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「同盟」体制への途(後編)★画像あり

たいへんお待たせを致しました(汗)

ようやくの事で更新です。


再び場面は、日・米・台の三か国首脳たちのやり取りに戻ります。

(承前)



 画面(モニター)の向こうで、江波(えば)健一郎(けんいちろう)「日本国」首相が唐突に大きなくしゃみをした為に――。

 オンラインで開催中の三カ国(日・台・米)首脳会談は、不意の中断をみる事となった。


『流石に、少々(いささか)お疲れでしょうか?』


 上体を大きく前に折らせる程の、豪快な一発(・・・・・)であった事から。

 そう気遣わしげに声をかける、「台湾国」の呉明正(ごめいしょう)総統。


 それはお互いさまでもあるわけだけれども、気の休まる暇も無い激動的に過ぎる日々が。

 その相手を戦争から天変地異(時空転移)へと変えて(チェンジして)にわか(・・・)に再開(・・・)となってしまった状況の中へ身を置き続けており。


 しかも寒さが一番厳しくなる時期を、再び迎えているわけだからして。

 いささか体調を崩したとしても、無理はなさそうな処ではあるわけだったが。


 とは言え、やはりそこは立場のある者同士。

 気遣いはしつつも、それ(・・)が状況判断に与える悪影響と言うものを常に懸念しなければならない、因果な立場だと言う事にもなってしまうので。


 二重の意味で、気掛かりになるのもむべなるかなと言う話になるのだった。


『と言うより、どこかで誰か(・・)に噂でもされているのでは?』


 と、冗談めかした表情で「合衆国」(分離体)のマーカス・オールグレン副大統領(大統領代行)も、そこでやり取りに加わる。


 もっとも、そこはオールグレン副大統領(大統領代行)も。

 本当に体調が悪そうに見えたのならば、そうした事は言わないのは無論の話でそんな軽口も交えての反応を返しているわけなので。


 言われた江波首相の方もすぐに立て直して、同様に苦笑気味な表情で返した。

『いや、失敬。……本当に、誰かから噂されて(・・・・)いるかもしれませんが』


『確かに。〝どこかの寒い国〟の方から、かもしれない……』


 冗談めかしつつ、際どい方へ切り込むオールグレン副大統領(大統領代行)の物言いに。

 江波首相と呉総統の表情も、いよいよ明確な苦笑へ変わる。


 実際、転移組(こちら側)における〝どこかの寒い国〟の駐日大使(序列トップ)からは。

 もはや呪詛(じゅそ)と呼んだ方が実態に近いのでは? と言うレベルで怨み(ヘイト)を買っているであろう事に関しては、疑いなかったわけだけれども。


『まあ、そう言った怨恨(類の感情)の対象になると言う事においてならば。我々(・・)は皆、そうした立場に在るのは今更の話ですしね……』


 苦笑は浮かべつつ、事も無げにそう応じる江波首相に。

 盟友たる米台両国の首脳もまた、同様な苦笑を浮かべた頷きを返す。


 一国の為政者(最高執権者)と言うのは。そうした「負の人気商売」としての一面も、常に付いて回る立場。

 そうであるが故に、一身に向けられる内外からの様々な負の感情などは、当たり前(・・・・)のもの(・・・)でしかない。


 大事なのは、それが何かしらの〝現実の脅威〟として具現化する様なものではない――そうならない(変じる事のない)限りにおいては。

 いちいち目くじらを立てずに許容するのが、健全な民主主義社会の在り方と言うものであると。


 自由で開かれた、民主主義の体制を奉ずる国の政治家として。

 そうあるべきだと確信している者ならではの態度(強さ)で、揃って泰然としているのだったが。


 同時にそれは。まだ一応、婉曲的に挙げられてはいる同志札付き(駐日ソビエト大使)が如きは。

 現実においては何らの脅威にもなり得ない、ただ虚しく吠えているだけの負け犬に過ぎないと。既に見切っていると言う事でもあった。


 もちろん、転移直前までの「特亜大戦」の状況下では。

 双方からの(・・・・・)その飛び火を警戒する「ソビエト連邦」(新)側としても。

 北サハリン(サハリン特区自治州)駐留兵力に対しての一時的な増派を行うなど、対応も行っていた中で今般の時空転移が発生したわけなので。


 結果、同地にはソビエト(新)空軍の最新鋭(第5世代)戦闘機であるMiG-33〔フラットパック〕に代表される、西側諸国からも精鋭との評価を受けている戦力が展開したままとなっており。


