魔導船〔ファルカン号〕②★画像あり
エリドゥ世界の住人たちとの本格的な接触は、まだ端緒についたばかりではありますが、
それでも現場レベルでは早々に、そこからの活用と言える要素が試み出されている模様です。
※(20231029)後段へ向けての「設定」の見直しに伴い、自衛官の「尉」級に対応する海上保安官の階級名を「海上保安正」⇒「海上保安士」へと変更しました。
周囲は闘争の物音と喊声が支配し。
そこに銃声と耳障りな苦鳴が入り混じる、混沌の坩堝と化していた。
「GAGAGA!」
罵声と威嚇が半々なのだろう、しゃがれた喊声と共に。
錆び付いた剣を手にした小鬼が躍り掛かって来るのを、体を捌いて躱しざま――。
紫雲は、手にする〔97式戦闘歩槍〕の台尻をその横っ面へ、カウンターで叩き込んだ!
「GEDA!?」
蛙が潰れた様な苦鳴を漏らして倒れ込む、その小鬼への注意は切らさずに。
残心を取る様に素早く構え直した小銃を、紫雲はそのまま前へ向けて真っすぐ突き出す。
そこには、先に立つ仲間を盾にする格好でその姿を隠して時間差で躍り掛かって来ていた、もう一体の小鬼が!
「ZII……!」
見事にカウンターの構図が成立した結果、自ら槍先へと突っ込む様な格好になったその小鬼は。
喉元を銃剣で深々と刺し貫かれ、くぐもった呻きを漏らして悶絶する。
「GO、GODU……」
苦悶しながら銃身を掴みに来そうな動きを見せるが、無論そんな隙など与えずに。
その胸板を蹴り付けて離すと、倒れ込むその身に向けて一発だけ発砲。
止めを刺すや返す刀で、先に殴り付けて転がしたもう一体の小鬼の首を踏み付けて押さえ。
そのまま体重を乗せて頸骨を折り砕く。
自身に向かって来た小鬼を立て続けに斃して。
梁 紫雲中尉は、素早く周囲の部下たちの戦況にも目を向ける。
そこでは彼が率いる9名の部下たちが同様に。
それぞれ相手取った小鬼たちを確実に仕留めて行きつつある、まさにその真っ最中だった。
鬱蒼たる森の中であり、その形態としては近接戦闘の格好になっていたわけだが。
無論そこは、台湾国海軍陸戦隊が誇る特殊部隊「両棲偵捜大隊特勤隊」の名に恥じぬ練達の戦いぶりで。
いずれも危なげなく圧倒している。
彼と同様に部下たちも、自動小銃に装着済みな銃剣の刃先を突き立て、或いは牽制に用いて確実に射ち斃すのが基本であったが。
中には近接格闘を得意とする猛者らしく、よりアグレッシブに肉薄して仕留めに掛かっている者達もいた。
剣技も何も無く、勢いに任せるだけの大味すぎる小鬼の一撃を。あっさり躱してその懐へと肉薄し。
小銃に換えて構えている〔グロック19拳銃〕を、その身に押し付けんばかりにして射ち斃す孫 建雄伍長。
その向こうでは、銃剣として着剣をせずにそのまま手持ちのコンバットナイフとして構えている、田 明全軍曹が。
やはり見切った小鬼の斬撃を受け流して逸らすや、カウンター気味に踏み込んで背後を取り、ガラ空きになったその喉元を搔き切る。
ある程度の範囲を指定しての捜索の上で。
遭遇したなら確実に駆除すると言う方針へと転換された、合同調査部隊司令部の下令により。
最初から〝そのつもり〟で出向いて来ていた彼らと。
遭遇してしまったのが、そのゴブリンたちの不運であったに違いない。
「GU、GUBU……!」
まんまと不意を突かれた事もあるとは言えだ、頭数だけなら倍以上も居た筈の雑兵どもが。
しかし全く為す術も無いまま、瞬く間に殲滅されて行く様に唖然とさせられていて――。
漸く我にと還ったらしい、その頭目たる大小鬼が驚愕の唸りだろう呻きを上げる。
形勢が不利だと見れば、率いる手下どもをあっさり捨て駒にして逃走を図る習性があると言う話ではあったが。
そんな大小鬼がはたと気が付けば、もう彼が盾に出来そうな雑兵たちは見事に狩り尽くされていた……。
単純な強さなら、人間どもになぞ劣る筈も無い自分が!
