鬼退治は害獣駆除枠で①
お待たせいたしました。
どうにか年内にもう1回の更新が間に合いました(汗)。
現在展開中の[フロンティア大陸編]、その最終節となりますバトル展開がスタートです。
二組の戦乙女たちが織りなす、華麗なる「死の武闘」が展開されていた。
蒼色系迷彩戦闘服に身を包み、銃器を主体にしつつ近接格闘も駆使する近接戦闘で戦う「海援隊」結城小隊の女性隊員3人と。
動きやすさを重視した軽装の鎧姿に、そこだけ現代装備――結城小隊側が提供した軍用ゴーグルと言う、不思議と違和感が仕事をしないキメラないでたちで手にする剣を振るい、更に魔術も織り交ぜて行くマズダ連合の姫騎士主従の3人。
鬱蒼たる大森林内に開けた一角で。実に好対照な戦闘スタイルを魅せる、見目麗しき6名の競演によって。
数では遙かに勝る小鬼たちをものともしない、大立ち回りが繰り広げられている。
「せあッ!」
WAVEたちの前衛役を担う、下館ニーナ三曹は。
裂帛の気合いと共に左手で握ったファイティングナイフの柄尻を、躍りかかって来る小鬼の側頭部へ叩き込んだ。
「DUGIGII!」
蛙の潰れた様な耳障りな苦鳴と共に叩き落とされた、その小鬼へ。
即座に数歩を下がって間合いを取るや、右手に構える機関拳銃〔ベレッタ93R〕で追撃。
よろよろと立ち上がろうとする処への三連発砲の猛威で、文字通りにその躯を吹き飛ばす。
「BO、BOBOGARA……!」
あまりにも鮮やかなその手並みに怯みを覚え。思わず足を停めてしまい、棒立ちになって悪態をついた別の小鬼は――。
次の瞬間、意識の彼方から飛来した6.8ミリ小銃弾で撃ち抜かれ、即座に仲間の後を追った。
下館三曹を頂点とするデルタ隊形で、後方へ逆扇形に並んで広がる小田林瑤子一曹と、岩瀬ナタリア二曹の二人は。
その手に構える〔10式小銃(改)〕による、後方からの近距離射撃戦を基本にしつつ。
彼我の数差によって幾度かは生じる、後衛の自分たちへの肉薄に対しても。
いずれも小銃の銃剣や台尻、更には自らの手足による打撃を駆使しての近接格闘術で危なげなくあしらっている。
更にそれだけには留まらず――。
柄が護拳になっている造りの長大なファイティングナイフを得物に、小鬼の斬撃を受け流した下館三曹が。
「小田林一曹!」
と、交叉したその勢いで小鬼の背を自らの後方へと蹴り飛ばし。
呼応して前方に踏み出す小田林一曹が、突き出した銃剣の刺突で仕留めたりと言う具合に。
各々が、ただ個人の技量を発揮して闘っているだけではなくて。
阿吽の呼吸で連携する、チームとしての戦術も駆使する戦い方でその強さを乗算的に増していた。
隣で戦っている女騎士たちの様な軽鎧も身に着けず、また短めの黒杖しか手にしていない、奇妙ないでたちの魔女たちだと。
そう思って。
数を頼みに肉薄しさえすれば、こっちのものだ! と侮り、内心やに下がりながら襲いかかって行った小鬼たちは。
それがとんだ間違いであった事を手痛く思い知らされている、まさにその真っ最中であった。
一方、WAVEたちと並行する位置で戦っている姫騎士主従の側もまた。
流石は長年の付き合いと言う事かと、見る側にもある種の感嘆を抱かせる様な息もぴったりの連携ぶりを見せながら、危なげなく戦いを進めている。
「〈疾風魔弾〉!」
森人の騎士シルヴィアが、叫声を上げて躍りかかって来る小鬼に対して力ある言葉と共に左手を突き出すと。
蛙の潰れた様な悲鳴と共に、魔術によって放たれた空気弾に直撃されたその小鬼の躯が透明な壁にぶち当たったかの如く弾き返されて――真後ろに続いていた、別の小鬼と衝突した。
「GYAA!」
と言う、嗄れた苦鳴の合唱が生じる暇もあればこそ。
前の小鬼はそのまま喉元を、シルヴィアが追撃の右手で伸ばした直刀型サーベルの切っ先で貫かれ。
後ろの小鬼もまた、その斜め後方から詰めて来る猫族獣人の騎士ターニャの。
