鬼退治は害獣駆除枠で②
お待たせ致しました!
もう後はバトル展開しかないので、連続更新にしたいなと思って
詳細プロットをずっと進めていたのですが、
流石に時間がかかり過ぎてしまいましたので(昏倒)
ひとまずキリのいい処まで更新させて頂きます。
「どうやら連中も、状況的には私たちと同じであったのでしょうか……?」
眼前に在る画面上で観る事が出来る、上空の小型探査機からのカメラ映像を目にして。
フィオナは思わずそんな事をつぶやいた。
続行する彼女たちがそのまま見られるようにと言う配慮で、直前を進む川島徹二曹が。
自身の背嚢のフロント側へ、タブレット形態にしてぶら下げている軍用ノートPC。
それが伝えてくれる、地上にいながら飛空生物の視界で見下ろす先には。
彼女たちが目指す先であるのかもしれないその場所が、映し出されていた……。
「海援隊」に所属する結城悠斗二尉率いる小隊の女性隊員たちと、エリドゥの女性騎士たちによる小鬼の一群の誘出殲滅は見事に成功し。
殲滅戦を展開する中であえて1体だけ仕留めず、気絶させるのみに留めた小鬼が意識を取り戻すその前に。
迅速に済ませる仕込みをもって、作戦は次なる段階へと移行した。
極論すれば対象はどれでも良かった中で。そいつが選ばれた理由であった、群中でも一際に布面積が大きかったその身に纏いしボロ布へ。
用意して来たマイク一体型のCCDカメラと発信機を手早く縫い付けてから、一斉に身を隠し。機器の動作チェックをしながら待つ事しばし。
やがて意識を回復したそいつが、自分だけは運よく生きながらえたと認識して。
身体の痛みに苦鳴を漏らしつつも、そこから這々の体で遠ざかり始めたその背中を追って。一行も距離を保ちながらの追跡を開始する。
流石に動けなくなる程では無いが、それなりにはダメージを受けているおぼつかない足取りであるのは明らかで。
周りを気にする様な余裕などは無いところだろうけれども、そこは念の為にと言う事で。
こちらも待機中に手早く用意して上空に飛ばしておいた、マイクロ飛行船型のドローンを介して小鬼に取り付けた発信機が送信するビーコンの追尾と中継を行う事で。
確実な尾行のみならず、後方に対しても位置情報の共有を図っていた。
そうして足取りを辿って行くと、小鬼は明らかに海岸線の方に向かっている事が判り。
上空に浮かべたドローンが装備のカメラからの映像で見てみれば――その先は森林が断崖となって途切れ、一気に海へと落ち込んでいる場所であった。
しかし小鬼のその歩みを注視している事で。
クライミングなどはせずとも、ちゃんと断崖下へと降りて行ける〝道〟となる切れ目が存在している事も判ったのだが。
標的は海辺と言う開けた場所に出ようとしている模様であったので、ドローンを先行させての偵察を試みる事にして。
機体の高度を下げながら海上まで進めつつ機体を旋回させ、逆に海側からこちらを振り返る格好にしてみると――。
そこは、例えるならば横長のプランターを横倒しにしたような形だと言うべきか?