挿絵(By みてみん)


 万が一にも、それらを用いての〝悪あがき〟をされる様な動きがあったりすれば、面倒だ(・・・)……と言う話にはなるわけだが。


 とは言え、駐在武官のマレンチョフ大佐をはじめ、極東方面に配置の軍人(赤軍の)同志たちは。

 既にソビエト(旧)の時代(ころ)から常態化していた、同方面の艦艇や作戦機と言った装備(運用機材)の重整備への〝支援〟――と言う名の、事実上は「赤い日本」側への委託(とのバーター取引)であったが。南日本(「日本国」)による統一後にも、そのまま引き継がれる形になっていたそれら――に加えて。


 定期的な実施が行われる様になった、自衛隊や海保。時には在日合衆国軍をも交えての、共同(国際親善)訓練と言った日頃の(頻繁な)交流(・・)を通じて。

 既によくよく思い知らされて(痛感させられて)いる、〝彼我の懸絶したその実力差〟を前に。


 現状、まかり間違っても日米(彼ら)と事を構えるなどと言う〝馬鹿げた妄想〟に同調する様な真似は、ナンセンスの極みだと言うのを。

 いやが応にも理解せざるを得なくなっているわけなので。


 その意味ではある程度、安心して見ていられる筈だと言うのが。

 江波首相やオールグレン副大統領(大統領代行)見立てではあった(現状認識となっていた)のだけど。


 仄聞するに(聴くところによれば)、とち狂った同志大使閣下(ゴロジェツキー)からはつい先日も――。

「ええい! いっそ『ハコダテが再び(・・)()かれたりすると言う様な悲劇(こと)には、なって欲しくないものですな』くらいは、言ってやるべきだろうが!?」


 などと、怒りに任せての強硬な意思表示(反応兵器を示唆し恫喝)発言(口走り)までもが飛び出したのだそうで……。


「そんな代物(モノ)、いったい何処に〝使える〟と言うのですか!? だいたい反応兵器なら日本人(ヤポンスキー)も、統一戦争で接収(とっくの昔に保有)しているでしょう? 何の脅しにもなりませんよ!」 


 もちろん即座にマレンチョフ大佐から、そう一言の下に斬って捨てられ。流石に黙らされていたとの事ではあったが。


 しかし、泥酔して(いかに大虎で)の放言だと言っても(ではあるにしても)だ。

 仮にも現状(こちら)における最上位者(序列トップ)の立場に在る公人が、およそ口にして(垂れ流して)よいものでは無い類の。


 そして基本的に穏健な日本人(ヤポンスキー)であっても。

 流石に公でそれを口にしたら(言っちゃあ、)破局だぞ?(おしめえよ!) となるのは必至な、〝冗談では済まない(のっぴきならない)発言〟に他ならないわけだが。


 そんな願望(腹の内)無思慮に(ブレーキも無効で)喚き散らかすレベルにまで、もはや完全に壊れて(イカれて)しまっているのか……と言う事で。


 きちんと現実(・・)が見えているマレンチョフ大佐としては。

「ああ、これは駄目だな……」


 と、完全に匙を投げ(見切りを付け)る決定打になったと言う事で。以降はもう腹を括って。

 さながら〝現代版の主君(しゅくん)押込(おしこめ)〟が如き状態を執る形で。転移した(こちら側の)全「ソビエト」を、彼ら軍部(駐留軍)の主導で統制する非常時体制に移行させるのと共に。


 日常的にパイプが構築されている「日本国」の政府・自衛隊や、在日合衆国軍側との間を繋ぐ表裏双方での連絡(意思疎通)チャンネルも全力で使う(フルオープンにする)事で。


