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22 変化

激しい熱風は尚も私たちを包み込む。

一枚目に用意していたアイスウォールは直ぐに溶けて破壊された。

残るは土で出来たサンドウォール。しかしその壁もボロボロと崩れ始めていた。

このままだとまともにあの突風を受けてしまう。


すると隣にサンクシオンが並び立った。


「すまない。フラムにばかり力を使わせてしまった。俺も手伝う。大地魔法――アースウォール!!」


サンクシオンは地面に手をつき、魔法を唱えた。それは大地の岩盤を丸ごとひっくり返したような大きさで目の前を覆った。私のサンドウォールよりも一回りも二回りも大きい岩の壁。それが魔族の放った魔法を防いでいた。


「ぐぐ……」


しかし、その壁すらも貫かんとする突風。これが、ドラゴンブレス……。

ドラゴンの放つスキルだとでもいうのだろうか。

永遠とも思える時間は、終わりを告げる。敵の攻撃がついに止んだのだ。


ボロボロと崩れる土の壁の向こうに、魔族が笑っていた。


「クックック。やはり威力は高いな。だが、魔力の消費が激しい。今日はこのあたりで退散させてもらうかな。中央街の魔導書はいただいた。ペンタゴンの方はどうなったんだろうな」


魔族はそれだけ言うと大きな翼を広げ、飛び去って行った。


「ま、待てっ!」


もはや魔力を使い果たしたサンクシオンが止めようとするが、間に合わなかった。


「くそっ!」


私は、背後を見た。私たちが作った壁で守れたのは後ろにいた人間たちだけ。壁の外側にあった建物は見る影もなく崩れ去っており、中にいた人間たちが生きていないのははっきりと分かった。

魔族とは一体なんなのか。私もサキュバスだから魔族の一員であるはずだ。しかし、こうして人を襲ったりなんてしない。

サキュバス街の人たちはみんないい人たちばかりだった。もちろん母さんも……。


あの魔族は一体なんなんだ。「罪人」スキルを持った転生者といい、一体この世界で何が起こっているんだ。私は訳が分からなくなった。


「大丈夫? フラムちゃん」


シェリルが私を心配してくれている。今は、何も考えたくない。

魔力を使いすぎた私は、流されるままシェリルの胸に顔をうずめた。そしてそのまま意識を失った。





身体が揺さぶられている。


「起きてくださいまし!」


キンキンとした声が耳元で騒ぐ。この声は……、アイリス?


「起きてくださいまし! ご主人様!」


はいはい、起きますよ……って、ご主人様?

私は重い(まぶた)をゆっくりと開ける。すると目の前にはアイリスが私を思いっきり揺らしているのが見えた。


「あれ、アイリス。起きちゃったの?」


これはまずい。これ以上魅了の進行が早まってしまえば、アイリスの人格に影響が出てしまう。私は催眠の魔眼を発動しようとして――。


「や、やめてくださいませ! ご主人様! ほら、私大丈夫ですの!」


アイリスは全身を見せつけるようにくるくるとその場で回る。

あれ、なにか少し変わってないか?

前と違い、ローブは被っていない。その代わり、おしゃれなドレスのような服を身に纏っていた。

だが私が気にしているのはもっと別のところにあった。

頭に角が生えてる。それも見たことのある巻角。腰からは蝙蝠のような薄い膜を張った翼が生えており、尻尾もゆらゆらと生やしていた。

――私の知るサキュバスと同じ特徴だ。


「ええええ、アイリスがサキュバスになってる!?」


私は驚きに目を見張ってしまった。これは明らかにサキュバスでしょ!なんでアイリスがサキュバスになってるの?


「私、目が覚めたらこのようになっていましたの、ご主人様」

「なんでご主人様呼びなの?」


私は先ほどから抱いていた質問を口にする。


「それは私がご主人様の眷属だからですの。なぜだか知らないですけど、ご主人様の眷属になってしまったんですの。はあ……、初めての友達が、まさかご主人様になるとは夢にも思わなかったですわ。でも、これはこれでうれしいのでよいですの。うふふ」


やばい、アイリスが恐ろしい笑顔を浮かべている。私がそんなアイリスに恐れおののいていると、部屋の扉がノックされた。


「はい、どうぞお入りくださいまし」


それを聞いたアイリスがすっと扉の前まで行き、ガチャリと開ける。その優雅な動きはさすが領主の娘だ。しかし、普通領主の娘は扉開けないんじゃないか?


「うわ、アイリス姫様! わざわざ扉を御開けにならずともよいのですよ!」

「今はフラム様の眷属ですので、当然のことでございますの」

「し、しかし!」

「いいからお入りください。ご主人様が風邪をひいてしまいますの」


渋々といった表情で入ってくるのは、サンクシオン。そのあとにサンドリア、シェリルが続いた。


「目覚めはどうだ、フラム」


腰かけたサンクシオンは私を心配してくれている。


「フラムちゃん、私の胸の中で眠ってしまったんだよ。びっくりしたんだから。魔力の使い過ぎだね」


それも仕方ないけど――と、シェリルは言う。結局あの後どうなったのだろう。街に甚大な被害が出たはずだ。


「ねえあの後はどうなったの!? それにアイリスのあの状態はなんなの!? いろいろ教えて!」

「まあまあ待て。とりあえず一つずつ説明するから落ち着け」


私はサンクシオンから、あの後のことを説明してもらうことになった。

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