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――とまあ、そんな人生最大クラスの災難に見舞われたのが、数時間前の話。
ちなみに志希がアパートから脱出した後、すぐに消防車がやってきて消火に当たった。
幸いにも死者や重傷者は出なかったが、アパートは全焼。その後、怪我がなかった志希は、軽い事情聴取を受けた。
どうやら火事の原因は、二部屋隣に住んでいた男性のたばこの不始末だったらしい。事情聴取の際、そう教えられた。
火事の原因はすぐに判明したので、志希はすぐに解放された。
とはいっても、火事で焼け出された事実は変わらない。家やら何やらをすべて失った志希は、こうして青空よりもさらに顔を青くして、住宅街で立ち尽くすことなったわけだ。
周囲は平和なのに、自分はただ今人生最大の危機に直面中。泣きたい気分である。
母が残してくれた貯金もあるし、手続きすれば火災保険も下りるだろう。よって、即ホームレスといった事態は避けられるだろうが……今はショックで心がついていかない。
「お母さん、私、ちょっとくじけそうです……」
リュックサックから取り出した母の遺影を取り出し、志希は力ない口調で話し掛ける。
「ママー、あのおねえちゃん、おしゃしんにはなしかけてるー」
「しっ! 見ちゃいけません。こっちに来なさい」
近くを通り掛かった親子が、足早に立ち去って行った。
その様子を、志希は驚きと深刻さが入り混じった表情で見送った。
どうやら今の自分、相当怪しい人に見えているらしい。まあ、往来の真ん中でいきなり写真に話しかける人物を見かけたら、自分も逃げる気がする。
「と……とりあえず、新しいおうちを探しに行きましょう! それとお仕事も! こういう時こそ、迅速に行動せねば!」
このままでは、誰かに不審者として通報されかねない。志希は半ば自棄のように前向きなことを言って、自分を奮い立たせる。
まあ実際のところ、寝泊まりするところの確保が急務なのも確かだ。高校の制服しかない今の状況では、ホテルだって泊めてくれるかわからない。早急に不動産屋へ行って、新しい住居を確保しなければならない。怪我の功名と言うべきか引っ越しは必要ないので、できれば今日から即入居できる住居がベスト。
そして住居が決まったら、今度こそ仕事を見つけに行かなければ……。
「はぁ……。ふたつとも一気に解決できる手段でもあれば、苦労が半分で済むのですが……」
遺影をリュックサックにしまい、志希はため息交じりに願望を口にしながら歩き始める。
だが、そんな都合のいい話がそこら辺に転がっているはずもない。ましてや、昨日から不運続きの自分では、めぐり合うことは絶対に不可能だろう。
しかし、その時だ。
「……ん?」
不意に、志希の足が止まった。そして、来た道を少しばかり引き返す。
再び足を止めた志希の前に建っていたのは、温かみを感じさせるログハウス風の建物だ。どうやらカフェらしく、入り口の扉の上には『ブックカフェあらいぐま』とある。
世の中のカフェ事情に疎い志希には、ブックカフェというのはよくわからないが、まあ本がたくさん置いてあるカフェとか、そんな感じだろう。前にテレビの情報番組で、コンセプトカフェとかいうものの特集を観たことがあるが、おそらくその類のものだと思う。
そして、そんなカフェの扉の横には、一枚の紙が貼り出されている。そこに書かれていた内容は……。
「求人……。住み込みOK……」
貼り出された求人広告を見つめ、志希がわなわなと震える。
求人――つまり、これは働く人を求める広告だ。この店は、働き手を求めている。
給料はそれほど高くないが、それよりも重要なのは備考欄。そこに書かれた『住み込みOK』の六文字だ。これは要するに、この店で働くことができれば、職場がそのまま住居にもなるというわけで……。
わななく志希は、一度ゴクリと喉を鳴らし、「フウ……」と息を吐く。
そして、改めて大きく息を吸い込み――。
「都合のいい話、ありました!!」
住宅街に、志希の驚きに満ちた声が響き渡った。




