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転生者には二本目の右手がある   作者: 林田伊助
第一章 人種の壺
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第四話 嘘には疑問点がある

「名前は憶えているけど、自分がどこで生まれ、どのように育ち、どうしてここに来たのかはさっぱり覚えてないとねえ。なんだか強引に辻褄を合わせたとしか思えないなあ」


 サンはガラスの器具に向かって光をかざすという、謎の行動を再開した。これはもう俺から聞きたいことはないという事なのだろうか。


 うかつに名前を名乗ったのは大失敗であった。俺の言動を怪しみ始めたサンに、俺は質問攻めにあい、二つの矛盾点を見つけ出された。

 一つはアカネのいる部屋で目覚めたときの事だ。あの時の俺は記憶に関することなど一言も発してなく、またアカネの時も、俺が先に名前を紹介したのだ。もうこの時点で計画は破たんしていたのだ。

 もう一つは、レンデルフやシャフト人と言った、俺の知らない固有名詞を話の流れからその意味を勝手に推測して、そのまま話を合わせたことだ。

 その時はごまかせたが、サンにその詳細な意味を問い詰められた結果、俺は全く答えることができなかった。つい話の流れに合わせてしまった弁解したが、記憶が飛んでいるとどうせ後で告白するなら、あの場で告白すればよかったではないか、という話である。


「全く、ツルガの素性は怪しすぎる事この上ないが、敵国のスパイにしては出来がひどすぎる。一体何でそんな嘘を言うのかは分からないが、くれぐれも僕とアカネ以外にはそのことを悟られるなよ」


「まてまて!まだ嘘と認めるのは早いぞ!」


「まだ諦めないのか……。まあいい。君の言うことは事実として受け止めておくよ。それにしてもシャフト人を知らないなんて言い出してしまうとは……」


 もう自分が異世界から転生してきた!と告白してもいいかもしれないが、彼らは俺が嘘を言ったからと言ってどうこうするつもりがないのなら、これはこのままでもいいかもしれない。


「アカネは俺のことをどう思っているんだ?」


「私の推測通り、あなたのことは変人と思っている」


「どうやら信用してみたいだな」


 まあ今回ばかりはそう思われても仕方がないが、この様子だと何かやばそうな組織に通報されるみたいなことはないのだろう。いや、変人と思われたなら、普通なら通報されるけど。


「まあとにかく、君の失ってしまったという記憶を見つける方法を探しておくよ」


 俺の方を全く向かず、謎の機械に集中しながらサンはそう言い放ったのだった。


「この様子だと俺の記憶は一生見つかることはなさそうだな」


 そう言って俺とアカネは研究室を後にした。




「おいおいどこ行ってたんだよ、アカネ。探してたぞ」


 宿のロビーを通って部屋に行こうとしたとき、一人の男性が一緒にいたアカネを呼びかけた。


「ん?なんだこの隣のフラン人は?ああ、これが例の助けられた奴か」


 話しかけてきたその男は金髪の整った髪をして、青い瞳を持っている。服装は俺と似たような民族衣装を着ていた。

 しかしそれよりも、もっと決定的な特徴があった。彼の耳はアカネと同じようにとがっているのだ。もしかしたら彼もアカネと同じシャフト人なのだろうか。


 それにしても、また新しい固有名詞が登場し出した。シャフト人ときて今度はフラン人か。

 おそらく隣のフラン人とは、俺のことを指しているのだろう。ということは街中にいる大勢の人間もフラン人なのだろうか。


「ひょっとしてこいつもアカネの知り合いか?」


 俺の質問にアカネは黙ってうなずく。


「やあやあそこのフラン人君。安心しろ、俺はフラン人だからと言ってお前を見下したりはしないぞ。おそらくアカネが一緒にいるあたり、お前もそういう偏見を持っている輩じゃないな?」


 フラン人だから見下す?なんだなんだ、シャフト人って差別されている人種ではないのか?

