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25 ギルド長の話

「フラムよ、それで何か分かったかね。アイリス姫様の変質にかかわるようなことは書かれておったか?」

「ええ、はい。おそらく私の持つ『淫魔』スキルだと思います」


今のところ、それ以外で眷属というワードは出てこなかった。それにアイリスはサキュバス……淫魔となったのだから、これがやはり最も可能性の高いスキルだろう。

それにしても、私の意思に関係なく発動したのかは謎であるままだけど。


「『淫魔』か……。『淫魔魔法』ではないのじゃな。種族名がそのままスキル名になっているのか……」


ギルド長は考え込む。まるで何かに心当たりがあるようだった。しかし、顔を上げた時には既に先ほどまでの表情に戻っていた。


「あいわかった。しばらくアイリス姫様については様子を見るほかないじゃろう。それでよろしいですかな、姫様」

「当然ですの。私はご主人様と一緒にいられるならそれでよろしいのですわ」


先ほどまで黙ってふよふよと空中を浮いていたアイリスが、ギルド長の言葉に反応した。

というか、アイリス浮けるんだ。どういうスキルなんだ?


「それでは、儂は一先ずギルド本部に戻るとしよう。早急に行わなければならない案件があるからの。今のところ、エインスに任せきりじゃからの」

「エインス……騎士団長ですか。それはもしや、『ペンタゴンの大惨事』についてですか?」


サンクシオンがギルド長に尋ねる。


「そうじゃ。さすがに"瞬殺の騎士"と言われるだけあって、情報収集も早いのう。数日前に中央街の星詠みの塔(ルシェルシュトゥール)に現れた魔族。どうやらペンタゴンで起きた大量殺戮に関与してる説が濃厚でな。ペンタゴンにあった星詠みの塔の支部も同様に最初に襲われていたようなのじゃ。目的はおそらく……」

「魔法陣が記録された魔導書……でしょうね」


魔法陣……。私はそれを知っている。あの魔族が放ってきたドラゴンブレスは、魔法陣から放たれたものだ。あんなものがたくさんあるというのか。

たった一発で、私の魔力を根こそぎ使い果たさせ、街に甚大な被害を与えた。


サンクシオンの助力が無ければ、私も死んでいたかもしれないのだ。

しかも、撃った張本人はケロッとしていた。あんな魔力の塊のような暴風を放っておいて、である。

魔法陣はそれほど危険な代物なのだ。


それをどういうわけかあの魔族は欲していた。あんな危険な物を簡単に放つような奴らに、魔導書を手渡してはいけない。

突然命を奪われるなんてことはあってはいけない。私が前世で殺された時の感覚を、他の誰にも味わわせたくないのだ。


「魔導書はこの国でもまだ数は少ない。星詠みの塔が管轄している分野ではあるが、儂たちも協力せねばなるまい。ここアヴリル領にある星詠みの塔の支部はあと一つ。それを死守せねばな。騎士団にも手伝ってもらうからの。あとは、他領がどのようになっているかも気になるのう。メ=ヴィル領なぞ、このような襲撃を受けたらひとたまりもないぞ……。あそこは人口が最も多いからの。......考えることが多すぎるわい。すまないが、儂はこれにて失礼する。フラムは体調が戻り次第、冒険者ギルドに来るがよい。冒険者の手続きを再度行わせよう」


そう行ってギルド長は部屋を後にした。

あの襲撃は決して一回きりのものじゃないのだろう。魔族と人間は敵対しあっているのか?

魔族の私は、それが気がかりだった。

私はもし魔族と人間とが戦争にでもなったら、人間側につきたいと思っている。

前世は人間だったし、母さんたちがいるラーストのサキュバス街は、人間と共に共生できているのだ。

少なくとも、罪もない人間を大量殺戮したあの魔族と同胞になんてなりたくない。


けど、出来れば戦いになってほしくないな。

世界を巡ったとしても、そこが戦場の跡地とかだったらつらいもん。


よし、それならちゃっちゃと冒険者になって、戦争になる前に世界を巡るぞ!

私はがばっと起き上がって立ち上がる。

が、しかしフラフラと倒れこんでしまった。その私をシェリルが抱きかかえてくれた。


「もう、フラムちゃんったら。三日も寝てたのよ? 筋力が衰えて当然なんだから、もう少しゆっくり動いて」

「え……、私三日も寝てたの?」

「魔力枯渇を起こしていたんだから当然。さ、もう一度ベッドに戻る!」

「ご主人様、今はシェリルさんのいう事を聞いた方がよろしいですの」

「……はい」


シェリルとアイリスが二人して私をベッドに押し戻す。

うーん、意気揚々と決意したのに……。しかし彼女らのいう事はもっともだ。私の足は、私の意思とは関係なく震えている。


こうしてベッドに戻された私は、シェリルやアイリスに介抱され、ギルド本部に向かうのはその翌日になってしまったのだった。

騎士団長エインス……アヴリル騎士団本部の騎士団長。槍や剣を携えていることが多いが、彼が最も強さを発揮するのは拳である。その拳から放たれる威力の前には、相手の防御力は無に等しくなる。

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