19 星詠みの塔――ルシェルシュトゥール
「そういえばサンクシオンさん。『速度の服罪』とかいうスキルで一瞬で星詠みの塔まで運べないんですか?」
「それは無理だな、重すぎる。俺のこのスキルは自身の体重も含め、一定以上の負荷がかかると発動できない。痩せてないと使えないし、軽装じゃないと使えない。案外不便な制限があるんだ」
そんな制限があるのか。「服罪」ならではのデメリットというものなのだろうか。
私の「屈服の服罪」もまた、そういったデメリットというものが存在するのかもしれない。
「私、自分の持っているスキルが一体どんな効果を発揮するのかわからないものが多いんですよね。こういうのって調べることできないんですかね」
「図書館にでも行けばいいだろう。調べたら似たようなスキルが見つかるかもしれないぞ。あるいは、判別の水晶の一つ、鑑定の水晶で詳細を覗くとかだな。まあ鑑定の水晶は希少価値が高いから、簡単に入手することはできないが。ここらへんだと、騎士団か冒険者ギルド、星詠みの塔の三つがそれぞれ一つずつ所有している感じだな」
うわあ、そのうち二つから私追われてるんですけど。でもそうか、星詠みの塔に行けばそれも解決するのか。貸してくれるかどうかは別かもしれないけど。さすがに図書館で自分のスキルをいちいち探すのはめんどくさいもんなあ。それに、おそらくだけど、「服罪」の記述はないだろう。
あれは、「罪人」を殺した人間だけが手に入れられるスキルだろうから。
そんな易々と手に入れられるものではないはずだ。
私とサンクシオンは、人通りの少ない路地裏を主に進んでいた。こうして進んでいけば、騎士団や冒険者に見つかる確率は下がる。
本来ならば往来の道を堂々と歩いていた方が、逆に見つからないのだが、アイリスを背負ってしまっている関係上人の目を引き付けてしまうし、サンクシオン曰く私のこの白髪は結構目立つらしい。
まあ私以外の人間だと、老人くらいしか白髪はいないだろう。
私はまだおばあちゃんじゃないぞ。ぴちぴちの十歳じゃぞ。ふぉふぉ。
そうして進んで40分ほど。誰にも見つかることなく私たちはその建物の前に着いた。
「やけに誰にも会わなかったな、普通なら巡回騎士がいるようなものなのだが」
サンクシオンが不思議がっているが、今はアイリスの治療が先決だ。ちゃっちゃと入ってしまおう。
「待てフラム。様子がおかしい」
警戒もなく入ろうとする私をサンクシオンが腕で遮る。普段の星詠みの塔を知らない私は、様子がおかしいと言われてもわからない。気にしすぎじゃないだろうか。
だが、サンクシオンはあたりをやたら気にしている。
「俺のスキルの視線察知というものがある。一定以内にいる者の、俺に向かう視線を察知するスキルだ。俺はそのスキルを使いながらここまで進んできてはいるのだが、あまりにも視線が来ない。普段なら、誰かしらが無意識的にでもこちらに視線を向けているものなのに、だ」
それは憂慮すべき事態なのでは!?
何暢気に話してるのさ!
先ほどまでの態度から手のひらを反す私。だって、危ないとわかったら警戒しないとだよ!
私たちは星詠みの塔から一歩遠ざかり、近くの建物に潜んだ。まるでスパイ映画のように、壁から顔を出し、様子を伺う。
「フラム。一時だけアイリス姫様の身を預かってくれないか。俺は、『速度の服罪』を使って中に潜入してくる」
「わかりました」
サンクシオンは背負っていたアイリスを私に背負わせる。
うぐっ。結構重い。いくら女の子だって言っても、やはり人一人は重かった。それに私も筋肉すらないか弱き乙女だし。
「むにゃぁ……、フラムの匂いがすりゅ……」
寝ぼけているのか、心なしかアイリスが私に抱き着いてきてる気がする。何か言ってるし。
「それでは、任せた」
サンクシオンがそういうと、音もなくその場からシュンと消えた。さすがに速い。目の前で見ていたのに、動いた導線が全く見えなかった。正面で対峙していても、サンクシオンなら私を不意打ちで倒してしまうだろう。デメリットがあるとはいえ、「速度の服罪」スキルは恐ろしい。
そう感じていると、直ぐにサンクシオンが目の前に現れた。
しかし、戻ってきたそのサンクシオンの顔は蒼白であった。
「フラム、今すぐここから立ち去るぞ。星詠みの塔が、何者かに壊滅させられている」