 故意(・・)は論外――それが偶発的なものであろうと、同じだけれども。

 現在の〝状況〟を更に悪化させる悲劇(結果)にしかならないだろう、不測の事態(相互の武力衝突)が生起する様な不幸だけは避けたいと思っていると言う一点(意志)では一致出来るのだと、通ずる事により。

 未然の抑止を図りながら、どうにか穏当に事態を落着させるべく奮闘していたのであった。


 同志駐日大使(ゴロジェツキー)の事実上の〝排除〟についても。

 その格好としてならばまだ穏当な(・・・)体ながら、一種のクーデターに類するものには違いなかったわけだけれども。


 とは言え、向かい合う「日本国」や「合衆国」(分離体)らの側としても。

 それで「ソビエト」(分離体)内部がきちんと統制され。互いに望まない〝不測の事態〟が生じないよう、コントロールが効いた上での。

 窓口(交渉相手)としても、まともに機能するものとなってくれるのであれば。


 大っぴらに公言は出来ないまでも、肚の内では(本音としては)「歓迎だ」と言う事になってしまう話でもあるのは事実だったので。


 ひとまずはそんな体制に移行した、そして北サハリンの地からは追い出(パージ)される事となった「ソビエト」(分離体)の同志諸君の今後の途行き(行き先)を、どう落着させるか? と言う辺りでの。

 そもそもの発端でもある、〝脱ソ入日〟を選択(宣言)して走り出した北サハリン(サハリン特区自治州)元人民たち(・・・・・)へのそれとも、包括される(抱き合わせとなる)格好でもっての対応が。丁々発止で(すったもんだしながら)進行中なのだった。



『まあ、こんな天変地異(想像を超えた事態)に出遭わなければ。そもそも的に起こりえなかった〝状況〟である事は、間違いないだろうけれどもね……』


 そう前置きをした上で、オールグレン副大統領(大統領代行)は。微苦笑をない交ぜに江波首相を見やって続ける。

『とは言え、今回の手並みは実に見事(鮮やか)だったと思うよ? 健一郎(ケン)


 率直な賞賛を受けた江波首相だったが、しかし当の本人は複雑そうな表情で応ずるのだった。

『ありがとう、マーカス(マーク)。……とは言え、今般の〝状況〟の御膳立てについては、あくまでアスラノフ局長の尽力(・・)に帰すものだからね』


 実際のところ、良い意味で傑物である(日本人ばなれしている)との評価(尊敬)を、江波首相が国際的に(諸外国から)受けているのは。

 客観的な事実として、何ら間違いでは(ひいき目でも何でも)無かったのだが。

 

 とは言え、そんな彼であっても。そこはやはり、良くも悪くも〝現代の(・・・)日本人〟なれば。

 今般の時空転移による未曽有の変転と言う状況(「現実」)を、(好機!)と見て。

「北サハリンの地を奪い(獲り)に行こう!」


 などと考えたりする(言う発想に至る)様な事は、微塵(みじん)も無かった。


 にも関わらず、そんな前提を覆すに至ったのは。まさに彼自身の言葉の通りに。


 北サハリン(サハリン特区自治州)の住民たちのその民意を背負(民主主義で選出された)いし民政局長の(実質的なリーダーたる)ミハイル・アスラノフ――。

 盤面(状況)それ自体(そのもの)をひっくり返す、ジョーカーたる人物(存在)登場(決起)と言う変数要素(・・・・)が故に他ならなかった。


 時空転移発生の直前となる、昨年末(クリスマス前)に東京で開催中だった「パシフィック・アライアンス」(旧)の始まり(スタート)となる、加盟メンバー(関係諸国・地域)による国際(首脳)会合には。

 北サハリン(サハリン特区自治州)州政府(〝地域〟)の代表として、その彼(アスラノフ)も参加をしていた。


 本来の(地球世界での)同盟(PA)」においては。環太平洋圏の――ひいては隣接するインド洋地域までも含めてになるが――広範な地域における、特亜大戦(今般の戦争)後の新たな集団安全保障体制の枠組み構築を目指すと言うその性質上から。