しかし、面妖な術を使う目の前の常人どもと、不甲斐ない小鬼どものせいで、絶体絶命の窮地に追い込まれている?
「BU、BUGOGA!」
にわかに覚える怖れと、そんな認めがたい現実、全てへの激昂がない交ぜになった咆哮を上げて。
破れかぶれの勢いで、手にした金砕棒を振り上げながら梁小隊の方へ突っ込んで来る大小鬼。
もっとも梁小隊の側とて、そんなデカブツの突進を。
まともに受け止めたりするなどと言う馬鹿げた事なぞ、無論考える筈もなく――。
「撃て!」
副小隊長范 正剛准尉の命令一下、鶴翼形に展開する彼らから。
十字砲火の格好で浴びせられる無数の5.56ミリ小銃弾で、その身に左右両側面から幾つもの風穴を開けられ。
大小鬼は断末魔の咆哮を上げながらその場に膝を着き、そしてどうと倒れ伏したのだった……。
状況終了!
とは言え、上位種はしぶといとの〝情報〟に従って。
倒れ伏す大ゴブリンの脳天へ、念の為一発撃ち込んで確実に駄目を押しつつ。
「各員、全周警戒!」
紫雲は、討ち洩らしのゴブリンが居ないか? 油断する事無しに周囲の確認を命ずる。
昨日、海上自衛隊が初遭遇を果たしたと言う、異世界人よりもたらされし情報は。
その彼女たちを救援した、「海援隊」の交戦状況報告ともども。
迅速に同盟両国軍側に対しても、展開共有されており。
その形態と行動から「仮称:ゴブリン」としていた、当該の未確認生命体への便宜的な命名が。
期せずして的を射ていた事や、そもそも的に当の異世界人たちの間における認識上でも。
決して共存などは不可能な、全てのヒト型類にとって害しかもたらさぬ不倶戴天の敵である。
と言う認識で確定しているのが、そんな「亜人種」たちなのだ――と言う、その定義を聴かされてもいたわけなので。
紫雲が率いる彼の小隊も、そうしてもたらされし情報と。
既に実際の遭遇戦を経験している、米日軍それぞれからの戦訓に照らしての。
交戦上での留意点もしっかりと押さえた上で。
確実な捕捉と殲滅を! と言うつもりで臨んでいたのであった。
平時からの活動である「害獣駆除」と言うやつの、広義にはその延長線上の扱いになるのだろうけれども――。
ただその対象が、まがりなりにもヒト型をした知性体であると言う点では。
まさに異世界だと言うしか無い、地球との決定的な相異であるわけだからして。
事に当たる三カ国軍の側としても。
剣や鈍器と言った銃火器普及以前の武器を手にし、それを駆使した戦い方をしてくる相手との。
対人戦闘だと考えて臨むべしだと言う認識でもっての、行動になっていたのだった……。
そして油断なき様にし続けたまま、慎重に周囲の様子を窺い。
付近の脅威は排除されていると結論付けて、ようやくその緊張度合いを引き下げた梁小隊の面々は。
そのまま遭遇戦の後始末に移行する。
紫雲が仮設前進基地の統合司令部へ、自隊の捜索担当エリアでの遭遇と駆除の報告を送り。
現状ではサンプルである遺骸の処理と、以後の行動についての指示を確認している間に。
回収班に託すか、あるいはこのままここで処理するか。いずれになるにしてもと言う事で。
范准尉の指示の下、下士官たちが斃した小鬼たちの遺骸を一カ所に集めて並べて行く。
戦闘時の全集中の緊張状態からは、流石に解放された状況にあるわけなので。
肉体労働をしながらの軽口を交わし合う程度のリラックス具合は、自然と見せる格好となっていたわけだけれども。
「しかしこりゃ……本当に、〝ファンタジーな世界〟ってやつなんだなぁ……!」
しみじみと、と言う口調で小隊№3の羅 宗憲上級曹長がそう呟くと。
「まったくですね。ただ、どうせなら俺達も、海自さんみたいに。
本物の姫騎士ってやつとも、出逢ってみたかったですよ!」
などと言う、斜め上方向な心情が加味された反応でもって、田軍曹が応じる。
無論、そこは特殊部隊員たちであるわけだから。気を緩めているとは言っても。
あくまで彼ら基準に照らして見てのそうだと言うに過ぎない、相対的な話なのだけれども。
