「同盟」体制への途(後編)★画像あり
たいへんお待たせを致しました(汗)
ようやくの事で更新です。
再び場面は、日・米・台の三か国首脳たちのやり取りに戻ります。
(承前)
画面の向こうで、江波健一郎「日本国」首相が唐突に大きなくしゃみをした為に――。
オンラインで開催中の三カ国首脳会談は、不意の中断をみる事となった。
『流石に、少々お疲れでしょうか?』
上体を大きく前に折らせる程の、豪快な一発であった事から。
そう気遣わしげに声をかける、「台湾国」の呉明正総統。
それはお互いさまでもあるわけだけれども、気の休まる暇も無い激動的に過ぎる日々が。
その相手を戦争から天変地異へと変えて、にわかに再開となってしまった状況の中へ身を置き続けており。
しかも寒さが一番厳しくなる時期を、再び迎えているわけだからして。
いささか体調を崩したとしても、無理はなさそうな処ではあるわけだったが。
とは言え、やはりそこは立場のある者同士。
気遣いはしつつも、それが状況判断に与える悪影響と言うものを常に懸念しなければならない、因果な立場だと言う事にもなってしまうので。
二重の意味で、気掛かりになるのもむべなるかなと言う話になるのだった。
『と言うより、どこかで誰かに噂でもされているのでは?』
と、冗談めかした表情で「合衆国」(分離体)のマーカス・オールグレン副大統領も、そこでやり取りに加わる。
もっとも、そこはオールグレン副大統領も。
本当に体調が悪そうに見えたのならば、そうした事は言わないのは無論の話でそんな軽口も交えての反応を返しているわけなので。
言われた江波首相の方もすぐに立て直して、同様に苦笑気味な表情で返した。
『いや、失敬。……本当に、誰かから噂されているかもしれませんが』
『確かに。〝どこかの寒い国〟の方から、かもしれない……』
冗談めかしつつ、際どい方へ切り込むオールグレン副大統領の物言いに。
江波首相と呉総統の表情も、いよいよ明確な苦笑へ変わる。
実際、転移組における〝どこかの寒い国〟の駐日大使からは。
もはや呪詛と呼んだ方が実態に近いのでは? と言うレベルで怨みを買っているであろう事に関しては、疑いなかったわけだけれども。
『まあ、そう言った怨恨の対象になると言う事においてならば。我々は皆、そうした立場に在るのは今更の話ですしね……』
苦笑は浮かべつつ、事も無げにそう応じる江波首相に。
盟友たる米台両国の首脳もまた、同様な苦笑を浮かべた頷きを返す。
一国の為政者と言うのは。そうした「負の人気商売」としての一面も、常に付いて回る立場。
そうであるが故に、一身に向けられる内外からの様々な負の感情などは、当たり前のものでしかない。
大事なのは、それが何かしらの〝現実の脅威〟として具現化する様なものではない――そうならない限りにおいては。
いちいち目くじらを立てずに許容するのが、健全な民主主義社会の在り方と言うものであると。
自由で開かれた、民主主義の体制を奉ずる国の政治家として。
そうあるべきだと確信している者ならではの態度で、揃って泰然としているのだったが。
同時にそれは。まだ一応、婉曲的に挙げられてはいる同志札付きが如きは。
現実においては何らの脅威にもなり得ない、ただ虚しく吠えているだけの負け犬に過ぎないと。既に見切っていると言う事でもあった。
もちろん、転移直前までの「特亜大戦」の状況下では。
双方からのその飛び火を警戒する「ソビエト連邦」(新)側としても。
北サハリン駐留兵力に対しての一時的な増派を行うなど、対応も行っていた中で今般の時空転移が発生したわけなので。
結果、同地にはソビエト(新)空軍の最新鋭戦闘機であるMiG-33〔フラットパック〕に代表される、西側諸国からも精鋭との評価を受けている戦力が展開したままとなっており。
万が一にも、それらを用いての〝悪あがき〟をされる様な動きがあったりすれば、面倒だ……と言う話にはなるわけだが。
とは言え、駐在武官のマレンチョフ大佐をはじめ、極東方面に配置の軍人同志たちは。
既にソビエト(旧)の時代から常態化していた、同方面の艦艇や作戦機と言った装備の重整備への〝支援〟――と言う名の、事実上は「赤い日本」側への委託であったが。南日本による統一後にも、そのまま引き継がれる形になっていたそれら――に加えて。