それぞれがショートソードとロングダガーのサイズをしたバゼラードの二刀流で、立ち直る時間さえ与えられぬままX字に斬り裂かれる。
ターニャの体格と武器のサイズからすると、思わず目を疑うほど豪快な斬撃の威力が発揮されていたが、おそらくはそれも――。
彼女が唯一使える「神秘魔術」だと言う、〈身体能力増幅強化〉によって底上げされた素早さと膂力の賜物なのだろう。
そんな2人を従え、指揮をしながら。自らも別の小鬼に向かって踏み込んで行くフィオナ候女も。
その小鬼が向けて来た剣を、手にする細身の長剣で巧みに絡め取って取り落とさせるや、返す刃で一刀の下に斬り伏せると言う流麗な剣技を見せていた。
(先日の遭遇時には見る事が出来なかった、これが彼女たち本来の実力か!)
と、特殊部隊員たる彼らをして目を瞠らされる程の、実に鮮やかなる戦いぶりであり。
同時に、魔法の力が存在するエリドゥの人々の戦い方とは、こういうものであるのか……! と言うのを。
それを眼前にしている結城小隊の面々にも、まざまざと教えるものでもあった。
「いやはや、姫様方も腕が立つ事は認識していたつもりでしたが。本来の実力が存分に発揮される状況であれば、これ程のものだったとは……!」
崖上に構えられた監視所の中で。
眼下の戦況への注視は怠りなく続けながら、福原誠人一曹が率直な感嘆を口にする。
「確かに。この分なら直接的な〝援護〟の必要は、まず無さそうですね」
その傍らで伏射の体勢を取って、二脚架で保持された〔10式小銃(改)〕を据銃している笠間勇利二曹も。
姫騎士主従と、同僚たち。双方の戦況へと油断なく目を凝らしているのは同様に、賛意を示す。
「ああ、俺もそう思うよ。個の技量に加えて、あの連携ぶりの見事さも。うちのWAVEたちにも遜色ないレベルだな」
自身が率いるB分隊の男性隊員2人と共に、周辺も含めた〝戦場〟全体を見渡し。
必要とあらば自動小銃での狙撃や、銃身下の発射筒に装填済みのグレネードも……と言う援護を即座に行える様、備えつつ。
戦闘状況の展開についての記録も併せて実施しながらの監視に当たっていた、宍戸直樹准尉は。
部下たちの声に頷きを返しつつ、更に別の要素にも注目していた。
「それに加えての〝魔法の力〟と言うやつか……。もし小鬼どもがああいうのを使って来ていたりしたなら、確かに我々とて危なかっただろうな」
幸いにもここまでの処では、まだそうした状況になる事は無かったわけだが。
とは言え亜人種たちの中にも、魔法の力を駆使する術を身に付けた上位種は存在すると言う事なので。
もし遭遇した相手が、そんな能力を持っていたりした場合には。
まさに「初見殺し」の構図になるわけで、故にこちらとて危うくなりかねない可能性が在るのは確かであろうから。
(いかに自らの意向もあっての話だとは言え、姫様たちまで前線任務へ〝共に駆り出す〟様な異例を。小隊長が本郷二将と示し合わせたのは、こういう事だったのだな……)
そう、胸中での納得を覚えながら。
〝対岸側の岬〟と言うべき位置関係となる、もう一つの監視所で同様にしている筈の上官、結城悠斗二尉の慧眼に。改めて頷かされている宍戸准尉であった。
彼らが探索行の途上で予期せず遭遇し、救援する事となったフィオナ候女一行を通じて実現を見た、この異世界のヒト型類たちとの出逢い。
そこからの展開により、一足飛びに進んだ異世界人との〝接触〟のおかげで。
ようやく異世界エリドゥの実相に関しての様々な情報を、一挙に得られる運びとなっていたわけだったが。
とは言えそれらの「情報」も、それのみではあくまでただの伝聞知識でしか無く。
全くの異種であるヒト型生物――「仮称:ゴブリン」としていた、害獣と考えるべき亜人種たちの存在であったり。
彼ら自身も早速その対象となった、この世界には実在する「魔法」の力の様な。
今の時点でも、知見としての端緒となり始めたばかりの未知なる要素も既に幾つか在ったとは言え。