硬派な男所帯だからこそ、そんな潤いを期待してもいいでしょうよ? とでも言わんばかりなその〝斜め上さ加減〟は。
ある意味、らしいものではあったかもしれない。
何しろ田軍曹が話のネタに出している当事者こと、海自の特殊部隊「海援隊」の結城小隊とは。
好対照と言える部隊構成であるのは事実で――まあ、この場合は女性隊員も含んでいる「海援隊」の方が、むしろ珍しい部類になると言う事でもあるのだけれど。
そんな「海援隊」の結城小隊とは、彼らも既に合衆国へ派遣されての本家「Navy SEALs」との訓練を共にし。
そして先の「特亜大戦」における作戦行動でも共に死線を潜った、互いに気心も知れた馴染みの間柄となっており。
殊に紫雲自身は、カウンターパートとなる「海援隊」の悠斗と個人的にも気質が合い。
軍務外でも、一武術家同士としての親交を結ぶ程の間柄となっている事もあって。
公の報告書には、まだ書ける程の確証までには至らないながらも。個人的には留意しておくべき処かも知れないと。
悠斗が肌感覚で覚えた辺りなどのより生々しい情報を、早々にそんな個人的な伝手からも得て。
それを紫雲も直ぐに活かしていた格好となる、今回の戦闘であったのだった。
前進基地との交信を行いながら、同時にそうした麾下の小隊員たちの様子に対しても注意を向けている紫雲は。
(確かに、この世界においては。彼の様な戦い方が出来る様に、俺も帯剣を考えた方が良さそうだな……)
そんな事も併せて思いながら。
そうして今、この異世界の人類種族との初遭遇を果たした当事者として。
姫騎士達の本隊が仮泊していると言う、その拠点たる母船の下へと。
彼女らの護衛兼、自方からの使者役としての下交渉に赴いている悠斗の事を思う。
何しろ今、彼らが立っているのは。
こうして敵対的な亜人種やら、魔法の力と言うものまでが現実に存在してしまっている、そんな世界なのだ……。
(悠斗。よほどの事でも無い限り、まず大丈夫だろうとは思っているが……。俺も、君たちの武運を祈らせてもらうとするよ)
漸くの事で掴む事が出来たかも知れない、エリドゥでのこれからを左右する事になるであろうその端緒に。
か細い糸を手繰って行く役目を託されている朋友たちがその任務の、首尾よく完遂されん事をと。
現状に携わっている同輩としてはもちろん、一個人としても。
二重に胸中でそう願う、紫雲だった。
一方その頃。
そんな風に祈りを捧げられる立場となっていた、当の結城悠斗2等海尉は。
迎え入れられた〔ファルカン号〕の船長公室で同船の両トップ――エンヤ船長およびドノヴァン副長との、会談を進めている処であった。
もっとも会談の初めでは、双方を知る者として。改めての顔合わせの司会役を務めるべきだと言う事で。
向かい合う双方の横手に座っていたフィオナ候女と騎士ターニャ卿も。無論のこと当人たちもまた、立派な当事者でもあるわけなので。
早々に、騎士主従《彼女たち》から。昨日の連絡途絶より、無事にここへと還って来られるまでの経緯を。
船のトップ両人に対して、まずは語って聞かせる流れとなっていた。
そしてその過程の中で、必然的に。彼女ら自身も昨夕に聞かされて知ったばかりの、悠斗たち自衛隊側の――。
ひいては元地球人たち全体の事情と概略についても、触れられる格好となるわけなので。
悠斗は補足的に、自身の側から見ての状況と事情の説明がてら。
使者としての直接的な用向きたる、自方よりの提案の伝達を行う格好となっていたのだったが。
そうして一通りの話を聞き終えて。
当然の反応ではあるだろうが、エンヤ船長とドノヴァン副長は揃って複雑な表情を浮かべて押し黙っていた。
それもむべなるかなではあるだろう。
ようやく、今の自分たちが置かれたその状況が客観的に判明した。
それ自体は無論、喜ぶべき事ではある筈なのだが……。
そんな客観的な情報をもたらしたものが――どう評価して良いものやら?
