魔導船〔ファルカン号〕①
前回の投稿後、コロナウイルス罹患に年度末進行突入~と
かなり間が開いてしまいましたが(汗)、ようやく更新です!
現状ではまだ(仮)となっているその呼称が、どうやら正式にそれで確定する運びにとなりそうな案配の「フロンティア大陸」の地に於いて。
遂に現実となった、異なる二つの世界の「人類」同士の出逢いは。
あたかもターン制で進行するゲームの如くに。
互いに驚かせたり驚かされたりを、エリドゥ側も、元地球人側も。攻守交代よろしく繰り返す。
まさしくそんな恰好の展開にて推移をしていた。
かたやエリドゥ側――〔ファルカン号〕の人々は、頭上の空を度々けたたましく駆け抜ける戦闘機の影にと怖れを抱き。
対する元地球側――合同調査部隊の方でも、人間とは明らかに異なるゴブリン種との遭遇戦になると言う。
双方それぞれに、その前兆だと言えるかも知れない経験をさせられていた、その上で。
フィオナ姫たち一行と、「海援隊」結城小隊の。共に探索者として活動していた者たち同士による、相互の接触が生起したわけだったのだけれども。
その状況が状況であっただけに、それは絵に描いた様なホットスタートの形でもって始まらざるを得ず。
結果、そこからの流れもやはり同様に。
それぞれにとってのデカルチャー! な驚きを、交互に与え合う格好でもって展開して行ったのだった。
そして今、フィオナ姫たち一行の拠点である、彼女たちをこの地へと乗せて来た魔導船〔ファルカン号〕の。その仮泊地にと辿り着いた「海援隊」結城小隊の海上自衛官たちが。
最前線に立つ当事者として、再び自分たちが驚かされる側にと回っている状況下に在った……。
目の前に停泊している、三本マストのスマートな船型を持つ〔ファルカン号〕――明らかに近代の帆走コルベット様の形状とサイズが。
彼らにマズダ連合と言う異世界国家のその総合的な技術レベルは、地球世界における19世紀中葉頃にと相当するものかも知れない……と言う推測をさせていたのもさる事ながら。
それ以上にまず、〔ファルカン号〕の乗組員を構成する各種族の人々の、その生物としての姿形――
まさにここが、〝ファンタジーな世界〟である事を。何よりも雄弁に体現して見せてくれているものだと言えるだろう、その〝多様さ〟が。
彼らの眼前にと今まさに、更なる広がりを見せている処であったのだから……。
「まるで、天使の絵姿もかくやの様だ……」
思わず……と言わんばかりに、そんな述懐を漏らしたのが。
小隊でも一番の巨漢で、膂力と体力にも優れる川島 徹二曹であった事には。
普段の彼の寡黙さを知る周囲の同僚達も一瞬、意外な驚きを覚えさせられたのだったが。
もっとも考えてみれば、旧北側生まれのロシア系日本人らしく。
生まれ育った家庭内においては密かに保たれていた、そういう感覚にと慣れ親しんでいたのだとすれば。
あるいは無理からぬ――否、むしろ自然な吐露かも知れないだろうな……と言う、納得を覚えるしか無い様な〝存在〟を目の当たりにしている中で。
誰もがそれを、おかしい事だなどとは思えなかった。
フネの上甲板に立つ、様々な種族の船員たちの中から。聳え立つ帆柱の上部へと。そのまま羽ばたいて飛び上がった〝背中に一対の翼を生やした人間〟――
それこそ、貫頭衣を着て頭上に輪っかでも浮かべていれば。まんま「天使」のイメージの具現化となりそうな種族である、翼人種の船員たち。
遂には航空機と言う形となって結実した、地球人類が古来より抱き続けた〝見果てぬ夢〟を。
本来そのままの姿でもって具現化するかの如し存在を、目にしてしまっては。
(もしかしたら、自分たちが抱く「天使の姿」のそのイメージも……或いは古人がこうして遭遇した、翼人の存在だったりするのだろうか?)