奥行きはそれほど深くはない代わりに、その幅は海岸線に沿ってカメラの画角外にまでずっと続いている格好の海蝕洞となっており。
幅は狭いが、縦方向に大きな亀裂で。その奥行きも深い構造となっていた〔ファルカン号〕の仮泊地とは、好対照形を見せている……そんな場所だった。
そして天蓋付きな格好となるその中へ形成された砂浜の一角に。
舳先を陸側に向け、やや右舷側に傾いた格好でまるまる打ち上げられている初期ガレオン様をした一隻の帆船の姿が在った。
見るからに難破船ではあるが、その形状はなお充分に保っている――それこそ、亜人種たちが当面その拠点に出来そうなくらいには。
ドローンの機載カメラをズームさせてみると、健在なメインマスト上の見張り台には周囲を見回す1体の小鬼の姿が在り。
また船の右舷側に降ろされている舷梯下の砂浜上にも、番兵だろう銛を手にした2体の小鬼が立っている様子が覗えたので。
(どうやらここが、連中の巣でしたか……)
と言う処からの、フィオナが思わず漏らしたつぶやきとなっていたと言うわけだ。
見たところ、3本マストの内で最前列が喪われているなど、全体的に痛んでいるのは無論ながら。
しかしその度合いとしては、そうなってまだ大して日数は経ってはいないだろう事もまた窺えるものでもあったので。
自分たちの〔ファルカン号〕と同様、漂流中にあの摩訶不思議な事象と遭遇してここへ漂着したものだと思われそうなのは確かだった。
そして同時にもしその予想が正しいのであれば、それは――。
(ニホン国ら元地球人の方々が抱かれている懸念の内、少なくともその一つは解消される事になりますものね……)
揃ってその認識は持つが故に。仕込んで放ったあの小鬼が、このままそこに向かって合流しようとするならば。それが確定的となると言う意味で。
ある種の期待に類するものも抱かされながら歩を進める女騎士主従は。しかしそうする中で目に付いたある事に、その表情を曇らせた。
「姫様、これは……?」
そう懸念を滲ませた声を上げるシルヴィアに。
「ええ。私もそう思います」
「ですにゃ!」
フィオナ候女とターニャも、それぞれに頷きつつ同意を示す。
彼女たちがそこに見て取っていた懸念点と言うのは、悠斗たち自衛官側としても聞かされて納得の行くものであった。
すなわち――マスト上に立つ見張り役に、舷梯下の番兵たち。
いずれの小鬼も、それなりの真面目さ(勿論、あくまで連中の程度レベル上での話だが)を保って番をしている様子であると言う点。
自身だけ、或いは互いの眼しか無いと言う状況下であるのにも関わらず、そうだと言う事は――。
本来的には怠惰な筈の連中をそうさせる〝何か〟の存在を、示唆するものだと目されるわけなので。
故に騎士主従としては、渋い表情にならざるを得なくなっていたのだ。
そしてそれを聞かされた結城小隊側としても。
彼女たちが帯同してくれている事による、そうした有益な情報を現場で即時的に得ながら状況に当たれるその意義を。また一つ実感させられながら。
あの仕込み小鬼が、そうとも知らずに運んで行っている〝耳目〟は。
果たして何を見せてくれるのか? 純粋な興味も交えつつの追尾を続けて。
やがてその難破船を指呼の間に見る、直近の岩棚まで到達した一行はその陰に身を隠しながら。
真っ直ぐそこへと向かって行く、仕込み小鬼の背を見送るのだった……。
そうして覗き見ているその先では――。
ふらつきながら1体だけで戻って来た仲間の姿を視界に入れて。見張り台に立つ小鬼が、ついで歩哨たちも、流石に驚いた様子で騒ぎ立て始める。
それを聞きつけたのだろう、船内からは新たに3体の小鬼が姿を現し、俄かに騒がしくなる中。
ようやくそこへ辿り着いた手負いの仕込み小鬼は、呻きと共に身ぶり手ぶりで必死に仲間たちへ事情を訴えようとしていた。
先程の交戦で、岩瀬二曹に一撃を貰って気絶させられたその時に。
下顎をかち割られていて、うまくしゃべる事が出来なくなっていたからだ。
送り狼をするのと、そしてカメラマイクの運び屋に仕立て上げる為に敢えて生かしてはおいたが。
肝心な事は伝えられなくしておくと言う事も狙った上での、彼女の一撃であった。
そんな状態に業を煮やしたか? ややあって仕込み小鬼は。
番兵たちと、迎えに出て来た小鬼たちから引っ立てられる様にして舷梯を登らされ、喧噪の中で船内へ消えて行く。
とは言え、彼が知らない内にその身に取り付けられている超小型CCDカメラは、低光量にも対応なので。
引っ立てられて行くその足取りに合わせて映し出される、船内の通路などの様子は。岩棚の陰で結城小隊が広げている、数台の軍用モバイルPCのディスプレイ上にしっかり映し出されていた。
もちろんセットのマイクによって、周囲のゴブリンらが上げているざわめきなども拾われて。
貸与された〝耳に付ける小さな装置〟から、まるで自身がその場にいるかの様に聴こえて来るわけなので。
フィオナたち主従としては、それにも驚きを覚えさせられる事しきりであった。
(これでは……軍使として訪れた敵陣や城砦内の様子なども、筒抜けではありませんか!)