やはりそうした「情報」の多くは、その存在をひとまず聴かされるばかりだと言う段階であるに過ぎず。
これから先においても、それら一つ一つを実際に触れて識る事で。
新たなる「知見」として行かねばならないと言うプロセスが、ようやく現在進行形で回り始めたと言う処であるのだから。
そのフィオナ候女一行をきっかけとして、〔ファルカン〕号の人々とも。
ひとまずは友好的な雰囲気で、相互の関係性をスタートさせる事が出来てはいたわけなので。
今後はそうして得る事の出来た「情報」の一つである、同船の母国に当たる異世界国家、マズダ連合に。
同船と乗員一行の送還を兼ねつつの、国交開設を求める外交使節を送る準備を……と言う、話は一挙に政治レベルの領域まで飛躍をしており。
一行の送還を睨んでの、〔ファルカン号〕に対する本格的な船体の補修整備の提供などとも絡めての判断で。
日本国政府からは当地での実施ではなく、日本本土まで回航の上での政府直轄案件となった旨を下達され。
それを受けて〔ファルカン号〕側とも協議をしつつの、渡海準備が進められている最中ではあったのだけれども。
であるにも関わらず、同連合構成邦の領主の令嬢であり。
同時に連合政府へ、さしずめ高位の国家公務員に相当する様な立場で出仕をしていると言うフィオナ候女が。
本来、要人として扱われるべき存在である筈なのにも関わらず。こうしてお付きの両卿と共に「海援隊」結城小隊へ帯同して。
自らも前線に立って小鬼相手の白兵戦を繰り広げているのには、もちろんれっきとした理由があった。
それには、様々な要素が在ったわけだけれども。
やはり一番に大きかったのは、エリドゥならではの「魔法」の存在であろう。
当の彼女ら一行こそが。元地球人たちにとってのその最初の実演者ともなった、最初の遭遇の際の顛末――。
そこで行使された〈聖癒光〉と、〈浄化〉の魔術でもって。
「論より証拠」と言うのを体現するかの様な形にて認識させ、そして体感もさせていたその力。
地球においては、空想上の存在でしかなかった筈の〝それ〟が。
異世界エリドゥにおいては、現実のものなのだ! と言う事実と。
そしてそんな魔法の力は、もちろん負傷の治癒であったり、身体と衣服の浄化を行うと言った事だけではなく。
身体能力の一時的な底上げを可能としたり。彼ら元地球人たちの多くが、やはり一般にイメージする〝それ〟に違わぬ、炎や電撃を生み出して相手を攻撃する様な事までもが出来るのだと言う話であったわけだけれども。
ひとまず懸念となりそうだと目されたのは――。
それが彼女たちの如く多様な種族から成る、こちらの「人類種」だけが有する力と言うわけではなくて。
かの小鬼たちの様な。「亜人種」と総称される、ヒト型をした有害生物種らの中にも。
そうした魔術の能力に覚醒した、「邪術士」などと呼ばれる上位種が存在するのだと言う情報であった。
もちろんここまでの間における遭遇の、その範囲内においては。
幸いな事にそうしたタイプの相手が加わっていると言う状況は、ついぞ無かった模様ではあったのだけれども。
しかし、もしそれが現実となっていたとしたならば。
全くの未見なその力に対しては。もう肌感覚で瞬時に出来る反応以外には、対処のしようが無いわけだから。
下手をすれば、全くの無防備なままにそれを受ける事になってしまっての、悲惨な目に見舞われる状況に陥っていた可能性も大いに有った筈だ……と言う話になる。
まさに知る由も無いからこその、怖いもの知らずな状態でもって小鬼たちとも戦っていた格好であったと、そう言える状況だったわけなのだから。
後になってからそんな潜在リスクを知った事で、遅まきながら背筋が冷える想いにさせられる処だった。
もちろん現在までの時点で彼らが目の当たりにしているのは、まだまだごく限られた範囲での魔術に過ぎないと言う事で。