定期的な実施が行われる様になった、自衛隊や海保。時には在日合衆国軍をも交えての、共同訓練と言った日頃の交流を通じて。
既によくよく思い知らされている、〝彼我の懸絶したその実力差〟を前に。
現状、まかり間違っても日米と事を構えるなどと言う〝馬鹿げた妄想〟に同調する様な真似は、ナンセンスの極みだと言うのを。
いやが応にも理解せざるを得なくなっているわけなので。
その意味ではある程度、安心して見ていられる筈だと言うのが。
江波首相やオールグレン副大統領の見立てではあったのだけど。
仄聞するに、とち狂った同志大使閣下からはつい先日も――。
「ええい! いっそ『ハコダテが再び灼かれたりすると言う様な悲劇には、なって欲しくないものですな』くらいは、言ってやるべきだろうが!?」
などと、怒りに任せての強硬な意思表示の発言までもが飛び出したのだそうで……。
「そんな代物、いったい何処に〝使える〟と言うのですか!? だいたい反応兵器なら日本人も、統一戦争で接収しているでしょう? 何の脅しにもなりませんよ!」
もちろん即座にマレンチョフ大佐から、そう一言の下に斬って捨てられ。流石に黙らされていたとの事ではあったが。
しかし、泥酔しての放言だと言ってもだ。
仮にも現状における最上位者の立場に在る公人が、およそ口にしてよいものでは無い類の。
そして基本的に穏健な日本人であっても。
流石に公でそれを口にしたら破局だぞ? となるのは必至な、〝冗談では済まない発言〟に他ならないわけだが。
そんな願望を無思慮に喚き散らかすレベルにまで、もはや完全に壊れてしまっているのか……と言う事で。
きちんと現実が見えているマレンチョフ大佐としては。
「ああ、これは駄目だな……」
と、完全に匙を投げる決定打になったと言う事で。以降はもう腹を括って。
さながら〝現代版の主君押込〟が如き状態を執る形で。転移した全「ソビエト」を、彼ら軍部の主導で統制する非常時体制に移行させるのと共に。
日常的にパイプが構築されている「日本国」の政府・自衛隊や、在日合衆国軍側との間を繋ぐ表裏双方での連絡チャンネルも全力で使う事で。
故意は論外――それが偶発的なものであろうと、同じだけれども。
現在の〝状況〟を更に悪化させる悲劇にしかならないだろう、不測の事態が生起する様な不幸だけは避けたいと思っていると言う一点では一致出来るのだと、通ずる事により。
未然の抑止を図りながら、どうにか穏当に事態を落着させるべく奮闘していたのであった。
同志駐日大使の事実上の〝排除〟についても。
その格好としてならばまだ穏当な体ながら、一種のクーデターに類するものには違いなかったわけだけれども。
とは言え、向かい合う「日本国」や「合衆国」(分離体)らの側としても。
それで「ソビエト」(分離体)内部がきちんと統制され。互いに望まない〝不測の事態〟が生じないよう、コントロールが効いた上での。
窓口としても、まともに機能するものとなってくれるのであれば。
大っぴらに公言は出来ないまでも、肚の内では「歓迎だ」と言う事になってしまう話でもあるのは事実だったので。
ひとまずはそんな体制に移行した、そして北サハリンの地からは追い出される事となった「ソビエト」(分離体)の同志諸君の今後の途行きを、どう落着させるか? と言う辺りでの。
そもそもの発端でもある、〝脱ソ入日〟を選択して走り出した北サハリンの元人民たちへのそれとも、包括される格好でもっての対応が。丁々発止で進行中なのだった。
『まあ、こんな天変地異に出遭わなければ。そもそも的に起こりえなかった〝状況〟である事は、間違いないだろうけれどもね……』
そう前置きをした上で、オールグレン副大統領は。微苦笑をない交ぜに江波首相を見やって続ける。
『とは言え、今回の手並みは実に見事だったと思うよ? 健一郎』
率直な賞賛を受けた江波首相だったが、しかし当の本人は複雑そうな表情で応ずるのだった。
『ありがとう、マーカス。……とは言え、今般の〝状況〟の御膳立てについては、あくまでアスラノフ局長の尽力に帰すものだからね』
