27 試験会場
「冒険者登録の方ですか?」
入って直ぐ隣にカウンターがあり、そこから受付嬢が訪ねてくる。前回と同じ動きだ。
私は前回とは違う。今回はギルド長と話がついているんだからねっ。
今の私はかなり強気だよ!
「ギルド長より手続きを済ませられるよう手配されたフラムです」
「ギルド長っ! かしこまりました」
受付嬢は、カウンター奥へと引っ込む。ギルド長と聞いて、慌てて出て行ったね。そういえば、前回の時の受付嬢とは違う人みたいだった。
しばらくすると受付嬢は戻ってきた。若干息が切れているように見えたが、私は気にしない。
「お待たせいたしました。確認が取れましたので、奥の部屋にどうぞ。そちらで書いていただくものがございます」
私は受付嬢から紙を二枚貰った。あれ、どっちも同じ用紙みたいだけど。
「それは私のですの、ご主人様」
振り返れば、扉の前で別れたはずのアイリスが浮いていた。シェリルはおそらく外で待っているのだろう。
「アイリスは領主の娘なんだから、冒険者になる必要はないんじゃないの? というか成れるの?」
「それは問題ありませんの。私こう見えて光魔法は得意ですのよ。もうすでにサキュバスとしてご主人様の眷属になってしまったのですもの。ご主人様から離れることなどできないのです。つまり、旅には私も付き添いますわ」
な、なんだってぇー!
てっきり、アイリスは中央街に残るものだと思っていた。だって領主の娘だよ?
連れ出したらやばいんじゃないの?
やばいからこそ、騎士団長を含む騎士団がアイリスを追っかけていたわけなんだし。
「いえ、ご主人様が寝ている間に、騎士団長とギルド長には話が通しておきましたの。しかも二人経由でお父様にもね。淫魔の眷属になったって言ったら、泡を吹いて倒れてしまったそうですの。しばらくは起きませんわね」
それは大丈夫じゃないんじゃないのかっ! お父さんが可哀そうすぎる!
というか、しばらく見ないと思ったら娘が淫魔の眷属になったって聞いたら、そりゃショックだよね。うわー、なんかごめんなさい。
「いいんですの。いい加減お母様と仲直りして、新しいお子を産む絶好の機会ですの。そもそも淑女のわたくしが領主になれば、近いうちに婿を取ることになるのですからいてもいなくても変わりありませんわ」
「そうなの……か?」
私たちは、受付嬢に案内された奥の部屋に向かう。
部屋の中は広くなっており、闘技場のような雰囲気を醸し出していた。
床は、一定のところから土に変わっている。天井はかなり高い位置にあった。この建物の天井じゃないかな、これは。
見れば、2階、3階部分に相当する高さのところにそれぞれ入り口らしき扉があり、闘技場を囲むように観客席が設置されていた。
私たちが入ってきた扉から正面奥の観客席、その3階部分にはVIP席のようなものも設置されていた。とはいっても、軽く豪奢な柵がしてある程度だけど。
「大きいね、このフロア」
「そうですわね」
私たちが関心していると、別の扉から男が入ってきた。
やたら筋骨隆々な男だ。武器らしきものは持っていないようだが、金属プレートを体の一部に巻いている。ちなみに上半身はほぼ裸だ。
寒くないのだろうか。
『耐寒』を持つ私でも、ここの世界の冬は寒く感じるぞ。今は冬じゃないけどさ。
「よく来たな。俺は試験官兼教官のジェネルだ。早速だが、貰った紙に必要事項でも書いとけ。そこの台を使いな。終わったら、俺のところまで持ってこい。俺は向こうで待ってるからよ」
それだけ言うとジェネルは闘技場の中央の方まで歩いて行った。
必要事項か。
私たちは紙に記された項目を記入していく。
記入と言っても名前と種族、得意なスキルを三つ書くというものだ。
私はこの時少し悩む。私の種族って淫魔でいいのか?
同じようにアイリスも悩んでいた。
「私、もともと人間でしたけれど、今は淫魔ですしどうすればよろしいのでしょう」
まあ、確かにそうだね。今、淫魔だもんね。
迷った末二人とも淫魔と記入する。
サキュバス二人が冒険者登録をしに来る絵面ってなんだか滑稽だな。
あとは、得意なスキルかあ。
私は一応火魔法が得意になるのかな? 唯一、その上の火炎魔法のスキルまでになってるし。
淫魔魔法も火魔法の系統らしいし。
ということで、火魔法・火炎魔法・淫魔魔法の三つを記入しておいた。
アイリスの方はというと。
私はこっそり記入用紙を覗いた。そこには光魔法・空間魔法・眷属魔法が書かれていた。
「あ、ご主人様! 見ないでくださいませ。恥ずかしいですの」
「あー、ごめん」
アイリスは私に気付いて、照れたように紙で顔を隠した。その姿は可愛らしいものだけど、なぜ照れるんだろ。書かれてるものって名前と種族とスキルだよね。
そういえば、眷属魔法ってのは初めて聞いたな。一体どんなものなんだろう。あとでそれとなくアイリスに聞いてみるか。
書き終わった私たちは、中央で剣の素振りをしているジェネルのところへと向かった。




