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七人の少女とたった一人のバッドエンド  作者: 灯月 更夜
第二章 エデルニアの雪融け
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2-17 光と闇と舞踏会(1)

 強がりを言って見せたところで、何か現実が薄ぼんやりと取りとめなく、まるで長い長い夢を見ているかのようだった。

 何をどうふるまえばいいのかなんて、ちっとも分からない。

 分かったふりをしているようで、本当はちっとも分からないまま。

 でも自分で言ったのだ。殿下はアーデルハイドの意味を分かっていらっしゃる、と。

 エイネシアと婚約破棄をしたとして、アーデルハイドを敵にするような浅慮はなさらないはず。

 そう思う一方で、その婚約破棄とやらがただエイネシア個人との問題でないことも、そしてアーデルハイド公爵家一家との間だけの問題でないことも、また確かだ。

 この国の四方の国境を治める四公爵家が、その権威と忠誠をエイネシアの肩に背負わせ、王太子の許嫁という地位においている。それは王太子とエイネシアの婚約には、王家と四公爵家の関係がゆるぎなく、その忠義と信頼が変わりないことを確認し合うための踏み絵のような意味合いもある。

 ヴィンセントは誰よりもそれを知っているから、昔からエイネシアを王家の妃として相応しく有るようにと求めてきた。

 もしもヴィンセントがそういう人でなかったとしたら、エイネシアは今頃四公爵家の権威を笠に着て王家を蔑ろにするような、とんだ我儘令嬢になっていたかもしれない。しかし常にそれを窘め、ヴィンセントがエイネシアを制し続ける姿勢を守ったからこそ、エイネシアは今貴族として王家に忠義を示す代表で在らねばならないという公爵家の有るべき姿を保っていられる。

 正直言うと、婚約を破棄されるだなんてことは、今この状況になってなお未だにピンと来ていないのだ。

 だってこの関係は感情じゃない。義務であり、責務だ。

 それでもし。もしもヴィンセントが、婚約を破棄しない。だがアイラを愛していると言ったならば。

 そしたら私はどうするのだろうか。

 どうしたら、いいのだろうか。

 そんなのちっともわからない。

 もしかしたら本当におかしくなってしまって、力を暴走させてエドワードに殺されるのかもしれない。

 何ならもう。それでも良い。

 こんなにも姉を心配してくれるエドワードが、そうすべきだと思ったのならば、それもいいかもしれない。



『今日も一日よく頑張りました』

 子供を窘めるみたいな走り書きを手に取って、クスリと思わず口を緩める。

「あぁ、違う。今はこれではないわね。頑張るのはこれからだもの」

 そう便箋を丁寧に折りたたんで、隠し扉にひっそりとしまう。

 それと同時にコンコンと叩かれた扉の音に、急いで机の天板を閉め、返事をして部屋の扉を開けた。

 青い衣装に白のスカーフ。胸元のサーモンピンクの薔薇と、いつもと変わらぬ、麗しの王子様。

「準備はできているか?」

「はい。すぐに参りますわね」

 一度部屋に戻って、窓辺の花瓶に挿されていた同じ色の薔薇を手に取る。

 綺麗に刺抜きされた、優しい色の薔薇。

 いつぞやは摘み取られてしまった薔薇だけれど……きっと大丈夫なはず、と、それを自ら髪に挿した。

 淡い蒼のドレスの裾を軽く整え、キチンと鏡で身だしなみを確認して、「お待たせしました」と部屋を出る。

 当然のように差し出されるエスコートの手を疑うことは微塵もなく、そしてそれにいちいち胸を揺るがすことも、もうない。

 長い主階段をゆっくりと降りて、ヴィンセントと共に馬車に乗りこんだ。

 前期の授業の終わりを告げるその夜の舞踏会は、学院でも卒業のパーティーと並んで華やかな大舞台だ。今宵はその日で、少年少女の帰省の準備に賑わう盛り上がりの中、一層賑やかに学院内の舞踏会場がキラキラと明かりを放っていた。

 エイネシアにとっては学院で二度目の舞踏会となる。

 そして今年も同じ。何も言わずともヴィンセントは迎えに来てくれたし、揃いの薔薇に、何かを言うこともない。舞踏会場の控えの間に当然のように二人で足を踏み入れて開始の時間を待つのも、これまでと同じだ。

 そこに気まずいものなんて少しも無く、「今年の夏はお祖母様にお会いになるのか?」「ヴィンセント様はまたイリア離宮でお過ごしですか?」と、まるで何事も無かったかのように会話を交わす。