 もちろん「ソビエト連邦」(新)自体は、蚊帳の外(「お呼びでない」)とされていたのだったが。


 しかし同時にその一方で、旧の「同盟」(本来の「PA」)とは。新たなる多国間経済連携の体制を構築する事も、両輪として目指す構想(もの)でもあったが故に。

 その主要な一角を成す「日本国」とも密接に繋がる、環太平洋圏の重要な一地域(・・・)としての位置付けで。


 例外的に北サハリン(サハリン特区自治州)のみが。多国間経済連携の方にだけ(分野に限って)単独で(地域として)参加すると言う形でもって。

 本国側(ソビエト政府)と、加盟を希望する他の諸国・地域の双方(それぞれ)から承認を得た上で、正式に加盟(メンバー入り)を果たしていたからだった。


 そんな矢先に発生(遭遇)した、時空転移現象(前代未聞な出来事)――。

 それによって唐突に地球(いきなり元の世界)から分断され、未知なるこの異世界(惑星エリドゥ)へと放り出される格好となってしまった……。


 そんな驚天動地な事態の、当事者となってしまったわけであるから。

 あまりの(理解を超える)「現実」への驚愕で、しばし呆然とさせられる状態になったと言う点においてならば。

 もちろんミハイル・アスラノフとて、余人と何ら変わらなかったのだけれども。


 しかしそこから我に返って、信じがたい(・・・・・)その「現実」をひとまず直視したその上で。

「これからどうするべき(事が最善)か?」


 その命題を真剣に考えたその結果、次いで彼が起こした行動は――。

 監視役(お目付役)として本国(ソビエト)側から付けられて来ている秘書官(・・・)の目を盗んで(潜って)、単身抜け出し。

 そして「日本国」政府へと、内密のコンタクトを取る事であった……。

 

「まあ、同志たち一般(大多数)習性(・・)として。基本的に自らの頭で判断すると言う事は不可能で、上意下達でしか動けないわけですから。急に上部と(モスクワから)連絡(指示)が一切取れ(得られ)なくなって、困惑して(の極みに)いたおかげですよね。その隙を、まんまと突く事が出来ました」


 後に当時の状況を、苦笑交じりにそう述懐するアスラノフだったが。

 そうして秘かに接触し、大胆な賭けに出る(〝提案〟を持ちかける)その相手となる「日本国」政府側も――江波政権(首相相手)なればこそ! と言う判断に至っていたのも、また事実であった。


「異世界への時空分断(転移)と言う、今般の非常事態(前代未聞な状況)を受けて。我々北サハリン(サハリン特区自治州)としてはこの際、日本(貴国)への帰属と保護を請願したいと考えます」


 要請を受け入れての緊急極秘会談の席上で、アスラノフからそう単刀直入に持ちかけられてしまって。

(まるで、戦国時代の大名(武将)たちの世界(〝感覚〟)を見ているかの様だ……)


 さしもの江波首相をして。思わずそんな心境にさせられる事となった、まさに〝ぶっ(想定外もいい)とんだ提案〟(ところな打診)であったわけだが。


 とは言え、そこは江波首相も。

 唐突に眼前へ湧いて出た、完全に想定外な提案(こと)ではあれど。現在(いま)、自分たちが置かれている前代未聞の(時空転移と言う)〝状況下〟において。

 そうする(それにと乗っかる)事によって得られるもの(・・・・・・)の。その意味するところと意義を、たちどころに「理解」して。


 盟友たる米台の両首脳にも、理解を得られる筈だと言う辺りの目算は立てたその上で。

 自国としても「渡りに船だ」と言いえるものでもあろう、その提案に乗っかる事を即断する辺りは。


 やはり今世紀最初の(「特亜大戦」と言う)国難に直面しての舵取りを担い、乗り切ってみせた為政者としての覚悟(経験)が。

 元よりのその素地(・・・・)を、更に研ぎ澄ましていたと言う事であったかもしれない。


 かくして、時空転移による混乱で民間空路も一時的に停止を余儀なくされている中、特別便(・・・)として飛ばす航空自衛隊の連絡機(MU-300)を出し。

 北サハリン(サハリン特区自治州)の州都、旧名ノグリキ(セヴェルサハリンスク)へとそのまま迅速にアスラノフを帰還させ。


 こちら側の同志たち(ソビエトの代政府)が、状況(時空分断)による混乱から立て直すその前(までの間)に。

 民政局による、時空転移に起因した未知なる異世界への孤立と言う現実の追認(周知)と併せての。

 北サハリン(サハリン特区自治州)事実上の独立(日本への帰属変え)の是非を問う、緊急住民投票を電撃的に実施してしまえる様にする為の支援を行って(便宜を図って)いたのだった。


