その七、食糧探し
周囲の明るさにふっと目が覚めた光翼。時刻はもう昼を過ぎたころだ。もそもそと寝袋から脱して靴を履き、森の澄んだ空気を吸い込んで伸びをした。
「んぅううううんよく寝たぁあああ」
こうして声を出すことによって自分に覚醒の喝を入れる。そして香音に無事に到着して一夜を明かすことができたことと現在の居場所の様子などをSNSのメッセージ機能を使って簡単に送った。少しして、長時間の飛行と睡眠によってひどく喉が渇いていることに気づいたので、水を探すことにした。
「そういえば、最初の着陸地点に水が流れてたな。」
簡単に荷物を整理して必要になりそうなナイフなどを持って記憶を辿って最初の到着地点へ向かう。徐々に見覚えのある大きな岩の数々が見えてきたことが、最初の地点に近づいたことを物語る。明け方は暗くてよく見えなかったため、今見える景色がずいぶん違う印象に見える。水が静かに流れているような音が聞こえてきたのでその方向へ向かった。
見つけた小さな水流は、綺麗な透明色で触れるととても冷たかった。腰のポーチに引っ掛けていたコップで水を汲み、一口飲む。
「ぷっはぁああああ、生き返ったぁあ!」
寝起き一番の山から染み出す天然水の味は格別だ。雪が解けて染み出ているため、冷蔵庫でキンキンに冷やしたかのような水だ。しかし水はテントから離れており、いちいち飲みに往復10分も山道を歩くのは面倒だ。テントとの往復ならまだしも、食べ物の採集に遠出する際にはもっと不便である。
(水筒のような持ち運びできる容器が必要ね。)
これから食べ物を探しに行く際に、容器になりえるものもついでに探しておこう。喉が完全に潤うまで水を飲んだ光翼は空腹を満たすために食糧の採取に出かけることにした。
現在いる場所は山のかなり上の部分なため、この水流を下っていけば川に出合える可能性がある。ペン型の釣り竿を持っているため魚が獲れるならば是非獲っておきたいところだ。光翼は意気揚々と水流の流れに沿って山を下って行った。
山を下る最中に様々な山菜があったため、それらを採集した。途中持ち運びが面倒になったため、ある程度束にした後に草の蔓で縛り、木の棒にくくった。山菜は苦みが強くて小さい頃は苦手だったが、一人暮らしになっていた今では食べた記憶がほとんど残っていない。どのようにして調理しようか考えながらどんどん進んでいく。
しばらくすると、山の中腹辺りで予想通り水流は別の水流と合流して小川となって山を流れていた。川の水がとても澄んでいるため、川の上から軽く除くだけで数匹の魚を発見した。それならばと、光翼はペン型釣り竿を用意し、河原に近い水中の石を持ち上げた。川の中には水中で生活する虫が多数いるため、それを餌に釣りをするのだ。
「うぃえ~…やっぱり虫を針に刺すのは慣れんなぁ。」
光翼は、虫は平気に触れるが、この釣り竿の針に生きている虫を無理やり突き刺すことが苦手だ。他の大抵の動物なら裁くことに抵抗感は薄いのだが。まるで自分が針に串刺しにされているかのような表情で心の中でそっと謝りながら針を通し、竿を振って投げ入れる。
しばらくして釣り竿に反応があったため、少し引いてみると思ったより強い力で引っ張られる。釣り竿や釣り糸が壊れないか心配なくらいの引きにびっくりしながらも、負けてたまるかとこちらも足を踏ん張り引っ張る。人間(?)対魚、勝ったのは人間の、と言っていいのか今は分からないが、光翼だ。釣り上げたのはブラウントラウトという魚で、茶色っぽい色合いに黒い斑点がある。光翼は、魚については大雑把な知識しかわからないため、鱒の仲間だというくらいの認識がせいぜいである。それでも、大きめの魚を一発で釣り上げたことに嬉しさを感じたとともに、釣りの楽しさと快感を覚えた。従って、その後も何回か釣り竿を振って更に魚をゲットしようと試みた。帰り道の彼女の木の棒にはブラウントラウトとウグイ2匹がぶら下がっていた。
「初日で大漁!私って運がいい!」
帰り際に彼女は他の森の木々とは少し様子の違う場所を遠目で見つけた。新緑色の、細くてまっすぐ生えている、竹の群生である。
(昔の人は竹を水筒にしてたって本で読んだことある!それに竹は何か色々使えそう!)
早速竹の群生地まで寄り道してナイフで竹を落とそうとする。頑丈で大き目なサバイバルナイフでも、硬い竹は切るのに苦労する。ましてや光翼は背中の筋肉こそ飛行のためにバッキバキであるが、他の筋力はいたって普通の乙女である。漸く切り終えたところで、一つ分の節目をまた切り、節目の繋ぎを円形状に切り込んでいく。蓋として機能するように、入り口側は広く、中のほうはやや狭くなるように慎重にナイフを入れる。
できた簡易水筒を手に、荷物をまとめて上流のほうへ再び向かう光翼。
「できるなら竹を全部持って帰りたかったけど、今日はこれで手いっぱいだから明日かな。」
川の上流へ戻った光翼はご機嫌で調理にかかる。テントでの調理は、水が使えないため下ごしらえはここで行うしかない。不便だがこれも自然と受け入れる。ブラウントラウトは腹を裂いて内臓を取り、洗う。その後、やや頑丈な木の棒で串刺しにした。ウグイは小さいためそのまま焼く予定のため、良く洗って綺麗にした細い枝に刺す。山菜はフライパンを使ってゆでる予定なので善く洗い、根や食べれない部分を切っておく。こうして下ごしらえを
終えたら、帰り道に発見した竹を切って作った簡易な水筒に水を満たした後に漸くテントの場所へ戻った。
テントへ戻った後は魚たちが地面に触れないよう木に吊るし、簡単に石で囲んだ焚火スペースに火をつける。木の枝はそこら中に落ちているので火を起こすのは造作もない。大きめの枝分かれした太い枝を二本、向かい合わせに刺してブラウントラウトを丸焼きにする準備も完了だ。
初日からこんなに逞しく、段取り良く生活できていることに、光翼自身も驚きを隠せない。
月が出てきて、キャンプファイヤーをするにはもってこいの時間帯だ。トラウトをじっくり焼きながら、焦げない位置に刺したウグイの枝も、焼き色が上手くつくように回転させる。トラウトと同じ棒にひっさげられた山菜の入った水はふつふつと湯気を出している。
いかにも美味しそうな雰囲気を醸し出しており、食いしん坊の光翼の目は今までになく爛々としていた。が、茹で上がった山菜を口にした瞬間
「ぐぉああっ!にっがぁああい…!」
大きな鳥が雄たけびを上げるかのような悲鳴とともに顔を歪ませる。ちゃんとアクはとったのにぃ…!三つ子の魂百までも。やはり味付けなしで山菜を食べるのは無理だったようである。しかし頂戴した命は無駄にはできない。光翼は焼きあがったウグイとトラウトで山菜を流し込んだのであった。
読んでくださってありがとうございます。
そろそろ光翼一人だけっていうのは読者の皆様や光翼自身も寂しいでしょうし、お供を付ければなと思います。