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元人間の天狗徒然紀行  作者: 唐墨 いくら
第一章 山籠もり編
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その四、成長する羽

 羽が生えて1か月、目に見えて羽は成長し、もはや服では隠せない。しかし大学は現在春休みなため、特段外に出る必要はなく、光翼は急に退学したということのみが周囲の友人たちを賑わせた。当の本人である光翼は羽の色が灰色がかった黒色で、天使のような白ではないことに少しがっかりしていた。とはいえ、先になるにつれて色が薄くなっておりグラデーションになっている羽の色は普通に綺麗な色をしているが。

 「こんな色では天使とは呼べないなぁ、まるで絵に出てくる天狗の翼みたいじゃん。翼くださるくらいなら綺麗な白がいいのに何でこんな色を下さったんだろう。」

 と、少し拗ねたような声で零す光翼。とはいえ、羽は両方とも立派に成長しているようで内心ホッとしている自分もいる。もう腰まで伸びた羽では人前に出れないため、今では香音に買い物を任せっきりだ。

 先日、大学の退学届けが受理され、親から怒涛の電話がかかってきた。電話の向こうからは怒りの声やら心配の声やらで大騒ぎだったが、私がはっきりともう退学の手続きをし、今住んでいるアパートも時期に引き払う予定であることを告げると、何かが起こったのだと察し、静かに理由を聞いてきた。だが、神様の気まぐれで羽が生えて人前では生活できないからですだなんて親に対しては死んでも言えない光翼。昔から厳しく躾けられてきた彼女は、香音の前では本当のことを言い、自分を曝け出すことができても親に対してはそうはいかなかったのだ。苦し紛れに自分は他にやりたいことが見つかったとだけ言い、そのうち戻ると告げ電話を切った。本当は勉強は好きだし、実家に戻ることなんてできそうにもないけれどその時はこれが精いっぱいだったのだ。

 羽が大きくなってしっかりしてきたのでそろそろ飛ぶ練習をしてみる。いくら神様が与えた羽だからと言って、急に飛べるわけではない。蜂や雀に始まり大型の鷲や白鳥といった鳥の飛び方をそれぞれ研究、練習にと真似して羽を動かしてみる。現在はせいぜい上にジャンプして地面に足がつく時間を延ばすことしかできない。


「光翼の羽を動かす部分って、元々背筋の一部だもんね。最初から飛べるわけないから焦らなくて大丈夫大丈夫。」


 そういいながら紅茶を片手に汗だくになって練習する光翼を見る香音。光翼が日中外に出れないため、山籠もりの日まで居つくことになったのだ。それはありがたいのだが、そんなに優雅に紅茶飲んで見てないで手伝ってよって一瞬思った光翼だが、羽は自分にしか生えていないため無駄だと知り四つん這いになってがっくり肩を落とす。自分の体重を持ち上げる筋力が背中には必要なのだ。もっと激しい訓練をしなければならない気がして少し気が重い。


「この羽って、どこまで大きくなるんだろ。」


 ふと疑問に思ったことを零した。今は部屋の中で飛ぶ練習ができるくらいにはスペースに余裕があるが、まだ1か月目。この先もっと大きくなる可能性が高い。部屋の中のほとんどのスペースを羽が占めて生活するのに苦労するイメージが努力せずとも思い浮かぶ。


「ま、そうなったら山籠もり開始の合図だなぁ。あぁああ羽だらけのお部屋は嫌だぁ。」

「あんたが妙に呑気でよかったよ。この調子じゃ山籠もりしても病みそうにないね。」


 香音は涼しい顔して紅茶を飲みながらそう言った。実際、この一か月香音は光翼が悩みに悩んで暗く沈む一方の日々になるのではないのかと少し心配していたが、一緒に山籠もりグッズを買い漁りに行って以来吹っ切れたのか、光翼は積極的に飛行の練習をしたり山籠もりのポイントを探したりとサバイバルに前向きになっていた。類は友を呼ぶ、切り替えが早い者同士ということか。こんな調子で、2週間が過ぎていった。


―――――――――――


 2週間後、羽は太もも半ばまで成長した。季節はもうすぐ新年度に差し掛かる。服では隠せないようになってから問題は日に日に深刻になっていった。そう、服である。ぴったりしたシャツは切れないことはもちろんのこと、今まで着ることのできた少しゆとりのある服でさえ、羽は収まりきらず、接触する人は香音だけなのでここ数日は上半身下着である。春休みに入ったとはいえまだ朝晩は肌寒いこの季節、部屋の中なので寒くはないが山籠もりする際には風邪引き一直線だ。そこで、服を自己流で手直しすることにする。


「よし、こんなもんかな!」


できたアレンジ服を見て光翼は満足そうに言った。お気に入りの袖の少し膨らんだ厚めの生地の紺色のトップスは、翼の生えている位置に合わせて下から切れ込みが羽の位置までは言っており、切り口はほつれないよう黄色の太めの糸で縫い固められていた。下の方にはボタンをつけ、これで羽が生えていても衣服が楽に着ることができるような構造になっている。


「ほぉ!光翼は裁縫ができたのか!えらいぞ光翼!」


ひょっこりとキッチンから顔を出して様子を見ていた香音が子供を誉めるかのようにからかってきた。


「裁縫だけじゃなくて家事全般も本当はできるもん!香音が今はほとんどやってくれてるおかげで何もできてないように見えるだけですぅ!いつもいつもありがとうございますぅ!」


ぷくっと頬を膨らませていながらきっちりお礼を言っているあたり、可愛いなと思いつつ、この可愛い生き物と自分が親友同士であることに一種の満足感を胸に香音は微笑んだ。出来上がったスープとおかずをテーブルに運び、「ご飯しよっ!」と声をかけた。


「香音は流石グルメなだけあって作る料理は毎回絶品だなぁ。お店出せるべ!」


光翼は美味しそうに今晩のおかずのピーマンの肉詰めを頬張る。さながらリスのようだ。こうして美味しいご飯が食べられるのもあと少しと思うと切なくなり、トマトと豆のスープもゆっくりと味わって食べるのであった。


香音視点の話もちょこっと書きたいなーと思います。次かもしれませんし、もうちょっと後になるかもしれません。

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