そうした直接、あるいは間接的に。戦術面での効果を発揮する類の魔術と言うものが、実際にどんなものであるのか? についてを識るのは、これからの問題となっていたわけだが。
その身分からすれば異例だと目される、フィオナ候女自身の最前線への出御も。
つまりはそうした現状認識の故に、実現していたものであったのだ。
ひとつには、現代医学での外科的処置とフィオナ姫からの治癒魔法の合わせ技で。矢による負傷を、異例の速さで快復させた騎士シルヴィア卿。
流石に万全だとまでは言えないものの、ひとまず戦列復帰が適うレベルにまでは彼女が持ち直したと判断された事が、直接的にはそれを後押しするものともなっていた。
何故ならば、姫騎士主従3人の内では。
攻撃魔術の術者としての才覚を持っているのが、その彼女ただ一人だけであったからだ。
つまり、シルヴィアの戦列復帰を受けて。
〝本来の形〟である、3人がチームを組んでの戦術を展開する事が再び可能となった、彼女たちとの共闘によって。
まずは比較的少人数による近接戦闘の段階においての、「魔法」の要素が前提となるこの世界の戦術の実際を。
体感的に識る、その端緒となると言う事だ。
相手の側にも、魔法使いとしての能力を有した個体が居ると言う懸念が現実とはならずとも。
共に闘う仲間として、攻撃魔法の術者が加わっていてくれれば。まずはそこから実際を観る事が出来るわけだし。
また逆に、そうした懸念がもし現実のものとなった状況においては。
攻撃魔術の術者が同行してくれている格好ならでの効果にも、やはり期待が出来る。
なにも直接的な対抗と言う事ではなくとも――術者としての知識や感覚からの警告であったり、実際の対応や対抗策の教示と言った知見が。
その場で都度、即応的に得られると言う事の意義は計り知れない。
ひとまずは将来において予想される、対異世界勢力を想定した要人警護を実施する観点等からも――未知なる不測の事態に対する備えを万全なものとする為には。
そうした方面の実情を識ると言う試みに対しても、注力をしなければならないと言う考えも踏まえての判断となっていたのであった。
「それにしても……。攻撃の魔術と言うんだから、てっきり炎の球とか氷の矢みたいなのが飛んで行く、派手なものだとばかり思ってたんですけどねぇ?」
宍戸准尉が見やっていた、対岸となる崖上――こちらも草木で偽装したもう一つの監視所の中で。
やはり〔10式小銃(改)〕を据銃し、いつでも援護が出来る体勢で戦況を見守っている新治浩輔三曹が。
実際に攻撃魔術が振るわれる様を目にしてみての、率直な驚きの念を口にしていた。
子供の頃から、様々なフィクションを身近なものとして育って来た世代の若者らしい。
そうした感覚が元より在ればこその、覚えさせられる〝意外さ〟であったわけだが。
「しかし、理には適っている……」
「はい、それは判ります」
傍らで同様にしている川島徹二曹が。
寡黙な性分らしく端的にそう応じる声には、新治三曹も素直に同意を返した。
あくまで、まだ聞かされているだけの段階にはなるが。
もちろんシルヴィア卿とて、そうした派手な攻撃の魔術についても。決して使えないと言うわけでは無いとの事ではあったのだけれども。
とは言え、エンヤ船長の様な魔導師であればともかく。
術者としてはあくまで、〝魔術の才覚もある戦士〟と言う範疇のレベルに留まる彼女たちからすれば。
自らにとっては強力な魔術を、無闇に行使する事で負う逆凪の影響で。
本来の戦士としての行動に支障を生じさせる様では、それこそ本末転倒である事に他ならないと言うのも。実にごもっともな話であるわけだからして。
元々の戦士としての身体能力の底上げであったり、空気弾をぶつけて相手の体勢を崩したりする様な。
逆凪の心配があまり無い類の魔術を織り交ぜる事によって、戦術の幅を拡張するものとしている辺りは。
まさに賢闘だと評すべき戦い方であろう。
そうした実態を識る事が出来て、大いに有意義だと。
