30 冒険者フラム
「あちちっ」
私は思わず後退る。超至近距離で爆発を起こしたのだ。ものすごい熱量と突風が私を襲った。
背後には私の形成した土壁がある。その土壁も所々が吹き飛んでしまっていた。
相当な威力が出てしまった。
ジェネルは無事なんだろうか。これで殺してしまいましたーなんてなってしまったら、冒険者どころの騒ぎじゃない。今度こそ牢獄行きだ。
しかし私の心配は杞憂に終わった。
「ふぅ~、あっぶねえじゃねえか。火傷するところだったぞ」
爆炎が消えた後、ジェネルはその煙の中から姿を現した。まだ周囲には熱が残っているが、ジェネル自身はほぼ無傷のようだった。あの爆発を無傷でやり過ごすとか化け物かっ!
私は再び、臨戦態勢を取る。まだ勝負が終わったわけではないのだ!
しかしそれを見たジェネルは慌てて止める。
「待て待て! 合格だ。ここまでされちゃ合格出さないわけにはいかんだろう。はあ、得意魔法が火炎魔法っていうから火耐性の装備に付け替えておいて正解だったぜ」
ジェネルは被った埃を払ってそう愚痴る。
「合格ですか? 本当ですか?」
「ああ、本当だ。まあ、もとより最初の重力みたいな力使われた時から合格にするつもりだったんだが、ちょっと楽しくなってきてな……。おい、見てるんだろロバート!! これでいいのかー!」
ジェネルはVIP席の方に大声を上げる。すると、奥の方からロバートが現れた。
ロバートは、その3階の席から闘技場の方まで飛び降りてくる。
危ないっ!と思ったが、その老骨に似合わない巧みな着地で事なきを得ている。
そしてあっという間に私たちのところまでやってきた。
「合格も何も、儂は試験免除で冒険者登録をしておいてくれと頼んだはずじゃが。アイリス姫様に関しては領主様から出された旅に出る条件のうちに冒険者試験を合格することがあったからお願いしたが、フラムに関しては実力がしっかりしているから大丈夫じゃと言ったろう。というかお前、儂の話聞いてなかったじゃろ。アイリス姫様の素性しって驚いてたよな?」
「あれ、そうだっけか? まあそんなことはいいんだよ。この白髪の子は強い。俺が保証してやるぜ」
「やれやれ……」
ロバートとジェネルは仲良さそうに話をしている。私の入る余地はなさそう……?
そう思っていると、急に二人がこちらに向き直った。
「とりあえず、合格おめでとうフラム」
「ありがとうございます!」
「後で冒険者タグを作成するから、受付嬢のところで待っていてくれ。その冒険者タグがあれば、処断の水晶で見られても赤く光ることはないぞ。まあ、申請した場合のみじゃけどな」
おお、それは助かる!
これで不用意に犯罪者扱いされずに済むよ!
私は、アイリスの元へと走った。
「アイリス―、合格したよ!」
「ご主人様、おめでとうございます!! これで晴れて私と一緒に旅ができますの!」
私たちは手を繋いで跳ねた。やっと、やっと冒険者になれたよ……母さん。
ここまで来るのにかなりの時間を使ってしまった。
三年前からずっと頑張ってきたんだ。そこからなんとか魔法を覚えていって、家を出て。
サキュバス街から人間街――ラーストに着いて『銀の鎧』と馬車の旅をした。
途中命の危機もあったけど、なんとか中央街に到着した。
けど、そこでまた一悶着あって、冒険者に追われることになった。
逃げる途中でアイリスと出会って意気投合。廃屋敷で念写真を一杯撮った。
屋敷では謎の男に襲われたけど、実はこの男がサンクシオンで、アイリスの魅了を解くために星詠みの塔に行くことになったんだ。
そこで魔族と遭遇して、魔法陣によるドラゴンブレスをサンクシオンと二人で防いだりしたなあ。
思い返せば、此処に来るまでにたくさんの冒険をしていた。決して楽な道程じゃなかったけど、生きているって感じがして充実していた。
出会いもたくさんあった。私はやっぱり世界をこうして巡るのが好きなんだ。
私とアイリスは、受付嬢のところに行って冒険者タグを貰う。タグは銅でできており名前が刻まれていた。名前の横に小さな水晶が埋め込まれている。
「そちらはブロンズタグとなります。冒険者見習いみたいなものですね。依頼を達成していけば、どんどんとランクが上がり、タグのが更新されます。記録はその水晶で行いますので、壊さないように気を付けてくださいね」
私たちがそれを眺めて喜んでいると、ギルド長が後ろからやってきた。
「フラムよ。これでお前も今日から儂の部下みたいなものじゃな。それで折り入って依頼がある。今から準備をしてペンタゴンという街の調査に行ってくれないか?」
「え?」
ニヤニヤと笑みを浮かべるギルド長。ペンタゴンって確か、魔族に襲われて滅んだ街じゃなかったっけ?昨日、サンクシオンと話してたやつだよね。
……どうやら喜びに浸る時間はないようだった。ここで私の初の依頼は、ギルド長直々の指定依頼に決まってしまった。
第一章完結!!
次回からは第二章が始まる予定です!乞うご期待くださいませ!
が、しかし、その前にちょっとした外伝を挟む予定です。




