同様に音響閃光手榴弾(スタングレネード)による痛打からは逃れえなかったものの、その炸裂地点からはやや距離があった為に。

 奥側に居た小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)らの一団は、それによる打撃もまだ限定的なもので済んでおり、どうにかそこから立て直そうとするが。


 しかし既に彼らの眼前では、そこにいた連中が侵入者共によって一方的に刈り立てられている、その真っ最中であった。


 ようやく戻って来つつある視界に映し出される、不愉快極まりない状況(現実)に。

 憤怒の咆吼(こえ)を上げ、得物を手にそちらへ乱入しようと駆け始める小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)以下の一団へ。


 都合6匹の敵勢(侵入者共)の中から獣人(テイルス)の猫族の牝が単独で突出し、逆に機先を制しに来て――。

 かくして下甲板の空間(〝広間〟)内は、その全体が激しい闘争の坩堝(舞台)と化したのだった。



 自ら斬り込み役となって、フネの階段を駆け下りる結城(ゆうき)悠斗(はると)二尉は。

 その中段で悶絶している小鬼(ゴブリン)を蹴り落とし、そいつを肉盾代わりにする様な格好で階下(下甲板)へとなだれ込んだ。


 音響閃光手榴弾(スタングレネード)による制圧が、奏功している証であろう。

 そこ(階段下)で待ち受けていた小鬼(ゴブリン)どもが、頭から落ちて逝った肉盾(小鬼)へと我先に剣や手槍の切っ先を突き立てに来る様な事も無く。


 同じく痙攣(けいれん)して棒立ちになっているそれらの小鬼(ゴブリン)どもを、一閃させた愛刀(〔骨喰〕)一薙ぎに(まとめて)首を飛ばすと。

 悠斗はそのまま、手近の大小鬼(ホブゴブリン)(ほふ)りにかかる。


 そうする間に続けてなだれ込んで来た下館(しもだて)ニーナ、新治(にいはり)浩輔(こうすけ)の両三曹と。フィオナ候女(ひめ)にシルヴィアとターニャの騎士主従も散開して。

 各自がそれぞれ、手近な小鬼(ゴブリン)たちから始末し始めた――。


 いや、その中でターニャだけは階段下(その場)で足を止めずに。

 怒髪天な状態で奥から加勢に来ようとしている、小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)以下の機先を制すべく。


 先鋒の悠斗によって斬り開かれた〝隙間(みち)〟を。

 既に〈身体能力(インクリーズフィジ)増幅強化(カルアトリビュート)〉の魔術で底上げ(ブースト)済みな、敏捷さを発揮しつつ駆ける。


 疾風の如く小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)に肉迫し、それと交錯したターニャの長短双剣(バゼラード)が。

 いずれも浅くはあるが、その身体へ確かな斬り傷を刻んだ。


「GIDEGEJOJO!」


 立て続けにその身へ受けた斬撃(苦痛)が、小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)に更なる逆上の咆吼を上げさせ。

 取り付く小癪な羽虫(ターニャ)を追い払おうと、小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)は手にする戦鎚を大きく振り回して暴れ狂う。


 根城たるこの場を預かる(・・・)者として、既に彼の面子(プライド)は元よりズタズタにされていたわけで。

 更には先程の音響閃光手榴弾(スタングレネード)による影響(ショック)がまだ残る中で、新たにその身へ物理的にも傷を付けられ。

 実際の肉体的な打撃としてならば軽微なものではあっても、それら一連の全てが積み重ねたダメージ(・・・・)は、まさに〝耐えがたい苦痛〟そのもの!


 故に、荒れ狂う小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)のその暴れっぷりも、文字通りに狂乱化(バーサーク)状態と呼べるもので。

 巨体の豪腕が生じさせる、まさに暴風となった戦槌がターニャの影を追い回して振るわれ続け。


 巻き込まれてはかなわないと、周囲の小鬼(ゴブリン)たちはもちろん、大小鬼(ホブゴブリン)でさえもが。

 距離を取って見守る格好になる事を余儀なくされて。結果、それらの動きも実質的に制約された、遊兵化を強いられる格好ともなっていた。


 流石に小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)ともなれば、もはや「小鬼」とはなんであろうか? と言うやつで。

