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8 二人目

「お頭!! 金品を奪いに言ったやつらがもどってきてません! おそらくヘプタ盗賊団と衝突したかと!」

「ついにその時か……。よし、お前ら!!! 全員でまとめてかかるぞ!!!」


お頭と呼ばれたスキンヘッドに大きな傷を拵えた男が叫ぶ。男は首回りに着けた竜の牙を揺らしながら号令をかけた。


「ディゴン盗賊団、出撃だ!!」


発破をかけれらた荒くれどもは、独特の紋様が描かれたバンダナを頭に巻き付け、各々が武器を持って拠点を飛び出した。場所はペンタゴンの北区。

様々な盗賊団や生き残りを飲み込み肥大化したこの組織は、総勢5000人までに増えていた。


北区丸ごと覆う範囲に勢力を広めていたディゴン盗賊団は、たったいまヘプタ盗賊団が支配している南区へと進撃を開始した。

このペンタゴンという大きな宝物の争奪戦が始まったのだ。





上の方から轟音が聞こえる。まるでたくさんの人々が通過していく感じの音だ。音が聞こえるたびに、天井の方から埃がちらちらと落ちてくるので、おちおち上を向いていられなかった。


「汚いですの!」


などとアイリスは言っているが、そもそも投獄されている身だから、そっちを気にするべきでしょ。

この足音……、もしかして大規模に行進でも始まったのかな。

キュイールの宣言通り、盗賊団同士の争いが始まったようだった。といってもあれから二日も経っていたから、ちょっとしんどい。


たまにサンがパンと水を持ってきてくれたが、その度に勧誘をされるものだからめんどくさかった。

キュイールとの約束が無ければ(ほだ)されていたかもしれないね。

この調子ならそろそろキュイールが私たちを解放しにやってくるかもしれない。


そう思っていると、カツカツと階段を駆け下りてくる音が聞こえた。キュイールがついに来たのか!


しかし、やってきたのはサンだった。


「おい、あんたら。今上では盗賊団同士の戦いが起きてる。今は猫の手も借りたいところだ。どうか手伝ってくれないか? 牢の鍵と足枷の鍵は渡すからよ! 思ったよりも敵の数が多すぎたんだ!」


サンの様子はいつもの様子とは違った。今日は本当に切羽詰まった表情をしている。それほどまでに彼我(ひが)の戦力さがあったのか。キュイールは、混乱に乗じて脱獄を手伝うと言っていたが、戦力さがありすぎて防衛戦になってしまっているのならそれは難しいだろう。


「開けてくれるのはうれしいんだけど、私たち別に戦力にならないと思うよ。だって人とあまり戦ったことないですもん」

「それでもいい、少しでも援護してくれたらでいいんだ。数が少しでも多ければ、アタイのスキルが役に立つ。それにあんたらも協力したほうがいいぜ? ここでアタイたちがやられたら、命の保証はないぜ? あいつら、見境なく人を殺す連中だ」


うわー、それは嫌だな。こんな何もできない状態で見つかってしまったら抵抗できずにやられてしまう。ここは少しでも協力したほうがいいか。それで、隙を見て脱出すればいい。


「わかった、その鍵をよこして」

「ほらよ!」


私は受け取った鍵をさっそく使って足枷を解いた。そして牢を出る。


「アイリス―も行くよー」

「はいですの」


アイリスの牢も解放して、これで晴れて二人は自由の身となった!

と言っても敵に挟まれている状況らしいけど。

今ここでサンを襲って逃げることも少し考えたけど、状況をもう少し見てからでいいかな。


アイリスのほうは何も考えずにふよふよ浮いてついてきているようだけど、私は逃げる算段をちゃんと考えているんだからねっ!

あーもう! アイリスの顔がぽけーっとしてる! 緊張感ないなぁ、ほんと!


「アタイらは今、この真上の拠点で防衛している。もともとここは冒険者ギルドだったらしいから、まだ防衛はしやすいんだけど、それでも相手の数が多い。ざっと数えて数千人はいた」

「数千人!!?」


なんでそんな数の盗賊団がいるんだよ!

盗賊団ってもっとこう、数人から数十人の集まりとかじゃなかったの?


「ヘプタ盗賊団は捕虜も含めて1000人ちょっと。町の集落丸ごとで出来た盗賊団だから人こそ多かったんだけど、今回は相手が悪かった。あいつら、もとよりここペンタゴンの近郊を根城にしていたやつらなんだ。だから人数も多いし、地の利も生かしてくる。小さい盗賊団はみんな、あいつらの傘下に入っちまったってわけさ」


ひえー。そんなやつらを相手しなければいけないのか。これは結構きついぞ。そして私はもう一つの懸念材料を気にしていた。そう、謎の第三勢力のことだ。そいつらの動向はどうなっているんだろう?


「ねえ、サン……って呼べばいいのかな? ディゴン盗賊団以外にももう一つ警戒しなきゃいけないところもあるんじゃないですか?」

「……呼び方はそれでいい。そうだな……、今のところもう一つの出方が分からないところだ。おそらくアタイらとディゴン盗賊団をかちあわせて、漁夫の利を得ようとしているのかもしれないな。それよりも、お前らもそいつらの存在知ってたのか」

「うん、ちょっとね……」


やばっ、なんか怪しまれたかな。ここでキュイールが潜入していることをバラしちゃいけない。彼の立場を悪くするのは駄目だ。

話をうまく変えよう。


「ねえ、そういえばサンはさっき何かのスキルを持っているって言ってましたよね。それって何ですか?」

「お前なあ、普通人のスキルを聞くか? 仮にもアタイら盗賊だぜ?」


よし、なんとなく話を逸らせた気がする。けど、その後に続く彼女のセリフによって私は驚愕することになった。


「まあいいけど、今回は共闘みたいな形になるだろうし、言ってもわからんだろうからな。アタイは『荒縄の服罪』ってスキルを持ってるんだよ。名前からしてかっこいいだろ」


ニシシと笑う彼女は、そう言ってのけた。

『荒縄の服罪』……。私が知る限りで二人目の『服罪』スキル持ちが目の前にいたのだった。

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