その様に評価できる状況であった事は確かだった。
「しかし、まったく危なげないのはいいんですが……大丈夫ですかね、小隊長? 全部は斃さずに、残しておくって言うのを忘れてやしないかと……」
しかしそこで、勇色兼備な戦乙女たちが眼下で展開中である戦闘の、あまりの圧倒ぶりに。
A分隊の先任である稲田昌幸海曹長が、違う意味での懸念を覚えると言う体で。
傍らの悠斗に向かって、そんな懸念を口にした。
「海曹長の懸念も判りますが、問題ないでしょう。そもそもこの状況自体、フィオナ候女たちからの知見に依るものですし」
もっとも、問われた悠斗としては。苦笑混じりにそう返すだけであった。
ここまでの間の3か国軍特殊部隊による探索、およびそれに基づいての捕捉と駆除の作戦が進展するのに伴って。
小鬼たちのおおよその活動範囲の推定については、それなりの確度の伴うものであったと言う実証がなされ。
そしてその拠点と目される場所も。
当該の推定活動圏内で唯一、未踏となっている中心に当たる区域内の。そのいずこかに在るものと思われると言う処までは絞り込まれていた。
立つ鳥後を濁さずと言うやつではないけれど。その場所を突き止めたその上で、確実に拠点ごと駆除して。
今後の探索行、ひいては開拓に於いての懸念となりうる要素を完了させる段階となる。
単独でも可能であれば、そのまま制圧を! と言う事になるし。
またその規模が想定以上のものであったりした場合には――増援を受けるか、場合によっては攻撃ヘリによる空爆ないしは戦闘艦による艦砲射撃を……と言うケースも有り得るだろうが。
いずれにしても、〔ファルカン号〕一行がこの地を離れる以前に。
新たに当座の課題だと位置付けられるものにもなった、「魔法」の力のその実際をより識る為の試みを! と言う件とも絡めて。
「この際、まとめて片付けてしまおうじゃないか?」
とでも言う様な体にて。
もちろん双方による合意の上で、決定されていた作戦であったのだけれども。
ただ、話がそうなれば。これまでの様な、躊躇いなく遭遇=殲滅と言う単純な図式で終えればいいわけでは無くなって。
所謂「送り狼」と言うやつを行って、その拠点を突き止める事を作戦の前提に加えなければならない。
稲田海曹長が覚えた懸念も、それが故にのものであったわけだが。
応じて悠斗が示した事も同様に、それに当たっての実情を踏まえてのものだった。
尾行をすると言っても。それにはまず、その対象となる小鬼らを捕捉しなければならないわけだが。
皮肉と言えば皮肉な話ながら、ここまでの駆除が順当に進捗して来ていたその結果として。
当の野外活動中である小鬼たちと会敵する事自体が、まず難しくなって来ていると言う現実があった。
連中からすれば。食料調達を主眼としての周辺探索行に出て行った仲間たちがここ最近、ことごとく未帰還になっている状況なわけで。
何が起こっているのか? はおそらく理解してはおらずとも、流石に連中なりには警戒をする様にもなっている筈であろうし。
また一方では、逆に期せずしての口減らしな格好にもなってしまってはいる分も。
必然的にその活動範囲も、拠点があると目されるエリア周辺の内だけで済んでしまう可能性が高い。
故に、まずは会敵するまでが一苦労かもしれないと言う、悠斗たちの抱いていた懸念はしかし。
「でしたら、こういう手はいかがでしょうか?」
との、フィオナ候女からの提案によって解法を得る事が出来ていた。
「アタシたちが、よく用いる手法にゃのですけど……」
そう前置きをした上でターニャが説明した、その手法とは。
一般にヒト種よりも鼻が利く、小鬼ら亜人種たちのその習性を逆に利用する誘因であった。
簡易な野営拠点をあつらえた様に装い、そこへ残置しておく体な食料や毛布やらと言ったものを故意に遺して。
それを見つけた亜人種たちに。
(近傍に、襲撃対象が居るぞ!?)
