地球人ごっこ
過去の作品です
至らない点は多々ありますが、どうかご容赦下さい
「ワーレーワーレーハーウーチュージーンーダー」
扇風機に向けて彼女が呟く。良い歳して何やってんだとおかしくなった。子どものころからの癖らしい。
「馬鹿なことやってないでそろそろ準備するぞ」
「うん」
今日は年に一度のハロウィンイベントだ。
妖怪やキャラクターの仮装やメイクをして、夜の街に繰り出す。僕にとっては無駄に騒ぎ立て、ゴミを散らかして、交通の邪魔になる。関係のない人には迷惑な行事だろう。
でも、彼女にとってはとても大切な日だ。
恥ずかしい気持ちになりながら、僕も怪物の仮装をする。メイクをしてもらっている間、彼女の姿をこっそり眺めた。彼女の透明感のある水色の皮膚と、顔の中心に一つだけある目が可愛らしい。年に一度、彼女は全力で楽しもうとする。
「はい。これでおしまい」
長い時間をかけて、僕も彼女と同じく皮膚を水色にペイントしてもらう。一つ目の被り物はさすがに人混みの中じゃ息苦しいので断る。彼女が哀しそうにするのが少し辛い。
マンションから出ると街はすでに人で溢れ返っていた。
国民的ゲームの兄弟だったり、黄色いネズミだったり、青いタヌキだったり。多種多様な仮装が見られる。僕はやっぱりこの雰囲気に耐えられないけれど、隣で楽しそうにしている彼女を見ていると何も言えなくなってしまう。
「私ね、一年の中で唯一、この日だけが好きなの」
「そうだね」
きっとそうなんだろう。彼女の境遇や僕達の関係を考えると、今日ほど彼女が楽しめる日なんてないのだろう。
「ごめんね。毎年付き合わせちゃって」
「いいよ。僕の方こそごめん」
ふと彼女の顔を眺めると涙が流れていた。
ハロウィンには何度か訪れているけど、たぶん、これが最後になるのだろう。僕達はそろそろ別れなければいけない。いつまでも一緒にいられないことは最初からわかっていた。
元々、住む世界が違うのだ。
「ワーレーワーレーハーウーチュージーンーダー」
彼女が恥ずかしげもなく空に向かって叫ぶ。
楽しそうに月を見上げた。
彼女の今が、もっと幸せな日になることを願う。
今日だけは仮装する人に紛れて、彼女は人間に化けることもなく、宇宙人の姿で街を堂々と歩けるのだから。
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