22 直撃
「ヒャハハハハハハ、楽しいなぁこれ!!」
「くっ!」
次々と影の刃が地面から生える。それを軽いステップで避けながら相手の出方を窺う。今度は腕の薙ぎ払いがやってきた。
私はそれを高い跳躍でもって避ける。しかし、振り下ろされたもう一つの腕が私を襲った。
「なにをっ!」
スキル『飛翔』を使い、空中での軌道を変化させることでなんとか回避。
だが怪物の攻撃はそれだけにとどまらない。地面に衝突した腕の影から刃が飛び出してくる。
「ホーリーアロー!」
光魔法のホーリーアローでいくつかの刃の軌道を逸らすことに成功したが、撃ち漏らした数本が私の翼を打ち抜く。『飛翔』スキルによって肥大化した翼は、空中では大きな的だ。なんとか着地した私は、直ぐに翼を元の大きさへ戻す。だが、欠損部分が回復することはない。
ぐぅ……、翼って以外と痛覚があるのか痛いんだよね。
「頑張るねエ、頑張るねエ。だけどまだまだこれから……むっ!?」
突然怪物が後方へ跳躍したと思ったら、直後にそこへ斧が降ってきた。
「くそっ、外したか」
地面に刺さった斧を引き抜いた男。ヘプタ盗賊団の筋肉ダルマ、ファバダだった。
「ファバダさん!」
「よう、嬢ちゃん。助けに来たぜ。怪物、よくも族長を瀕死にしてくれたなぁ」
ファバダはその巨大な戦斧を怪物へ向ける。
その後ろには上半身裸のバデムと、メルケンが立っていた。
ここでヘプタ盗賊団の幹部の面々が揃う。
「家族を殺された恨み、晴らさせてもらいやすよ」
「オレっちだって参加するぜ」
族長会議で集まっていた幹部連中。そのほとんどがここに集まってきていた。
あれ、だけどもう一人女性が居たような気が……。
「クヒヒ、弱い奴らが集まったところでどうせオレにはかなわんぜ?」
怪物が目の前の三人に向かって腕を大きく薙ぎ払う。しかし、その薙ぎ払いは、ぶつかる寸でのところで止まった。なんと、腕の影からたくさんの槍が生え、腕を貫いていた。
「『影魔法』――シャドウスピア」
怪物の背後にいつのまにか女性が現れていた。スキルの発生源はあの人か。
たしか……ルルイエという名前だったはずだ。族長の背後の影に潜んでいた人だ。
「ぐぬぬ、こんなものきかんっ!」
だが、刺さった槍はすぐさま引き抜かれ、その傷も直後に修復されてしまった。こいつの回復力は尋常ではない。私が放った攻撃も直ぐに直されてしまう。一体どうすれば倒せるのか。
「奴を倒すにはどうすればいいかわかりやすか?」
上半身裸だが、利発そうなバデムが私にそう尋ねる。怪物は現在、斧使いのファバダが応戦している。そして中遠距離から、メルケンとルルイエが魔法スキルを放っていた。
「私が思うに、首を刎ねても直ぐに再生してしまいます。実際、塔の崩落で首が飛んでしまった状態だったにもかかわらず、あいつは復活してきました。あいつは不死身なのかもしれないです」
「不死身か……。それでは手の打ちようがないでやすね」
そうなのだ。先ほどまでは確かに死んでいたはずの怪物。しかし、その後に復活を果たしてしまった。私の攻撃を受けても直ぐに再生してしまうことから、やつは不死身なのかもしれない。
分子レベルにまで分解すればあるいは倒せるのかもしれないが、そんな攻撃があるはずもない。
いや……待って。
もしかしたら……。
「バデムさん。もしかしたら倒せる方法があるかもしれません」
「なんだと、教えるでやんす」
耳を貸すバデムに私はそっと作戦を伝えた。
「おらぁぁぁ!」
ファバダの戦斧が怪物の腕を叩き斬る。しかし、斬れた端から再び新しい腕が生え、ファバダを掴もうとする。
「ウォーターシュート!」
そこにメルケンの水魔法が炸裂する。小粒の水弾が何連発も腕を貫いた。その隙にファバダが後退した。
「助かった、メルケン」
「いえ、オレっちはこれくらいしかできやせんので」
「おい、ファバダさん、メルケン! こっちまで後退できるか!」
バデムに呼ばれたファバダとメルケンは、即座に交代を始めた。
「逃がすかよっ!」
標的をファバダに設定した怪物は、ファバダに向かって影の刃を飛ばす。私はその間に潜り込み土魔法でガードをした。
ルルイエがさらに援護射撃を行ってくれたおかげで、ファバダとメルケンはバデムと合流することができた。
バデムが彼らに作戦を伝えている間、私は怪物の動きを食い止めてなければいけない。いや、なかなかきついなあ。ダメージを与える傍から回復されてると、心が折れそうになる。
こっちは受けたダメージが癒えることはないんだから。
心の中で愚痴をこぼしていると、再び足元に影の刃が出現した。
「くっそう、うざったい奴らだ。それならこれはどうだ! 恐怖の波動!!」
「逃げてみんな! あれに触れただけで命を刈り取られちゃう!」
怪物を中心に半径十メートルに黒い霧が発生した。私は『飛翔』スキルで空へ逃げたが、皆は無事なんだろうか。
……大丈夫だ。皆うまく退避できている。
『飛翔』スキルがうまく使えない私は、フラフラとしながらもなんとか着地する。その着地を狙ったかのように怪物はこちらに向かって黒い塊を打ち放っていた。あれは、まさか!!
「――喰らえ、恐怖球」
既に眼前まで飛来してきた黒い塊は、私に触れた途端に爆発した。