 さしずめ虎やライオンをして「大きなネコ」と言うのにも類似する、もはや単なる種族系統分類上での呼称でしかなくなっているレベルのそれであるわけだったが。


 小鬼(ゴブリン)種とは言え、流石に闘鬼(オーガ)たちでさえも例外的に、一目を置く存在となっているのは。

 その体躯(ボディ)膂力(パワー)が、闘鬼(自分たち)にも匹敵する(遜色ない)レベルに至っていると言うのもさる事ながら、それ以上に。


 彼ら闘鬼(オーガ)でさえ、単体で相手取るには持て余す狂乱化(バーサーク)状態へと。

 容易(すぐ)に陥っては荒れ狂うと言う性質が、伴う様になって来るからであったりするのが大きいのだろう……とは目されている。


 そしてまさにそこが、攻める側である結城小隊と姫騎士主従の意図で。

 狙い通りに導いたそんな状況が、同時に小鬼(ゴブリン)邪術士(コンジャラー)封じ(への対策)を兼ねてもいたのだ。


 むろん邪術士(コンジャラー)の様な、魔術の使い手としての能力が発現した特異種タイプほどでは無いが。

 そこは上位種だけに小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)も。平常の状態であれば、そこそこには知能の方も伴って来る様にもなっているのだと言う(無論、あくまで小鬼(ゴブリン)種としては――の枠内(レベル上)での話だが)。


 故に、より狡知も働く様になっている邪術士(コンジャラー)の意を汲んで(と呼吸を合わせて)の連携などを仕掛けて来たりされると。

 その脅威度合いの方もまた、相乗効果的に跳ね上がる事になるわけだ。


 ……なのだが、ある意味では皮肉な事に。

 なまじ知能が上がった分だけ、猛者(サベージ)神経質(ナイーブに)と言うか、自らが受けた打撃(〝苦痛〟)に対しても過敏になってしまい。

 結果、すぐに狂乱化(バーサーク)状態へ陥っては暴走をするのだと言う。


 ただでさえ闘鬼(オーガ)級のその巨体と豪腕がそうなって来る事、それ自体の厄介さは無論であろうけれども。

 とは言え、単独でそれに対峙する様な状況である場合はともかく。群れの頭脳となる術士系の小鬼(上位個体)まで共に居る、今回の様な場合においては。


 逆に猛者(サベージ)ならではのそうした特性を狙って突き、あえて狂乱化(バーサーク)させる事で。

 異なる強みを持った上位種同士が連携するのを未然に潰し。


 かつ今回の様な閉所での激突であれば、尚のこと。

 乱戦状態に持ち込む事で、邪術士(コンジャラー)が攻撃魔術を放とうにも、その照準(狙い)を困難にさせる事も企図すると言う。


 実戦レベルで対亜人種駆除の経験を相応に有してもいる、フィオナ候女(ひめ)たちからの知見に基づいての(意見具申を踏まえての)実践(動き)であったのだ。


 右の舷側(壁際)へと、追い詰められた様に見えて――またもやひらりと身を躱して避けて行くターニャを追い切れず。

 小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)が振るった戦槌は、ただ虚しく舷側板(その場所)を盛大に破壊するだけに終わった。


 ど派手に生じた破口から船外が見え(明かりが差し込み)、よどむ臭気を吹き散らす潮風が一気に吹き込んで来る。

 そうして一挙に入射量が増した陽光で、ほんの僅か視界を奪われた様子な小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)の姿を観て。


 その死角へ踏み込もうと言う狙いで切り返す動きに移ったターニャの動きが、しかし突然(不意に)――

「にゃッ!?」


 驚きの声と共にガクンとつんのめって、急停止する。


(ッ!)


 見ると、彼女の右足先が床板に埋まっていた。

 床板が腐り痛んでいたその箇所を、運悪くもちょうど(ピンポイントに)踏み抜いてしまった様だった。


「くっ! こんにゃ……ッ!?」


 どうにか足を引き抜こうと、懸命にもがくターニャの眼前で。

 状況を理解したのか、いやらしい嗜虐(愉悦)の表情を浮かべつつゆっくりと。戦槌を背中側へ振りかぶる動きに入る小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)


「ターニャ!」


 末妹(・・)の窮地に、フィオナ候女(ひめ)とシルヴィアから上がる声に被せる様な格好で。

「ターニャさんっ!」


 そちらへと駆けつつ呼ばわりながら、新治三曹が指切りのバースト射撃で小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)小銃(ライフル)弾を叩き込む。


