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とある”私”と幼馴染の話

作者: 五月雨ムユ

 少し、私の幼馴染について語ろうと思う。

 

 私には、小学校の時からの付き合いになる幼馴染がいる。

 彼女は──以下、仮に彼女の名前をFとしておこう──彼女と私は、小学校の1年生の時に同じクラスになったのをキッカケに知り合うことになった。


 私が初めてFに抱いた印象は、などと言って、ここで何かそれっぽいことを語れたら良いのだろうけれど、残念ながら、流石に小学校1年生の時の記憶などほとんど持ち合わせていないので、彼女の第一印象なんてものは私にはない。

記憶にある限り彼女のことを初めてしっかり認知したのは、おそらく2年生か、3年生の頃だったと思う。


 私達の通っていた小学校は、当時1組から4組までの4クラス編成で、2年ごとにクラス換えをするはずだった。

 だが、2年生になる際に生徒数が4クラス編成にできる最低ラインを割ってしまい、2年生の時だけ3クラス編成になり、3年生になる時に転校生が来たことで再び4クラス編成に戻るという、少し不思議な体験をした。


 それはそうと、私とFは結局小学校時代を通じて、1年生・2年生・3年生・4年生と4年間同じクラスだった。

 クラス換えの回数で言えば2回ものクラス換えを乗り越えて、同じクラスでい続けた訳だが、しかしまあそこは気にしても仕方がないところだろう。

 そもそも幼馴染という定義自体、小さい時に友達だった子のうち、成長する中で疎遠にならなかった子というものなのだから、4年間彼女と同じクラスだったことを、まるで奇跡や運命のように言うのはお門違いだ。

 もしそこでFではなく、別の誰かが私と4年間同じクラスだったら、もっと言えば6年間同じクラスでい続けたりしたら、おそらくそっちの子が私の幼馴染であったであろうし。


 ともかく。

 Fと私は、小学校最初の4年間を共に過ごした。


 何がキッカケで彼女と仲良くなったのか、今では記憶の彼方だが、しかし、少なくとも3年生の頃には同じ係をやったり、放課後には一緒に遊んだりするくらいには私とFは仲が良かった。

 自分で言うのも恥ずかしいのだが、当時の私は少し大人びており、周りの子が幼く見えた──とまでは思ったことはないが、しかし、それでもどこか冷めたような、昼休みにサッカーに興じるクラスメイトを尻目に、教室で本を読んだりしているような、そんな子だった。

 そしてFも、どちらかといえばそういうタイプの子だった。

 まあ、それくらいの年齢の時というのは、女子はどこか大人びていて、反対に男子は基本的にバカなものなので、Fが特段大人びていたというわけでもなかったのかもしれないが、しかし、そんな女子の中でも特段大人びていたように感じた彼女と、私はかなり親しくしていた。


 それこそ、3・4年生の時に男子の友達と放課後に遊んだ記憶はほとんどないが、Fやその友達と遊んだ記憶は沢山あるくらいに──下手をしたらほぼ毎日、近所の公園でクラスの女子のリーダー格だった彼女と遊んでばかりいた。


 その頃からだろうか? 私がFに対して、特別な気持を抱くようになったのは。

 特別な気持ち、などと意味深な言葉を使ってしまうと、まるでそれが恋であるかのように捉えられかねないが、しかしそれも少し違うようだ。


 “違うようだ”と、自分のことながらふわっとしたことを言ったのには、それなりに理由がある。

 まあ、それは後で話そう。

 それに、そもそも小学生の言うところの恋なんて、所詮話のネタでしかなく、「お前誰々が好きなんだろー」程度の代物だったのだが……


 そして、Fに対して恋であるかのような、違うような、そんな気持ちを抱いて彼女のことを見つめながら、私は5年生になった。

 この頃から、学校でも結構な秀才として扱われていた私とFは、真剣に中学受験というものを志すようになった。

 そして、その目標が具体性を帯びてくるにつれて、放課後に遊ぶ時間も減っていき、さらに5年生で別々のクラスになったことも相まって、私とFはどんどん疎遠になっていった。


 なんとなく彼女と一緒にいるのが恥ずかしいという、思春期特有の気持ちもあったのだろうか?

 今となっては真相は闇の中だが、しかし、そうしてどんどん疎遠になっていった私達は、ついにはお互いがどこの中学を受けるのかすらも知らないような関係になっていた。

 そして時は過ぎ、6年生も終盤に差し掛かり、いよいよ受験も大詰めになってくると、彼女のことを気にしている余裕もなくなり──加えてこの頃、通っていた塾が一緒だった子に恋をしたというのもあるのだが……まあ、それは別の話だからここでは詳しくは触れないでおこう──そして、私は無事に、というか半分奇跡的に、第一志望の共学校に合格することができた。


 そうして少し自分に余裕ができたところで、どうやらFは抜群に頭がよく、全国屈指の最難関女子校に受かったらしいぞという話を耳にした。

 いや、実を言うと模試の後の成績優秀者発表などで度々Fの名前は目にしていたので、彼女が私なんかよりもずっと頭がよかったことは、前から知っていたのだが。

 しかし、実際に彼女が最難関女子高に受かったと聞いた時は、私は純粋に凄いなと思うと同時に、なんだか彼女が凄く遠くに行ってしまったような、寂しいような気持ちを抱いていた。