正直、全く見当も付けかねると言うより他に無い、あまりにも異質な相手であったと言う事実が。
そうした反応をさせられる所以であった。
言うまでも無いが、全くの未知なるこの地には期せずして辿り着いたわけで。
それから折に触れて上がり始めた、頭上の空をけたたましい爆音を轟かせて飛び抜ける、得体の知れない〝未確認飛行物体〟との遭遇の報告は。
仮泊地周辺の探索と採集に出ていた船員達のグループからだけでなく、フィオナ姫たち自身までが――。
それも、短時日の内に二度までもと言う頻度であったのだから。
そんな正体不明な存在が、しかし事実として眼前に存在している以上は。
それこそ、もしここが未知なる超古代の魔導文明のその遺産の類だけが現存し続けている、無主の地であったりしても。
不思議ではあるまいと、そう考えてはいたのだったが……。
その辺りの事も確かめる端緒を掴めれば……と言うつもりで探索に出ていた、姫様たちの一行が。
不倶戴天の敵たる亜人種からの奇襲を受ける格好になって。絶体絶命の窮地に陥ったと言う話自体も、無論驚きではあったのだけど。
更にはそこへ行き合わせた、ニホン国の海兵士官だと言う蒼斑の奇抜な軍装の眼前の青年――。
ユウキ2等海尉が率いる一隊の介入によって、その窮地を脱し。
負傷した騎士マリオとシルヴィア両卿の治療の為にと言う、ユウキ2尉からの提案に従って。
彼らがこの地に築いている前進基地へ、迎え入れられる流れとなって。
両卿は現状治療中である為、その前進基地に残留とした上で。姫様とターニャ卿の二人だけで知らせに戻って来た。
ユウキ2尉らは、それを送り届ける為の護衛であるのと同時に。
ニホン国ら側からの初接触を試みる使者役を兼任でもあると言う、ここまでの話には無理がない。
流石にそこは、経験豊富な大人らしく。
自身の経験と知識に基づいた肌感覚に照らしても、概ね間違い無い事実なのだろうと言う納得自体は出来るのだったが……。
ただ、それにしてもだ――。
(エリドゥとは異なる、別の世界から。一地域丸ごと転移して来た、〝魔法とは一切無縁な文明世界〟の住人たちだと来たかよ……)
ドノヴァン副長が内心で、嘆息混じりにそう呻くしか無かったとおり。
いくらなんでも、流石に人智を超えたレベルに想定外だろう!? と、思わず叫びたくなるような〝途方もない話〟であった。
言うまでもなく、エンヤ船長とてそんな驚きは共有しつつも。
同時にその卓越した魔導師としての眼で。
フィオナ候女とターニャ卿の両人にも、何かしらの〝不自然な魔力の翳り〟らしきものは特段感じられない――。
端的に言えば、その精神への何らかの影響が及んでいると思しき気配も、一切見受けられない事を確かめて。
(確かに、疑う余地も無さそうだと言う事ですね……)
ある意味で〝らしい〟と言える向きからも、納得感をより深めさせられてもいたが故に。
なればこそ、そうして提示された先方の概略それ自体の途方もなさっぷりにも。
困惑混じりな感覚を、逆に抱かされるのだった。
何しろ、別な世界の広範な一地域が丸ごと転移して来たと言う、そんな規模だけでも前代未聞の話なわけだが。
加えてその人口の方も、また尋常では無い――それらの中でも筆頭格だと言うニホン国単独でも。
その人口はおよそ一億四千万人だと言うのだから。
そんな規模の、魔法を知らぬ――。
だが自分たちと同等か、おそらくそれ以上に発展した文明力を持った、国家群の出現が起こったなどとは。