実際のところ、良い意味で傑物であるとの評価を、江波首相が国際的に受けているのは。
客観的な事実として、何ら間違いでは無かったのだが。
とは言え、そんな彼であっても。そこはやはり、良くも悪くも〝現代の日本人〟なれば。
今般の時空転移による未曽有の変転と言う状況を、(好機!)と見て。
「北サハリンの地を奪いに行こう!」
などと考えたりする様な事は、微塵も無かった。
にも関わらず、そんな前提を覆すに至ったのは。まさに彼自身の言葉の通りに。
北サハリンの住民たちのその民意を背負いし民政局長のミハイル・アスラノフ――。
盤面それ自体をひっくり返す、ジョーカーたる人物の登場と言う変数要素が故に他ならなかった。
時空転移発生の直前となる、昨年末に東京で開催中だった「パシフィック・アライアンス」(旧)の始まりとなる、加盟メンバーによる国際会合には。
北サハリン州政府の代表として、その彼も参加をしていた。
本来の「同盟」においては。環太平洋圏の――ひいては隣接するインド洋地域までも含めてになるが――広範な地域における、特亜大戦後の新たな集団安全保障体制の枠組み構築を目指すと言うその性質上から。
もちろん「ソビエト連邦」(新)自体は、蚊帳の外とされていたのだったが。
しかし同時にその一方で、旧の「同盟」とは。新たなる多国間経済連携の体制を構築する事も、両輪として目指す構想でもあったが故に。
その主要な一角を成す「日本国」とも密接に繋がる、環太平洋圏の重要な一地域としての位置付けで。
例外的に北サハリンのみが。多国間経済連携の方にだけ、単独で参加すると言う形でもって。
本国側と、加盟を希望する他の諸国・地域の双方から承認を得た上で、正式に加盟を果たしていたからだった。
そんな矢先に発生した、時空転移現象――。
それによって唐突に地球から分断され、未知なるこの異世界へと放り出される格好となってしまった……。
そんな驚天動地な事態の、当事者となってしまったわけであるから。
あまりの「現実」への驚愕で、しばし呆然とさせられる状態になったと言う点においてならば。
もちろんミハイル・アスラノフとて、余人と何ら変わらなかったのだけれども。
しかしそこから我に返って、信じがたいその「現実」をひとまず直視したその上で。
「これからどうするべきか?」
その命題を真剣に考えたその結果、次いで彼が起こした行動は――。
監視役として本国側から付けられて来ている秘書官の目を盗んで、単身抜け出し。
そして「日本国」政府へと、内密のコンタクトを取る事であった……。
「まあ、同志たち一般の習性として。基本的に自らの頭で判断すると言う事は不可能で、上意下達でしか動けないわけですから。急に上部との連絡が一切取れなくなって、困惑していたおかげですよね。その隙を、まんまと突く事が出来ました」
後に当時の状況を、苦笑交じりにそう述懐するアスラノフだったが。
そうして秘かに接触し、大胆な賭けに出るその相手となる「日本国」政府側も――江波政権なればこそ! と言う判断に至っていたのも、また事実であった。
「異世界への時空分断と言う、今般の非常事態を受けて。我々北サハリンとしてはこの際、日本への帰属と保護を請願したいと考えます」
要請を受け入れての緊急極秘会談の席上で、アスラノフからそう単刀直入に持ちかけられてしまって。
(まるで、戦国時代の大名たちの世界を見ているかの様だ……)
さしもの江波首相をして。思わずそんな心境にさせられる事となった、まさに〝ぶっとんだ提案〟であったわけだが。
とは言え、そこは江波首相も。
唐突に眼前へ湧いて出た、完全に想定外な提案ではあれど。現在、自分たちが置かれている前代未聞の〝状況下〟において。
そうする事によって得られるものの。その意味するところと意義を、たちどころに「理解」して。
盟友たる米台の両首脳にも、理解を得られる筈だと言う辺りの目算は立てたその上で。
自国としても「渡りに船だ」と言いえるものでもあろう、その提案に乗っかる事を即断する辺りは。
やはり今世紀最初の国難に直面しての舵取りを担い、乗り切ってみせた為政者としての覚悟が。
元よりのその素地を、更に研ぎ澄ましていたと言う事であったかもしれない。