思わずそんな想像さえもが、脳裏によぎらされもする。
しかし、彼ら小隊が覚えさせられている衝撃感は無論のこと、それで終わりではなかったわけだが。
向けるその目を〔ファルカン号〕の上甲板から、船首の方にと転じれば――そちらにも、また別種の驚きが在った。
さながら一角獣の角の如くにフネの舳先から水平に近い角度で前方にと突き出した、船首横柱からぶら下がる格好で。
海面と並行になる様な体勢でもって、フネの喫水線付近を確認しながら何やら作業をしている妙齢の美女の姿が見える。
「あれなら、安全帯も要らないよなァ……」
しかし、それを目にした笠間勇利二曹が、唖然の声でそう呟かざるを得なかった通り。
目にして絶句させられたのは、そのぶらさがり方が。縄も器具も一切用いる事無しに、文字通りの〝身一つで〟それが出来てしまっていると言う点にあった。
海面と並行になる格好で横向きに吊り下がっている、彼女の上半身――それを保持しているのは、彼女自身の下半身であったからだ。
腰から下が大蛇のそれにと変じた、その肉体によって……。
ヒトの女性の上半身と大蛇の下半身とを合わせ持つ、雌性体だけの種族なのだと言う蛇妖女種ならではその身体の造りを活かして。
下半身である蛇体の後尾側をバウスプリットにと幾重にも巻き付けて支点とし、そこから海面近くまで蛇体の上部側を下向きに伸ばす事で。ヒトと変わらない姿の上半身を横向きに、海面ギリギリの高さで保持していると言うわけだ。
旧北系の日本人だが、主流となるスラブ系では無くシベリア少数民族の血を引いて、特に森林内での野戦行動に高い適性を持つ笠間二層としては。
あんな風に隠れた樹上から上体を伸ばす格好で、密かに後背の頭上から奇襲を仕掛けられたら……と言うのを瞬時に連想させられてしまって、怖気を覚えざるを得ない。
更にはそんな彼女の直下周りにも。入れ替わり立ち替わりに水面下から浮き上がって来ては上半身を覗かせる、複数人の男女の姿が見える。
どうやら喫水線下の船体部分の点検や補修をしている模様であったが、もちろん潜水具の様な物を身に着けるわけでも無しに。海女を連想させる浴着だけを身に纏った、身一つでの素潜りで泳いでいる彼ら彼女らもまた。
明らかにこの異世界ならではの存在であった。
頭上のラミアさんと、なにやら確認のやり取りを済ませて。再び水面下にと潜って行くそれらの男女の下半身は、明らかにイルカ類の様なそれとなっていたのだから……。
こちらも地球人類の想像力を搔き立ててやまない存在であると言える、〝人魚〟たちの姿が。今まさに彼らの眼前に在った――
まあ、この世界の〝人魚〟種族だと言う事になるのだろう、そんな泳人種のそのお姿は。人魚ならぬ人海豚と言った方が、厳密には正確であるのかも知れないが。
そんなラミア種にせよ、メロウ種にせよ、一番驚くべきであったのは。
いずれも半人半獣な造りの姿を素で有しつつも、生得の魔法的な能力として。その下半身を他のヒト型類の各種族たちと変わらない、二本足の姿にと形態変化させる事が出来てしまうそうで。
地上の街であったり、大小の船舶の様な、多数派のヒト型類の身体構造にと準拠した造りな空間にも。
それによって、基本的に問題なく適応する事が出来るのだと言う話だった。
実際に今、自衛官たちの眼前で種族的な本来の形態を見せてくれている、彼ら彼女らにしてからが。
〔ファルカン号〕の上甲板を、船首までは二本の足ですたすたと歩いて行って。そこからおもむろに本来の姿にと戻って、活動を開始していたわけだったので。
先立って遭遇し、交流も重ねる格好となっていた森人種の騎士シルヴィア嬢や、なんなら動物の耳と尻尾を有するヒト――獣人種(の猫族)である騎士ターニャ嬢でさえも。
今日ここで、こうして新たに遭遇する事となった半人半獣な形態が基本だと言うそんな両種族や、自前の翼で宙にと羽ばたけてしまえる翼人の様な。
文字通りに〝ファンタジーな世界の住人〟だと言うより他に無い姿形と身体的な能力を、生得的に有しているタイプのヒト型類たちにと比べれば。
(まだ遙かに人間にと近い存在であろうと、そう思えてしまうなぁ……)
と言う実感を、痛烈に覚えさせられより他に無いところである。
もちろん、その狭義での「人間」の定義それ自体も。〝自分たち地球人類およびこの世界における常人種〟と言う、両方の意味にと既に変わっているわけだったが。
ぶっちゃけた話だけれども。少なくとも様々な文化の恩恵で、相応に親和性も覚えてはいる「魔術」と言う力に対してよりも。むしろそう言った――
(一体全体、その身体構造はどうなっているんだろう……?)