 四連発された6.8ミリ小銃(ライフル)弾はその全てが標的を捉え、小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)は着弾の衝撃で立て続けにその身を揺らすが――しかし、狂乱化(バーサーク)するその動きを押し留めるまでには至らない。


「〈赤魔光弾(ジリオーン)〉!」


 更にたたみかける様にシルヴィアが、右手のサーベルで宙を突く動作からの(モーションによる)攻撃魔術を放ち、小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)の横腹を(えぐ)った。

 収束された魔力の赤い光弾はそのまま流れ弾となって投射軸線上に立っていた別の小鬼(ゴブリン)を襲い、直撃を受けた頭部が跡形もなく消滅する(きれいに吹き飛んだ)


 端から見ても明らかな、相応の威力を秘めたその一撃ではあったが。

 惜しむらくは、とっさに放っていた事で照準(狙い)がやや乱れ(甘くなり)。残念ながら小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)の動きを止める直撃弾(までの有効打)とは成らなかったのだ。


 その巨体に負った相応の手傷(ダメージ)と、そこから溢れ出す青緑の血潮でその身を染め上げた凄惨な姿となっていながら。

 なお動きを鈍らせる事も無く狂気じみた愉悦を発散する、小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)の異様なしぶとさに。

 防げなかった最悪の結末が、否応なしに脳裏へ浮かぶ以外(ほか)に無い状況。


 しかし、そうした阻害の為に重ねられた努力が削り出していた僅かな時間は、決して無駄では無かった。


「GIBUZOGAGA!!」


 小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)が、いっぱいにテイクバックした戦槌を振り抜く動きへと移りかけたその刹那――

響いた鈍い音と共に、その頭部から日本刀の切っ先が生えていた(・・・・・)


 新治三曹とシルヴィアによる連続攻撃が、それぞれに稼いで(積み上げて)いた僅かな時間で。

 悠斗は手にする愛刀(〔骨喰〕)を逆手に持ちかえ、それを全身の撥条(ばね)小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)の頭部めがけ投擲(とうてき)したのだ。


 空気を切り裂く異音と共に飛んだ名刀は、その銘にあやまたず。

 強靱な小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)の頭蓋骨をも、易々と(あっさり)貫通してのけていた。


「GADOSADA……」


 いかな狂乱化(バーサーク)状態にあろうと、一撃で脳髄を破壊されては流石に強制停止を余儀なくされ。

 奇妙な絶鳴と共に小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)はその足元をふらつかせ、そして自らが生み出したばかりの舷側破口をその身体で更に押し広げ(拡大させ)つつ、船外へ消えて(転げ落ちて)行った……。


 圧倒的な強者である小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)が。

 文字通り一撃に仕留められる様を目の当たりにさせられて、あまりの驚愕に棒立ちとなるその場の小鬼(ゴブリン)たち。


 唖然とさせられた事では同じでも、攻め込んでいる両三曹と姫騎士主従の側は。

 ターニャが絶体絶命の窮地を脱した事への安堵を覚えつつも、〝戦闘モード〟にスイッチが入ったままの意識はその身体の動きを一切止めさせる事も無く。各自がそれぞれに状況への対応を続けていた。


 新治三曹はそのままターニャの下まで駆け寄ると、手にする小銃(ライフル)を下に向け、はまり込んだ足下の付近へ連続発砲。

 周りの床板を破砕して、力ずくでの脱出を可能と(アシスト)する。


 そのおかげでどうにか足を引き抜いたターニャは、その勢いで前へとつんのめりそうになり。

 それを新治三曹に受け止められて支えられる事で転倒を免れるが、そうして無防備に背を向ける格好となっている三曹(かれ)と、体勢が崩れたままなターニャ(かのじょ)に目を付けて。


 我にと返るや、そちらを襲おうと変針し駆け寄って来ている小鬼(ゴブリン)たちに向かって。

 新治三曹の背を追っていた悠斗が、させじとそちらへの横撃を仕掛けて行く。


 だが、さっきまで彼が振るっていた得物(愛刀)小鬼(ゴブリン)猛者(サベージ)と共に船外へ転げ落ちたまま。

 いかな彼でも、無手となった状態で武器を手にする小鬼(ゴブリン)たちと対峙する事を余儀なくされている姿を前に――。


「ハルト卿!」


 下館三曹と共に自身らも、そちらへ向かって駆け出してはいるが……とうてい間に合わない!

