5-1
その日の夜のこと。
「私にできること、何かないのでしょうか……」
志希は自室のベッドの中で、もう五回目となる呟きを漏らしていた。
志希の頭の中で渦巻いているのは、源内が口にした不安だった。
源内の不安の大元にあるのは、大切な奥さんとの死別だ。同じく大切な人を亡くした経験がある者として、源内には少しでも不安が取り除かれた状態で新生活に向かってほしい。そのために、自分にできることはないのか。
志希は、源内が帰ってからずっとそんなことを考え続けていた。
「……だめですね。きっと、このままでは……」
そう呟いて、志希は体を起こした。
ベッドの中でひとり考えていても、思考が煮詰まっていくだけ。眠ることさえできやしない。
志希はカーディガンを羽織って布団から抜け出し、一階へ続く階段を下りて行った。
店舗のカウンターを覗くと、荒熊さんが尻尾を振って鼻歌を歌いながら、本に値札をつけていた。一階の店舗は、カフェの営業を終えた後、バーとして営業している。どうやらその営業を終えて、仕入れた本をカフェに並べる準備をしていたようだ。
と、その時だ。荒熊さんの手と鼻歌が、不意に止まった。
「志希ちゃん、眠れないのかな?」
荒熊さんが、扉の陰にいる志希の方を向く。
さすがは神様。志希がいることはお見通しだったらしい。志希は「はい……」と返事をしながら、荒熊さんのところへ歩み寄った。
「眠れない原因は、源内さんのことかな」
「さすがは荒熊さんです。全部お見通しなのですね」
隠れていたこと、眠れないこと、そしてその原因。すべてを言い当てられ、志希が降参するように苦笑する。
「源内さんのために、自分にできることはないかって、ずっと考えていました。けれど、何も思いつかなくて……。荒熊さんは、神様なのですよね。それなら、せめて源内さんの願いを叶えてあげることはできないのですか?」
文字通り神頼みのような心持ちで、志希は荒熊さんへ言い募る。
もちろん志希だって、自分が無茶なことを言っているとわかっている。
だって、源内さんの奥さんは、もうこの世にいないのだ。思い出の梅の木だって、もうこの世にない。いかに神様とはいえ、これではどうしようもないだろう。
それでも一縷の望みから、荒熊さんに聞かないわけにはいかなかった。
「さすがに僕も、死者や切られた木を蘇らせたりはできない。現実的に源内さんの願いを叶えることはできないね」
「そう……ですか」
しかし、現実はやはり甘くなかった。わかっていたこととはいえ、荒熊さんの口からはっきり無理と言われると落ち込んでしまう。
「けどまあ、現実的じゃなくても――夢のようなものでもよければ、方法がないわけじゃない」
しかし、続けて放たれた荒熊さんの言葉に、俯きかけていた顔をバッと上げる。
そして、驚きに目を見開いて椅子の上の荒熊さんをガシッと掴んで持ち上げ、ガクガクと前後に揺すり始めた。
「荒熊さん! それはどういうことですか!」
「し、志希ちゃん、落ち着いて! 酔う! 酔うから!」
すごい剣幕で揺すられた荒熊さんが、尻尾をだらんと垂れさせる。
志希も自分が突飛な行動に出ていたと気が付き、慌てて荒熊さんを解放した。
「それで荒熊さん、『夢のようなものでよければ』とは、どういうことですか?」
「あ~、ええとね。僕の神様としての力、それに加えて志希ちゃんの並外れた霊力があれば、ちょっとした奇跡を起こせるってことさ」
そう言って荒熊さんは、詳しく説明をし始める。
それを聞いた志希は、もう一度目を大きく見開かせた――。