ニホン国ら元地球人の持つ「科学」と言う概念が実現している、〝その力〟の底知れなさをまた一つ。
震撼させられる思いで彼女たちは目の当たりにしていたのだった。
そうする間にも、船内を引っ立てられて行く仕込み小鬼は船内の階段を下り、船倉の真上に当たる下甲板の区画まで連行されていた。
どうやら連中はそこの区画の仕切りをあらかたぶち抜いて、一種の〝広間〟よろしくしての居住空間に使っている模様であった。
本来、帆船においては船尾楼がグレードの高い居住区画として使われるものだが、そこは亜人種たちのこと。
体格も大きい大小鬼などには、人間用の上等船室区画などは手狭でしかないと言う事なのだろう。
天井の格子蓋越しに陽光も射し込んで、ほの明るいとは言えるレベルの明度になっているそこの〝広間〟には。
幾体かの大小鬼も交えた多数の小鬼たちがたむろしている姿と影が見える。
その船尾側の奥まった一角には、動物の骨――おぞましい事に、おそらくヒトの骨だ――でこしらえられた対の玉座が据わり。
そしてそこに座している、上体こそ影になってはいるが、それでも見るからに上位者の雰囲気を漂わせている二体の亜人の前へと、仕込み小鬼は跪かされた。
「小鬼猛者がいましたか……!」
阿吽の像を連想させられるそれらの内で。
陽光の加減によって、影になっていた上体も徐々に見え出した向かって右手側の個体の姿にシルヴィアが、やはりと言いたげな呟きを漏らす。
ここまで目にして来た大小鬼たちと比べても、更に雄大な体躯を持ったその特大小鬼は。
更なる上位種に位置付けられる強個体であり、小鬼種などは歯牙にもかけない闘鬼たちでさえも、流石に一目を置いてみせる程の〝別格〟なのだと言う。
そいつだけでも、脅威度合いとしては相当に跳ね上がる処であるのに加えて。
それと対形となっているもう一体の方は――。
「小鬼邪術士!」
向かって左手側の小鬼の姿も、遅れてはっきり映し出されたその瞬間。
今度は主従揃って、異口同音に再びの声を上げるフィオナ候女たち。
体躯こそは大小鬼と普通の小鬼の中間くらいのサイズだが、その手足には入れ墨か何かで奇妙な文様が描き出されており。
そしてボロ布をフード状に被って目元を隠していると言う、これまで見た事が無い格好をしたその個体こそが。
魔術士としての能力に開眼した、上位種の小鬼なのだそうで。
どうやら懸念であった存在が、ここで遂にお出ましの格好であると言うわけだった。
「ZABAGE。BABIGUGADADABOBAZO」
画面の向こうで、右手の小鬼猛者が。
眼前に引き立てられて来た仕込みゴブリンへの問い質しだと思しき声を発する。
が、顎をかち割られていてまともに声を発する事の出来ない仕込み小鬼は。
圧倒的強者の前での怯えも相まって必死になって呻き、更には身振り手振りでどうにか自身らに起きた事を伝えようとはしていた。
もっともそれに対する上位者の反応は、もちろんかんばしいわけが無く。
ただでさえの凶相が、みるみる内にその度合いを増して行くのが見て取れた。
対照的に、その対側に座す上位者の方は。
黙したままにじっと、そんな噛み合わないやり取りを続ける仕込み小鬼の方を睨め付けていたが――。
と、やにわにその玉座から立ち上がり。そして右手で握った魔杖の先端を仕込み小鬼へ突き付ける様に向け、断罪する様な叫びを上げる。
「BIGARA! RIDEGISUBA!!」
その咆吼と同時に魔杖の先端へ、小さな炎が生まれ。
そこからみるみるハンドボール大にまで膨れ上がったそれが、画面に向かって放たれる!