と、本気でそう思わされてしまうより他に無い、まさに摩訶不思議な存在を目にしての。
純粋な驚きと共に、一方では好奇心も多いにかき立てられている。
それがビジターの立場に在る彼らの、偽らざる心況であった。
もっとも、そこは。
昨日の結城小隊との遭遇から、ようやくここにと帰り着いた先程までの間は。逆にビジターの立場に回っていたフィオナ候女たちもそうであった様に。
攻守交代よろしく、自らのホームにと迎え入れる側でもって接触を開始した恰好な〔ファルカン号〕の乗員たちにとっても。
彼ら、ニホン国とやらのその海軍の海兵たちだと言う一隊は。やはり〝見るからに異質な存在〟として、実に興味深い相手である事は言うをまたない。
昨日、最初の接触を果たした際の女騎士たちが抱いたそれと、全く同様な好奇の目でもって。
結城小隊の面々を眺める事にとなっているわけだった。
「しかし、見れば見る程ニホン国とやらの海兵は、奇抜な軍装だな?」
「そうね……。だけどその質は、何気に侮れないと思う。あの統一感のある造りはかなりのモノに見えるわ」
「だな。斬新なのには違いないが……よく見てみるとあれはあれで、なかなか格好良くないか?」
「あれこれと身に付けている、良く判らない装備もよね。あれらもおそらく、何らかの魔導具なんじゃないかしら?」
「間違いないだろう。さっき見た隊長以外は誰一人、剣も帯びていないとか。そうでもなきゃ考えられんよ」
と、そんな具合に。
エリドゥにおける〝ヒト〟型類を構成する、様々な種族の混成で成っている〔ファルカン号〕の乗組員たちの側もまた。
各々の課業に勤しみながらの観察の目を、一様に結城小隊の側にと向けている。
更に加えて言うならば、ことこの場合においては。
当の〔ファルカン号〕の乗組員たちのその多くが。職人や魔導技師と言った、それぞれの分野からフネを造り上げるプロジェクトに参加していた専門家集団であった事も、また大きかったのだと言えよう。
濃淡複数の蒼系色を斑模様に散りばめた奇妙な軍衣で揃え、一様にその目元だけを黒や琥珀色のやはり見た事も無い様な造形のゴーグル状のもので覆っている、全員が常人とおぼしき異様な風体の一団。
わけても何より目を引くのが、彼らが乗って来た〝見た事も無い様な姿形をした車型の魔導騎〟だ。
「そうだな。なんたって、あんな見た事もない様な魔導騎を使役してるんだものなあ……」
「脚で駆けるのではなく、ひとりでに車輪を回して走る魔導騎とはね……。いったいどうやって実現させているのかしら?」
あちこちで異口同音に、そんなやり取りが交わされている――まさに注目の的であった。
それ程大きい駆体でもないのに、4名の人間をその背上にと乗せて。
左右の両側面に4つずつ付いている、小ぶりながら分厚そうな造りの車輪を自ら回して。牽引する何物にも依らずに、結構な速さで地を駆け。
更に驚くべきは、そのまま岸辺から水面上にと乗り入れて――やはり櫂棒も帆も一切用いずに水上をすいすい進む、小舟にまで変じて見せたと言う事実に。
誰もが驚かされたのは、無論ながら。
それと同時に、初めて目にする〝未知なる代物〟への好奇心をも。大いにかき立てられているところであったのだから。
もちろん、そもそもが「地球」と言う異世界の純粋科学文明が造り出した、単に収斂進化による相似形を示しているだけの機械である――全くの別物なのだと言う、真実を知る前なれば。
逆に各々が、ぱっと見た様子から。
それぞれが自分野の専門家としての視点からの仮説を立てつつの、分析を試みる為の端緒と思しきものをその脳裏にと思い浮かべてみたり……と言う、ある意味習性とも言えそうな反応を始めていたのだった。
何しろ、そんな自分たちが独力で造り上げた〔ファルカン号〕――すなわちエポックメイキングな存在だと胸を張って言える、準完全魔導船と比較して見ても。