それ自体がもう、唖然とさせられる以外にない話である。
しかしながら、姫様達から語られた話に加えて。
ユウキ2尉らが二人をここまで乗せてやって来たあの魔導騎様の乗り物をも目にした後では。
エンヤ船長もドノヴァン副長も、それぞれが持つ卓越した専門家としての眼と知見に照らせば。
そんな物証そのものを伴っての来訪となった相手の事を。
もはや動かぬ事実として認めるよりか他にあるまいと、納得はさせられていたのだけれども。
まず一個人としての心境上の領域でもって、そうなった以上は。
次いで意識に上がってくるのは、昨日のフィオナ候女たちと同様の。
連合の、公的な立場に在る者としての意識となるわけだが――。
とは言え、そうして導かれる結論も。
やはり昨日のフィオナ候女たちと同様の地点に、おのずと帰結するよりか他には無い話である。
それが故にの、複雑な表情での沈黙であったのだが――そこでふと目線を外したドノヴァン副長の視界に。
先程ユウキ2尉が卓上に置いてみせていた、その剣が留まった。
「ユウキ2尉……。お前さんのその剣は、なかなか珍しい拵えをしているな?」
話の再開をどう切り出そうか? などと意識してそうしたわけでは無しに。
ごく自然にこぼれ出た、ドノヴァン副長のその呟きが。
結果的には、上手い具合に応諾の意を示す流れへと繋がって行く事になったのだった。
地球世界で、外国人が日本刀を目にした時のそれと同様な喰い付きが。
異世界のヒト型類にも共通して見られた事に、内心で微苦笑も覚えながら。
「ご覧になりますか?」
そう言って悠斗は、軍刀拵えの佩刀「骨喰」を。
鯉口を切った状態にして、ドノヴァン副長へ差し出した。
ありがとうよと、礼を述べつつ受け取った長脇差の鞘を払って――。
「こいつは……!」
露わになった刀身にドノヴァン副長は目を見張り、ほれぼれとした表情で眺める。
もちろんそれはエンヤ船長も。
そして武器としてならば、昨日の遭遇時に既に目の当たりにしてはいたフィオナとターニャも同様で。
二人は共に、改めてじっくりと。武器でありながらも、同時に芸術品の域にまで踏み入っている日本刀特有の。
その刀身の美しさを目にして、揃って感嘆のため息を漏らす。
結城2尉自身の卓絶したその技量も、無論相まってのものではあろうが――小鬼たちの首を立て続けに胴体と泣き別れさせ。
更には分厚い筋肉に鎧われた大小鬼の躯でさえも易々と斬り裂く、その恐るべき切れ味については既に認識させられていたのだけど。
優美なカーブを描く片刃の剣――曲刀と分類されるタイプの長剣だが。
よく見ればその峰側も、かなりの長さに渡って鋭く尖った擬似刃となっていて。
おそらく、刺突においても優れるものだろうと目される。
更にその刀身の鍔元側には、片や剣にその身を巻き付かせる大海蛇(らしきもの)。
その反対側には炎を背負った鬼神の姿を、それぞれ描いた見事な彫刻が施されており。
優れた武器としての機能美に加え、同時に芸術性までをも兼ね備えた実に見事な逸品であると言う事に。
改めて気付かされていたのだった……。
先方からはそんな風に見られている悠斗の刀は、大薙刀を磨上げて小太刀に仕立て直した代物で。
当然無銘だが、その姿形は重文として有名な「骨喰藤四郎」と瓜二つである。
こちらは刃長が2尺4分程とやや長いが、同じ名で呼ばれている辺りからしても。
