23
最初に訪れた衝撃は、真っ黒に私を包み込んだ。
その途端、世界からあらゆる色が抜け落ちたように感じた。
世界から、青色が消える。視界に移った空が曇天に変わった。
世界から、赤色が消える。身体の擦り傷から洩れる血がどす黒い何かに変貌した。
世界から、黄色が消える。自分の肌が、他人の物になったような気がした。
そうして色が次々と消失していき、やがて白と黒だけの世界になった。
白と黒だけの世界は段々と明度が落ちていき……。
何も見えない漆黒へとなり果てた。
何も見えず、何も聞こえず、何も感じない。
今何分経った? 気付かぬ間に時が過ぎる。まだ数秒も経っていないのかもしれない。もう数時間経ったかもしれない。自分の現状を指し示すための指標はこの世界に存在しない。
ありとあらゆる存在が、自分の自我を覗いて消え失せた。
だがその自分すら今は確かではない。自分とは一体何だったっけ。自分は自分のことをどう呼称していた?
今何時間経った? 長い間考えていた気がする。果たして自分とは何かを問い詰めて無限の思考へ陥っていた。この思考に結末は訪れるのだろうか。わからない。
今何年経った? 自分は思い出す。春の温かさを感じ、夏の恵みを享受し、秋の儚さを知り、冬の匂いを感じる。自分はその当たり前からいつ逸脱してしまったのだろうか。何も感じない。わからない。
久しぶりに自我を取り戻す。
今何十年経った? 最近は考えることすらしなくなった気がする。考えるだけ無駄。そう、無駄だ。自分以外の事象が無いのだから、どう思考を巡らせたところでそこに意味は発生しない。ただの自己満足だ。時折こうして意識を覚醒させてみるものの、やはりここに存在するあらゆるものは自分を否定した。
そうして意識が再び泥に沈んでいく。
あれ……いま、なんびゃくねんたった……?
ことばをうまくつむぐことがむずかしくなったきがする。
どうやってかんがえていたんだっけ。ことばってなんだっけ。
かんがえるにはことばがひつよう。けど、そのことばも、じぶんいがいがいなければいみがない。
むだ。むだ。むだ。
…。
……。
………。
…………ここはどこ。
こわい、こわい、こわい、こわい、こわい、こわい、こわい、こわい、こわい、こわい、こわい。
だれか、だれか、だれか、だれか、だれか、だれか、だれか、だれか、だれか、だれか、だれか。
………あ。
あ、い、う、え、お、あ、い、う、え、お。
お、え、う、お、い、あ、お、い、う、え、お、あ、え、え、お、あ、い。
あいおうえいええおいあえいうあおえいうえおあいうえいあいえおあうえいおおえいうああうえいおあいうえいあおいえういあおえいうあおいえうおあおいうえおいあううえいおいうえいあおうえいおあいあおいえおいあうえおいあい………。
…………あおえいおあいえうういおあいえうあえうえうおいあうえおあいえうおあいえうあおいあうえおいえいおああおえいうあおおあいううえいおえいえいえいえいおあいえあいえうおあおあいえうあおいえうあおあいうえおあうえいおあいうえいおおおあおおあおおいえうあいあうえういあおえいうあいおえいうあいおえいうあいえおいう…………
…………いういあおいうえいうえおおいうえいいうあいえいおうあいえういおえいうあいえおいあうういえうあうううえいあおいうえあああおいうえおあいうえいおおあおあおあうえうえういおいうあういえおあおいえういおあうういえいおいあうえいえいえいえいいえいいあおいううあえいうえおあおえおいううあおいうえいあおいうあううあいえおいうあいおいえええうあいあおいうえいお…………
…………あ、い、お、い、う、い。
…?
……?
………?
…………あいおいうい?
あいおい、うい。
相生、憂。
あ……。
そうだ……。
自分は……、
私は……。
私は、相生憂だ。