と言うのを認識させる事で。そこからこちらの足跡を探し、追って来る様になる連中の習性を利用して。
謂わばまんまと釣り上げると言う策だ。
更にはそこへ、女性の存在を示す物証――例えば、汗を拭った手巾などを。
気付かず途上で落として行ったと言う体で、遺しておけば。
言葉は悪いが、それこそ盛りが付いた勢いで。目の色変えて一目散に追いかけて来る様になるので。
尚更に好都合だと言う話であった。
時には盗賊討伐も――だそうだが、多くはそうした亜人種たちの掃討を実戦経験として来ていた彼女たちにとっては。
その辺り、感覚的にはごく普通な範疇の事であるらしいと言う話な様で。
むしろそれを聞いた自衛官たちの側が――特にWAVEたちは、いささか微妙な表情を浮かべさせられる処であったのだけれども……。
とはいえ、元よりそれがエリドゥの人々の間における、標準的なやり方なのだと言う事であるならば。
新参者な立場である自分たちとしては。そうした先達の知恵に学ぶ事もまた、必要であろうと。
そうした観点においても、フィオナ候女たちとの共闘は重要になって来る筈だと睨んで。
それを進言してもいた悠斗としては、無論の事それに否やはなく。
かくして男性陣は二手に分かれ、少し離れた場所へ距離を置いてのバックアップに徹する体勢となって。
女性陣だけで前線に立つ形を取っての迎撃戦を、思惑通りに迎えていたと言う状況であったのだった。
そしてみるみる内に討ち減らされて行く小鬼たちの数が、ついに残り数体を残すのみとなり。
戦術運動としての互いの位置取りを、常に横目に入れながら動き続けていた二組の戦乙女たちによって。
いつの間にか自分たちの退路までもが塞がれた、挟撃の体勢へと変じている事に。
ようやく気付いた小鬼たちが、一挙に恐慌状態となって浮き足立つ様を見せる中で。
それらの内でも特に、身にまとったボロ布の面積が際だって多い一体の小鬼に目星を付けて。
「岩瀬二曹! 任せる!」
それだけで通ずる、小田林一曹の指示に。
その小鬼の最直近にいた岩瀬二曹が即座に呼応し、仕掛けに踏み込んだ。
「BU、BUNJABEGEE!」
更に恐慌ぶりの度合いを増して振るわれる、何とか近付けさせまいと言うだけな小鬼の手斧はあっさり見切って。
「はッ!」
その腕へカウンター気味に蹴りを叩き込んで取り落とさせるや、岩瀬二曹は更に一歩を詰め――。
「BUSUMO!」
と、なおも何事かを叫ぶ下顎を小銃の台尻によるアッパーで打ち上げて、見事その場に小鬼を昏倒させるのだった。
「岩瀬二曹殿、お見事!」
自身も手近の小鬼を斬り捨てたシルヴィアが、そう賞賛の言葉を送った時にはもう。
その場に立っている小鬼の姿は、一体も残っていなかった。
そしてそれを見届けた悠斗は。宍戸准尉のB分隊に対して、念の為にしばしの監視体勢続行を命じつつ。
自身は直卒のA分隊と共に、崖下へと降りる準備を始める。
まだまだ作戦は、その端緒へ辿り着けたばかりであるに過ぎなかった……。
おかげさまで投稿開始三周年を前に150,000PVも超えさせて頂いての、四年目を迎える事が出来ます。
今年は当初の予想をも超える多忙さに追われて、執筆の方もなかなか思うに任せませんでしたが、
背景となる「設定」の見直し等の関連する事も進めたりと、長いスパンで見ての
今後に活きて来るだろう要素への準備などはしておりましたので。
それをこれから先の展開の中でお見せして行ける様に、励みたいと思いますので、
今後ともよろしくお願いできましたら幸いです。