かくして、時空転移による混乱で民間空路も一時的に停止を余儀なくされている中、特別便として飛ばす航空自衛隊の連絡機を出し。
北サハリンの州都、旧名ノグリキへとそのまま迅速にアスラノフを帰還させ。
こちら側の同志たちが、状況による混乱から立て直すその前に。
民政局による、時空転移に起因した未知なる異世界への孤立と言う現実の追認と併せての。
北サハリンの事実上の独立の是非を問う、緊急住民投票を電撃的に実施してしまえる様にする為の支援を行っていたのだった。
実のところ江波首相としては。事がそう都合よく運ぶとまでは、正直思っていなかったのだけれども。
要はそうした試みで以て、実際に足元を揺さぶる事により。
同地でソビエトの後継国になると目されていた、こちらの同志たちに対しての。
「資源国としての強みを盾に、転移前の〝感覚〟のままでの振る舞いを続けるなどと言う真似が。現実として許容される状況では無い事を認識せよ」
と言う、実感を伴った警告を与える事を通じての牽制になるだろう。
そんなつもりであったのに。
ところが蓋を開けてみれば、その結果は――予測をも遙かに超えた圧倒的な大差でもって。
「日本国」への帰属と保護を求めると言う民意が、示されてしまったわけなので。
当の現地住民たちが抱いている状況への危機感と。同時に本国側に対する忌避感のその度合いと言うものが。
まさにぐうの音も出せなくなる程の如実さで可視化されてしまう、なんとも無慈悲な顛末となっていたのであった。
かくして、現状下においてはその重要度もまた比類無い程に高まっている地下資源を産出する土地を押さえるのみならず。
同時に、本来であればそこを掌握する筈だった「サハリン・ソビエト共和国」――すなわち「ソビエト連邦」(新)の後継国と言う〝扱いの難しい存在〟の誕生までをも、未然に頓挫させた。
まさに嬉しい誤算の極みだとも言えそうな、喜劇的な現実を生じさせる結果となっている事に。
流石にいささか引き気味な思いも覚えさせられながら。それでも目の前の状況を着実に進める事に邁進している、江波首相以下の日本国政府となっていたのだ。
そして、もしそれが無かりせば保持していた筈の土地と国民から。
青天の霹靂で放逐されて、根無し草の立場となってしまった「ソビエト連邦」(新)の政府関係者や軍人たち。
その彼らが選ぶ事にした、次善の方策となったのは――。
転移範囲内において、在外公館以外に自国の領土を有していない多くの諸国民たちが。
今後に入植先となる地で新たに建国する、自国の継承体となる連邦制のミニ国家の一つで。
西欧系諸国民たちによる新国家となる、「EAC」の構成邦として。
表看板としてならば、それなりのものではあるその駐留兵力を手土産に。
有力な一角として加わる事で、内部における発言力を確保すると言う結論だった。
分離体のソビエトを掌握する様になった「同志たち」としても。
「次善の選択としては、それよりか他になかろう?」
と、是非もなしな状況である現在に至っては。そうやって切り換えて行くしかあるまいと。
ある意味ではしたたかに、自分たちの置かれた状況に向き合っていたのであった。
そうした経緯で。必須の戦略物資である地下資源の産地、北サハリンは。
以後「日本国」の施政権下に帰す流れでもって、落ち着こうとしていたわけだが。
それは、この異世界でゼロからやって行かねばならないと言う状況を共にしている、他の元地球人類たちからすれば。
基本的には歓迎されるべきものだと。そう認識されるものであった事もまた、間違いなかった。
存立基盤維持の為には必須な、それらの資源も。当面の間は配給を得られなければ、立ち行かない事は自明である中で。
「その出元が露助に握られているのではなく。良くも悪くも〝公正に〟粛々と実施するであろう事は疑い無い、日本の手に委ねられていると言う方が。よっぽど安心である」
共に転移した他の多くの諸国民たちのほとんどが。普通にそう思っているわけで。
ましてや日本と同様、ほぼ一国が丸ごと転移してしまっている格好な「台湾国」と。
ほんの僅かながらも、マリアナ諸島を伴って来ている格好ではある分離体の「合衆国」にとっても。
