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15 突撃

一先ず私たちは食事をしてから眠った。

ほとんど飲まず食わずだった私たちはたらふく食べた後、泥のように眠った。白河夜船と言うやつだ。


そして明朝、キュイールにたたき起こされた。


「おい、お前ら。行くぞ」


いつものように顎髭をじょりじょり擦りながらキュイールは部屋を出る。そう、私たちはこれから北へと攻める。

目的はディゴン盗賊団と第三勢力の討伐。本目的は、首に巻かれた荒縄を解除して脱出すること。


キュイールが出て行ったあと、私は未だ眠っているアイリスを起こす。この子は非常に朝に弱い。

むにゃむにゃと口を動かす姿は可愛らしいが、それを眺めているだけの時間はない。ちょんちょんと頬を小突く。


「んあぁ。ご主人様ぁ」

「早く起きて。でないと置いて行っちゃうぞ」

「それは嫌ですの!」


バッと起き上がるアイリス。どうも私関連の話題を出すとすぐ起きるらしい。本人は、眷属魔法がどうとか言っていたけど、そんな都合のいい魔法があるのだろうか。いや、これは本人の気質の問題じゃなかろうか。


私は既に準備を終えている。持ち物に関しては、既に扱い慣れた空間魔法のアイテムボックスに予め閉まってある。アイリスも同様のはずなのだが、髪を櫛で梳かしたあと、私の寝て居たシーツに顔を埋め始めた。


「はぁ~、ご主人様の香りがしますの」

「はいはい、いくよ~」

「お待ちくださいまし~」


私はそんなアイリスを捨て置き、ヘプタ盗賊団の元へと向かった。後ろからふよふよと空中を浮きながらアイリスもついてきた。あ、私のシーツをアイテムボックスに仕舞いやがった。


元冒険者ギルドの1階フロアには、たくさんの団員が集まっていた。

数は……800人くらいだろうか。この人数なら、ほぼ村一つ分くらい作れるのではないか?

何故、盗賊団などに身を(やつ)しているのだろうか。


私たちが到着して団員のほとんどが集まったと判断されたのだろう。中央に置かれた台の上に、族長が上がっていった。

族長の腰には二本の長剣が()いてあった。


「お前ら聞けぇ!!」


その一声で、誰もが壇上の族長に視線が向いた。もとより緊張感のあった空気がさらに張り詰めた。


「今日、俺らはこの街の勝者となる。あらゆる無法者を蹴散らすのだ! かつて俺たちは一つの村の住民だった。しかし、数々の悪天候と不幸が重なり盗賊に身を堕とすことになった。その雪辱を今ようやく晴らすことができる! 同士よ、家族よ、今こそともに立ち向かい、我らの子孫にこの街をくれてやろうじゃないか!!!」


ドッと拍手が鳴り響いた。凄い重圧だ。それほどまでの重み、それほどまでの熱意。拍手を送る者の中には涙する人も混じっていた。普段は戦闘に参加しなさそうな女子供もここには居る。

皆が皆、己の場所を作ろうと必死だったのだ。


「目標はペンタゴン北部! 戦える者は武器を手に進め! 戦えぬものは、俺らを鼓舞してゆけ! いざ、突撃だぁ!!!」


族長が腰に佩いた長剣を一つ抜き出して、空へ突き出す。それを見習って団員達も各々の武器を掲げた。

族長が壇上から飛び降り、ギルドの出口から突撃を開始した。そのあとに、ぞろぞろと団員達がついていく。


「アンタらはアタイと一緒な」


いつの間にか隣にはサンが立っていた。くそう、見張られているな。


「ここから北部までどのくらいかかるの?」

「んー、アタイらは徒歩だから2時間くらいだろうね。さすがにこの人数を移動させるだけの足は持ってないんだ」


確かに、人数は多い。戦闘を行うのは500人くらいとはいえ、馬車で行くにしても馬がいない。

うーん、徒歩2時間か。大体8キロくらいかな。遠いなあ~。


「アイリスのその浮いてる魔法、私にも教えてくれない?」

「うーん、どうでしょう。私のこれは眷属魔法ですので、ご主人様には難しいかと存じますの。さすがに負ぶって連れて行くには大変ですが、ご主人様がどうしてもというならやぶさかでも……」


アイリスが手をわきわきとさせながら私に迫る。私は、その手を軽く払ってサンに目を向けた。


「この荒縄は、ディゴン盗賊団が壊滅したら解除してくれるんですよね?」

「ああ、いいぜ。それが出来たなら、アンタらには用はない。アタイらはこの街を堂々と手に入れて、アタイらの街にするんだからよ。そっからは、アタイらは盗賊じゃない、住民なんだ」


サンは妙に目をキラキラとさせている。本心からそう思っているのか、私を騙そうとしているかは、よくわからなかった。だが一応用心はしておくべきだろう。


緊張感と、使命感を胸に、私たちは一つの集団として北へと歩き出した。





「誰だ! こんなやつを招き入れたやつは!!」


スキンヘッドに古傷を携えていたディゴン盗賊団の頭領は、目の前にいる怪物に怯えていた。

その怪物の横には、かつて仲間だった者の亡骸が数体置かれていた。

そのどれもが、この世の恐怖を凝縮したような姿で息絶えていた。


「こいつのせいだ。こいつのせいで、仲間が!!」


がちがちと震える奥歯、定まらない焦点、もはや力も入らない四肢。

それを以てしても、怪物は一言こう言い放った。


「本当の恐怖ってのはその程度じゃないんだよ」


怪物は、赤い肉塊ともいえる自身の腕を頭領に向ける。その指先から黒い球が無数に打ち出された。

黒球は頭領の両肩を打ち抜き、両膝を砕いた。これでさらに動けなくなった頭領は、目の前の四足歩行の化け物を見つめることしかできなくなった。


「君もコイツらのように、オレのように恐怖を味わうといい」


化け物は、その体から禍々しい瘴気を放つ。

が、しかしその瘴気は頭領に届くことはなかった。

怪物自身がそれを止めたのだ。


「なんだ、つまらない。本当にこの程度で、人は死ぬのだな」


怪物はその建物からのそのそと出ていく。

後には、自ら舌を噛み切った頭領だけが、静かに横たわっていた。

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