その兄弟刀の様な一振りでは? と目される――少なくとも同じ粟田口派の手になる、そう見做されても。
何ら不思議は無い程の、切れ味を秘めているのは事実だった。
しばし名刀を堪能し、大いに眼鏡にかなったと言わんばかりに一つ大きく頷くと。
ドノヴァン副長は鞘へと戻したそれを悠斗に返しつつ、礼と共に言う。
「ありがとうよ。いや、久しぶりに眼福ってやつを味わわせて貰った。
こんな大した代物を造り出すアンタたちの国にも、俄然興味が沸いて来たぜ!」
こんな普通に理解が出来る類の代物も、ちゃんと示して来られては。大人しく受け入れるしか有るまいなと。
そう言いたげな表情で、お前さんとしてはどうだい? と、エンヤ船長の方を見やるドノヴァン副長。
「確かに、それについては同意します」
水を向けられたエンヤ船長の方も。
そんな彼にはもう慣れたと言わんばかりな微苦笑を見せつつ首肯する。
「ユウキ2尉。ここまでに示して頂きました、あなた方の誠意を信じて。
我々としても貴方からのお話を、ありがたくお受けしたいと思います」
エンヤ船長も吹っ切れた様な微笑みを浮かべて、承諾の意を示すのだった。
そもそもだが、今しがたドノヴァンが興味を示したニホンの剣も。この会談の最初にユウキ2尉が自ら。
「武器をお預けします」
と、改めて名乗るや直ちにそう言って身から外し、卓上へ並べて置いていたものであったからだ。
「結城2尉、私たちとの間で今更その様なお気遣いは無用です!」
そんな彼の様子には。横に座ったフィオナ候女たちの方がむしろ慌てた様に、そう制止の声を掛けている辺りからも。
(この僅かな間に、随分と信頼関係を築き上げた様子ですね……)
うら若くとも、人を見る眼は相応に養ってもいる候女と言うお人が。そこまで認める様な相手であるならば。
そんな人物を護衛と使者に付けて寄越した相手の姿勢もまた、およそ窺えるものであろうと。
そう納得は出来たわけなので。
かくて双方はこの場におけるひとまずの一致を見ての握手を交わし、そして共にそれを踏まえての続いて取るべき行動――。
悠斗は部下達の下へ戻っての、前進基地への連絡に。
船長副長とフィオナ姫たちは〔ファルカン号〕の乗組員たちを集めての、今回の会談を受けての決定の通達へと。
それぞれが動き出すのだった。
フロンティア大陸東岸の海上を、箱形の艦体形状を持つ一隻の大型艦艇が進んでいた。
一見すれば、旧い時代の空母を思わせる艦容であるが。正確には〝空母型をした艦艇〟と言う分類になる彼女――。
海上自衛隊の〔いらこ〕型輸送揚陸艦〔かもい〕の、艦尾から艦首近くまでフラットに広がる全通飛行甲板上へ。
艦内格納庫から昇降機に乗せられて、1機の双発プロペラ機が姿を現した。
いわゆる軍艦色の灰色を纏った艦とは好対照な。
白を基調に機体前方の下面は水色で塗り分けた、場違いにも思える程の派手さを目立たせるその機が。
機体の後方両側面に沿わせる形に折りたたんでいた主翼を真横に展開させて、暖機運転を開始する。
前後直列式配置を採る操縦席の前席には、副操縦士兼任の射撃手が先に乗り込んで。
発艦前の様々なチェックを進めているのを背に。
飛行甲板上に立つ機長は、見送りに姿を現した〔かもい〕艦長の迫水2等海佐へ向かって敬礼し、申告した。
「海上保安庁洋上航空隊所属、佐武1保士以下、操縦士1名。目標地点の測深に先行します」