目の前の蒼斑服の一隊が使役しているその魔導騎の車は、十二分に驚くべき代物であると。そう見るしか無かったからだ。
そうやって自走するその機構にしろ、いったいどんな魔導機関が搭載されているのか? と言う点にしろ、全くもって興味は尽きない。
しかもその辺りの事は言うまでも無いとして、更にそれに加えての水上浮航である。
無論、せいぜいが小舟程度の運用領域での代物だとは言えだ。
それでも、櫂棒も帆も一切無しで水面上を地上同様に自走までして見せてくれてしまったわけだから。
あくまで非常時用の、予備動力手段の確保用にであるとは言えども。
如何な彼ら自慢の〔ファルカン号〕であっても、帆走用の装備を撤廃すると言う段階までは流石に叶わなかった現実にと照らせば。
ある種の敗北感の様なものを覚えさせられる面を交えつつも。
しかし同時に、興味もまた大いに搔き立てられずにはおれないと言う相反するものを。同時に覚えさせられてしまっている。
文字通りに、開いた口が塞がらないと言うより他に無い心境な状態であったのだ……。
そして遂に。ここまで駆って来た軽両用機動車を、手分けしての点検を行いつつ待機の構えでいた結城小隊の自衛官たちへと。
それまで遠巻きに眺めていた、非番とおぼしき〔ファルカン号〕の乗員たちの一団の中から。意を決したらしい一人の兎種獣人の女性が近付いて来て、遠慮がちに声を掛けて寄越した。
もちろんそこは、いきなり軽両用機動車やら小隊の各員が身に付けた様々な装備についてを尋ねる様な、不躾な真似では無くて。
「ええと、貴方たちが姫様方を助けてくれたそうで……本当にありがとう。その……良かったら、いろいろ聞かせてもらってもいいかしら?」
と言う、まずは率直な感謝の表情での言葉からであったのだけど。
もちろん先程の到着時にも。
フィオナ姫の無事の帰還の知らせに、彼らの多くが課業をほっぽり出しての出迎えにとわらわら集まって来て。
そんな彼らの先頭に立った、エンヤ船長とドノヴァン副長の二人が。
フィオナ姫より「恩人たちです」と紹介された、自衛官たちの物頭の青年――ユウキハルト二等海尉とやらにと。感謝の言葉を述べながらの固い握手を、ひとまず交わしてはいたわけだったのだけれども。
それは多分に、集団間での代表者同士による儀礼的なやり取りでもあるわけで。
初見からの驚きを抱かされっ放しの〝客人たち〟から、やはり自分たちも直接に。ここに至るまでの経緯やらとも合わせて、いろいろと聞いてみたい! と、そう思うのはむべなるかなと言う話でもあろうし。
元地球人たちの側が事前にシミュレートもして来た狙い通りの流れでもって、どうやらうまい具合に。
互いに異なる意味での「漂流者」の立場で、この地にての遭遇を果たした二つの世界の住人同士の〝接触〟は。
かくしてまた一つ。より草の根的な方向にと拡大をし始める、新たなる段階にと進んで行くのであった……。
そうして〔ファルカン号〕の一般船員たちが、宍戸准尉が代理で指揮する小隊の自衛官たちとの接触へと進んでいた頃。
指揮官たる悠斗もまた、〔ファルカン号〕の船内において双方の代表者と言う事になる立場の者同士での〝接触〟にと入っていた。
乗艦許可を得て。勝手知ったるフィオナ候女と騎士ターニャ卿の二人にと案内される格好にて、足を踏み入れた船長公室で。
フィオナ姫が紹介する格好の下、エンヤ船長とドノヴァン副長の両者と改めての互いに挨拶を交わし合い、そして勧められた席にと着いた彼に。
「お飲み物をどうぞ」
と言う言葉と共に、実に洗練された所作で香茶を供して来てくれた子供の船員――否、体格からそう見えただけで。その声も、そして目を向けて見たその容貌も。
まるで風と共に去りそうなイケおじさんであったのには、流石の悠斗も一瞬ながら、内心では面食らわされてしまった。
(ああ……。所謂、小人の方でしたか!)
