「同盟」体制への途(前編)
年内、最後の更新になります。
来年も『「真秀ろばの国」導く、異世界新秩序』をよろしくお願い致します。
「パシフィック・アライアンス」(名詞)
①.現世界へと転移した旧地球世界からの諸国・地域による連合政体。ならびにその体制を定める条約および機構。略通称は「同盟」あるいは、接頭語の「PA」。
②.旧世界(地球)時代に「台湾国」の李登輝元総統によって提唱され、実現に向けての動きが始まりかけていた、環太平洋地域の友好的な多国間における広汎な経済連携および集団安全保障体制の構築を目指す構想。前項①.のベースとなった。
――『ニュー・ワールドワイド・ワードウォッチ』西暦2020年版より
「地球生まれの人類たちは。未知なる惑星上へと唐突に放り出されると言う、空前絶後な事態の当事者となった事で初めて。
〝真の意味での〟『世界政府』的な存在を、ようやく実現させるに至ったのだと。そう言える格好ではあったかもしれない……」
後の時代の歴史家が、ある種の皮肉を交えて評した言葉は。
そんな天変地異によってもたらされし、現在の「異世界新秩序」の〝形〟が出来上がって行く、その黎明となった当時の実状と言うものをシニカルに。
しかし間違いのない端的さでもって言い表しているものであろう事は、疑いなかった。
そうした皮肉と言うのはもちろん、そこにと至るまでの地球人類たちとその歴史に対して掛かっているわけだけれども。
しかし同時に、その当事者となった元地球人らが置かれていた、極めて歪な「現実」そのものに対しても――それは向けられていたのであった……。
この未知なる惑星世界の、意思疎通が可能な知的生命体とも遂に遭遇を果たした――。
それも、独自の文明大系を築いているヒト型種族たちであった!
との〝朗報〟に接して。
時空転移の発生により、あまりにも唐突な地球との分断を強いられ。
寄る辺なき漂流者の立場となっていた、元地球人類たちの側では。
「いきなり放り出された異世界で。どうにかやって行く為の、一筋の光明を見出せたかもしれない……!」
と言う、ある種の安堵感とでも呼べそうな気分を、ようやくの事で抱ける様な心境ともなっていた。
その異世界人類たちとのファーストコンタクトを成し遂げた、「日本国」の国防軍である自衛隊を接点として先方側から得られた情報により。
ようやく今のこの異惑星の実相と言うもののその一端が、ひとまず明らかとなり始めた格好であったわけだけれども。
こちらの世界の人類種たちは「エリドゥ」の名で呼んでいる、今のこの惑星は。
自分たちにとってはこれまで物語の中の存在でしか無かった筈の、「魔法」の力が現実に存在し。
そして当の異世界人類たち――ヒト型種族である彼らも含めて。
その「魔法」の力の存在に影響を受けている様々な幻想生物種たちが棲息する、そんな世界であったと言うのだから!
ひとまずの安堵の一方で、あまりにも想像の範疇外に過ぎるものであった〝現実〟への驚きと当惑。
しかしその一方では、相反する興味を掻き立てられる事もまたしきりだと言う、それはそれで前代未聞な相反の状態になっていたわけだけれども。
とは言え、そんな異世界らしく……と言うべきか?
