閑話その一、香音と光翼
香音視点で、光翼と香音の関係を書きます。
出会いはどこにでもあるような普通の出会いであった。
香音が通う大学は首都圏の大学の中でも割と偏差値が高く、首都圏のど真ん中にキャンパスがある。頭が切れる彼女は期末テストやら課題に悲鳴を上げることなく、ほぼ平凡に、淡々に日々を過ごしていた。
ある日、いつものように昼食時間に食堂で食事をとっていたら一人の綺麗な女性が声をかけてきた。
「あの、他席空いていないようなので、座ってもいいですか?」
それが、光翼と香音の最初の出会いだった。黙って向かい合うというのは耐えられない性分なので軽い世間話をする。
一見綺麗なだけの子かと思ったら、話したら独特の雰囲気を持っている子で、面白いと感じた。香音は同年代の女性と比べたら少々思考の次元が違うらしく、中高の時代、あまり同年代の友人たちはいなかった。この大学の他の友人たちとの会話も楽しいが、この子と話しているほど楽しいと感じたことはなかった。従って、以来食堂であったら必ず一緒に食事をすることになった。
そんな日々が過ぎたある日、大教室の授業でいつもの通り前の列の左側に座ろうと移動する。すると、もう食堂で見慣れたふんわりとした黒髪の後ろ姿を見た。
「光翼!」
とっさに声をかけ、振り向いた彼女は確かに光翼であった。呼ばれた彼女も「ぱぁああっ!」という効果音が後ろについているかとでも言わんばかりの嬉しそうな顔をして、答えた。
「香音!香音もこの授業取ってたんだぁ!」
香音との話が合う以外にも、このちょっと気が抜けそうな言い方と香音の前ではコロコロ変わる表情が面白くて、段々と彼女に惹かれていったと言うのが正しいだろうか。今では美人というイメージよりかわいいというイメージが先立っている。2か月で彼女たちは親友同士になった。学んでいる学問分野の話から気になる人のこと、お互い何でも話せる間柄であった。
そんな彼女の誕生日祝いの日、香音自身は初めてできた親友を祝えてとても嬉しかったのだが、何故かその日の彼女は笑っていたがどこか悲しげな眼をしていた。
香音は気になってはいたが誕生日プレゼントをあげて少しした後、彼女の綺麗な新緑の目から涙がぽろぽろと出ていた。嬉し泣きかと冗談めいて見たものの、そうではないことを察していた香音は光翼の言葉を待った。
「香音、私もうすぐ大学辞めるんだ。だから、もう香音には会えなくなっちゃう。だから寂しいのよ。寂しくて涙が止まらないの。」
何があったかは知らないがこれを冗談で言えるほど演技派女優ではないことは分かっていたため、何か深刻な理由があるのだと香音は思った。だから理由を聞いたら光翼はここでは話せないため、光翼のアパートに来てほしいと言った。アパートについた途端彼女はいきなり脱ぎ始めて香音は驚いたがすぐにその驚きは別な驚きへと変わった。
「光翼、あんた…背中になんかついてるよ?」
一瞬奇形を疑ったが、奇形で大学を辞める理由にはならない。肩甲骨に生えてる少しの突起ぐらい、生活に何の支障も出ないし、この程度でひそひそされるほどうちの大学は落ちぶれていない。
この奇形のような生えている者は一体何なのだ。
「私、神様に気に入られて、気まぐれに羽をもらったらしいの。」
…はい?
「この前、私香音と少しの間はぐれちゃったでしょ?あれね、普通の人には見えない神社の方に行っちゃってたらしいの。」
…なんて?
「それで、そこの神様に気に入られて、何か贈り物を与えると言われて考えていたらいつの間にか羽を貰っちゃってた…。この話、私も翌日は夢かと思って楽観してたんだけどいつまでもこの生まれたてのひなのような羽は消えないし、寧ろ段々成長しているような気がして…。こんなこと、香音にしか言えなくて、驚かせてごめんね。」
…おぉーう、私は幻覚、幻聴を体験しているのか?友人が現実的にあり得ないことを話しているー。そしてめっちゃ真剣な目で訴えてくるー。え、何?その指みたいに突き出た「何か」を触らせてくれるの?うわぁ、ぷにぷに~。…本物だ。光翼が嘘をつくとは思えないから俄かに信じがたいこの話を真面目に聞いていたけれどこれは事実として受け入れるしかないね。ならば、考えるべきことはこれからどうするかに限る。香音は光翼に向き直り、これからの計画について話し合うために顔を引き締めた。
次はいよいよ出発…なるか?!