 それを認識し、異口同音に声を上げたフィオナ候女(ひめ)とシルヴィアの眼前で。


 またしても、目を(みは)らさせられる光景が展開したのだった……。


 舶刀(カトラス)を手に躍りかかって来る小鬼(ゴブリン)(かわ)しざま、カウンターに叩き込む手刀でその脛骨(くび)をへし折ると――

悠斗はそのまま小鬼(ゴブリン)の骸を蹴りつけ、続けて迫り来る大小鬼(ホブゴブリン)の正面へそれを飛ばす事で迎撃(露払い)に代えたのだ。


「BUGOGUGA!!」


 思いもしない妨害に憤怒の叫びを上げつつ振るった戦斧の一撃で、大小鬼(ホブゴブリン)は飛来する小鬼(ゴブリン)の身体を斬り払うが――。

 その間に悠斗は旋風の如き体捌きで、一気にその胸元まで踏み込んでいた。


「ふッ!」


 そして肉薄した眼前の巨躯へ、水月(すいげつ)に掌底が打ち込まれる。


 傍目には、軽く当てた様にしか見えなかった一撃。

 だがそれを受けた大小鬼(ホブゴブリン)は、まるで電撃の魔術でも受けたかの様にその身をビクンと震わせ、棒立ちとなった。


「GAMUMA……」


 断末魔の苦鳴と共にその眼球が裏返って白くなり、ついで口元から青緑の血反吐がごぼっと溢れ出す。

 そして棒立ちになったその身体がゆっくりと仰向きに倒れて行き、重々しく床板へ沈んだのだった。


(刀を手放した、無手で戦っても……!?)


 普通(ただ)小鬼(ゴブリン)ならばともかく。

 大型化し、筋骨も桁違いに増している大小鬼(ホブゴブリン)をも素手であっさりと、一撃に仕留めてみせるなど。


 練達の剛人(オーク)拳闘士あたりならば、あるいは……と言う領域(レベル)の話だろう。


 悠斗(かれ)達人(マスター)クラスの剣士である事は、既に理解していたわけだけれども。

 それに加えて銃も巧みに使えば、無手の闘術の方でもまた同様であり。


 優れた剣士と言う括りでは到底収まらぬ、多彩な武の達人だと見るべき存在(御仁)であった結城二尉(ハルト卿)が名刀を振るうと言うのは。

 まさに「闘鬼(オーガ)に戦槌」と言う諺の、上位互換の様なものであったわけだと――唖然気味に理解をさせられるフィオナ主従(たち)だった……。


 とは言え、そこは彼女たちも相応に実戦経験を重ねてもいる戦士(騎士)

 自らもまた戦闘の渦中に身を置いている状況下で、そちらに意識の多くを持って行かれて隙を生じさせたりする様な事は無かったのだけれども。


 しかしながら、流動し続ける戦闘の状況展開下においては。

 結果的に奇襲的な格好(意識外からの一撃)が成立する構図となる様な事も、どうしたって起こり得る。


 影になっている〝広間〟の奥に、小さな(・・・)炎の波紋(ひかり)が揺らめいた。

 つい先程(さっき)画面越しにだが(直接にでは無いが)目にしたばかりの〝(それ)〟!


 抱き止める様な格好にしていたターニャの頭越しに、いち早くそれに気付いた新治三曹は。


新治三曹(コースケさん)!?」


 とっさにそのまま体を入れ替える様にして、戸惑いの声を上げる彼女を躊躇(ためらい)なく自身の背中にかばい。

 こちらへとまっしぐらに飛来する殺意の炎弾(ほむら)に、正面から対峙した(向かい合った)――。

ゴブリンサベージ、体躯的にはジードとかみたいな世紀末巨体マッチョの方なんですが、

痛みですぐにキレて狂乱化する辺りは、ハート様のイメージですかね(苦笑)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前回の続き、近接戦の丁寧さはとても良い。ゴブリン側の思惑がよくわかるし、仕掛ける側もどうするのかとてもいいです。 [気になる点] 第二部の動きはどうなっていくのかですかね。ゴブリン戦の後楽…
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