24 鑑定
ギルド長ロバートが取り出したのは鑑定の水晶だった。
確かサンクシオンが言っていた。鑑定の水晶は判別の水晶の中でも貴重で、この中央街には騎士団本部、冒険者ギルド本部、星詠みの塔の三つの施設にしか置いてないという。
おそらくギルド長が持っているのはその冒険者ギルド本部に置いてあるという鑑定の水晶だろう。
貴重だからこそ、ギルド長本人が持ち出したという経緯か。
「さあ、フロムよ。この水晶に手を翳すのじゃ。そうすれば、スキルを開示させることができる」
「わかりました」
私は言われた通り、ロバートが机に置いた水晶に手を翳す。
すると、水晶がほんのりと明るくなった。次第にいくつかの文字が浮かび上がる。
「ふむ……」
ギルド長はその文字をまじまじと見つめる。
その表情はだんだんと険しくなった。
私もその水晶を覗き込んだ。
そして映り込んだスキルがこちらだ。
「火魔法」「火炎魔法」「水魔法」「土魔法」「風魔法」「光魔法」「闇魔法」「淫魔魔法」「飛翔」「痛覚低減」「耐寒」「@#!」「@#!」「@#!」
「結構スキルを持っておるな。なんと、六大元素魔法全て使えるのか。それだけでかなりの才能じゃぞ。それに魔族特有の魔法か。『痛覚低減』……このスキルを獲得するには死の淵に立たされるほどの激痛に襲われる必要があるのじゃが、フラムはその年で一体……? 『耐寒』も極寒の場所で耐え続けられなければ得られぬはずなのじゃが……。それになんだこれは。開示できぬスキルが三つもある」
確かに、表示されていないスキルが三つあった。
これはおそらく表示されていない残りの三つのスキル、「堕天」「淫魔」「屈服の服罪」だろうか。
しかしなぜこのスキルは水晶に表示されないのだろうか。
「いまいちフラムの出自がわからんの。大抵はスキルでその人となりが判るものじゃが、このスキルを見ただけでは齢10歳の少女のモノとは到底思えん。種類だけで言えば、国のお抱え魔法師に成れるレベルじゃ。それに開示されないスキルというのが気になる。つまるところ、このスキルは鑑定の
水晶の辞書に記載されていないスキルということじゃろう。ユニークスキルというべきか。その中のどれかにアイリス姫様をサキュバスに変質させたモノがあるのじゃろう」
うーん……、順当に考えればサキュバスになったんだから「淫魔」スキルが影響してると思われるけど。しかし、今までの道中でそれが発動して記憶はない。どちらかというと「屈服の服罪」を手に入れたのが原因かもしれないし。それにもし、魔族に変質することを堕ちると表現するのなら、「堕天」も可能性にあがるよね。つまるところ、わかんない!
「フラムよ。儂にはアイリス姫様の変質したスキルがわからん。鑑定の水晶に手を翳しながら、『ステータス』を見てくれないか。そうすれば、水晶がステータスを補助して、詳細な効果が見れる」
へえ、鑑定の水晶ってそんな効果があったんだ。
今までなんとなくでスキルを使ってきたけど、効果を知れるなら使い方がばっちりわかるようになる。そりゃ鑑定の水晶が貴重な価値に跳ね上がるわけだよ。数が少ないのはきっと生産するのに難があるからなのだろう。
私は手を水晶に翳したまま目を瞑り、『ステータス』を念じる。
火魔法……火の元素魔法。火を発生させ、操ることができる。火魔法系統の根源。
火炎魔法……火魔法の上級魔法。膨大な炎を操ることができる。火魔法系統の上位の魔法。
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おお、凄い。めっちゃ頭の中にスキルの詳細が出てくる!