こちらでは、その「魔法」の力の存在を基軸とした独自の文明大系が発展しており。
初接触を果たした相手である、その異世界人たちもまた。
遠く離れた場所であると言う母国が位置する大陸から、フロンティア大陸の地へと。期せずして漂着して来ていたと言う事であったので。
外交関係を樹立する為の接触が試みられそうな相手が、現状では未知なる彼方に存在している証左であると言う点も、非常に重要な要素だと言えた。
この世界へと飛ばされて来てから以降の。相互の会話上においては言語の壁が何故だか消失し、ダイレクトな意思の疎通が可能になったと言う摩訶不思議な状況は。
異世界の存在である先方との間においても、同様に成立すると言う事も実証されたと言う報告が上げられて来ていた事もあったし。
本国である日台米三カ国の側でも。
フロンティア大陸の地で先遣隊が、接触を果たした異世界人たちへと提示した方針の通りに。
同船とその乗員たちを一旦こちらに迎え入れ。フネの整備と、乗員たちの休養を兼ねての実見聞を経て貰った上での送還を。
そのまま彼らの母国だと言う「マズダ連合」なる異世界国家側と接触し、外交関係樹立を求めての交渉を打診する、その端緒ともしたい処であったわけだ。
そしてそんな具合に、外交の対象となる相手の存在がひとまず確定になったと言う事で。
同時にそれが、元地球人たち同士の間においても。
現在のこの事態に対応して行く為に必要と考えられる、新体制構築への合意が決定的なものとなる。
その為の、最後の一押しをもたらす理由ともなっていたのだった。
『そうだ。話は変わりますが、〝例の件〟について。李登輝先生には、先程ようやく正式にご承諾を頂く事が出来ましたよ』
時空転移の当事者である、元地球人たち(今や、こう呼ぶべきだろう)の側においての。
事実上の最高意志決定機関となっている立場を構成する、主要三か国の首脳たち――「日本国」の首相と「台湾国」の総統、そして「合衆国」(分離体)の大統領代行を務める副大統領。
以上の三名により、今日も今日とて開催されているオンラインでの首脳間会合の席上。
流石に激動であり過ぎる毎日を送る中での疲労感も漂う、そこまでの協議の場の雰囲気を変える事も期するかの様に。
「日本国」首相の江波健一郎は一つの〝朗報〟へと話題を転じ、他の両名へとそう告知する。
『おお、それは良かった!』
それを聴いたテレビ会議の画面の向こうから。
「台湾国」の呉明正総統が、やはり嬉しそうな声と表情を浮かべて即座に応じた。
今般の「特亜大戦」では、母国の台湾も戦場となる中。元総統として、現任の呉総統を支える特別顧問となって。
台湾を存亡の苦境から脱させる為の様々な助言を。時には高齢の身をおして自ら様々な外交交渉や支援活動に当たったりと、国難の打開に向けて大いに尽力していた李登輝氏は。
台湾島内からは国共両支那人勢力(支那人の反乱軍と、それが援軍として呼び込んだ中共軍の連合)が駆逐され。
戦場も支那大陸側の各地へと移った戦争の行方も、ひとまず落ち着いたと言う処で。
激動の渦中にあった心身をケアすべく、検査入院とその後の経過観察を兼ねての長期休養で「日本国」に滞在中であったのだが。
そこに生起した異世界への時空転移と言う、今般の未曽有の事態を受けて。
そうした未知なる混沌の状況下で。突然にある種の運命共同体となってしまった格好である全ての地球人類たちを。
どうにか軟着陸させる方向へと導いて行く方策を講じねばならない中で。
「その為の〝新たな体制〟のトップとして、李先生に立って頂きたい」
との打診を江波首相より再三に渡って提示され、就任を要請されていたのだけども。
それに対しての前向きな回答が、ようやく得られたと言う事で。
(これでまた一つ、前に進んだ……)
そんな安堵の念が、江波首相の声と表情にもくっきりと滲んでいた。
それに対して。自身もそんな感覚自体は共有し、同じく頷いては見せながらも。
しかしそこで、敢えて疑問を投げかける様に問う、「合衆国」(分離体)のマーカス・オールグレン副大統領。
