3 空間魔法
日は既に沈み、空は暗く染まっていた。上を見渡せば、星々が煌々と煌めいていた。
かつて都会に暮らしていた私には見れなかった景色の一つだ。転生した私にはもう見慣れた夜空だ。
「着きましたね」
御者が告げる。今私たちはペンタゴンの城壁まで来ていた。
街からは、光も漏れ出てこないし、音も聞こえない。やはり人が住んでいる気配はないようだった。
「さて、ここらへんで空いていそうな建物に拠点を作るか」
「はい、そうしましょう」
私たちは誰も守っていない城門をくぐり、馬車が止まれそうな大きな敷地の建物に拠点を張った。
調査をするにしても、この時間になってしまっては暗くて何もできない。一旦日が出るのを待つしかないだろう。
しかし、寝るまで少し暇な時間がある。私は試してみたいことがあったので、アイリスを呼んだ。
「ねえ、アイリス。私に空間魔法を教えて」
「えっ! まさか私を見捨ててしまうのですかっ!」
かなりショックを受けた様子で慄くアイリス。一体どういう考えをしたらそういう結論に至るんだ。
「どうしてそうなるの……」
「だって……、私、ご主人様の役に立てるのって空間魔法くらいしかないのですもの。それすらご主人様が出来てしまったら、私用済みじゃないですか! 私、まだご主人様と離れたくないですの!」
可愛いこと言ってくれるけれど、若干愛が重い。いやしかし、私はアイリスを見捨てることなどない。そもそも、淫魔にしてしまったのは私のスキルが暴走してしまったせいだろうし、その辺も含めてちゃんと責任もって治るまで付き添ってあげるつもりだ。付き添うというか、連れて行くって感じだけど。
「私はアイリスを捨てるなんてことは絶対にしないよ。愛想つかされたとしても、アイリスを人間に戻して見せてあげるんだから」
「いえ、それは結構です」
「え、なんて?」
「それは結構です」
どうやら彼女は、人間に戻るつもりはないようだった。きっぱり言ってくれた。でも領主の娘をこのままにするわけにはいかないから、いずれは戻ってもらうよ?
「まあいいや。とりあえず空間魔法を見せて。じっくり見ればきっと私も使えるようになると思う。空間魔法って光魔法の系統なんだっけ」
「そうですの。光魔法の派生に空間魔法がありますわ。まずは空間魔法を発動させますわね」
アイリスが目の前でアイテムボックスを開く。私はそれをじっと見つめる。アイテムボックスは空間に淡い光を出していた。そこに手を入れると、中の物が取り出せるという仕組みだ。基本的には大きさ関係なく出し入れできる。しかし、出し入れする都合上手で持てないような大きなものや重たいものは入れることができない。
おそらく力持ちの人なら入れられる範囲も大きくなるのだろう。
「ねえ、このアイテムボックスに触ってもいい?」
「いいですけど、多分触れないと思いますの」
アイリスが言ったように、私にはアイテムボックスに触れることができなかった。このアイテムボックスという魔法は、発動者のみ触れるものらしい。そりゃ他人が触ったら盗まれちゃうもんね。ちなみに、アイテムボックスに物を入れたまま発動者が死亡すると、取り出すことはできなくなるらしい。
一応さらに上位のスキルに、他人のアイテムボックスを弄れるものが有るらしいのだが、使える者は相当限られているとのことだった。
一通りアイテムボックスを見た私はさっそく自分が使えるか試すことにした。
アイリスが出してくれた淡い光を思い出す。これは光魔法の系統だ。私の心の中に光魔法の根幹を宿す。
そして、あの淡い光を模索する。
まるで大海原に入っていくような気分だ。自分の入りたい海を選んだあと、その中に沈み込んで莫大な量の魔法の渦の中からほしいスキルを探し出す。自分の知らない魔法にぶつかっても、それを分析するのにかなりの時間を要するだろう。私にできるのは知っている魔法を見つけることだけだ。
泳ぐ、泳ぐ。浅くて綺麗な海だ。しかしとてつもなく広い。
そしてその中に……見つけた。あの淡い光だ。
私はその光に触れた。
ポワン。
「すごいですの! ご主人様!!」
私が目を空けると、目の前にアイテムボックスが開いていた。これがアイテムボックスか。なんとなく使い方がわかる気がする。私は念のため目を瞑って『ステータス』を参照する。
うん、ちゃんと「空間魔法」が刻まれていた。
よしっ!
これでアイリスに頼らずともたくさんの物を収納できるぞ!
具体的にはごはんとか! 今まで少し不便だったんだよねー。
そんなことを思っていると、それを敏感に察したのかアイリスがこちらを潤んだ目で見つめている。
「大丈夫大丈夫。今後も空間魔法はアイリスに任せるから……」
「やったー!」
でも、これで旅は楽になるだろう。何かができるようになるのってとても気持ちがいいよね。
達成感で気分が晴れやかになっていると御者に呼ばれた。
どうやら夕食のようだ。私たちは呼ばれるままに御者のもとへと向かったのだった。