 途中、「少し宜しいですか」とアルフォンスが顔を見せてヴィンセントを連れ出したから、エイネシアも、少し時間を潰していよう、と、控えの部屋を出た。

 だがそこでようやくいつもとは違う状況に遭遇し、思わず、あぁ、まったくもう、と、胸の内でため息を吐いた。

 そこには三人も取り巻をお引きつれになった、アイラ・キャロライン嬢がいた。

 噂はともかく、直接という意味では最近ずっと静かだったはずなのだが、何故突然貴賓控室の目の前で仁王立ちなんてして待ち構えていらっしゃるのだろうか。エイネシアが顔を出さなければどうしたのだろうか。

 それから……なるほど、と、アイラの後ろの三人の顔ぶれを見て、納得した。

 シシリア・ノー・セイロンと、それから栗色の髪の、少し困ったようにおどおどとしているのはゲームでのエイネシアの取り巻きとして見覚えのある大きなリボンの子。もう一人もそう。少しきつそうに、むしろ一番堂々とアイラの隣に並んでいる赤茶色の瞳の、少し下頬のふっくらとしたその少女は、やはりエイネシアの取り巻きになるはずだった子ではなかろうか。

 その二人を見てようやく分かった。いつぞやの公爵家でのお茶会で見た、会場の外のガゼボで所在なく座り込んでいたカレンナ・ネイスアレス子爵令嬢と、そしてもう一人は、『私、エイネシア様とお友達になりたいんです!』と、身を乗り出して言ったメアリス・ニデア・ノークウッド伯爵令嬢だ。

 まさかあの時は、あの子たちがゲームでの取り巻きの子達だなんてちっとも思わなかったが、成長した今の姿を見れば、なるほど、どこか見覚えがある顔形をしている。

 彼女たちが揃いにも揃ってアイラの取り巻きと化していることについては半信半疑であったが、これで確信が持てた。


「ごきげんよう、シシー。お久しぶりね、メアリー。カレン」

 そう声をかけたところで、びくりっと肩を揺らしたカレンナが小さく後ろの壁に寄った。

 相変わらず気の弱そうな、自信のなさそうな様子だ。それはかつての顔見知りであるエイネシアを前に、その人を貶める人物と一緒にいることへの後ろめたさからだろうか。どう思い返しても、こんなことをするような子ではなかったように記憶しているのだが。

「私に何か御用かしら? 殿下でしたら、今は少し席を外していらっしゃるの」

 そうアイラに言ったところで、「なんだ……」とあからさまに粗放を向いたアイラに、なるほど、本当はヴィンセントが出てくるのに遭遇する予定だったわけか、と理解した。

「それよりも……アイラさん。その……ドレスは?」

 取りあえず今はそれよりも何よりも、おせっかいはやめておこうと思いつつ、どうしても突っ込まずにいられなかったその装いについて、うっかり問うてしまった。

「え? ドレス? 何?」

 そう首を傾げるアイラは、まさか、分かっていないのだろうか。

 いつものように華やかなピンクのドレスには、ブラウンとクリーム色のレースやリボンが沢山あしらわれていて、ぎゅっと絞った背中のフリルがふわふわと後ろを引く様子はとても可愛らしいドレスだと思う。

 しかし如何せん問題は前。その足元の、前が短く後ろが長いアシンメトリーがまずい。

 アシンメトリー自体が駄目なわけではない。そうではなく、足をさらけ出しすぎてていることが問題なのだ。

 確かに学院の制服はミモレ丈で、多少なり足が見える形になっているが、これは制服という特殊なスタイルに限られたものの話である。

 これから開かれる正式な舞踏会に、そのように膝をさらけ出したドレスなんて着て行けば、この国では優しく言っても“痴女”扱いされる。

 酷い言い方をするならば、丈の短いドレスは“娼館”の女性の装いだ。労働を資本とする庶民でさえも、膝を見せるような丈の服装は絶対に身に着けない。そんな恰好を貴族の娘がするなど、精神異常を疑われても仕方のないことなのだが、まさかこの子はそれを知らないのだろうか。

「シシー……」

 困ったように、アイラの後ろに立つ良識があるはずのシシリアを見たが、彼女は何ら表情を移ろわせることも無く、「何か文句でもおありですか? 姫様」と冷たく言った。

 まさか分かっていてなお、アイラをこの格好で舞踏会に出すつもりなのだろうか。

「カレン。メアリー?」

 貴女達も? と、呆気にとられて見やったところで、カレンナはただ困ったように視線を逸らすだけで、メアリスときたら、「素敵なドレスですわよね。姫様も見惚れてしまわれたようですわよ、アイラさん」なんて言ってアイラを持て囃したものだから、ぎょっとした。

 そうしている内にも廊下の向こうから、ガヤガヤと男性の声がしはじめたものだから、慌ててアイラの腕をつかむと、「取りあえず中へ!」と引っぱる。

「ちょっ。いやっっ。何をするんですかッ! エイネシア様!」

 誰か人が来ていることに気が付いているのだろう。わざとらしく大声をあげながらも、あっさりとエイネシアに引きずり込まれてみせたアイラは、部屋に入った瞬間から、ふんっ! と勝ち誇った顔をなさった。