 実のところ江波首相としては。事がそう都合よく運ぶとまでは、正直思っていなかったのだけれども。

 要はそうした試みで以て、実際に足元を揺さぶる(・・・・)事により。


 同地でソビエトの後継国(分離体)になると目されていた、こちらの(共に転移した)同志たち(・・・・)に対しての。


「資源国としての強み(・・)盾に(以て)転移前の(これまでと同様な)〝感覚〟のままでの振る舞いを続けるなどと言う真似(こと)が。現実として許容される状況では無い事を認識(自覚)せよ」


 と言う、実感を伴った警告(・・)を与える事を通じての牽制になるだろう。

 そんなつもりであったのに。


 ところが蓋を開けてみれば、その結果は――予測(想定)をも遙かに超えた圧倒的な大差でもって。

 「日本国」への帰属と保護を求めると言う民意が、示されてしまったわけなので。


 当の現地(サハリン)住民たちが抱いている状況(現実)への危機感と。同時に本国(ソビエト)側に対する忌避(不信)感のその度合い(・・・・・)と言うものが。

 まさにぐうの音も出せなくなる程の如実さで可視化されてしまう、なんとも無慈悲な顛末(てんまつ)となっていたのであった。


 かくして、現状下においてはその重要度もまた比類無い程に高まっている地下資源(石油と天然ガス)を産出する土地を押さえるのみならず。

 同時に(連鎖反応的に)、本来であればそこを掌握する筈だった「サハリン・ソビエト共和国」――すなわち「ソビエト連邦」(新)の後継国(分離体)と言う〝扱いの難しい存在〟の誕生(成立)までをも、未然に頓挫させた(阻止する格好となった)


 まさに嬉しい誤算(・・・・・)の極みだとも言えそうな、喜劇的な現実を生じさせる結果となっている事に。

 流石にいささか引き気味な思いも覚えさせられながら。それでも目の前の状況を着実に(淡々と)進める事に邁進している、江波首相以下の日本国政府となっていたのだ。


 そして、もしそれが無かりせば保持して(手にできて)いた筈の土地(領土)国民(人民)から。

 青天(せいてん)霹靂(へきれき)放逐(縁切り)されて、根無し草の立場となってしまった「ソビエト連邦」(新)の政府関係者や軍人たち。

 その彼らが選ぶ事にした(選ぶより他なくなった)、次善の方策(みち)となったのは――。


 転移範囲内において、在外公館以外に自国の領土(主権)を有していない多くの諸国民たちが。

 今後に入植先となる(フロンティア大陸の)地で新たに建国(・・)する、自国の継承体となる連邦制のミニ国家(マイクロステート)の一つで。

 西欧系(キリスト教圏)諸国民たちによる新国家となる、「EAC(欧亜州共同体)」の構成邦(メンバー)として。


 表看板としてならば、それなりのものではある(・・・・)その駐留兵力(手元の軍事力)を手土産に。

 有力な一角として加わる事で、内部(その中)における発言力(序列上位)を確保すると言う結論だった。


 分離体(こちら側)のソビエトを掌握(主導)する様に(立場と)なった「同志たち」(マレンチョフ大佐ら)としても。

「次善の選択(みち)としては、それよりか他になかろう?」


 と、是非もなしな(外堀はもう埋められた)状況である現在(いま)に至っては。そうやって(不承不承でも「現)切り換えて(実」を受け入れて)行くしかあるまいと。

 ある意味ではしたたかに、自分たちの置かれた(失態が招いた)状況に向き合って(の中で懸命に足掻いて)いたのであった。


 そうした経緯(わけ)で。必須の戦略物資である地下資源(石油と天然ガス)の産地、北サハリン(サハリン特区自治州)は。

 以後(ひとまず)「日本国」の施政権下に帰す流れでもって、落ち着こうとしていたわけだが。


 それは、この異世界(惑星エリドゥ)でゼロからやって行かねばならないと言う状況(運命)共にしている(強いられる事となった)、他の元地球人類(多くの諸国民)たちからすれば。