画角内を急拡大しながら迫り来る炎弾が画面上を埋め尽くし――着弾する轟音を最後に全ての音声が途切れ、ディスプレイ上の画面表示もブラックアウトした……。
「総員、発煙弾! 装填!」
気付かれたなと理解するや、間髪入れずにそう号令をかける悠斗。
(間合いの外から一方的に攻撃できる、銃火器の特性と威力を活かしつつ。制圧的に射撃で牽制を仕掛けながら退がるのでしょうね……)
この後、取る事になるのであろう行動をそう予測するフィオナたちの眼前で。
しかしその結城二尉は、意外な行動に出た。
彼はこれまで身を隠していた岩棚の上へと、ひょいとその身を乗り上げ。
そこにすっくと立っての据銃をする格好でもって、自らその存在を露わにして見せたのだ。
メインマスト上での見張りを続けていた小鬼は、這々の体で戻って来た仲間の姿を目にして。
気もそぞろな様子であるのは明らかな体でいたのだったが。
そうして視野の隅に、忽然と出現した悠斗の姿に――ややあってからだが、遅れて認め。
「BU、BUGERONZAZA!」
顔を向けつつ、警報だろう叫び声を上げるが――
「ZADO!!」
次の瞬間、立射で据銃する悠斗が狙い撃ちに放った6.8ミリ小銃弾でその額に風穴を開けられて。
断末魔の奇妙な絶鳴の尾を引きながら、見張り台より転げ落ちる。
転落して行った小鬼の身体は、落下のその勢いで上甲板の格子蓋を派手に突き破って船倉内へ消えて行く。
そこを爆砕して啓開する為のグレネードを、まずは射ち込む手間が省ける格好となったのを見て。
悠斗は手早く銃身下の擲弾発射器の弾種交換を行いながら、次の指示を飛ばす。
「発煙弾、射撃用意!」
一気に畳みかける! との意志も明らかな結城二尉からの号令一下。
小隊員各自が一斉に上体を岩棚の上まで持ち上げると、肩付けで構える小銃を斜め上方へ向けた。
彼方の目標へ筒先をまっすぐ向ける、通常のそれとは明らかに異なる射法。
加えて女性隊員たちなど、結城二尉の様に小銃の筒下へより径の大きなもう一つの銃を取り付ける事はしていない小隊員らは。
その代わりと言う事であろうか? 等しく自身の小銃のその筒先へ、弩弓の太矢を肥大化させた様な形状の物体を増着させていた。
(用い方は、弩弓と同様である筈の小銃を? あの構え方はむしろ、相手の頭上に矢の雨を降らせる弓の射法ですが……)
と、彼らが小銃の。また異なる使い方にも注目をさせられるフィオナたちの眼前で。
「目標、船倉内! 各員、交互に撃て!」
号令するや、まずは結城二尉自身の構える小銃が。
銃身下のもう一つから、軽快な破裂音と共に前方の空へ向けて握りこぶし大の物体を射ち出した。
続いて宍戸准尉以下の居並ぶ小隊員たちも、各自が次々と。
同様にするか、或いは銃口にアダプタ状に増着したモノを、頭上へ向けて射ち放って行く。
(ッ!? 小銃とは、個人が携帯出来る投石器の様な代物でもあるのですか!)
驚くべき事に。放物線弾道を描いて攻撃する、質量系投射兵器としての性質までも併せ持っているらしい彼らが小銃の。
また新たな使い方にも瞠目させられるフィオナたちの眼前で、フネの甲板上めがけて次々と落下して行く放弾は。
つい先程、生じたばかりな格子蓋の破口から船倉内へ次々に飛び込んで行き――そしてそこから毒々しい色をした、濃密な煙が激しく吹き上がり出した。
(〝巣穴〟の中に居るのなら、燻り出すと言う事ですか!)
果たして難破船の方からは、にわかに恐慌状態へ陥った様子を示す甲高い悲鳴が上がり始めた。
擲弾発射器および小銃擲弾による発煙弾を多数、いきなり射ち込まれた側である船内の亜人種たちからすれば。
火攻めだ! と、そう理解する他にないであろう状況なれば、当然ではあるのだろうが。
煙に巻かれて、目や呼吸器を痛め付けられながら。
とにかく外へ逃げねば! と言う、その一心だけで必死に船外へと飛び出して来る小鬼たちを待ち受けていたのは。
岩棚上に二脚架で保持して射撃体制を整えていた結城小隊主力からの小銃弾がお出迎えする、狩場であった。
限られた船外へ出られる場所より、恐慌状態で必死に飛び出して来た小鬼たちは。
とりあえずの安堵の息を吐いた処で。眼前の岩場からこちらを向いている、10にも満たない数で小癪な真似を仕掛けて来たのだろう人間どもの姿に気付いて。
瞬時にその思考を沸騰させ、報復の一撃をくれてやろう! との一念で砂浜を駆け始める。
だが、目と鼻の先な〝その距離〟が――この時ばかりは、果てしなく遠過ぎた……。
フネと岩棚の間は、さえぎる物の無い開けた砂浜であり。