基本的なその立場においては、相違があるわけではないからこそ。
現状においては、一夜にして〝比類無き一強〟の立場となってしまったからと言って。
それで豹変して、極端に走るなどと言う様な事は、まずあるまい……。との信頼感を抱ける盟友――今日の「日本国」の手に委ねておくと言うのが。
「現状の我々に、身内で争い合っている様な余裕など無いのだ」
と言う、異世界へ転移してしまった今般の状況に対しての。
李登輝元総統からの指摘にも即すものである筈だと。
江波首相に李氏への、「同盟」初代トップ就任を要請する事を決意させた理由でもあったその認識を。
オールグレン副大統領と呉総統もまた、確信しているからでもあった。
だからこそオールグレン副大統領はそこで、〝また別な視点〟からの見解でもって更に返す。
『健一郎、君はそう言うがね。私としては個人的にも、少しばかり快哉を上げたい様な感慨に浸らされてもいるんだ』
どういう事かと? 呉総統まで揃って訝しげな表情になる中、江波首相へ向けて。
彼に対するものではない、ある種の皮肉もない交ぜに。オールグレン副大統領は続ける。
『現状はまだ。健一郎、貴君と言う〝希有な個人〟のその覚悟に依拠してのものではあるだろう。それでも、こうした危機的な状況に直面した場合に。それが本当に必要な事ならば、断行すると言う意志を現実に示した事は――』
一旦、そこで言葉を切ったオールグレン副大統領は。
その言わんとするところを理解した呉総統からも、同意の頷きが示されるのを見つつ続ける。
『それは、「〝あの〟日本が!? 名実ともに、普通の国になろうとしているのだな……!」と言う感慨も伴って。共に転移した、諸国民たちに対しても。その覚悟を何より雄弁に示すものとなるのだからね……』
それまでの前提が、完全に覆ってしまったこの超常現象下において。
異世界に転移した諸国民たちの中における、圧倒的なスーパーパワーの立場になってしまった「日本国」である。
その存在の大きさは――すなわち、そんな日本の有り様が。
否応なしで、転移した他の諸国民の運命そのものをも、同時に左右する事になる……。
今や、そうした立場へのパラダイムシフトが生じてしまっているからには。
「日本もまた、変わらなければならない」
とのその意志を、実際の行動で以て内外へ明示的に示してみせると言う事が。
現在と今後、双方を見据えた上での必然的なものとしても。やはり必要であった……と言う話なのだった。
そして――。
「指導者には、強運もまた必要な〝その資質〟の内の一つである」
との格言を踏まえるならば。
確かに、着想それ自体は。ミハイル・アスラノフと言う、若く(政治指導者としての年齢基準での話)有能な他者によるものではあったのだとしても。
それを受けての決断自体は、れっきとした江波首相が自らの「力量」を示したものであって。
そうして手繰り寄せたその〝結果〟も――そうやって自身が業績と出来るものであるに他ならない。
文字通りに、まだまだ未知なる地であるこの異世界で。否応無しの運命共同体となっている元地球人類が。
まがりなりにも〝内輪で〟争い合う事無しに、足下を固めて行かねばならないこの先を担保する「主柱」として。
しっかりしてもらわねばならない「日本国」が。
その立ち位置に相応しい態度を、そうして見せ付けたと言う事実こそが、何よりも大きかったのだと言えよう。
「有事における規範は、平時のそれと同じでは無いし――同じであってはならない」
そうした〝現実〟とも正面から向き合い、堂々と突破してのけた後だからこそ。
いざとなればそれが出来る国である事を証してみせた「日本国」の主張にも、畏怖を交えた重みも生じれば。
当面の間は、頼みにして大丈夫そうだ……と言う、その意味での他の各国の信頼感もまた。
そうであってこそ、得られるものともなって来るわけで。
現在この時に。最も肝要なそうした〝状況〟へと見事に導いた、盟友のその手腕を。
だからこそオールグレン副大統領と呉総統の両者も、高く評価していたのだった。
『そうですね。そして、それだけでなく同時に。会談で江波首相の心を動かしたと言う、アスラノフ局長の言葉――
