10 冒険者ギルド本部
私たちは御者に別れを告げ、冒険者ギルドへ向かった。
用心棒のテラスは、報酬を受け取りに。
『銀の鎧』は、道中の町の惨事を報告しに。
私はと言えば、冒険者登録だ。登録はどうやってやるんだろう。アダマンやアンバーに聞いた限りだと、冒険者の適正検査するらしい。
ただ、検査といっても人それぞれ様々あるらしい。アダマンは教官との一騎打ちで腕試しをさせられ、アンバーは水晶で判断されたとのこと。
対策ができない分、正確な判断ができるのだろう。事前準備をさせないあたり辛いよね。
中央街の石畳の大通りを真っすぐ歩くと、その道の先に大きな建物が見えた。あのマークはどこかで見たことがある。
そうだ、アヴリルの紋章か。
つまりあれは、騎士団本部? サンクシオンが属している騎士団だ。
建物自体が非常に大きいうえに豪奢な装飾が施されている。
「フラム、そっちは違うぜ。俺らはこっちだ」
「あ、はい」
私が騎士団本部を眺めていたら、アダマンが呼び掛けてくれた。騎士団本部へ向かう道を途中で右へ曲ると、そこに冒険者ギルドがあった。騎士団本部を見た後だと、みすぼらしい印象を抱いてしまうが、こちらも十分に大きくて立派な建物だ。
間違ってもサキュバス街には建っているものじゃないし、ラーストの冒険者ギルドよりも巨大だ。
「よし、ここで俺らとはお別れかな」
アダマンがそう溢す。
「フラムちゃん。短い旅だったけど、とても長く一緒にいた気がするよ。凄い濃い旅路だったからね。私たちにとってもつらい経験だったけど、フラムちゃんにも相当な負担だったはずだ。けどこの経験はきっとフラムちゃんの糧になったと思う。冒険者をやるとなったらこうしたことも増えていくだろう。けれど、もうフラムちゃんは大丈夫だ」
「はい……、ありがとうございます。アンバーさん」
「……フラムちゃん。私もフラムちゃんのおかげで助かった。あのままだったら私はまた大切な仲間を失うところだった。ありがとう。貴女の事は絶対にわすれない」
「こちらこそ、ありがとうございます。シェリルさん」
二人は私に抱き着いた。私もそれに優しく返す。いろいろなことがあった。思い返しても、前世の平穏な日々じゃ考えられないほどの濃密な旅路だった。
いや、そもそも前世では旅そのものが出来なかった。
結果的に生き残って私はここにいる。それはとても幸運で幸せなことだ。
だから私はこの馬車の旅に悔いを感じない。こうして『銀の鎧』といういい人たちとも出会えたわけだし。
「それじゃ、いつかまた会おうぜ」
「バイバイ」
「またね」
また会いましょう。私はそう告げて三人を見送った。
後に残ったのは、私とテラス。
なんか二人きりにされた。
「……」
テラスは無言だ。
なんかしゃべってほしんだが。
基本的に、最初の頃からテラスは口数が少ないんだよなあ。
なんか気まずい。
「おい」
「は、はい!」
思わず声が上ずる。顔がいかついせいか、微妙に苦手意識あるんだよね。
「お前、冒険者になるんだろ。俺が試験会場まで案内してやる」
「……え? ありがとうございます」
報酬の受け取りはいいのかな?
でもありがたいからお言葉に甘えておこう。
私は、無言で歩くテラスにトコトコと付いていく。
冒険者ギルドの本部は非常に大きい。
入り口から入って直ぐ奥が総合受付場。基本的にそこではあらゆる部署の案内がされるそう。
つまり、それだけ中の構造が広いということだ。
総合受付場は大きなフロアになっており、上が吹き抜けになっている。例えるなら、大きなショッピングモールだろうか。
テラスはその総合受付場を無視して、左の奥へ進む。たくさんの冒険者とすれ違うが、奥へ進むごとにその数は減っていった。
ここに来る冒険者は依頼を受けに来る者ばかりなので、冒険者登録する人は少ないのだろう。
「ここだ。此処から先はお前だけで行け」
「ありがとうございます」
「お前なら、大丈夫だ。俺はお前を高く評価している。例え魔族だとしてもな」
テラスは、最後に小さな笑みを浮かべると去っていった。なんかダンディだったな。
私は、テラスを目で見送った後、後ろを振り返る。
木でできた扉。この先は、冒険者登録の受付場となる。
正直何をやらされるのか未知だけど、あとに回したところで対策はできないのだから今やってしまっても変わらない。あとは勇気を振り絞るだけだ。
せーの。
私は心の中でそうつぶやいて、扉を開いた。