直ぐにそう、自身の思い違いに気付いた悠斗だったが。
成人でも人間の子供程の体躯にしかならない小柄なヒューマノイド種族であると言う、彼ら小人種は。
あるいはピーター・パンのイメージが、どこか重なると言う事もあるのだろうか? 類似の種族が登場する、様々な創作物上においても。
大概は少年の様な若々しい姿に描かれる事が、多い様にと思われる存在であったが故に。
ここで給仕を務めてくれた小人の船員が、口髭が絵になる壮年男性であった事は。
そんな無意識の固定観念的なものを、良い意味で叩き壊してくれるものだとも思えたのだから。
(エリドゥで生きて行くと言う事は。これから先もきっとまた様々な、こうした驚きにと遭遇して行き続けると言う事なのでしょうね……)
そんな実感を改めて覚えさせられつつ、悠斗は〔ファルカン号〕の船長副長と向き合う。
かたや背丈はやや小柄だが、その分横方向にがっしりとした骨太な体躯を持って、赤毛の頭髪と一体化した髭を蓄えた姿の。
様々なファンタジー作品の劇中に登場する所謂それの通りに。成程、鉱人種だなと見るからに判る姿形をした壮年男性であるドノヴァン副長。
造船をはじめとした様々な分野のハードや、インフラ面での専門家として名高い彼が。
この〔ファルカン号〕の船体と、それを動かす魔導機関の両方を、見事に完成にと導いた立役者なのだと言う話であった。
そしてもう一人が、女性としては大柄で均整の取れた体躯をいかにもな装束にと包むエンヤ船長。
目尻の切れ上がった紫水晶色の瞳が一際印象深い、怜悧に整った容貌と。白金色の髪の間から前方にと突き出す、角状の突起を両側頭部に有する彼女は。
優れた知性と、魔術への高い親和性を備える少数種族の魔人種であり――その中でも白眉だと言われる程の才媛として、「マズダ連合」においてもやはり著名な人物なのだそうで。
魔術師としてだけでなく、様々な魔導具を改良や新たに実現させる為の魔導術式の構築などの、謂わばソフト面の方での魔導技術者としても様々な実績を上げており。
ドノヴァン副長が柱になって完成させた、この〔ファルカン号〕に搭載される画期的な新型魔導機関の実現も。彼女無くしては成し得なかっただろうと、誰もが認める処なのだと言う。
そんな衆に優れた才覚を持ったこの両者が中心となって完成を見た、これもまた技術と工学の結晶だと。そう呼んでも差し支えない存在であろう、魔導船〔ファルカン号〕――謂わば彼らの〝城〟だ――の只中で。
また一つ、彼我のこれからを左右するものとなる会談にと。
合同調査部隊のみならず、ひいては日本国をはじめとした元地球人たち全ての現場代理人的な立場となって、最初の接触にと臨む格好にとなっていた悠斗ではあったのだけど。
しかし、そんな好対照とも言える格好な船長副長の姿にと。
合衆国生まれの某大作SF映画でおなじみの凸凹コンビのロボットたちを、思わず連想させられてもいるくらいには。
変に気負い過ぎない、良い意味合いで適度に肩の力を抜いた心境で臨めてはいたのだ。
武道家としての常日頃の精神的な面での鍛錬と言う、彼自身の個人的な素養の部分も無論あるとして。
互いの利害調整を本気で交渉する、外交官の領域の任務を求められていると言うわけでもなく。あくまでも「救援の手は必要でしょうか?」との自方からの提案を伝達する為の、使者役にと留まるだけの話だと言う点もある。
しかしそれ以上にまず。例えそれまで生きて来た世界を異にしていようとも。
そしてこちらから見れば、その形質を多少異にする者たちも居るのだとしても。
それでも何ら変わらない、心を持つ者同士として互いに言葉を交わし、相手を理解しようと言う意志を共に出来るのだと言う。
ここへと辿り着くまでの、フィオナ候女たちとの間での相通じ合えると互いに感じ取る事の出来た確信こそが。
そんな風にして臨む事が出来る、最大の理由であったのだった。