 あまり人種問題について憶測だけで語るのはよそう。下手をすれば地雷を踏んで彼を怒らせかねない。


「まあそうだな。ところでお前はアカネとはどういう関係なんだ?」


「おいおい勘違いするなよ、俺は別に付き合っているという関係じゃないぜ。こいつとはただの友達だよ」


「いや、知り合いよ」


 アカネが冷たく言い放つ。いや彼女を否定するのはまだわかるが、友達を否定するとはなかなかのものだ。


「嘘だろ!こんなこと言われたら、俺へこんじゃうから!俺とアカネの関係を知り合いで片づけるのはちょっと……」


「彼の名前はジェンティル。さっきも言った通り私の知り合い」


 相変わらずアカネの毒は止まらない。まあこれは逆に仲がいいという事なのだろう。


「いや、へこむなジェンティル!俺がお前の新しい友達になってやるよ!」


「おお、こいつは気前のいいフラン人だな!お前だったら元気になってくれて嬉しいよ。ところで名前は?」


「彼の名前はツルガ。私の推測だと明らかな変人」


「おい!その自己紹介はおかしいだろ!最後の一言余計過ぎない!?」


 アカネは俺にも毒を吐く。相変わらずアカネの表情に変化は見られないが。だがジェンティルはそんな彼女の様子をじっと見つめている。その表情には先ほどのおふざけの様子は全く見られない。


「へえ……、アカネが出会って1日もたってない人物と、こんなに打ち解けるのは初めてのことだな。それもフラン人となんて」


「果たして、この状況を打ち解けているとは言えるのか……?」


 アカネの方へもう一度振り向くと、やっぱり彼女の表情は変わっていない。こんな不愛想な様子が打ち解けているといえるのだろうか。


「まあ、そんんことよりツルガ、お前の身の上話を聞かせくれよ。そんな格好して、こんな街をふらふらと彷徨っていたとか聞いたけど、いったい何があったんだ?」


 やはりこの質問がくるか。俺の過去の話だ。だが今回も例の作戦でごまかそう。


「いやそれが、目が覚めた時に記憶が飛んじゃっててさ。それも自分の過去の記憶のほとんどが無くなっちまったんだ」


「な、なんじゃそりゃあ!それはえらいことじゃねえか!」


 ジェンティルは俺の話をあっさり信じてくれた。冷静に考えてみると、今回はそんなにへまをしてないので、信じるのは無理もないだろう。

 アカネの様子をちらりと見たが、彼女から発言する様子は感じられない。まあいつも同じ表情なので、俺の予想が正しいかは非常に疑わしいところだが。


「ならお前の記憶を取り戻す方法を全力で探してやるよ!俺にできることがあれば何でも相談してくれ!」


 そんな熱量を込められて心配されたら、俺にすごい罪悪感がのしかかってしまう。これ以上本気になられても困るので、ここは一旦彼を落ち着かせた方がいいだろう。


「いやそんな焦らなくても大丈夫だって。時間がたてばそのうち思い出してくるから」


「そうか?本当に大丈夫なのか?無理して言ってるんじゃないだろうな?」


「大丈夫大丈夫、無理してないから」


「いやいや無理してるって!お前の家族も探してるって!」


「まあ家族のこと言われると、どうしようもないが……、そんな焦ったってどうしようもないしな」


「遠慮しなくていいから、俺を頼りにしろ!」


 さすがにしつこく感じてしまった。いや、この場合俺がイラつくのはおかしいのだが、ここまでくると面倒くさく感じてしまう。もちろん彼は善意からこう言っているのだけれど。


「ジェンティル、彼は本当に焦ってない」


 ここでまさかの助け船が来た。アカネも俺の言うことが嘘だとわかっているから面倒くさく感じているのだろうか。


「何でアカネがそんなこと分かるんだよ?」


「彼は記憶がないなら、その失われた記憶の重要性すらも分からない。今の彼は記憶が空っぽの状態が普通なんだから、無理して記憶がほしいってわけじゃないってこと」


 成る程、ナイス助け舟だ。ジェンティルは少し考えた末、ようやく納得した。


「そういう事か。確かに、それなら無理して焦る必要はないな。だけど待ってろよ、そう言われてお前の記憶を取り戻すのを諦める俺じゃないからな。必ずお前の記憶を取り戻して見せる」


 しかし一番気になるのは、こいつはどうやって俺の記憶を取り戻そうと思っているのだろう。本当に俺の記憶がなくなったとしても、彼にできることなど大してないように思えるのだが……。もしかして魔法で記憶を取り戻す方法があるのかもしれない。


「記憶に関する魔法や術式なんて全く知らないが、これから調べてやるさ」


 まあ実際問題、その方法が分かったところで意味がないのだが。

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