連続射撃による面での制圧が可能な現代の自動小銃が、それも複数挺待ち受ける前への正面突撃など。まさに銃弾の雨の前へとただ身を晒す行為に他ならない。
仮にもし小鬼たちが、その数を頼みに揃っての一斉突撃を掛けていたとしても。
それこそ手榴弾による迎撃も併せて、充分に余裕を持っての対応が可能な態勢になっているのだ。
ましてやてんでばらばらに飛び出して来ては、周囲の状況も目に入らぬ激昂状態で闇雲に各々が掛かって来るだけなのだから。
フルオート射撃の必要さえも無い、狙撃に近い撃ち方でもって確実に処理して行くだけの、淡々とした作業となるのみだった。
そして宍戸准尉以下の本隊が。正面でそうやって相手の意識を引き付け、砂浜上に小鬼たちの遺骸を積み上げている間に。
馬蹄形に続く岩棚に沿って駆け、小鬼たちの意識から隠れたまま船体の奥手へと回り込んでいた別動隊は。まんまと逆側の左舷船体下に取り付いていた。
悠斗が直卒する両三曹にフィオナ候女たち騎士主従と言う、近接戦・白兵戦が主体となる面々によるもう一本の矢だ。
流石にもう、発煙弾からの煙の発生も途絶えている時間だが。
散発的な銃撃音と、小鬼の上げる怒声と悲鳴が未だ途絶えない辺りからも、連中の注意は完全に右舷側に寄っている事は明らかなので。
両三曹が構える小銃と、攻撃魔法の発動を即時待機状態にしているシルヴィアからの援護が受けられる態勢の下。
縄梯子を兼ねて舷側に垂れ下がっている網目ロープを器用に伝って、悠斗は素早く上甲板までよじ登って行く。
そのまま気取られる事も無く甲板上に立ったら、今度は自身がそこで小銃を構えて警戒に当たる中で。
続けて両三曹とフィオナたち騎士主従も、順にそこまで登って来るのを無事終えたちょうどその頃には。
もう甲板上まで立ち上る煙の残滓も完全にかき消え、周囲は静かになっていた。
煙に追われて船外へと飛び出して行った小鬼たちは、どうやらことごとく撃ち斃された様で。
そんな煙責めを堪えるか、あるいは影響が少ない位置に居たのかもしれないが――でやり過ごした連中は流石に状況を察して。
このまま船内での立て籠もりを続け、様子を窺う構えでいるのだろう。
もしこのまま足下へ、再び発煙手榴弾を放り込んだとしても。
正体不明な攻撃の脅威にさらされていない左舷側に逃れるくらいの機転は、流石に連中とて利かせる筈だ。
眼前には、一層だけの船首楼から下層へと降る階段が口を開けており。
そこを降りて行く途上やその直下には、侵入者を待ち伏せる小鬼が間違いなく息を潜めて居る事だろう。
(そんな中へと自ら斬り込んで行くわけですから。ここは、手慣れた自分たちが率先すべきでは?)
と、その様に考えるのがいかにも彼女たち主従らしい処ではあったのだけど。
悠斗たちとしては、彼女らにそんな真似をさせるわけにはいかないのは言うまでもない。
(どうされますか?)
声は発さずに、顔だけを見合わせる形でそう問うフィオナたちは。
同じく無言のままに悠斗が応じて見せる武器を目にして、素直に頷いた。
無論の事、こうして共闘をすると決したからには――と言う事で。
元より全く異質なものである事は明らかな互いの戦い方を確認し合い、擦り合わせを行う試みは事前に実施してもおり。
泥縄式だとの批判も出るであろう事は承知の上で、後は現場で……と言う姿勢でもって臨んでいるのだ。
故に彼女たちも、即座に悠斗の意図を正しく察する事が出来たし。また事前に教わった通りに、これから起きる事へも備える構えでいられた。
悠斗が放り込んだそれが、音を立てて跳ね返りながら階段を下へと転がり落ちて行き――。
そして眩い閃光が、轟音を伴って炸裂する!
(これが……!)
と、彼らから提供されていた目元を覆うゴーグルのその効果の一つを。
実感で理解させられているフィオナたちの眼前で。
流れる様な動きで抜刀しつつ、悠斗が小隊長自ら先陣を切って下り階段へ踏み込んで行き。
右手に機関拳銃、左手には護拳付きのファイティングナイフと言うCQCスタイルの下館ニーナ三曹がそれに続く。
その動き出しの速さにも内心で舌を巻かされながら、彼女たちもまたターニャを先頭に。
自衛官側の殿兵となる新治浩介三曹の背を追って、階下へ向け突入して行くのだった。
冒険小説みたいな感じだとの評も頂きました今回、いかがでしたでしょうか?
アクション性を優先して、木造船の中に発煙弾を撃ち込んだりして引火は?
だとか、サングラスでその閃光は防げない~と言う辺りの事には
意図的に目を瞑って演出しておりますので、
エンタメとして大目にご覧を頂ければ幸いです(苦笑)
次回はこのまま、クローズド・コンバットの展開になりますので
なるべく早くお届け出来るように頑張ります。