 心のどこかで、私は認めたくなかったのだろう。

 彼女が自分よりもよっぽど頭がよくて、そして凄い人間だと。

 それは私の、小学生なりの小さなプライドだった。


 しかし、そうは言っても結果は結果。

 これで彼女ともお別れかと、卒業式の頃には、私は自分でも驚くほど割り切ってそう考えていた。

 まあ、仕方ないか、と。

 そもそも同じ小学校の大半の友達とはここでお別れなのだから、と。


 しかし、そんな風に考えていた私の耳に、後日衝撃的な知らせが届くことになる。

 なんとそれは、Fがその最難関女子高を蹴って、私の進学予定の共学校に行くことにしたらしいとのことだった。

 最初その話を聞いた時、私は自分の耳を疑った。


 純粋に、何故、と思った。


 その理由は今をもって謎なのだが……ともかく、そんなわけで私はみんなとは違う中学に、Fと共に進学することとなった。

 Fが私の幼馴染になった瞬間である。

 だが、一度は疎遠になった仲。

 残念ながらというべきか、中学高校では1度も同じクラスになることがなかった私達は、互いに関りあう機会もどんどん減っていき、ついには彼女が今どこのクラスにいるのか、部活は何をしているのか、文系なのか理系なのかすら、私はわからなくなっていた。


 そしてそれはおそらく彼女の方も同じだっただろう。

 小学校でも女子グループの中心的存在だったFは、中学高校でもそのカリスマ性をいかんなく発揮し、いわゆる陽キャのグループの中心に、その居場所を確保していた。


 私の方はというと、別に1人ボッチで周囲から孤立するでもなく、かといって男子たちの中心というほどの中心にいるでもなく、クラスの雰囲気に多少の影響を及ぼす程度の微妙な立ち位置に落ち着き、そしてそれなりに青春を満喫していた。


 部活だって全力で楽しんだし、学校行事だって全力で楽しみ切った。

 文化祭ではステージに出演して笑いを取ったこともあった。

 恋だって、人並みには経験した。

 中学高校で2人と付き合い、1度告白してフラれて、1度告白されてフった。


 だが、結局誰とも手を繋ぐ以上の関係にはなれなかった。

 恋愛に関してFの方はというと、噂で聞く限り、結構モテていたそうだ。

 だが、“結構モテるらしい”以上の情報を私は知らなかった。

 

 知らなかったし、知ろうともしなかったし、知ってもどうしようもなかった。

 断っておくが、私は別に彼女のことを未練がましく想っているわけではない。

 けれど、いつしか私はふとしたときにFのことを視界にとらえるたび、心のどこかに引っ掛かりを覚えるようになっていたのだ。


 そうして、私はますます彼女を避けるようになった。

 会わないようにして、見ないようにして、Fのことを考えないようにした。

 その理由は、自分でもよくわからなかった。


 そのうちに月日は流れ、私は再び受験生になった。

 そこそこの進学校であった私の高校の中ではそこまで頭がよくなかった私は、人並み以上に勉強をして、なんとか第一志望の大学に受かろうと努力していた。

 一方の彼女はというと、私とは対照的に中学高校でも優等生であり続け、(私から見れば)あっさりと有名国立大学の合格をつかみ取ったのだった。


 私の方も、結果的にはなんとか滑り込みのような形で第一志望校に合格できたのだが、しかし、そこで小学校の時以来再び「ああ、今度こそお別れか」という思いが降ってわいた。

 何度も言うが、私は別に彼女に恋していたわけではない。

 しかし、それでもいざ完全にお別れとなると、どこか想うところもあるわけで。


 何を思ったか、私は卒業式を前に、久々にFと言葉を交わしてみた。

 何について話したかよく覚えていないのだが、しかし、数年ぶりの彼女とのまともな会話は、とても楽しかった。

 そして、目の前で笑う彼女を見て思った。

 

 私が彼女に対して抱いていた感情は、好意でも憎悪でもなく、ただの憧れだったんだ、と。

 幅広い人と人脈を持ち、社交的で、誰からも好かれていて、なんでもつつがなくこなし、毎日キラキラと輝いている彼女の姿は、私の理想そのものだったのかも知れない、と。

 だからこそ、目の前で理想を見せつけられた私は、彼女に対して好意であったり、憎悪だったり、そんな間違った感情を向けてしまっていたのだろう。


 本当は、ただ彼女が羨ましかっただけなのだ。

 

 その事に気付いた瞬間、私はふと、もっと早くこの事に気付けていれば、もしかしたら少し違った形の青春もあったのかなと、そんなことを思った。

 彼女と共に歩む、そんな青春時代があったのか、と。

 別に、私が過ごしてきた青春にも後悔はない。

 しかし、それでも考えてしまった。

 これでお別れだと思うと、考えてしまった。

 彼女のことを。

 小学校からずっと一緒だった、Fという幼馴染の存在を。


 後になって、友達伝いに彼女が私のことを「幼馴染」として認識しているということを聞いた。

 何かもったいないことをしたような、そんな気がした。

 

 今はもう大学も別々で、地元こそ同じだが、そうそう滅多に会うこともなくなってしまった。

けど、いつか、いつかまた会えたら。

 

 そんなことを、私はたまにふと考えるのだった。

いかがでしたか?

この”私”が誰なのか、それは読んでくださったあなたの想像にお任せします。


では、またどこかで。

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