 基本的には歓迎されるべきものだと。そう認識されるものであった事もまた、間違いなかった。


 存立基盤維持の為には必須(不可欠)な、それらの資源も。当面の間は配給(供与)を得られなければ、立ち行かない事は自明である中で。

「その出元が露助(イワン)に握られているのではなく。良くも悪くも〝公正に〟粛々(きちん)と実施するであろう事は疑い無い、日本の手に委ねられていると言う方が。よっぽど安心(・・・・・・)である」


 共に転移した(巻き込まれてしまった)他の多くの諸国民たちのほとんど(圧倒的大多数)が。普通にそう思っているわけで。


 ましてや日本と同様、ほぼ一国が丸ごと転移してしまっている格好な「台湾国」と。

 ほんの僅かながらも、マリアナ諸島(自国の領土と住民)を伴って来ている格好ではある分離体(こちら)の「合衆国」にとっても。

 基本的なその立場においては、相違があるわけではないからこそ。


 現状(転移範囲)においては、一夜にして〝比類無き一強〟の立場となって(・・・)しまった(・・・・)からと言って。

 それで豹変して、極端に(覇権主義へと)走る(転向する)などと言う様な事は、まずあるまい……。との信頼感を抱ける(には揺るぎの無い)盟友――今日(こんにち)の「日本国」の手に委ねておくと言うのが。


現状(いま)の我々に、身内で(互いに)争い合っている様な余裕(・・)など無いのだ」


 と言う、異世界へ転移してしまった今般の状況(「現実」)に対しての。

 ()登輝(とうき)元総統からの指摘(警句)にも即すものである筈だと。


 江波首相に李氏への、「同盟(PA)」初代トップ(事務総長)就任を要請する事を決意させた理由でもあったその認識(言葉)を。

 オールグレン副大統領(大統領代行)と呉総統もまた、確信(共有)しているからでもあった。



 だからこそオールグレン副大統領(大統領代行)はそこで、〝また別な視点〟からの見解でもって更に返す。

健一郎(ケン)、君はそう言うがね。私としては個人的にも、少しばかり快哉(かいさい)を上げたい様な感慨に浸らされてもいるんだ』


 どういう事かと? 呉総統まで揃って訝しげな表情になる中、江波首相へ向けて。

 彼に対するものではない(・・・・)、ある種の皮肉もない交ぜに。オールグレン副大統領(大統領代行)は続ける。


現状(いま)はまだ。健一郎(ケン)貴君(きみ)と言う〝希有な個人〟のその覚悟(資質)に依拠してのものではあるだろう。それでも、こうした危機的な状況に直面した場合(とき)に。それ(・・)が本当に必要な事ならば、断行すると言う意志を現実に示した(実行してみせた)事は――』


 一旦、そこで言葉を切ったオールグレン副大統領(大統領代行)は。

 その言わんとするところを理解した呉総統からも、同意の頷きが示されるのを見つつ続ける。


『それは、「〝あの〟日本が!? 名実ともに、普通の国(・・・・)になろうとしているのだな……!」と言う感慨(おどろき)も伴って。共に転移した(運命共同体である、)、諸国民たち(こちらの全地球人類)に対しても。その覚悟(意志)を何より雄弁に示すものとなるのだからね……』


