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元人間の天狗徒然紀行  作者: 唐墨 いくら
第一章 山籠もり編
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その二、神の気まぐれな贈り物

 「ただいまぁって、誰もいないのに私ったらまた…。」


 アパートの狭く暗い玄関で光翼はひとり呟く。一人暮らしに慣れたとはいえ、長年の習慣は例え返事をする相手がいなくともやってしまうものだ。毎回帰った瞬間のこの一言を言ったとき、未だに少し寂しさを感じる。この寂しさになれるのはまだまだ年季が要るなと彼女は思った。慣れた手つきで電気をつけ、ポットのスイッチを押してお湯を沸かす。それにしてもと、光翼は考える。


 (あの神社の件は何だったんだろう…。)


 ボーっと思考を緩ませながらお気に入りの店のアッサムティーをカップに注いでいると、カタンと、テーブルの方から物音がした。一人暮らしの1Rの部屋にあまり物は置かないようにしているため、何か落ちるものもないはずなのに…。今日は不思議なことが次々起こるなぁと思いながらリビングを除くと夕暮れ前の柔らかな光が窓に差し込む中、差し込んだその先に小さく丸まった、狩衣を着た白髪のおじいちゃんがテーブルに腰かけていた。


 「…?!…ぇっ…!」


 声すらまともに上げられずびっくりして腰を抜かしている光翼と正反対に老爺は穏やかな笑顔で光翼に手を振っている。


 「さっきは菓子をどうもありがとな。久方に甘味を堪能したわい。」

 「ほぇ?!」

 「覚えとらんのか?今日昼に祠へ菓子を供えてくれたじゃろうがい。」


 覚えていないはずがない。さっきまでそのことについて思い返していたのだから。そう言いたいがうまく言葉が出ない光翼。次の瞬間出た言葉は思考から紡ぎ出たものではなく、脊髄反射が如く出たものであった。


 「お爺さん、あの祠の神様?」

 「なんじゃ、思ったより早く話がついたな。そうじゃ、あの祠の主じゃよ。」


 神社に何かと通う私も、神様の実体を拝見するなんて初めてだ。いや、普通の人間は見ることができないか。じゃあなんで私は見えているのか、そして神様と言われれば確かに神様らしい皆のイメージする仙人っぽい恰好だな。絶対この神様見たことある人他にもいるでしょう、だから神様のあの白髪白髭のイメージが蔓延しているのでは。そんなことをぐるぐる考えている中、おじいちゃん姿の自称祠の主は続ける。


 「もともと、あの場所には神社があってな。お前さんが見たような小さいもんじゃないぞ、そりゃあそりゃあ大層大きな神社だったんじゃわ。それがだいぶ前に街建てるってことで移動になってな。今では信仰も薄くなって移動したところでひっそりと構えているわけよ。暇だし退屈だから昔あった場所に偶に分身飛ばして民らの営みを見ていたんじゃが、今日初めて、人間のお前さんが見つけちまったんじゃわ。」


 なるほど、分身だからもう一度探そうにも見つからなかったわけだ。消えてたのかもしれないのだからと、一人納得するほかない光翼だが、ん、待って、とさっきが浮かんだ考えを口にした。


 「何で私にしか見えなかったの?私ってまさか超強い霊能力の持ち主とか?!」

 「うんにゃ、そりゃないな。」


 ちょっと期待気のある光翼をあっさり否定。


 「霊能力はないが、お主の信仰心が呼び寄せたというのもあるかもしれぬな。」

 「信仰心?」

 「うぬ、この辺ではなかなか見ぬ信仰心を持っているようじゃ。神は信ずるものに手を差し伸べる。お主はそれによって儂の神社ごとの分身が見えたのじゃろうて。その昔は誰だって儂のことが見えたもんじゃ。最近は見える奴は何人かおったが、皆不思議がってか怖がってか、近づいてこんかったわい。祈るばかりでなく貢物までくれるとな。それを儂が気に入っての、ちと会ってみたくなったのじゃ。」


にしても最近の民は本当に儂のこと見えんのー、なんて寂しい世の中になったもんじゃ。世知辛いわ!と、一人現代の寂しさをぷんすか述べている中、光翼は茫然としていて渇いた笑いしか出なかった。 

 尊い神様がこんなに気軽に会えるものなのだろうか…、いや、会っても普通は見えないんだろうな。私がおかしいだけなんだ。そう言い聞かせることによってこの状況の混沌さに慣れようとする光翼だが、老爺の神の次の言葉によって更に混沌が増した。


 「今日の儂は頗る機嫌が良いぞ。久々に儂を信じ、美味なるものを奉げたものがおったとな!故に、誕生日の贈り物として何か望むものはないか?できる限りのものはしてやれるぞ。運気とか縁組とか...そうそう!お前さん空飛ぶもんが欲しいと言っておったな!」

 「えぇ?!聞いていらしたんですか?!てかいつから私のことを見ていたんですか?」

 「もうそりゃあ分身飛ばしている間は、人間は皆お見通しじゃて。そして、誰も経験しないようなことが起きてほしいのじゃろう?昔はここらで一番力持ってたからな。大抵のことは何とかしてあげれるわい。箒や敷物といった類のものは無理なのじゃが、翼ならあげれるぞぃ!」


 意気揚々に言う神様に反して、光翼は半ば話に置いてけぼり状態である。翼が生えたら絵に描いたような天使のようになる、そんなイメージを少しは良いかもと思いつつも現実の生活に支障があり過ぎではと考え始める。そんな黙ったままの光翼の様子を「是」と受け取った神様は指先を光翼に向けて「ほぃなっと!」と掛け声をかける。一瞬の光が光翼を覆い、思わず目をつぶる。

白い煙が部屋中に立ち込めたため、晴れてきてから恐る恐る目を開ける。…何も変化が感じられない。光翼は何も起こらなかったと祈らんばかりに神様であると思われる老爺に声をかける。


 「あのう…、何も起こって…ないですよね?」

 「まだ生えたてじゃからの。どれ、肩甲骨の少し内側を触ってごらん。」


 言われるがままに背中を触ると、何かぷにぷにした小指より小さめの「何か」が生えている。形はまるで指のような、手羽先のような…まさか?!


 「本当に生やしちゃったぁああああああ?!」

 「神からの気まぐれな贈り物じゃ。その翼は数か月で飛べるくらいに大きくなろう。

大いに楽しむがよい。」 

 「楽しむって言われましても、これが大きくなったら確実に見世物にされたり研究所へ運ばれたりして穏やかな人生送れそうにないじゃないですかぁああ」


 元に戻してもらおうとお爺さん神様の方へ光翼が向き直った時、神様は薄れて消えかかっていた。


 「すまんな、時間切れじゃ。やってしまったら元には戻せんのでな。お主のこと、社から目が届くところでは常に見守っとるぞぃ☆」


 そう言って、老爺姿の神様は消えてしまった。やったものは戻せないって、届く範囲では見守ってるって…!


「気まぐれにも程がありますってぇえええええ!」


夕暮れの一人暮らしの部屋に、光翼の絶叫が響いた。


神様:お茶目な神様です。自分がしたいことを優先しちゃいますが、基本は善で善人には福を、悪人には罰を与えます。昔は大きな力を持った神社に祀られていて、時代とともに忘れられていった神様の一人という設定です。大きな力を持っていたために、神の力も大きく今回の騒動を引き起こしちゃいました。


次回、光翼が旅に出る準備をします。

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