しかし、いまいちピンとこないな。やっぱり知ってるって感じの内容ばかりだ。
私は六大元素魔法のスキルを飛ばして、他のスキルを見る。
淫魔魔法……淫魔のみ使える魔法。相手を魅了し洗脳するための魔法が多くある。精神攻撃が主流だが、快楽を増加させるために肉体へのダメージを与えるスキルも豊富にある。
淫魔魔法、やっぱりサキュバスって感じの効果だな。精神攻撃というと、魅了の魔眼とかのことかな。肉体へのスキルというと、念動や触手召喚のことをいうのだろう。使える感じはわかるけど、実際使ったことないからわかんないや。
他はどうだろう。
飛翔……空を飛ぶことができる。また、高度が高い場所においても活動に支障がなくなる。
痛覚低減……痛みをすこし和らげる。
耐寒……寒さに対して耐性が上がる。
うーん、この三つのスキルは名前から何となくわかる内容だね。でも「飛翔」スキルの、高度が高い場所でも活動に支障がなくなるっていう効果は、高い山とかでも機能するのかな。冒険者になったら世界中に旅をしに行くわけだから、山も上るよね。うまく機能してくれたらうれしいところ。
「耐寒」にしても、寒いところに行く時は楽できそうだからやっぱり私向けなスキルだよね。
「耐寒」があるならきっと「耐暑」ってスキルも存在するんだろうなー。できればほしいよね。
さて最後の三つだ。
これのどこかにアイリスを眷属にしたスキルが混ざっているはずだ。
堕天……天より堕ちた者の称号。全魔法の適正があがる。魔力量大幅上昇。相手を堕落させ、自身が這い上がるためのスキルが多くある。天界へ侵入する際に規制がかかる。
おおう?
ようやくわかった謎のスキル一号の「堕天」くん。どうやら私が六大元素魔法を使用できるのはこの「堕天」くんのおかげらしい。相手を堕落させ、這い上がるためのスキルって、どんなのだろう。いずれそのスキルは身に着くのかな。今の私にはおそらく使えないスキルだ。
そして、最後の文面。天界への侵入に規制がかかる。
おお、つまりこれって「天界」という場所があるということだよね!
冒険者魂ここに昂奮しちゃうよ!
まだ冒険者になってないけどさ!
ただ、規制がかかるって書いてあるから、何かしらの条件を満たさないと入れないのだろう。いつか行ってみたいから調べる必要がありそう。
淫魔……淫魔の祖。すべての淫魔の頂点の称号。淫魔に対し絶対的命令権を有する。人間に対し精神的優位性を有する。相手を魅了し、支配するスキルが多くある。眷属を増やす能力にも長けている。
あー、やっぱこれだなー。
スキルの部分に眷属って書いてあるもん。アイリスを眷属化させたのこれじゃん。
というかなんか恐ろしいことが多く書かれてないか?
淫魔の祖? 淫魔に対しての絶対的命令権って何!?
人間に対しての精神的優位性もよくわからない。
私、サキュバスとして生きてくつもり毛頭ないよ!?
冒険者として世界中を巡るんだから、サキュバスのように姦淫に耽るようなことはしないんだからね! まあそりゃいつかは素敵な人と巡りあいたいとは思うけど、今はそんなこと考えるつもりはないもん。
まあいいや。次で最後。
屈服の服罪……屈服の罪人の罪を濯いだ者の称号。物理的・精神的に相手よりも優位に立とうとするスキルが多くある。そしていつか断罪にたどり着く。
物理的に優位に立つのは、あのスキルかな。相手に重力を押し付けるみたいなやつ。サンクシオンでさえも、結構堪えてた印象がある。アダマンとテラスがハイドから受けた攻撃だ。
精神的に優位に立つのは、シェリルや私が受けたあのスキルだろう。絶対に勝てないと思わせることで、身も心もその名の通りに"屈服"してしまうやつ。あれ、マジで洒落にならないくらい辛いんよね。余程のことがない限り、私はあれを使わないだろう。
そして最後の文章……、これはなんだろう。
『そしていつか断罪にたどり着く』……か。
一体どういう意味なのだろう。
私はこれからの旅路に暗い影を落とすだろうこの文言に、ほんの僅かに顔を顰めてしまったのだった。
遂にスキルが開帳!やったね!