 それまでの(地球世界に在った時の)前提(・・)が、完全に(根底から全て)覆ってしまったこの超常現象(非常事態)下において。

 異世界(こちら)に転移した諸国民(元地球人類)たちの中における、圧倒的な(比類無き)スーパーパワー(突出した超・超大国)の立場になってしまった「日本国」である。


 その存在の大きさ(・・・)は――すなわち、そんな日本(自ら)の有り様が。

 否応なしで、転移した他の諸国民(全地球人類たち)の運命そのものをも、同時に左右する事になる……。


 今や、そうした立場へのパラダイムシフトが生じてしまっているからには。

日本(自分たち)もまた、変わら(・・・)なければ(・・・・)ならない」


 とのその意志を、実際の行動で以て内外へ明示的に示してみせると言う事が。

 現在(いま)今後(これから)、双方を見据えた上での必然(通過儀礼)的なものとしても。やはり必要であった……と言う話なのだった。

 そして――。


指導者(リーダー)には、強運(時の運)もまた必要な〝その資質〟の内の一つである」


 との格言を踏まえるならば。

 確かに、着想(事の発端)それ自体は。ミハイル・アスラノフと言う、若く(政治指導者としての年齢基準(尺度)での話)有能な他者によるものでは(からのアシストが)あったのだとしても。