『ああ、もちろん李登輝氏の能力、識見、人格には何らの疑問も付けようが無いわけだが……。しかし、〝現在の状況〟に照らすなら。健一郎、やはり貴君がそうなる方が自然だろうに……と言う感も、覚えはするのだけどね?』
『よしてくれ、マーク。流石に自国の舵取りをしながら、同時に〝こちら側の全地球人類〟の事までも……などとは、言える立場ではないよ』
きわどいジョーク気味なオールグレン副大統領からの言葉に、江波首相はただ苦笑いで応ずるのみだった。
互いに、政治家となるより以前の頃から親交があり。
プライベートでもファーストネームの省略形で呼び合う仲となって久しい者同士ならではの、やり取りであったわけだけれども。
『ああ、それはお互い様だがね』
話を振っておきながら、その事は自身にも当てはまるものでもあるのを。あっさり首肯して認めるオールグレン副大統領。
言わずもがなであるきわどい話を、彼が敢えて口にしてみせていたのも。
将来に機密指定が解除されて公開される事になるであろう議事録に残しておく為と言う、意図的なものでもあるのだった。
こちら側に、完全に孤立してしまった格好となっている地球人類としては。
ひとまず元の地球世界における「連合国」に準じた、それを代替する国際機関を立ち上げて。
そうした多国間の「枠組み」の下、協調と連帯をもって今般の事態への対応を進めて行くべきだ――。
と言う大方針で、ひとまずの方向性に一致を見る事が出来てはいたので。
現状、それらの内でも自ずと主導的な立場に位置付けられる格好となる、彼らが三か国による協議の下に。
そんな「現実」に即した新たな国際機関の設立準備を、走りながら進めているその真っ最中であったわけだが。
「来る〝その機関〟の、初代のトップには。ぜひ李元総統に就いて頂きたい!」
と言うのが、江波首相の――すなわち、そんな三か国中でも事実上の「一強」だと言える存在となってしまっている「日本国」としての――強い意向となっていたのだけれども。
無論それは、彼の優れた現実認識とバランス感覚に照らした上での判断であるのだった。
誰もが予想だにさえしなかった災厄だと言うより他にない、今般の時空転移は。
もはや〝想像を絶する〟と言う慣用表現すらをも、軽く超越してしまった「現実」であったわけだけれども。
そんな非常識的な事態の、当事者となってしまった彼ら、〝元地球人たる人々〟とは――しかし事実上は、日本人と台湾人の意味だと言う事になる。
そうした恰好であった事もまた、客観的な事実に違い無かったのだから。
まがりなりにも、その存立基盤となる自らの領土もろともに飛ばされて来た格好ではある両国が故に。
転移に巻き込まれた全ての人々の中に占めるその割合は、〝圧倒的なもの〟となっていた。
一応、自らの領土と一緒に転移を~と言う意味では。
日台両国の他に、パラオ共和国とミクロネシア連邦の両島嶼国も、同様の立場にはあったわけだけれども。
とは言えその両島嶼国は、日台の基準に照らせば一地方自治体程度の人口だけで成り立っているミニ国家である以上は。
それも所謂、「誤差の範囲内」程度なもの以上にはならない。
むしろ問題であったのは、人口比率上ではその両島嶼国と同程度になる、それ以外の〝多くの友好諸国からの人々〟の存在の方だった。
時空転移が生起したその時、その範囲内に居た為に否応なしに巻き込まれる事となり。
結果的に自らの母国とは完全なる断絶を余儀なくさせられてしまい、滞在先・展開先であった異国の地にて。
事実上の難民として仮寓するより他にない立場へと、一夜にして追いやられてしまった格好の彼らは。
その内の多くが。法理的にはまだ継続中である「特亜大戦」――講和条約調印前だと言う情勢下で。
休戦監視と平和維持活動の為の国連PKFとして、極東地域に展開して来ていた軍人軍属たちでもあったりすると言う、戦時ならではの特殊な状況にもあったわけなので。
基本的には友好関係にあるとは言えども、正式な同盟関係に在るわけでは無いそれらの諸国からの軍部隊と言うのは全て。
