3-1 新たな始まり
『おはよう、シア。晴れて良かったね』
その朝のことは、多分生涯忘れられないと思う。
朝露と霜の降りた冬の終わりの寒い寒い森の中。
冷たい土の地面の上で、ポカポカと暖かい布団に包まれて見た、不思議な夢。
朝焼けの気配にふと目を覚まして、なんだか少しその肌寒さが恋しくて布団を押したら。
そう言われた……。
エイネシア・フィオレ・アーデルハイド嬢、始まって以来の不覚。
大きな上着に包まれて。暖かい腕の中でポカポカと。
あろうことか野宿……しかも、異性を枕にすやすや眠りこけていたなんて、誰が信じられようか。
ましてやその枕ときたら、混乱で顔を真っ赤にして意識昇天させているいたいげな乙女に、カラカラとお笑いになったのだ。
もう……恥ずかしくて消え入りたい。
でもなんだか気持ちはとてもすっきりしていて。
あぁ、そうだ。今日からは、“別の物語”が始まったんだ、と思い出した。
全部全部。
夢じゃない。
ついに、ヴィンセントとの時間が終わりを告げたことも。
今そこに、アレクシスがいることも。
でもどうして起こしてくれなかったのかと一応怒ったら、『起こすのが可哀想で』と言われた。
だったらせめてどこかに連れていってくれたらよかったのにと恥ずかしがったら、『ハインのところは“元に戻してきなさい”と叱られそうだった』し、星雲寮は『多分エニーにボコボコにされると思う……』と、そんな情けない顔をなさったのが、少し面白かった。
どちらもとってもあり得そうだった。
(その後エイネシアを星雲寮に送り届けたアレクシスは、一晩中エイネシアを探し回っていたアンナマリアとエドワードに散々に言葉攻めにされ、エニーにガン無視された)
星雲寮に一晩滞在したというアーウィンは、なんでも父から、このアレクシスが大学周辺に顔を出したらしいという噂の真偽を確かめてくるように、と学院に遣わされていたらしく、アレクシスを見た瞬間、大変怖い笑顔をお浮かべになって、『良くも振り回してくれたな、クソ殿下』と、容赦ないことを言ってその首根っこを引っ立てて行った。
去っていくその人がおかしくて。
ちょっぴっり悲しくて。
でも少しも不安ではなかった。
もう……その人は、行方不明になんてならない。
そう思ったから。
こうしてエイネシアの新しい一日は始まった。
とても新しくて。
そして何もない。
ゲームには描かれていない“延長戦”が。
始まったのである。