 それを受けての決断(・・)自体(そのもの)は、れっきとした江波首相が自らの「力量」(ヴィルトゥス)を示したものであって。

 そうして手繰り寄せたその〝結果〟も――そうやって自身が業績と出来るものであるに他ならない。


 文字通りに、まだまだ未知なる地であるこの異世界(エリドゥ)で。否応無しの運命共同体となっている元地球人類(アーシアンたち)が。

 まがりなりにも〝内輪(身内)で〟争い合う事無しに、足下(生存圏)を固めて行かねばならないこの先(これから)担保(左右)する「主柱」として。


 しっかりして(どっしり構えていて)もらわねばならない「日本国」(圧倒的な強者)が。

 その立ち位置に相応しい態度(覚悟)を、そうして見せ付けた(示してみせた)と言う事実(・・)こそが、何よりも大きかったのだと言えよう。


「有事における規範(モラル)は、平時のそれと同じでは無いし――同じ(そう)であってはならない」


 そうした〝現実〟(一面の事実)とも正面から向き合い、堂々と突破してのけた後だからこそ。

 いざとなればそれが出来る国である事を証してみせた「日本国」の主張(その言葉)にも、畏怖を交えた重み(・・)も生じれば。


 当面の間(とりあえず)は、頼みにして大丈夫そうだ……と言う、その意味での他の各国の(諸国民からの)信頼感(・・・)もまた。

 そうであってこそ、得られるものともなって来るわけで。


 現在(いま)この時に。最も肝要なそうした〝状況〟へと見事に導いた、盟友(江波首相)のその手腕を。

 だからこそオールグレン副大統領(大統領代行)と呉総統の両者も、高く評価していたのだった。



『そうですね。そして、それだけでなく同時に。会談で江波首相の心を動かしたと言う、アスラノフ局長の言葉――

「自らの尊厳を貫いて闘い、真の独立を勝ち取った台湾国(・・・)の人々のその軌跡(みち)に倣いたいと。我々も、そう思っているのです」

――それを言われてしまったなら、台湾国(我が国)としても。彼らの選択(決断)を是とし、支持する以外の方策(選択)は有り得ませんでしたよ……』


 その一方では。政治的な理由のみならず(合理性だけではなしに)、民主主義を奉じる社会の人間(一員)としての〝精神(心情)〟の部分で(方面から)も。

 敬意を込めての、降参の意(参りました)を吐露する呉総統の言葉に。


『ええ。そんな意志(想い)を示されてしまっては、無下には出来ませんでしたね……』


 そしてそう首肯する江波首相にも。オールグレン副大統領(大統領代行)もまた、破顔して頷いて見せる。


 その政治的なメリット(意味に意義)と共に。それだけでなく、心情的な方面からも彼らを動かすに値した、アスラノフからの言葉もまた。

 転移まで(特亜大戦を巡って)の間、彼らが懸命に取り組んで(積み重ねて)来たその()が。期せずして播いていた(もの)が――。

 今、異世界への時空転移と言うパラダイ(有り得なかっ)ムシフト(た筈の大変容)を受けて新たに芽吹いて来たのだと言う事に、他ならなかったわけだから。


『俗に言う「天は自ら助くる者を助く」と言う格言の、その本当に意味する処とは。こういう状況(こと)を言うのかもしれない……。そんな気がしていますね』


 困難な状況に立ち向かっている、為政者の立場に在る者としてささやかに、けれどもある意味では冥利と言えそうな形でもって報われた。

 そうした格好であるのかもしれないと言う想いで晴れやかな顔をする、オールグレン副大統領(大統領代行)の言葉に。

 江波首相と呉総統もまた、よい笑顔でもって応ずるのだった。


 そうして〝内政的な外交〟とでも言うべき、自分たち(元地球人類)の間での内輪の(・・・)問題(状況)をひとまず落ち着かせて。

 どうしたって手探りとならざるを得ない、エリドゥ(この異世界)国家(ヒトビト)相手の本格的な外交(接触)に臨む。その段階へと進めて行く為の下準備も、ようやく整えられた格好ではある。


 ひとまず探査に進出して行った「フロンティア大陸」の地にて歴史的な遭遇(ファーストコンタクト)を果たした、この異世界(エリドゥ)人類種たち(ヒューマノイド型類)の。

 その母国であると言う「マズダ連合」なる国家(くに)との〝接触〟は、いずれ(今後の)既定路線となっていたわけだが。


 しかし、更にそこへと割りこむ様な、また別のそれ(・・)が――思いがけない方面から、新たに生じて来そうな状況だと言う知らせが舞い込んで来てもおり。

 その意味でも彼らには尚更。まずは内輪の体制を早急に整える必要に迫られていると言う事情が在った事も、間違いなかった。


『こうして足下を固めて。ようやく彼方(そと)に対しても、向き合う段へと移る事が出来そうな処まではとりあえず漕ぎ着けられたわけですが。やはり〝相手〟の在る事は、判らないものですね……』


(たとえ世界(・・)が違おうとも。結局のところ〝ヒトの世〟と言うもののその有り様は、何ら変わる事はない様だ……)


 諦観ではなく、達観して歩み続けて行く。想いを込めての微苦笑でそう呟く江波首相に。

 頷き返して同意を示す、オールグレン副大統領(大統領代行)と呉総統。


 彼らの間には、確固たる信念と。そして困難な状況だからこそ前を向くと言う、健全な意志が共有されていた。

 この異世界(エリドゥ)でも、変わる事無く自分たちの奉ずる(信じる)〝その途〟を。貫き続けて行く、その為に――。


 そんな具合に歩み出された、元地球人(アーシアン)たる彼らが主導する「同盟(PA)」の存在は。ただ単に彼らの足下(生存域)を確立するのみに止まらず。

 やがてはこの異世界エリドゥ(転移した新たなる世界)の有り(よう)さえをも、大きく変えて行く事になるのであった……。

拙作の世界線での「設定」上においては、「第5世代戦闘機」のその定義が≠ステルス機と言う、史実とはややその状況を異にしております。

(基礎設計段階からそれへの配慮は盛り込まれている事も、その構成要件の一つではありますが)


従って、今話で登場のMiG-33〔フラットパック〕や、既に「漂流者たち②」の回で登場済みのFA-2/ダッソー・〔ラファール〕なども、

本作品世界においては「第5世代戦闘機」であると言う事になります。


※連動して。本作品世界における「第4.5世代戦闘機」とは、F-14J改〔スーパートムキャット〕の様な、

「第4世代戦闘機」として誕生し、それを魔改造的なアップデートで強化した発展向上型の機種のみを指す区分だと言う事になっております。

(F-14J改〔スーパートムキャット〕などはむしろ、現実のロシア機式な「第四世代++戦闘機」と称した方が、実態に即してはいそうですが……)

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― 新着の感想 ―
[一言] これで地球側の身中の虫は一応表面上はいなくなったのかな? 問題は色々あるにせよ
[良い点] いつも感心してます‼️応援してます
[一言] 更新お疲れ様です。 >MiG-33〔フラットパック〕 大戦で増派されてましたか。空軍力ではサハリンは遅れは取らず中々強力な戦闘機ですね。しかも整備まで北日本がやっていて引き継いで行われてい…
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