 しかしすぐにも、その部屋にエイネシア以外の人がいるのを見て、口をへの字に曲げる。

 エイネシアとヴィンセントは、いくら許嫁といっても、結婚前の男女だ。今は王子が席を外しているが、本来控室に二人しかいないなんてことはありえないし、貴人を世話するための侍女がいるのは当然だ。今日も、星雲寮の侍女であるエニーと、舞踏会に合わせて手伝いに来ていた王子の侍女のアマリアがいる。エイネシアだって、他に人のいない場所に不用意にアイラを連れ込んで、二人きりになんてなりはしない。そのくらいの警戒心はあるのだ。

 さらにアイラにとって予想外だったのは、侍女のエニーがアイラのドレスを見た瞬間、「まぁ、なんというあられのないお姿を!」と、とんでもない悲鳴を上げたことだろう。これには、やっぱりそうよね、と、エイネシアも深い同意のため息を溢した。

「エニー。少し不手際があったの。すぐに彼女に別のドレスをご用意してあげて。アマリア。申し訳ないけれどお手伝いいただけますか? 殿下とお親しい方なの」

 そう言ったところで、実によく出来た寡黙な侍女は、「ドレスの調達は私が」と、すぐに一礼して部屋を出た。

「これはこれは……お嬢様、一体どうなされたのですか? ひどいですわね。どなたかにドレスを破られたのですか?」

 そうハラハラとアイラに駆け寄ったエニーに、アイラはキョトンッッ、と、目を丸くして立ちすくんだ。

 うんうん。エニー。気持ちはわかるが、なんというのか……言ってはならない突っ込み方をしてしまったようですよ。

「な、何なのっ。いきなり人を引っ張り込んでッ」

「アイラさん。正式な舞踏会に、踝より上が見えるドレスを着ていってはとんでもないことになりますよ。前期末の舞踏会はマナーとダンスの中間試験を兼ねていらっしゃることはご存知でしょう?」

「まぁ。エイネシア様は、私のドレスを問題だと言うのね!? しがない男爵家のみすぼらしいドレスでは舞踏会に相応しくないとッ」

「だから違います! 折角おせっかいを焼いているんですから、ちゃんとお聞きになって!」

 珍しくそう声を荒げたせいだろうか。アイラも思わず口を噤んだ。

「そのようなドレスで舞踏会に行こうものなら、下手をすれば礼儀を失していると言われて落第。マダムサリバンの評価次第では退学。貴族の社交界からは永遠に追放されます! それを良くご理解なさって!」

「追……? え? いやだわ。何を仰ってるの? 私はこのゲームの主人公なのよ?」

 馬鹿なの? とでも言いたそうなその言葉に、あぁ、もう、とエイネシアは頭を抱えた。

 隣でエニーが、おろ、おろ、とこの困ったちゃんのことを判断できずに混乱した顔をしている。

「良いから真面目に聞きなさい! そのように足を見せるだなんて、とんでもないマナー違反です。ましてや膝よりも短いスカートは、娼婦の着るドレスと嘲られ、庶民さえ忌避するのですよ。貴女はそんな恰好で、全ての貴族の子弟が集まる栄えある学院の舞踏会に赴かれるのですか!?」

「え?」

 ようやく少しは理解したのか、しばらく首を傾げたアイラは、やがてみるみると眉をしかめると、「あいつら……」と、顎に手を添えて吐き捨てるように呟いた。

 やはりそうだ。アイラにこんなドレスを着させたのは、この子の取り巻き。多分、一際アイラを煽っていたメアリス嬢だ。

 一体何を考えているのか。

「あぁ。そうだわ。ええ、そうよ。そう! 私のドレス。せっかく苦労してお母様が仕立てて下さったドレス!」

 いいことを思いついた! みたいな顔で、そうまくしたてるようにエイネシアに主張するアイラ。

 今度は一体何事なのか。

「酷い! 何がそんなに気に入りませんの?!」

「あの……ですから今言ったように……」

「色? 殿下がお身に付けられている薔薇と同じ色なのがそんなに気に入りませんの!?」

「は?」

 何の話だ。全くついていけない。

「こんなにも無残に引き裂くだなんてっ。これでは私っ、私、舞踏会に出られない!」

「貴女っ」

 まさか。そんな馬鹿な言い分があるものか。いきなり何を言い出すのか。

 そこに折よくカチャリ、と扉を開けたアマリアが、「何事ですか」と目を瞬かせながら入ってきた。

 その瞬間、扉の外にガヤガヤと集まる生徒たちがいるのを見て、そうかしまった、とエイネシアは背筋が凍るのを感じた。

 突然何を叫び出したのかと思いきや、そうか。外に生徒が集まっているのが分かっていたから、こんなことを言い出したのだ。分厚い扉とはいえ、声を荒げれば外にだって聞こえる。