佐武1等海上保安士――〝海上自衛官の1尉に相当〟の階級である海上保安官――に対して答礼しつつ。
迫水艦長はしごく丁寧な態度で応じる。
「よろしく頼みます」
もちろん現状は戦闘配置でないとは言え、わざわざ飛行甲板上まで艦長が自ら見送りに降りて来ると言うのは。
佐武1保士たちとその乗機が身内ではなく、応援に派遣されて来てくれている海保の人だと言う事もあってのものだった。
「なあに、ここしばらくはルーチンワークの様に前進基地周辺だけを飛び続けて来てましたからね。
こうして久々に足を延ばして飛べるのは、むしろありがたいですよ」
そう、冗談ばかりでも無しにの笑いで応じて。
佐武1保士は自身も後席へ乗り込むと、機内から側面のコクピットハッチを自らの手で閉じる。
ダブルチェックを兼ねての発艦準備手順を、佐武が自身でも進める間にも。
機外では彼の合図を受けた誘導員が、注意深く機体の下に潜り込んで車輪止めを外す。
そして元の位置へ戻るとそれを掲げて見せて、更にハンドサインで機体の下部周辺に障害物ナシ! と言うのを伝えて寄越した。
頭上よりそれを見守っていた、艦橋の一角にある発着指揮所からの通信が入る。
『発着管制より〔ゼーアドラー〕、貴機の発艦を許可する。準備でき次第、滑走レーンに進入せよ』
『〔ゼーアドラー〕より発着管制、了解。これより移動を開始する!』
管制員に応じると、佐武は前席に座る射撃手の母里3等海上保安士に声を掛け、発艦の操縦を任せる旨を告げた。
「おし! 母里3保士、操縦は任せた。短距離滑走での発艦をやってみる、良い機会だぞ?」
垂直離着陸の回転翼機と、滑走離着陸をする固定翼機。
双方のいいとこ取りを狙った転換式航空機の――その一種であるティルトウイング機としては。
史上初の実用制式機となった、MV/SA-33J〔ゼーアドラー〕ならではの。
空母に準ずるフラットな全通飛行甲板を備えた、比較的大型の艦艇から発艦する場合に用いる事が可能な。
取付角度を可変させられる主翼を斜めにして滑走し、その揚力も得ながら短距離で発艦する方法を選択。
いつでも出来るわけではないやり方だからこそ、若手である母里に経験として任せようと言う判断だった。
「わ、判りました。やってみます!」
意図を理解して、やや緊張した様に応じる部下に。佐武は笑って声をかける。
「なあに、コイツならそう難しい事でもないさ。落ち着いてやれ」
そうして母里3保士の操縦で滑走開始位置に着き。
飛行甲板上を加速する海保の〔ゼーアドラー〕は軽やかに、〔かもい〕の艦上から空へと舞い上がる。
そのまま空中で主翼を機体と水平になる固定翼機モードへ転換すると、前方の目標地点――。
〔ファルカン号〕が仮泊していると言う入り江に向けて、一路機首を向けるのだった。
拙作の世界線においてはその歴史的な経緯から、海上保安庁もまた。
史実とは異なり、三自衛隊と合わせての「国防軍」の任を担う組織の一つとして位置付けられております。
この先の展開にて、正式にスポットが当たる段でその詳細もいずれ語られますが、
ひとまず今回はその一端だけ先行してお見せさせて頂きました。
〔ゼーアドラー〕と言う、軍用機レベルの機材を運用している辺りなんかもその体現でもありますけれども。
もしその辺りにもご興味を抱いて頂けましたら、宜しければ。
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