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4 道中2

御者含め、私たち全員はその場で立ち尽くしていた。


町に到着した私は御者に呼ばれ馬車から降りたのだ。そしてその光景を目の当たりにした。


「なんなんだ、これ」


アダマンが驚きのあまり、口から漏らす。

シェリルは怯え、アンバーは顔を険しいものに変えた。

私も息を呑む。その異様な光景はまるで恐怖そのものを体現したものだった。


端的に言うと、人々があちこちに倒れていた。ハイドがその一つ(・・)の様子を見ると、やはり事切れていたらしい。

この全てが死体……?


あらゆる方面、あらゆる道に落ちている人間の死体。それは屋内に至るまで続いて重なり合っていた。

腐臭はしない。つまりこれらの死体が真新しいものだと推測できる。


「おい、こっちに馬車があるぞ!」


アダマンが叫ぶ。私たち一行はその馬車に向かう。

そこには馬車が三両ほど倒れていた。やはり中は死体だらけである。


「この馬車は……、直前に出発した護送車だ」


御者がそう説明する。

そういえば、直前に私たちと一緒の方向への馬車が出発したと聞いていた。大人数編成の馬車だ。

もし私がこの車両に乗っていたら、この中で息絶えていたかもしれない。

そう考えると、気持ちが悪くなった。


「この死体……、何かがおかしい」

「……遺体に……傷が……無い」


ハイドの疑惑にシェリルが応える。そう、この死体すべてに傷という傷がない。

馬車の中の人は、転倒した拍子に擦りむいたような傷は見受けられたが、どれも致命傷に見えない。

それに町の中の死体も傷がなかった。


まるで魂だけそのまま消されたようだ。


「馬車の倒れ方も不思議だ。まるで争った形跡がない。大規模な盗賊が襲ってきたってわけでもないし、これじゃ突然中の人が死んだみたいな状況だ」

「もしかしたらそうなのかもしれないですね」


そう、全員が移動中に突然死。それしか考えられないほどの殺され方だ。病気にしても突然全員が死ぬような病気なんて考えられない。

もしかして地下から噴出した毒ガスとか……?

私は咄嗟に鼻を塞いだ。


「多分、ガスとかじゃないよ。それだったら僕達もとっくに死んでるからね」


私の言動を見たハイドがそう諭す。確かにそれもそうか。それにこれらは意図的な殺され方をしている。


「強力な魔獣が出現したのかもしれないな。だとしたらここに長居するのは危険だ。馬車に戻ろう、フラムちゃん」

「はい」


私たちは御者に言って、直ぐに出発することにした。その際、ルートの変更も行った。

このままのルートを通るのは危険な可能性があるとアンバーが唱えたからだ。各地の未踏破領域を巡った彼女の言に、皆は一様に納得した。


先ほどから用心棒のテラスがピリピリしている。それもそうだ。彼は私たちを守る立場だ。いざとなったら契約通りに御者を優先して守るだろうが、今は私たちも守る範囲に入っているはずだ。


本来なら直進して進む道を私たちは少し迂回するルートに変更した。大体到着は三日ほど延びる。しかし安全には代えられない。


食料に関しては、町の人たちには悪いが少し拝借した。少しの荷物を載せて私たちは次の町へと向かった。


後に知ることになるが、もし私たちがこのまま元のルートを辿っていた場合、「ペンタゴンの大惨事」というものに巻き込まれていたらしい。

ペンタゴンという街が丸ごと地図から消えた大惨事だ。死者の数は、五桁に達したという。それはペンタゴンの総人口と大差ない人数だった。

ただ不思議なのは、その時の死者は全員が原型を保てないほどの殺され方をしていたという。


馬車に再び揺られながら、皆の顔を覗く。そのどれもが陰鬱そうな表情をしていた。

私も同じような顔をしていたのだろうか。






「去ったか……」


男は走り去っていく馬車を見てつぶやいた。

その男は両目に包帯を巻き付け、視界を完全に塞いでいた。

怪我をしているわけではない。男はその目を使わないために自ら視界を閉じたのだ。

これ以上、死体を増やさないために。


「これからどうしようか。こんな当てもない場所で……」


とぼとぼと男は歩き出す。馬すらもその儚い命を散らしている。足が無いのではここから動けない。

しかし、ここならしばらく食料はあるだろうし、この村の遺体を埋葬するのもいいだろうと考えた。


「俺が殺してしまったんだ。弔いだけでもしなければな。そうだ、次に来る馬車にでも乗せてもらおう」


男は、悲しそうな表情をしながら、転がった遺体を集め始めた。

ペンタゴンの大惨事……後の歴史に刻まれる大惨事。街が地図から消えるほどの殺戮が行われた。ここを起点に後世で同じような殺戮が繰り広げられることになる。

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