締結している安全保障条約に基づき自国内に基地を置いての駐留を承認している、正式な同盟相手である合衆国軍とは元より異なり。
国連決議に基づく対中共(および対恨島南蛮と北狄もだが)PKFに参加するものとして。
戦時下と言う非常時が故の、臨時的な措置の扱いで受け入れている存在であったわけで。
それぞれの母国政府はもちろん、その「連合国」も。
文字通り一夜にして、等しく時空の彼方へ断絶をしてしまった現在の状況下においては。
そうした〝立場が定かで無くなった〟軍戦力が、相応の実体戦力を保持した状態で。国内の各所に存在していると言う事になるのだから。
そんな彼らに対しては、仮初にでも。従来のそれに代わる、〝公的な立場〟を与えなければならない。
その意味でも、文字通りに有名無実となってしまった「連合国」の立場を継承させる、異世界におけるその後継的な国際機関を。
たとえ拙速だとの誹りを受けようとも、早急に立ち上げる必要性があると言う事だった。
もちろん、そうやって組織される新たな国際機関は同時に。
どうやら無主の地である事が確定しそうで、問題無く領有も宣言出来る運びとなりそうなフロンティア大陸の地への。
入植と開発に伴うであろう諸々に対する、各国間の調整やらを担って行くその為にも必要だと目されるものでもあるわけだし。
と言う事で、いろいろと泥縄式である事は承知の上ながらも。急ピッチで立ち上げに向けての準備が進められていたのが。
名称を「パシフィック・アライアンス」とする、元地球人たちによる新たな国際機関の枠組みであった。
確かに、誰もが予想だにさえしなかった〝現実〟に即して進められる事となった、新体制構築の為の試みであったのは事実なのだけれども。
即応的に手早くそうした流れへの道筋が、まがりなりにも付けられて行ったのには。その下地として転じられそうなものが既に在ったと言う〝幸運〟も、地味に大きかったのだ。
李登輝氏への、「パシフィック・アライアンス」初代トップへの就任を江波首相に打診させていた、その所以の一つでもあったのだけど。
元々は、「特亜大戦」と言う熱戦へエスカレートしてしまった情勢を受けての事態打開と、ただそれだけに止まらない極東地域の戦後をも睨んでの。
李元総統による、環太平洋圏――ひいてはインド太平洋地域をも包括する新たな国際秩序再編としての。広範な多国間経済連携と、集団安全保障体制の構築を目指すと言う構想が提唱された処から。
合衆国と日本国を積極的なその旗振り役として、「特亜大戦」の戦時下で実現への気運が急速に醸成され。
「特亜大戦」の終戦を、同時にその新体制「パシフィック・アライアンス」のスタートとすべく。大戦の講和調印に先駆けての、その主要参加予定国による首脳会合が東京において開催されていたのだったが。
ちょうどそのタイミングで、時空転移現象との遭遇を迎える事になってしまったが故に。
合衆国の全権代表として、自ら赴いて来ていたオールグレン副大統領を筆頭に。
参戦していた主要各国や、EUの様な国際機関からの要人らも。
異世界へと、有無を言わさずに飛ばされてしまった格好であったので。
いきおいその「パシフィック・アライアンス」(元)の枠組みを下敷きに、こちらへと孤立した元地球人類たちによる共同体として。
本来の構想からは、大きくその姿と性質を変じながらも。新たな「パシフィック・アライアンス」と言う体制が、ひとまず始動に向かう。
その道筋が確実に進んでいた処だったのだけれども。
そんな処へ届いた、文明を有するエリドゥのヒト型類との遭遇を果たしたと言う情報が。
その最後の駄目押しをする、決定打とでも言うべきものとなっていたのであった。
(中編に続く)
おかげさまで100,000PVも超えて、投稿開始から三年目へと入りました。
亀更新は相変わらずながらも、序章に当たります現在の展開にも目途が見えて来まして。
来年はようやくこのジャンルらしい、現代兵器が無双する派手なドンパチもある
次の展開へと移れそうですので、引き続き頑張りたいと思います。





