5-16 初雪
翌朝、エイネシアが目を覚ました時、ほのかに温もりの残るその場所に、その人はもういなかった。
行ってしまったのね、と恨めしく思って目を閉ざしなおそうとしたところで、しゃり、と音を鳴らして指先に触れた感触に、ふと目が開いた。
何だろうか。空虚になってしまったベッドの傍らに、何かある。
小さくて。冷たい感触があって。
ゆるゆると身を起こして、触れた物を掴み、手を開く。
さらさらと指先を零れ落ちた、繊細なプラチナチェーン。
きらきらと輝く星型に伸びたダイヤの苞葉と、アメジストの丸い花びらのそれは、“エーデルワイス”の花だった。
とても小ぶりで愛らしい、素敵なペンダント。
はて。でもどうしてこんなものがベッドの上に、と朝日に掲げてみたところで、ぶるりと凍えた肩の肌寒さに、ふと、窓の外の景色に目を奪われた。
小さな窓から薄らと差し込む光の柱。
その先で、チラリチラリとちらつく、白い綿帽子。
今年初めて見る雪。
初雪だ。
それを暫くぼんやりと見つめてから。
あぁ、そうか、と、その首飾りに、頬をほころばせる。
えっと。
何だっただろうか。
確か……指輪は親から子へ。耳飾りは旅ゆく人へ。そして髪飾りは、叶わぬ恋の相手へ。
それから。
「首飾りは恋人から恋人へ……」
ふふっ、と、思わずそれを握りしめ。
ポテンとベッドの中に、舞い戻った。
エーデルワイスの花言葉は、大切な思い出と、高潔な勇気。
この国の名前を冠するその星形の花の贈り物を、握りしめて。
何も言わずに行ってしまったその人を少し恨めしく思いつつ。
でもその人の置き土産を握りしめながら。
その大切な思い出に、今しばらく微睡んだ。
第五章 GOOD ENDING




