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23 その名はロバート

「その前にまず、合わせたい人がいるのだがいいか?」


会わせたい人?

サンクシオンが私に合わせたい人物とは一体誰の事だろう。

しかし、話を進めるために必要なことなのだろう。私は静かに頷いた。


「許可が出ました、アイリス姫様。そろそろこの部屋に招いてもよろしいでしょうか」

「ご主人様が許可なさったのなら、私は文句ありませんの。どうぞお通しなさってください」


アイリスは、つーんとした態度を取っている。私が眠っている間に何かあったのだろうか。

サンクシオンはサンドリアに頼んで、後ろに控えていた人物を呼び出しに向かった。

少しして再びノック音がし、反応したアイリスが扉を開いた。


「失礼する」


そう言って入室してきたのは、初老の男。服装はいかにも偉そうな感じがしており、顔も厳しそうな印象を受けた。しかし面相とは反対に、物腰は柔らかそうな人物だった。


「紹介する。彼はここアヴリル中央街の冒険者ギルド本部のギルド長、ロバートさんだ。アヴリル領全ての冒険者ギルドの支部を統括するギルド本部のトップということになる」

「ええええええ」


なんでそんな偉い人がここにっ!?

私遂に、国家転覆レベルの犯罪でもしてしまったの!?

いや、確かにアヴリル領主の娘をサキュバス化してしまったのだから、国家転覆罪と言われても納得できなくはないけどっ!

理不尽だと文句は言いたいところ!


「その、冒険者ギルドのトップが私に一体どんな用ですか? 私を死刑にでもするおつもりですか?」


私はこんなところで死ぬつもりはない。若干の緊張感を漂わせつつ警戒心を見せつける。いつでもこの場から逃げ出せるように、算段を頭の中で巡らせる。ただ、目の前にはサンクシオンとギルド長のロバート、サンドリアやシェリルがいる。

最悪シェリルは見逃してくれるだろうが、国家転覆罪で追われることになるのなら領主管轄の騎士であるサンクシオンとサンドリアは必ず追ってくるだろう。そして冒険者ギルド長もだ。

サンクシオンは、「速度の服罪」があるからスピードだけでは絶対に勝てない。目の前にいても簡単んに背後を取られてしまうからだ。しかし私には「屈服の服罪」がある。

「屈服に服罪」を使って、サンクシオンに重さを掛ければ少しだけでも拘束できるかもしれない。


ただ、未知数なのがサンドリアとギルド長だ。仮にも騎士団長の隊列に入っていたサンドリアと、全冒険者ギルドのトップが弱いわけがない。正直サンクシオンだけでも抑えられるかもわからないのに、この状況だ。ほぼ詰みと言っていいだろう。詰みというより罪なんですけどね。はいはい、つまらないですね。


私がそんなことを考えていると、ギルド長が深々と頭を下げた。


「え……?」

「まずは謝罪と感謝を。事情は『銀の鎧』から聞いた。早とちりとはいえ、罪もない人間を追い立てるようなことをしてしまい申し訳ない。今後はもっと適切な対応を取るように注意させよう。そして、アイリス姫様、アヴリルの市民を救ってもらったこと、感謝する」


私は思わずぽかんとしてしまった。

あれ、てっきり重罪にされて死刑台に送り込まれるものだと覚悟してたよ。

いや、確かに冒険者ギルドではいきなり警報が鳴ってたくさんの人に囲まれたからびっくりしたけど、私がその場から逃走してしまったのが大きな原因だったし、ギルド長悪くなくない?

それに逃げる途中、催眠の魔眼使ったりしたから危害は実際に加えてるし……。

後、アイリスだってこんな状態にしたのも私だろうし、アヴリルの市民だってほぼサンクシオンの作った魔法で守られたようなものだ。そして救えなかった命もたくさんある。

私が感謝されるようなことはないはずなのだ。


「いえいえ、私は何もできていないです……」

「そんなことはない。俺はあの時、皆に逃げる指示しかしなかった。もし皆が逃げただけならもっとたくさんの人が死んでいたはずだ。俺の判断ミスをフラムがフォローしてくれたからこそ、犠牲がここまでに抑えられたのだ。ありがとう」


サンクシオンがそう吐露する。見ればサンクシオンの手はわずかに震えていた。悔しさが滲み出ているようだ。


「それで改めて儂直々に問いたい。君は冒険者になりたいか?」

「え、なりたいです」


即答してしまった。

いや、夢だったし。

世界を巡る旅したいし。冒険いいじゃん、冒険!


「いやにあっさりしとるのう。彼女はいつもこうなのか?」

「俺が知る限りでは、こんな感じかと……。初めて会ったときは頬を殴られましたし」

「いや、あれはサンクシオンさんが私の裸を見たからでしょ!!」

「なんですって! サンクシオン、歯を食いしばってくださいまし! 淑女(レディ)の裸を見るだなんて紳士のすることではありませんわ! それに、ご主人様の裸をみていいのは私だけですの!」

「まって、アイリス! 意味が分からない!」


アイリスがサンクシオンを殴ろうとしているのを慌てて止めようとする。サンクシオンはサンクシオンで、立場が悪いのか抵抗できないでいた。


「ハッハッハ! 面白い娘だ。......してフラムよ。冒険者になるのは良いが、その前にスキルを確認させてはくれまいか? アイリス姫様についても何かわかるやもしれぬ」

「スキルですか? 口頭で説明すればいいのでしょうか」

「いや、その必要はない。この鑑定の水晶を使うのじゃ」


そうやってギルド長は(ふところ)から水晶を取り出した。

おいおい、持ってくるときそんなとこ入れてたら割れないか……?

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