「アマリア。殿下は……」

「陛下からお祝いのお言葉があったとのことで、学院長に面会しております。お呼びいたしますか?」

「いえ……ご公務をお邪魔するわけにはいかないわ。エニー、取りあえずアイラさんにドレスを。アマリアは殿下がご公務を終えたらすぐに、少々問題が有ったのでエイネシアは少し遅れますとお伝えして頂戴。あぁ、ですがアイラさんの身支度が終わるまではどうか殿下をお部屋に近付けないように」

 そう促したところで、「こちらへどうぞ、レディ」と優しく差しのべたはずのエニーの手に、「いやっ!」と、またもアイラが大げさな声をあげたから、エニーもびっくりして手を引っ込めた。

「やめてっ。酷い。強引に脱がせるつもりですのッ!?」

「……いいえ。そんなことしませんわ」

 いつまでも演技を続けるなら、それでもいい。彼女が何を言おうとも、ここには証人もいる。

 それにそんな恰好で外に飛び出して人目に付けば、アイラが礼を失していることなど一目瞭然なはず。

 だからそう、アイラが大人しくなるのを待とうとしたら。

「このような辱めを与えるなど、私が何をしたと言うんですか!」

 叫んだアイラが、ドアノブに手をかける。

 その行為が、どうしようもなくエイネシアの頭に警報を鳴らす。

「ッ。エニー! アイラさんを止めて!」

 エイネシアの場所からでは届かない。

 そう慌てて叫びながら足を踏み出すのと同じく、エニーが手を伸ばしたが、それをパンッと叩き落とすような令嬢らしからぬ行動をとったこと、エニーが一瞬キョトンッ、と立ちすくむ。

 その隙に、ガチャッと回されたノブと。

「酷いッ。このように切り刻まれたドレスでは、舞踏会になんていけないわッ。そんなにも私が目障りなのですかッ!? 私のような下々の者には、殿下とのたった一曲の思い出を夢に見ることさえ許されないと言うのですか!?」

「アイラさんっ」

「ええ。分かりました。分かりましたッ。もう二度と。二度とそのような甘い夢など見ませんわ!」

 バンッと開かれた扉。

 エイネシアのつかみ損ねた手が宙をかき、バッと飛び出していくアイラの姿に、「えっ」「あっ」と、集まった生徒達が目を白黒させてそれを見やる。

 振り乱したドレスの裾。肌蹴た足。それを一身に振り乱して走り去る後ろ姿。

 ざわざわと、その装いに対するざわめきと、それからチラリチラリと振り返った、エイネシアを見る冷たい眼差し。

 違う。そうじゃない。そうじゃない、と、声を高らかに叫びたくて。

 なのにちっとも声にならない。

「お嬢様ッ、申し訳ありません。私」

 そう真っ青な顔をするエニーの言葉だけが、エイネシアをとても冷静にさせた。

 大丈夫。大丈夫。とにかく。とにかく落ち着いて。

「貴女は悪くないわ、エニー。落ち着いて。それより今は……」

 それより。どうする? どうしたらいい?

 アーデルハイド公爵令嬢は、この場を治めるためにどうふるまったらいい?

 不安そうな侍女に何を指示して。何をどうすればいい?


 ぐるぐる。ぐるぐると頭を回転させて。

 なのに少しも良い考えが出てこなくて。


『今の……あの子のドレス……』

『さっきの会話……何?』

『まさかエイネシア様が……あの子を辱めようとして?』

『私あの子見たことありますわ。よく殿下と親しげになさっている……』

『先日、サロンであの子が何か殿下に差し上げていたのを見ましたわ』

『何でもよく、エイネシア様から殿下が庇っておいでだとかいう噂の……』

『私、あの子は気に入りませんけれど……でもまさかエイネシア様がそんなことをなさる方だったなんて』


 ひそひそ。ひそひそひそと……。


『失望ですわ――』



 ポツリ、と。

 耳に届いた誰かの声が、目の前を真っ暗にした。


 痛い。心臓が。

 早鐘を打ち付けるようにドッドッと脈を打ち、息が苦しい。

 呼吸の仕方が分からない。

 頭が割れるように痛い。

 目眩がして。

 耳鳴りが人の声を遠ざける。


「――さまっ……お嬢さまっ」


 どこかで誰かが呼んでいる。

 肩に触れられた手が、体を突き刺すように痛い。


 痛い。

 苦しい。

 息が、できない。

 できない。

 助けて。

 助けて。

 ねぇ。助けて、ヴィンセント様。

 お願い。

 たすけて……。


「アレク……さまっ……」



 気が付いた時にはもう。

 その場に崩れ落ちて、その意識は深い深い闇の中へと沈んでいた。






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