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あなたを好きになれたら

達也はインフルエンザの影響もあって、弱気だった。辛い、苦しいというゆかりへの連絡がマメにあった。しかし、どうしても彼が最後に言うのが『穂波ちゃんに違う日に会ってくれるか、頼んでください』というものだった。

ゆかりはその度につらかったが、好きな男のためだと日程調整を続けた。


そんなある日、ゆかりの元に真由子から電話があった。ゆかりは通話ボタンを押してスマートフォンを耳に当てた。

「もしもし?真由子?」

「もしもし!ゆかり久しぶり」

真由子はショートカットヘアがトレードマークの元気な人だ。電話でも明るさが伝わるようでゆかりの頰は自然と緩んだ。

「久しぶり、どうした?」

「うん、前一緒に飲みに行った雅也くんいるでしょう?今度また飲み行こうって」

雅也は真由子の友達で、ひょんなことからゆかりと真由子と一緒に飲みに行く機会があり、その後から大学で共に過ごす時間も増えていた。

「いいよ、行こう」

ゆかりもストレスが溜まっていた。友達と酒を飲んでいい気分になりたかった。

「じゃあ、場所と時間は後で連絡するね」

真由子はそう言ったあと、「バイバーイ」と言いながら電話を切った。ホーム画面に戻ったスマートフォンを見つめ、ゆかりは少し笑った。真由子は本当にマイペースだと思った。


思いのほか予定が合わず、ゆかりは達也と穂波に会うより先に、真由子と雅也と飲みに行くことになった。

「カンパーイ!」

三人の声が重なりグラスをくっつける。ゆかりは一口ビールを飲むと、その苦味は嫌いだが酒を飲んでる気分を直に感じて心地よかった。三人は思い思いの話をした。それは、どうしようもなくとめどないものだがあまり考えずに楽しめる丁度良い話だった。ゆかりは酒に弱いから二杯目のサワーで顔を赤くしフラフラしていた。

「ごめん、ちょっとお手洗い」

ゆかりは立ち上がるときにふらついた。すると、雅也が手をとり

「一緒に行こう、危ないから」

と言った。用を足して、トイレの外で待つ雅也と席に戻ると、ゆかりはそのまま夢の中に入った。ゆかりには聞こえていないことを確認して雅也は真由子に言った。

「ゆかりちゃんかわいいな。膝枕したい」

「バーカ、かわいいけど何言ってるの」

雅也はゆかりに好意を持っていたのだ。しかし、ゆかりは気づかない。真由子がゆかりと雅也と一緒に飲みに行くのは二人をくっつけるためであるのに、ゆかりは雅也を友達としか思っていなかった。達也が穂波しか見えないように、ゆかりは達也しか見えていないのだ。

「でも、ゆかりちゃんは俺のこと、なんとも思ってないよね」

雅也は呟いた。

「友達路線だね。難しい」

真由子は言った。ゆかりは少しずつ夢の中から覚めてきた。まだ気持ち悪くて頭がテーブルから持ち上がらないけれど、意識は確実に戻った。

「ゆかりちゃん、彼氏はいないんだよね」

「彼氏どころか好きな人の話も聞かない」

「ワンチャン、あるかな」

「あるかもね。頑張れ」

ゆかりは顔を上げられなかった。知ってはいけない話を聞いてしまったと思った。その一方で雅也を好きになれたらどんなにいいのだろうとも考えた。

「ゆかり!そろそろ帰ろう」

真由子がゆかりの肩を叩いた。ゆかりはさも今起きましたとでも言うようにゆっくりと顔をあげて、目を細めた。

「ごめん、酔った」

「ペース早いし、お水飲まないからだよ」

真由子はゆかりに水を渡すと、ゆかりはゆっくり水を喉に通した。

「大丈夫?顔色は良くなってるね」

雅也が心配そうに覗き込む。この男は私を心配している。達也がインフルエンザと聞いたとき、私もこんな顔をしていたのだろうか、とゆかりは思った。

「だいぶ、良くなった。ありがとう」

ゆかりがそういうと、雅也は満面の笑みでよかったと呟いた。


帰りの電車はゆかりと雅也が途中まで一緒だった。ポツリポツリと会話をしながら揺られていた。雅也はゆかりに手を出したり、気持ちを押し付けることはしなかった。それがゆかりにとってありがたかった一方で雅也の気持ちを知ってしまった以上、彼を友達として見れなかった。しかし、ゆかりはまだ達也が好きだった。ゆかりは思った、雅也くんを好きになれたら、どんなに幸せなのだろうと。

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