「自らの尊厳を貫いて闘い、真の独立を勝ち取った台湾国の人々のその軌跡に倣いたいと。我々も、そう思っているのです」
――それを言われてしまったなら、台湾国としても。彼らの選択を是とし、支持する以外の方策は有り得ませんでしたよ……』
その一方では。政治的な理由のみならず、民主主義を奉じる社会の人間としての〝精神〟の部分でも。
敬意を込めての、降参の意を吐露する呉総統の言葉に。
『ええ。そんな意志を示されてしまっては、無下には出来ませんでしたね……』
そしてそう首肯する江波首相にも。オールグレン副大統領もまた、破顔して頷いて見せる。
その政治的なメリットと共に。それだけでなく、心情的な方面からも彼らを動かすに値した、アスラノフからの言葉もまた。
転移までの間、彼らが懸命に取り組んで来たその途が。期せずして播いていた種が――。
今、異世界への時空転移と言うパラダイムシフトを受けて新たに芽吹いて来たのだと言う事に、他ならなかったわけだから。
『俗に言う「天は自ら助くる者を助く」と言う格言の、その本当に意味する処とは。こういう状況を言うのかもしれない……。そんな気がしていますね』
困難な状況に立ち向かっている、為政者の立場に在る者としてささやかに、けれどもある意味では冥利と言えそうな形でもって報われた。
そうした格好であるのかもしれないと言う想いで晴れやかな顔をする、オールグレン副大統領の言葉に。
江波首相と呉総統もまた、よい笑顔でもって応ずるのだった。
そうして〝内政的な外交〟とでも言うべき、自分たちの間での内輪の問題をひとまず落ち着かせて。
どうしたって手探りとならざるを得ない、エリドゥの国家相手の本格的な外交に臨む。その段階へと進めて行く為の下準備も、ようやく整えられた格好ではある。
ひとまず探査に進出して行った「フロンティア大陸」の地にて歴史的な遭遇を果たした、この異世界の人類種たちの。
その母国であると言う「マズダ連合」なる国家との〝接触〟は、いずれ既定路線となっていたわけだが。
しかし、更にそこへと割りこむ様な、また別のそれが――思いがけない方面から、新たに生じて来そうな状況だと言う知らせが舞い込んで来てもおり。
その意味でも彼らには尚更。まずは内輪の体制を早急に整える必要に迫られていると言う事情が在った事も、間違いなかった。
『こうして足下を固めて。ようやく彼方に対しても、向き合う段へと移る事が出来そうな処まではとりあえず漕ぎ着けられたわけですが。やはり〝相手〟の在る事は、判らないものですね……』
(たとえ世界が違おうとも。結局のところ〝ヒトの世〟と言うもののその有り様は、何ら変わる事はない様だ……)
諦観ではなく、達観して歩み続けて行く。想いを込めての微苦笑でそう呟く江波首相に。
頷き返して同意を示す、オールグレン副大統領と呉総統。
彼らの間には、確固たる信念と。そして困難な状況だからこそ前を向くと言う、健全な意志が共有されていた。
この異世界でも、変わる事無く自分たちの奉ずる〝その途〟を。貫き続けて行く、その為に――。
そんな具合に歩み出された、元地球人たる彼らが主導する「同盟」の存在は。ただ単に彼らの足下を確立するのみに止まらず。
やがてはこの異世界エリドゥの有り様さえをも、大きく変えて行く事になるのであった……。
拙作の世界線での「設定」上においては、「第5世代戦闘機」のその定義が≠ステルス機と言う、史実とはややその状況を異にしております。
(基礎設計段階からそれへの配慮は盛り込まれている事も、その構成要件の一つではありますが)
従って、今話で登場のMiG-33〔フラットパック〕や、既に「漂流者たち②」の回で登場済みのFA-2/ダッソー・〔ラファール〕なども、
本作品世界においては「第5世代戦闘機」であると言う事になります。
※連動して。本作品世界における「第4.5世代戦闘機」とは、F-14J改〔スーパートムキャット〕の様な、
「第4世代戦闘機」として誕生し、それを魔改造的なアップデートで強化した発展向上型の機種のみを指す区分だと言う事になっております。
(F-14J改〔スーパートムキャット〕などはむしろ、現実のロシア機式な「第四世代++戦闘機」と称した方が、実態に即してはいそうですが……)





